劫火の螺旋 01

第1章 奪われた王国

1.裏切り

「お前たち、何をっ」
 突如として寝室に押し入ってきた五人の男たちの姿に、先日この国の王となったばかりの少年は驚いて椅子から腰を浮かした。
「夜分遅くに申し訳ありませぬ。ラウルフィカ陛下。実は我らは」
「内密の話がありまして」
 そう言って彼らは、控えていた警護の兵士たちと侍女を追い払ってしまった。
「話……とは?」
 父母を亡くしたばかりで心細くなっている少年は、突如として現れた男たちの姿に戸惑いをあらわにした。青い瞳を不安げに揺らす。
 先日の「事故」によって亡くなった父王の後を継いだのは、まだ十三歳の少年王ラウルフィカ。艶のある黒髪に、深い蒼い瞳が特徴的な美少年である。さすがにまだ幼く子ども以外の何とも呼べない年齢であるが、彼のことを美少年と呼ぶことに異論がある者はいないだろう。
 先の王にはラウルフィカ以外の王子はおらず、現在このベラルーダの王位を継げる人物はラウルフィカの他にはいない。選択の余地がないのだからと周囲はこれまでひたすら帝王学を修めさせられてきたラウルフィカを玉座に座らせて、それで満足したはずだった。
 父王の葬儀も終わった現在、幼君には付き物の摂政を選出し、それであとは全てがうまくいくのだとラウルフィカは思っていた。
 この瞬間までは。
「はい、実は陛下の権力を我らに譲り渡していただこうと思いまして」
「は?」
 目の前の男が何を言ったのか、ラウルフィカには一瞬理解できなかった。
 集まった男たちは、それぞれの分野で第一線の活躍をしている者たちばかりだが、年齢的に言えば若手だ。上は三十代半ばから下は二十歳を過ぎたばかりの青年までいる。
「政治に関してはこのゾルタが」
「軍事に関しては我、ミレアスが」
「貴族庁に関しては私、ナブラが」
「財政に関してはこのパルシャが」
「そして、魔術に関しては宮廷魔術師長であるザッハールが取り仕切らせていただきます」
 勢揃いして形ばかりの礼をとった五人の男の纏う空気に不吉な予感を覚えながら、ラウルフィカはとりあえず頷く。
「あ、ああ。お前たちの能力に関しては信頼している。これからも王の……我が名の下、ベラルーダのために力を尽くしてほしい」
 王子として育てられてはいたが、社交界には馴染めずに顔もそれほど広くない少年は、宮廷で見た事がある程度の男たちを前に、精一杯の語彙を集めてそう口にした。
 しかし本来彼の臣下となるべき五人は頷かなかった。
「いいえ、陛下。我々は、あなた様の下ではなく、上に立ちとうございます」
「――は?」
「あなたの持つ権利、全て渡していただきましょう。まだわかりませんか? これほど簡単な言い方をしているのに。無力で愚かなお子様には通じませんか? ならば言いなおしましょう」
 父王に仕えていた宰相の息子ゾルタが、蓄えていた口髭の下でいやらしく笑う。
「貴様のようなガキには精々我らの従順な傀儡になるしか能がない。さぁ、大人しく全ての権利を渡してもらおうか」
「っ?!」
 ラウルフィカが息を飲んだその瞬間、目の前の男たちが立ち上がり、その身体に手をかけた。
「あなたに断る権利などないということを、今からわかりやすくその身体に教え込んで差し上げますよ」

 ◆◆◆◆◆

「最初に言っておきますが、助けなど呼んだところで無駄ですよ。使用人たちは全て遠ざけましたから」
 その言葉とともに、男たちは凌辱を開始した。
 二人の男が両腕をそれぞれ押さえこみ、正面に一人座る。ラウルフィカは中途半端な膝立ちの姿勢を強制された。
 銀髪の魔術師ザッハールに唇を奪われる。
「ん、んんん、ん!」
 驚きに僅かに開いた隙間から、舌が伸びて来た。ラウルフィカの口内をまさぐるだけでは飽き足らず、奥の方に縮こまっていた舌を無理矢理引きずり出す。逃げようとしてもお互いの舌が深く絡まっているので、舌を噛んでやることもできない。
「……ぷはっ、はぁ、はぁ」
 ようやく唇を解放されて、ラウルフィカは気持ち悪さよりもまず息苦しさから解放されるために息を吸う。長い長い口付けは、予想していなかったラウルフィカを酸欠状態に陥らせた。
 ぐったりと力の抜けた体は、あとの四人に押さえつけられている。
「誰が行く? 誰から味わう?」
