第18章 薔薇の涙に堕ちる国(2)
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「ええ!? アンリたちがこの城に来ているじゃと!」
「しかも、牢獄に放り込んだなんて……」
アンとヘンリーの二人は、その話をルースから聞かされた。代わりにルースの方は、シェリダンたちを城に連れて来た後どこかに姿を消して雲隠れしているプロセルピナの居場所を尋ねる。
プロセルピナの居場所は二人も知らずルースにとっての収穫はないが、アンとヘンリーにとってこの話は大きい。
「ヘンリー、すぐにあやつらに会いに行くぞ」
「ええ」
ルースと別れ、アンとヘンリーは王城の牢獄へと向かう。
エヴェルシードと違い、ローゼンティアにはさほど牢獄は多くはない。大陸中で畏怖されている魔族という存在であるため、ヴァンピル内の結束は強くそもそもさほど犯罪の起きない国家なのだ。軍事国家であるエヴェルシードは犯罪も懲罰も処刑も日常茶飯事だが、ローゼンティアではそうではない。王に牙を向いて玉座を狙った者などそれこそ故ヴラディスラフ大公フィリップが初めてで、実際に父王を殺し簒奪に至ったのは建国千五百年でドラクルが初めてだ。
その、世界有数の治安の良い国であるローゼンティアのほとんど使われたことのない牢獄へとアンたちは急ぐ。
「そこな者たち、退け! わらわはブラムス王が第一王女、アン=ローゼンティアであるぞ!」
ドラクルの命により牢獄の前に立っていた見張りをここぞとばかりに威圧して遠ざけ、二人はアンリたち兄妹に会うために獄の前に立つ。
「アン! ヘンリー!」
「お姉様、お兄様!」
「アン姉様、ヘンリー兄様!」
薄暗い部屋の中、鉄格子越しに再会したヴァンピルの兄妹たち。
「お、お姉様~~」
「これこれ、落ち着け、メアリー……そもそも、何故そなたがここで牢に入っておるのじゃ?」
もともとメアリーはアンたちと同じく王城に居たのだが、ルースの策略によって連れ出された。アンもメアリーがいないことぐらいは気づいていたのだが、ここでシェリダンたちと共に牢に入っている理由まではわからない。
「……あなたもここにいるのですか、シェリダン王」
兄妹との再会をまず喜ぶアンとは違い、ヘンリーは一行の中で一際人目を引くエヴェルシード人の少年に目を留める。
「ああ。第三王子。もっとも、本当は王子ではなかったのだったか」
「ええ。そして今では、意味もないことです。現在のこの国の王はドラクルですから」
静かに睨み合うシェリダンとヘンリーのやりとりに、横からアンリが割って入る。アンはロザリーと共に牢獄の中と外でメアリーを宥め、ジャスパーはシェリダンたちの話に耳だけを傾けていた。
口火を切ったのはシェリダンだ。
「率直に聞く。ロゼウスはどこだ? まずはあれを返してもらおう」
「……ドラクルの臣下である私が、素直に答えると思いますか」
ヘンリーは敵であるシェリダンに対し警戒を怠らない口ぶりで答えたが、その口勢は鈍く、躊躇うような、迷うような気配がある。
「ヘンリー、じゃが、ドラクルのロゼウスに対するあの扱いは」
「アン!」
メアリーを宥め終えて話に耳を傾けていたアンが思わず口を挟むのに対し、ヘンリーが一喝する。その様子にローゼンティア内部の不穏な気配を感じ取り、シェリダンとアンリは眉を潜めた。
「何かあったのか?」
「どういうことだ。ドラクルがロゼウスに何をしていると?」
アンリが不安げな顔つきになるのに対し、シェリダンはドラクルに対する敵意と殺意を隠しもしない。
「それは……」
「あなた方には、関係のないことです」
「ヘンリー!」
「黙っていてください、姉上。アンリたちだけならばともかく、ここにはシェリダン王たちもいるのです」
