荊の墓標 SS

荊の墓標 Short Story

王様の趣味

王様の趣味 その1

 コンコン、とノックをし、許可を得て彼はエヴェルシード国王シェリダンの寝室へと足を踏み入れた。
「シェリダン様」
「ああ、クルスか。なんだ?」
 シェリダンは彼の顔を見てそう言った。しかし部屋に入った途端、ユージーン侯爵クルス卿の視線はあるものに向けられてしまい用事を切り出すどころではない。
 「あの……陛下、なんで王妃様は侍女服などお召しになられているのです? い、いくら敵国の人質だからって仮にも王家の方を召し使いとして働かせようなんて……!」
 まさか主君が人道にもとる行為を!? と義憤にかられようとしているクルスに向けて、シェリダンは冷静に言い放つ。
「いや、これは私の趣味だ」
 ロゼ王妃は黙って彼の手に身を預ける。
 実は国王は、メイド萌えだったのだ。

 つづく

 王様の趣味 その2

 コンコン、とノックをし、許可を得て彼はエヴェルシード国王シェリダンの寝室へと足を踏み入れた。
「シェリダン陛下―」
「ああ、ジュダか。なんだ?」
 シェリダンは彼の顔を見てそう言った。しかし部屋に入った途端、イスカリオット伯爵ジュダ卿の視線はあるものに向けられてしまい用事を切り出すどころではない。
「あのー、陛下。なんで王妃陛下は国学府の制服など着ているわけですか?」
 今からエヴェルシードの教育でもつけさせる気かと、ジュダは首を傾げたが、シェリダンは冷静に言い放つ。
「いや、これは私の趣味だ」
 ロゼ王妃は黙って彼の手に身を預ける。
 実は国王は、制服萌えだったのだ。

 つづく

 王様の趣味 その3

 コンコン、とノックをし、許可を得て彼はエヴェルシード国王シェリダンの寝室へと足を踏み入れた。
「シェリダン王―」
「ああ、ハデス卿か。なんだ?」
 シェリダンは彼の顔を見てそう言った。しかし部屋に入った途端、帝国宰相ハデス卿の視線はあるものに向けられてしまい用事を切り出すどころではない。
「ねぇねぇ、シェリダン。なんでロゼウスがいきなり猫耳なわけ?」
 どこか遠い目をしながら一応何か理由があるのかもしれないし、と尋ねるハデスに、シェリダンは冷静に言い放つ。
「いや、これは私の趣味だ」
 ロゼ王妃は黙って彼の手に身を預ける。
 実は国王は、猫耳萌えだったのだ。

「まあ、確かに似合ってるけどさ……」

 つづく

 王様の趣味?

 コンコン、とノックをし、急いでいた彼らは許可も得ずにエヴェルシード国王シェリダンの寝室の扉を開いてしまった。
「国王陛下!」
「!?」
 焦ったのはシェリダンだ。よりにもよってこんな時に来なくてもいいだろーがっ! と言っても今更通じない。
「あ、ああ。お前たちか。なんだ?」
 シェリダンは彼らの顔を見て平静を装いながらそう言った。しかし部屋に入った途端、エヴェルシードの重鎮である彼らの視線はあるものに向けられてしまい用事を切り出すどころではない。急いでいてもやっぱり気になるものは気になるらしい。
「陛下、何故王妃様は男装などなさっているのです?」
 だって男ですから。と言うわけにもいかず、硬直しているロゼウスに一瞬だけ視線を向けながらシェリダンは苦し紛れに言い放つ。
「これは私の趣味だ」
「……趣味ですか?」
「ああ、趣味だ! 文句でもあるのか!?」
「い、いえ! 滅相もございません!」
 王の剣幕に家臣たちは慌てて首を振り、用件を伝えるとさっさとこの場から立ち去った。
 が、しかしこの後数ヶ月間、シェリダン陛下はコスプレマニアだという噂が城内で広まることになる。
「くそ、何故私がそんな不名誉をうけねばならない」
「……俺、なんとなくわかる気がするけど」
 男装はおいておいてもメイド服だのセーラー服だの猫耳だのを着せられていたロゼウスは、「これって九割方あんたの自業自得だろ」という言葉を必死に飲み込む。
 王城では国王夫妻への贈り物として多種多様な職業の洋服がさまざまなところから送られて来るようになったという。

 おしまい。