「体勢を選ぶのはそれからだな。前から、後ろから、どうやって攻める?」
「せっかちだな、あんたたちは。どうせなら、もっと可愛がってからにしようぜ」
 一行の中では一番若いザッハールが言った。彼はまだ二十歳過ぎだ。顔立ちも悪くはなく、この年齢で宮廷魔術師長とは異例の出世だ。欲しがるまでもなく美女が群がるだろうに、何故こんなところで自分何かに不埒な真似をするのだろう。
 ザッハールの手がラウルフィカの衣装を寛げる。完全に脱がしてはしまわず、前開きの衣装の帯を解いた。
「動かないでくださいねぇ。ラウルフィカ様」
 中の下着は脱がすなどとまだるっこしいことはせず、短剣を取り出して切り裂く。これまで荒事とは無縁に生きて来た少年にとって、刃物を近くに寄せられるのは恐怖だ。ラウルフィカは息を飲み、体を縮こまらせて下着が切り裂かれるのをただ受け入れるしかなかった。
 鎖骨から胸板、下腹部から生白い太腿までが露出される。正面のザッハールが、じろじろと舐めるように身体を眺めまわした。
「や……やめろ! この無礼者!」
 羞恥に顔を赤くしながらラウルフィカが怒鳴りつけるも、ザッハールはにやにやするばかりでいっこうに堪える様子も怒る様子も、もちろん止める様子も見られない。
「ああ、綺麗、綺麗だ殿下。いや、違った。もう陛下だっけ?」
「お前らの言い方だと陛下になって格下げされたようだがな!」
 更に言い募ろうとしたラウルフィカの行動は、押さえられた腕を捩じり上げられたことによって阻まれる。
「あう……!」
「大人しくしていただけますかな? 陛下」
 摂政ゾルタが蛇のような目をしながら、ラウルフィカの耳元で言い聞かせた。
 腕を捩じり上げているのは、彼とは反対方向から押さえつけている軍人ミレアスだ。折られるかと思うような痛みにラウルフィカがびくんと震え、小さく高い悲鳴をあげたのを楽しんでいる。
「ひぃ! い、痛、やめ」
「ミレアスは加虐趣味なのですよ。それも自分に反抗する者には容赦ない。あまり我々を怒らせると、もっと酷い目に遭わせますよ?」
 ゾルタの囁きに、腕を捩じりあげられて涙目のラウルフィカはそれこそ反抗的な目で応えた。それはすぐにミレアスにも伝わり、更に痛むよう力を加えられる。
「ああっ! く、う、やめ……!」
「我々の言う事を大人しく聞いていただけますかな?」
 のけぞった喉に、ゾルタが指を這わせる。
 それでもラウルフィカは唇を噛みしめたままいやいやをするように、もしくは痛みを振り払おうとするかのように首を横に振った。
「やれやれ仕方がない。強情な方だ。ミレアス、今は離してやれ」
「しかし」
「お前に割り当てられた時間の中で好きにすればいい。陛下も、ここで素直になっておいた方が良かったと後悔すればよろしい」
 割り当てられた時間とは何のことだ。ラウルフィカが疑問に思う間に、ミレアスの腕の力が弱められる。
「あなた様はあとでこの男に甚振られながら、ここで止めようとして差し上げた私がどれほど寛大だったか思い知ることになるのですよ、陛下」
 ねっとりとした目でラウルフィカを眺め、ゾルタが酷薄に笑う。
 この美髯を蓄えた三十代の男は、世襲制の宰相一家の人間だ。王が死んだのと同時に先代が辞職し、息子である彼が宰相の座についた。ラウルフィカにとっては摂政であり、のちの宰相となるのはこの男だと昔から顔だけは知っていた。ベラルーダの宰相は一王につき一人という妙な伝統があるためだ。彼だけは唯一、直に宰相位につくための下積みを宮殿内で行っていたために、他の四人よりはラウルフィカと面識がある。
 軍人のミレアスは軍部の二大派閥の片方の長の副官だ。二十代半ばの体格の良い青年で、このまま順調にいけば派閥の長になれるだろうと目されている。彼はまだ若いために、年功序列の軍人社会で上官を押しのけていきなり軍部のトップに躍り出るわけにはいかない。
 しかし騎士から始めてここまでのし上がった軍人として、国内の人気は高い。加虐趣味などという噂は聞いたこともなかった。
 痛みに喘ぐラウルフィカの様子に興奮していた様子を国民が見たら、期待が裏切られたと思うことだろう。ゾルタに関してもそうだ。女遊びの噂もほとんどない宰相を世間では評価しているのに、実態はこんなものだなんて……!