アンは兄妹であるアンリたちがいることもあってか気安い様子だが、ヘンリーはそうではない。兄妹との再会よりもまず宿敵への警戒を優先したヘンリーは、シェリダンへと宣戦する。
「そこにいるアンリたちではあるまいし、私たちまでも懐柔できるとは考えないことだな、シェリダン王。ロゼウスのことはともかく、あなたは我らローゼンティアの敵だ。あなたにわざわざこの国の機密を話してやる必要などない」
さりげなくアンリたちが馬鹿にされているような気がするが、それに対しての返礼は当人たちからではなく、一行の中で最も冷静かつ喧嘩っ早いシェリダンからもたらされた。
「そうだな。ここにいる連中じゃあるまいし、実の兄が自国の侵略に対して一枚噛んでいたと知りながらまだドラクルを信用している単細胞の意見などあてにもならないな。貴様では話にならん。何も言う気がないならここにいるだけ時間の無駄で、存在の無駄だ。とっととそこを退け」
「なっ! き、貴様という男は……!」
シェリダンの挑発に、ヘンリーは顔を引きつらせる。ドラクル、アンリに次いで頭が良いとされ、その分奇人としても名高いヘンリーだが、実際はその立場の複雑さから変人を装っているだけでまともな常識感の持ち主である。今は変人ぶる余裕もないので、素の顔が表に出やすい。
そしてヘンリーは、もともとすぐ下の弟王子であるロゼウスと仲が悪かった。特に何をするというわけでもないロゼウスと仲が悪かったのは、尊敬する兄ドラクルがいつもロゼウスにかかりきりだったと言う事のほかに、表に出されないロゼウスの人格的なものを嫌っていたのかもしれない。
そしてそんなロゼウスが好きで好きで仕方がないというシェリダンとは、言わずもがな性格が合うはずもない。
そしてここは年齢差以上に一時でも王を務めた者とそうでない者の度量の差というか、単にもともとの性格の差というのか、口の悪さと威圧感でシェリダンに勝てることはない。そして牢獄の中にいるシェリダンには殴りかかろうにも拳が届かない。もっともシェリダンの場合、相手が自分よりどれほど強かろうが、この鉄格子がなかろうが堂々と嫌味を言うのではあるが。
「おい、第一王女。先程何か言いかけたな、ロゼウスに何があった」
アンはしばらく恥辱に震えているヘンリーを見つめていたが、やがて表情を引き締めるとゆっくりと視線をシェリダンに向けた。
「……プロセルピナ卿がロゼウスを王城まで連れて来た。その時のロゼウスは意識がないようじゃったが、目覚めたところでドラクルが自室に連れて行った。それから先は……わらわは数日前にロゼウスに会わせてもらえるようドラクルのところに行こうとしたのじゃが、その前にこのヘンリーが要件を通しに行ってくれた。じゃが、ドラクルはロゼウスを……・」
躊躇う素振りでアンが口ごもる。シェリダンはこれまでの経験から、彼女が続けがたいと思ったその先に予測がついた。
ドラクルはロゼウスが幼い頃から性的虐待をしていた。その証拠にアンの話を黙って聞いていたヘンリーの顔色が先程とは別の意味で悪い。青褪めている。
「わかった。それで今、ロゼウスはどこにいる?」
「いったん医務室に連れて行ったが、今ではまたドラクルの部屋に戻っておる。……のう、シェリダン王、取引がある。この牢から出す代わりに、ロゼウスを連れて、ここにいるアンリやロザリー、メアリーとジャスパーたちも連れて、逃げてはくれぬか?」
「姉上、何を!」
突然のアンの言葉にシェリダンは片眉をあげ、ヘンリーは叱咤の声を飛ばす。アンリもロザリーも驚いたような表情をし、メアリーは何が起こっているのかよくわからないような顔だ。
「それが一番良い方法じゃろう? 誰がなんと言おうと、ドラクルはすでにこの国の王。そこにロゼウスを連れて来てはまた問題が起こるだけじゃ。それにそなたたちの様子じゃと、ローゼンティアに用があるというよりもただロゼウスを取り戻しに来ただけなのじゃろう? もうこのままローゼンティアに手を出さずにいてくれればわらわたちとしては問題ない。ロゼウスを連れて、どこか遠い国へでも逃げてくれ」
