推定有罪
prologue
これはきっと、たぶん罪。
◆◆◆◆◆
その日その時、彼はおそらく人生最大の幸福に見舞われていた。
「あなたが、好きです」
そう言って少年の前で膝を折る褐色の肌の青年は、神殿に仕える聖騎士の一人だ。そして、他でもない少年の意中の人でもあった。
少年は十三歳、騎士は二十五歳、しかしそんな歳の差、少年の想いに関して何の障害にもならなかった。むしろ彼は青年のふとした折に見せる大人びた仕草に、憧憬から発展した切ない程の感情を覚えていたのだから。
そう、少年は自分が好きな相手から告白を受けるという、幸せの絶頂を経験したのだ。彼は子どもで相手は大人。もしも告白するのだとしても、それは絶対に自分からだと少年は思っていた。
騎士は誠実で真面目な青年、ただでさえお堅い人間でなければ務まらぬという聖騎士内で更に「歩く規律」だと言われるほどの人間だから、どう転んだって自分のような子どもに親愛以上の感情を向けてくれるなんて、少年としては夢にも思ってはいなかった。
「あなたと私の年齢、身分、何よりその聖なる身にこのような邪な感情を向けることについて、私は幾夜も迷い悩み、眠れぬ日々を過ごしました。ですが……もう、この想いを秘めておくことはできません。応えてほしいとは言いません。ただ、聞いてほしいのです。豊穣の神子よ、私はあなたを愛しています」
青年は跪いたまま、すっと彼の手を取る。子どもらしく細い指先を祈るように自らの額に押し抱き、愛を囁く。
少年は胸を高鳴らせ、期待に頬を紅潮させた。豊穣の神子らしく健康的な色の肌が薄紅に染まる。
騎士は少年の手を押し抱いたまま、続けた。
「あなたこそ、私の理想の少女」
ん?
ちょっと待てよと彼は思った。だが騎士の言葉は止まらない。
「その清純なる美しさ、民に対する優しさ、あなたは本当に素晴らしい女性です」
女性。
……女性?
少年はさっと血の気が引くのを感じた。この青年は大いなる勘違いをしている。
「あ、あの、私は……」
しかし騎士の顔を見た途端、少年の中で真実を伝えようと思う気持ちが急速にしぼんだ。一途な眼差しで彼が愛を囁くのは、「豊穣の聖女」に対してなのだ。それがわかってしまったから、今更自分が本当は「少年」であるなどとは言えない。
幸福は一瞬で不幸に転じ、天にも昇る心地から地底の底までまっさかさまに墜落する。
「……私も、あなたが好きです」
◆◆◆◆◆
何一つ嘘をついてはいない。
だが恐らく、これはきっと罪。