 ラウルフィカの目元に溜まった涙をザッハールが舌で舐めとる。
 彼のその行為のせいで目をつぶっている間に、何かぶよぶよとしたものが胸に触れてラウルフィカは驚いた。
「ひぃ!」
「可愛いなぁ。何も知りませんと言った反応が初々しくてよいよい」
 でっぷりと太った金髪の男がラウルフィカの胸の突起をそのぶよぶよとした手で撫でまわしていた。明るくつやつやとした髪色をもってしてもまったく美形ではないこの男は一体何者なのか、ラウルフィカはこれまでに会ったことがない。
「彼はベラルーダ一の商会、ヴェティエル商会の当主パルシャですよ。王国としては繋がりを切っても切れない、役職はなくとも王国で最も金の流れを操作できる男ですから懇意にするとよろしい」
 ゾルタが太った男の身の上を紹介した。商人という話で、確かに成り金じみた豪華すぎるだけで悪趣味な格好をしている。間違っても懇意になどしたくない相手だ。
「ああっ!」
 そんなラウルフィカの気持ちなどいざ知らず、パルシャは容赦なくラウルフィカの乳首を捏ねまわしていた。太い指で挟み、押しつぶし、子どもが玩具で遊ぶように、時折ひっぱったりなどしてみせる。
「どうだ? 気持ちいいか? いいだろう?」
「う……」
 ラウルフィカは惨めさに再び涙が浮んだ。弄り回される乳首は張り詰めて痛いばかりで、まったく気持ちよくなどない。彼らが何を考えてこんなことをしたいのか、まったくわからない。
 ぐい、と無茶でない程度に顔の向きを変えられ、再び口付けられた。またもやザッハールだ。この男は人の唇を無理矢理奪うのが趣味なのだろうか。
「王様は、まったく気持ちよいって顔しないね。もしかして、処女? 自分が何をされてるかもよくわかってない感じ?」
「陛下は間違いなく処女だぞ、ザッハール。その手の事は、自然と耳に入ってくるからな。ラウルフィカ様のこれまでの人生は慎ましく清らかなものだ」
「その花を私たちで穢してやろうというのだから、宰相も腹黒いことを考える」
 貴族のナブラが口を開いた。
「ラウルフィカ様、あなたは先の王が大事に育てた深窓のご令息。あなたに触れたいと思う者は、この国には多いのですよ」
 華やかな顔立ちの、色男という言葉が似合うナブラは大貴族の当主だ。年の頃は二十代後半で、確か先日婚約が決まったと使用人たちが噂していなかったかと、ラウルフィカはぼんやりとした頭の中で思った。
 彼は貴族らしく荒れのない手で、ラウルフィカの下腹部に手を伸ばす。茂みを荒らすように指先でわけると、その下の男としての急所を手の中に収めた。
「ふぁああ!」
 驚きのあまり、ラウルフィカの頭が一気に覚醒する。
「な、何をする気だ! やめろ! 放せ! 放してくれ!」
 暴れようとするラウルフィカの腕を、ゾルタとミレアスが簡単に押さえこんでしまう。ナブラはラウルフィカのものを、強く弱く握りしめてその反応を伺う。
「あなたが感じていらっしゃらないようだから、快感を得る手助けをしてさしあげようと言うのですよ、陛下」
 色男の指がすっと持ちあげたものを、どれどれと他の男たちまでもが覗き込む。
 ラウルフィカは今この瞬間にでも、羞恥で死んでしまいたいと思った。
「綺麗なものだね。まったく使いこんでいない」
 ナブラの手に乗せられたそれを、ザッハールが指でつつ……となぞる。
「ふぁ、あ、あ」
 その感覚がむず痒くて、ラウルフィカは思わず声をあげてしまう。今までの苦痛を訴える呻きとは何か違うことが、周りの男たちにもわかった。
「気持ちいい?」
 この場でできるせめてもの抵抗として顔を背けるラウルフィカに対し、ザッハールはくすくすと笑いながらなおも尋ねてくる。先端をつつき、筋を爪で辿りと彼はラウルフィカのものを弄るのに余念がない。
 真正面にいるせいか、先程からこの男の美しい顔ばかりを目にさせられてラウルフィカは困惑する。
「ああ……!」
 手の中のものを握りしめられて、一際大きく体が震える。しかし、彼らはラウルフィカの体にたまる熱から解放まではしてくれない。
「そろそろ後ろに行こうか」
「……うしろ?」