「……」
「アン……」
彼女の訴えを聞きながら、シェリダンはしばし目を閉じて思案する。アンリたちは呆然としている。
少ししてシェリダンは目を開けて、ぽつりと零した。
「やれやれ、そこの王子よりは貴女の方が気骨があるようだな」
ヘンリーに一言の嫌味を加えてそう口にしたシェリダンは、しかし、と続ける。
「その話は一件妙案に聞こえるが、貴女は少し思い違いをしている」
「思い違い?」
怪訝な顔をするアンにシェリダンは意味深に問いかけた。
「城下に出て、民の様子を見たことはおありか? アン王女」
「……ない。それと今回のことが、何か関係があるのかえ?」
「ドラクルがこの国にとって良い国主だと、貴女は本当に思っているのか?」
問いかけるシェリダンの朱金の瞳は鋭い。まがりなりにも国王であったことのある人物としては、国の為政者への基準に一切の妥協も許しはしない。
「それに、逃げろとはいうがドラクルが追いかけてこないという保証はどこにある? 今回だって私たちがここに来るよりも早く、あの男自身がロゼウスを求めてルースを遣わせた。いくら私たちが遠くへ、この世界の果てまで逃げたとしてもあの男はロゼウスを諦めないだろう。違うか?」
「……違わぬ」
今度の言葉はわかりやすく、アンは悄然としてシェリダンの指摘に頷いた。そう、問題はロゼウスではなく、ドラクルの方なのだ。ロゼウス自身は全ての問題の渦中にいるが自分から争いを引き起こそうとしたことはなく、他者が彼を望む故に彼の周囲で争いが巻き起こされる。
それこそがロゼウスの最も罪深いところなのかもしれないが。
「アン姉様」
アンとシェリダンの間での取引は失敗に終わり、この事態の打開策が見つからない。沈黙してしまった部屋の中、高く澄んだ少年の声が響く。
「なんじゃ? ジャスパー」
これまで黙ってやりとりを聞いていたジャスパーが鉄格子まで近寄り、アンのすぐ側へやってきた。手を伸ばし、細い隙間からアンの掌へ何かを落とす。
「これは?」
それはジャスパーが普段から身につけている髪留めの宝石の一部だが、何のためにアンに渡したのかわからない。ぽかんとしている彼女の髪へと手を伸ばし、ジャスパーはその髪から細いピンを引き抜く。
「交換してください。賄賂は駄目でも、取引ならば許されるでしょう。だけどあなた方は、ここから僕らを出すことは許されない」
宝石と引き換えにピンを手に入れたジャスパーは、アンとヘンリー二人へと笑みを向ける。
ドラクルにロゼウスを諦めさせない限り、この問題の片をつけるのは不可能に近い。そしてドラクルはロゼウスを絶対にロゼウスを諦めないだろう。ならば、ここで鉄格子越しに額をつき合わせて話し合ったところで得るものは何もない。
ならば行動あるのみよ、と可愛い顔をして過激な思考の持ち主であるジャスパーは遠回しに、帰れ、と兄姉に告げた。
「さぁ、ドラクル兄様やルース姉様が来ては大変です。あとは僕たちが自力で何とかしますから」
◆◆◆◆◆
折られた腕が鈍い痛みを訴え続けている。脳天を焼ききるような激痛は去ったが、癒されない傷は疼き、身体に伝わる振動一つ一つに神経を焼ききるような痛みで応える。
ロゼウスの腕を折ったドラクルは酷薄な表情で、組み敷いた彼を見下ろした。ロゼウスが動けないのをいいことに、その身体を弄ぶ。
「は……、はぁ……」
胸の突起を弄り回されても、今はまだ腕の痛みが勝るようでロゼウスの顔に快楽の色はない。こめかみに脂汗をかいて、涙を流している。
「あ……ぅ、く……」
身体を動かせば、その振動が折れた骨に響く。ロゼウスは動けない。しかしヴァンピルの驚異的な回復力をもってすれば、もう少しで腕の骨も綺麗にくっつくだろう。
その間もドラクルの手は休まらない。
「ぎっ!」
必死に刺激を堪えるロゼウスを試すかのように、胸に、鎖骨に、首筋に、脇腹に、内股に、指で唇で触れては快楽を与えていこうとする。鎖骨の辺りを痕が残るほどにきつく噛むと、ロゼウスの唇から苦鳴が零れた。
「はぁ……」
ようやく骨が繋がり、痛みが落ち着く頃にはロゼウスはすっかり体力を消耗していた。もともと銀の枷で繋がれていた身体に残っていた力を、今の怪我とその回復、回復する間に受けた拷問のような刺激の数々に耐えることで根こそぎ持っていかれてしまった。
手足に力が入らず、肌に薄っすらと汗をかいてぐったりと寝台に横たわるロゼウスの姿に、ドラクルは満足そうに目を細めた。
「ん……ふぅ……」
降りてきた唇と滑り込んだ舌を、抗う気力もなく受け入れる。疲弊のあまり従順に口づけを受けるロゼウスの様子に、ドラクルは少しだけ気分を良くした。
それも長くは続かず、彼はロゼウスから返される反応に満足しては、ふと我に帰るように暗い光を瞳に宿す。
結局何をしても、それは一時の気休めにしか過ぎない。もはや事態は抜き差しならないところまで来てしまっていることを、忘れては思い返すのだ。忘れたくては快楽に興じ、それに呑まれたくなくて思い出すのだ。滑稽にも。
過ぎた愛は憎悪になるというように、過ぎた憎悪は愛に代わるのだろうか。
死にかけの虫のように力なく横たわるロゼウスを見ていると、今ここでなら彼を殺せる気がする。細い首、先程も容易く折ることのできた骨、華奢な身体に刃を埋めれば、簡単に急所に辿り着くに違いない。流れ出す血は紅く、きっとこの世のものとも思えぬほどに美しいのだろう。
なのに、どうしても殺せなかった。
「お前など……お前さえ、消してしまえれば……」
眉間に微かに寄せた皺の辺りに憂いとそこはかとない色香を漂わせながら黙って呼吸を荒げているロゼウスを見下ろして、ドラクルはぎりりと唇を噛み締める。絹の敷布に爪を立てて、何かを堪えた。
これまでのドラクルにとって、ロゼウスは弟であると同時に憎い敵だった。何も知らぬ風情で人々の心を魅了し、無意識の内に期待を抱かせる。ロザリーやミカエラを筆頭とする年下の弟妹たちがいい例だろう。特に何をするでもないロゼウスに惹かれていた。
そしてそれは弟妹だけでなく、城の臣下や、国王ブラムスにとってもそうだったのだ。
自らの実の息子であるロゼウスを、ブラムス王は当然ながら溺愛していた。表向きの第一王子であるドラクルに対しては公的な場でこそ理想的な父王として振舞ってみたが、実際には自らを裏切った妻と弟への憎しみをドラクルにぶつけるような男だったのだ、あの父王は。
ブラムス王がその憎悪を真に向ける相手は、自分を裏切り王妃である妻たちと姦通した実弟フィリップ、その弟への復讐だと、彼はドラクルから王位継承権を剥奪する計画を立てていた。
ローゼンティアでは十八歳が成人だ。その頃になればヴァンピルも身体的な成長が緩やかになり、大人として成熟していく。だからこそブラムス王は、ロゼウスが十八になる年に王位を彼に譲る計画を立てていた。
そんな風にドラクルからこれまで与えてきた全てのものを奪う計画を立てた男に対する復讐は、彼自身の復讐を奪いとることだろう。ドラクルは考えた。
ブラムス王がドラクルから王位継承権を奪うように、ドラクルは正統な王子であるロゼウスからその玉座を奪う。それが一番の復讐だと。
そう、ドラクルにとってロゼウスの存在は、もともとブラムスに対する復讐の足がかりだったのだ。彼を踏みつけることがブラムスに彼自身の放った矢を報いることであるのならば、いくら踏みつけても足りない存在だ。
そう……もともとドラクルにとって、ロゼウスを手中に収めることは、ブラムス王に対する復讐の「手段」だった。そのためにロゼウスを手に入れようと。騙しに騙して自分への愛情を刷り込んだロゼウスを踏みつけることこそが、ブラムス王への最大の復讐だと。