 ナブラがザッハールに何か手渡すのが見えた。とぷん、という水音から察するに液体を入れた壜らしい。蓋を開けて中身を手のひらに出すザッハールの手が、淡い緑に濡れた。
 強い花の香りが漂う。香油だ。
「ヒァ!」
 それがどういう意味をもたらすのかを理解する前に、本来排泄だけをするはずの器官に異物感を覚えた。
「い、いや……!」
「だーめ。ちゃんと慣らしておかないと、後で辛くなるからね。ほら」
「あ、ああっ、あ、」
 ザッハールがその長い指で、ラウルフィカの中を蹂躙していた。直腸に指先で触れられるなどこれまで経験もしたことのなかったラウルフィカは、気持ち悪さよりもひたすら恐れに目を見開く。
「いや……いや、だ」
 後ろの穴を探る指に、体を串刺しにされたような恐怖を覚える。香油のきつい香りの中で頭がくらくらする。足を閉じたくとも、正面にいるザッハールはその間に腕を通して尻穴を弄んでいるわけだから、閉じる事が出来ない。
 両腕はゾルタとミレアスに押さえこまれたままで、そろそろじんわりと痺れてきている。胸元は相変わらず肉の塊のようなパルシャが弄り回し、股間はナブラに押さえられている。
 ザッハールの指が、しつこく抜き差しされる。手前から奥へ奥へとほぐしている指がある一点を突いた時、ラウルフィカの体に明らかな変化が現れた。
「あっ」
 一際大きくあげた声を、全員が聞いている。びくりと大きく震えた体が、少年の快感を伝えた。
「ふぅん、ここか。ここがいいんだ」
 一度覚えた場所を、ザッハールの指が今度は集中的に突く。そのたびにびくびくと体が跳ね、あまりの快感に息が苦しくなる。
「こちらも元気になってきたようだ」
 ナブラの言葉に、ラウルフィカは顔を真っ赤にしてきつく目を瞑った。前立腺を刺激されて、前の部分にも明らかな変化が現れたのだ。
「そろそろいいんじゃないか?」
「ああ。もうぐっちょぐちょのべっとべと。エロい顔してるよ、少年王様」
 ザッハールが指を抜く。ラウルフィカは一瞬安堵したが、すぐにそれが間違いだと気付いた。
「では、取り決め通り私からでいいのかな?」
「くっ、良くはねぇ、良くはねぇよ宰相殿」
「我が儘を言うなザッハール、この計画を主導したのはゾルタだぞ。最後に加わったお前が一番おいしい思いをしてどうする」
「わかってるよ。あーあ、せっかくの初物、俺が頂きたかったのに」
 しぶしぶとザッハールが腕をラウルフィカの足の間から引き抜き、立ち上がる。ナブラとパルシャも離れ、腕を拘束していたミレアスまでもが手を離したために、ラウルフィカはがくりと膝をついた。
 ただ一人残ったゾルタがラウルフィカの体を支え、床に横たえる。彼はラウルフィカの足を肩に担ぎあげるようにしてラウルフィカの上にのしかかった。
 それまで散々ザッハールに弄られていた後ろの入口に、熱く滾ったものが押しあてられる。
「ひ」
「この日を心待ちにしていましたぞ、殿下」
 即位前の敬称で少年を呼び、ゾルタはその中に押し入った。
「い、いた、痛い!」
 いくら潤滑油の手助けを借りたとはいえ、初めての身体に遠慮もなく踏み込まれてラウルフィカは悲鳴をあげる。
「ああああああ!」
「権力者の悲鳴というのは心地よいものだな。それがこんな若く美しい少年のものだというなら尚更だ」
 ぐふぐふと笑い声を立てるのは商人のパルシャだ。ナブラとミレアスも同意するように頷き、ただ一人、初物を奪われたザッハールだけは不機嫌そうに壁にもたれている。
 押し入られたものの質量で息が詰まりそうになっているラウルフィカを、しばらくするとゾルタはガクガクと揺さぶり始めた。入れるどころか中を勢いよく擦られて、ラウルフィカの喉からはますます高い声が上がる。
 心地よい音楽でも嗜むかのようにそれを聞きながら、男たちは残酷な会話を続けた。
「さて、次はナブラ、貴殿だったな」
「ミレアス、お前は最後だ。加虐趣味め。私は傷だらけの身体などには興味ないからな」
「ちっ、こんな若造の使い回しなど」
「俺はぜひとも初物をいただきたかったんだけどなぁ」
 夜はまだ、終わる気配も見せなかった。