だが彼の中で、ロゼウスを手に入れること、それがいつの間にか「手段」ではなく「目的」そのものになってしまっていた。ロゼウスを手に入れて復讐をするのではなく、ロゼウスを手に入れたかった。だいたい、ブラムス王はとうに殺してもうこの世にはいない。
今になって思っていたよりも虚ろな自分に気づき彼は愕然とする。
「兄様……」
弱弱しい声が真下から呼んだ。いつの間にかロゼウスは呼吸を整え終わり、じっとドラクルを見つめている。白い敷布に散る白い髪、それが彩る白い肌。狂気のような白の中で、ただ一色紅い瞳がじっと。
その視線に射られて、ドラクルの背筋にぞくりと何かが走る。それは強いて言葉に表すのであれば、「恐れ」と称されるような。
そしてそんな感情をロゼウス相手に覚えた自分自身に腹を立て、ドラクルは衝動のままに腕を伸ばしロゼウスの顔をはたいた。
「!」
白い肌にさっと朱が走る。閉じた瞼に瞳は隠され、あの深紅は見えない。それをいいことに、ドラクルはますますもって強硬な行動に出る。
「あ!」
いつの間にか尻の下に潜り込んだ指に、ロゼウスが焦ったような声をあげる。無理矢理その場所をこじ開けられ、いつもとはまた質の違うドラクルの乱暴さに、言葉にならない悲鳴をあげる。
「――ッ」
ぐちゅ、ぐちゅ、と音を立てて解きほぐされていく蕾。だが、得られるのは快感ではなくて恐れ。ロゼウスは知らず息を詰めてしまう。その途端に奥をかきまわす指の感触をはっきりと感じて呻く。
「ああ……っ」
長い指が数本、その場所を出入りしてはかき回していく。ある一点を突かれると、自分でも制御できない快楽に切ない喘ぎが漏れた。
「は……ふぁ……っ」
「……そろそろいいようだな」
少しずつ体力が回復してきたせいで逆に感じ取れるようになってしまった快楽にロゼウスが翻弄されようとする頃、ドラクルの静かな狂気を秘めた声が響く。
「――え?」
実際には半分だけ音となり、残りは消えた疑問の声。腰を抱えられてずぶずぶとそれが押し入る感覚と共に、首を絞められた。ロゼウスはその感覚と現実を一瞬酷く遠いもののように感じた。
「ぐ!」
緩く首を掴んだ手に、ドラクルがゆっくりと力を込める。もう片手はロゼウスの腰を支えたままだ。そして彼のものはやはりロゼウスの中に入っている。ロゼウスはドラクルのものを受け入れた状態で首を絞められている。
「ぁ……ぁあああ、あ!」
声にならない声が絞り出され、ぎりぎりと首が絞められていく。それと同時にドラクルは腰を動かし、ロゼウスの中を抉る。
「知っているか? 知識としては教えたことがあったかな? こうすると締まりがよくなるんだって……」
熱で潤んだ目元に頽廃を漂わせ、ドラクルは身勝手な快楽を追う。
ロゼウスの視界には黒い影がかかり、今にも意識が飛びそうになる。だが素直に失神することはできずに、窒息の苦しみを生々しく味わいながら、ただドラクルに快楽を提供するだけの肉人形となる。
体内にどろりと熱い液体が吐き出されたところで、ようやく首から手が離された。
解放された後の孔から白濁の液をとろとろと垂れ流しながら、激しく咳き込む。そんなロゼウスを、ドラクルはやはり冷たい眼で見つめている。
ロゼウスの呼吸が整う前に、ドラクルは寝台の脇に置かれたチェストの引き出しから一つの箱を取り出した。精緻な細工のされた小箱から取り出したものに火をつけると、ロゼウスの口に押し込む。
呼吸は整ってきても喉は痛み、体力を使い果たしてろくな抵抗ができない。眩暈のする暗い視界で現状を理解もできない。けほけほと咳き込むロゼウスに、無理矢理何度もその煙を吸わせる。形状だけ見れば煙草のようなそれだが、薄い紙で巻かれた極上のそれは煙草ではない。
高純度の麻薬の一種だった。