B-HISTORIA

Xeno

 01.

 信仰を支える場である教会が寂れると、何故こんなにも物悲しくなるのだろうか。
 赤い夕陽に照らされた廃墟は、木枠や瓦礫が散乱して荒涼としている。白く雪のように降り積もった埃が、床に彼の足跡を残しながらもきらきらと空中に舞うのが幻想的だ。
 しかし彼の心は、幻想的な光景にも廃墟の物悲しさにも揺らがなかった。彼が見据えるのはただ一人、廃教会の奥で少年をいたぶっている低俗な魔物だけ。
「やめろ」
 青年の声に反応し、少年にのしかかっていた黒装束が蠢く。
 ぐちゅ、と体液の溢れる音がして、二人の身体が少しだけ離れた。黒装束の男がその上から退くと、内股を白い液体で濡らした裸の少年の姿が目につく。
「早かったな。狩人殿。もう少し楽しみたかったのだが」
 黒装束は衣装を整えながら言った。少年の貞操に関して言えば、青年はこの場所に駆けつけるのが遅すぎた。魔物――吸血鬼である男に犯され尽くした少年は、焦点の合わない恍惚とした目で彼らのやりとりを無感情に見つめている。
 首筋に、鎖骨の辺りに、胸元に、太腿に、赤い花のような痕を散らす少年の姿は年端もいかない子どもとは思えず扇情的だ。しかし青年はそれに構っている暇はない。せめて彼の身の安全だけでも守るなら、とっとと目の前の吸血鬼を倒した方がマシだろう。
 青年は吸血鬼を狩る者。ハンターとも、エクソシストとも呼ばれる存在だ。
「お前に会いたかったんだよ。吸血侯爵様。この間は突っ込み損ねた銀の銃弾をその眉間にぶちこみてぇって、俺の股間がうずうずしてるんだ」
「残念ながら君は私の好みじゃない。お引き取り願おうか」
「お前がその少年を解放するなら、聞いてやってもいいぜ」
「冗談。――あれはすでに私のものだ」
 にぃ、と笑う吸血鬼の口から鋭い牙が覗いている。
 狩人はちらりと、祭壇の手前に倒れている少年の様子を見遣った。横たわる少年の首筋には、その牙で穿たれたと思しき傷痕がついている。吸血鬼に血を吸われた者は吸血鬼のしもべとなる。少年を救うには、支配者である目の前の吸血鬼を倒すしかない。
 二人は同時に動いた。常人の目には、一陣の風が吹いたようにしか感じられなかっただろう。身軽な格好の狩人と、黒装束の吸血鬼は目にもとまらぬ速さの攻撃をお互いに繰り出しながら戦う。
 狩人が繰り出す銀の弾丸を、吸血鬼はその黒尽くめの重たい装束で難なくかわす。魔物はもとより狩人の青年の動きも、もはや人間を越えていた。
 それだけの速さでめまぐるしく戦っているのだから、勝敗が決するのも一瞬だった。狩人は三度目ならぬ四度目の正直にして、黒装束の吸血鬼を遂に仕留める。
「やった……!」
 憎い男が驚愕の表情で硬直し、白い灰になってその姿が崩れていくのを青年は見守った。
 長かった。何度も追い詰めては逃げられ、深手を与えてはこちらも傷を負わされて。永遠に追い続ける羽目になるのかとも思った宿敵の鼓動をようやく止めることができたのだ。胸中は感無量の一言に尽きる。
「う……」
 しかし、感動してばかりもいられなかった。祭壇の前で身じろぎする少年の呻く声に、青年ははたと我に帰り、彼の元に駆け寄った。
「大丈夫かい?」
 少年の身体に残る、艶めかしくも痛々しい情事の痕に青年は顔をしかめる。
「もう大丈夫だからね?」
 しかし少年はぼんやりと彼の顔を見つめたかと思うと、その首にするりと腕を伸ばしてきた。取り乱して抱きつこうとするのだと思った青年は、しかしそこでくらりと忍び寄る眩暈を覚える。
「あ……?」
 柔らかな香りに、理性の箍が外れる。ふいに、自分の抱きつく少年を蹂躙したくてたまらなくなった。
 細く小さな身体を押し倒すと、驚愕に満ちた表情が目に入る。しかし、青年の手の動きは止まらない。熱い吐息を零しながら、すでに先程の男が放ったものでぐちょぐちょになった後腔に指を差し込む。
 少年が身体を震わせた。行為の直後で敏感な身体は、青年の乱暴な指遣いでさえたやすく快楽として受け止める。驚きの波が去ると、稚い少年は青年の与える快感によって可愛らしく喘ぐようになった。
「君は俺のものだ……あの吸血鬼から助けてやったんだからな……そうだろう……?」
 青年の頭の中には、もはや自分が何をしているという自覚もなかった。ただ、頭の奥から命じる声のままに、吸血鬼に犯された哀れな少年を更に蹂躙する。辺りに漂う体液の匂いさえ、今は興奮を呼び醒ますものでしかなかった。
 ぷっくりと立ち上がったグミの実のような胸の突起を口に含み、転がす。汗の浮いた腹に指を這わせると、少年はぞくぞくと身を震わせる。
「ぁあ……」
 少年が微かに呻く。待ちかねたものから、とろとろと先走りが零れていた。
 べとべとになった後ろの孔に指を差し込めば、温かな肉壁がきゅうと締めつける。指の数を増やして中をかき回すように動かしてやれば、少年は切なげに眉根を寄せる。その姿が色っぽくてたまらない。
 狩人はすでに自分の使命を忘れていた。彼には吸血鬼被害の後片付けをする気も、教会に報告をする気もなく、ただ目の前の少年のことしか頭になかった。
 犯せ、犯せと頭の中から誰かの声がする。理性は霧がかかったようにぼんやりとしてうまく働かず、指先で感じる少年の内壁や体液や、手足の折れそうな細さや肌の滑らかさばかりが青年の欲望を刺激するのだ。
 少年を四つん這いにさせ、肉づきの悪いほっそりとした腰を掴む。尻だけを高く抱え上げさせ、薄い尻たぶを割り開いた。
「は……ぅ、ふ、んん、ん……ふぅ……」
 すでに使いこまれた孔は、青年のものをほとんど抵抗もなく受け入れた。そのくせ熱い内壁は貪欲に彼の肉棒に絡みつき、放そうとしない。
 小さな身体の肛門の、きつい締めつけは青年に初めて味わう感覚をもたらした。女の身体が悪いというわけではない。だが前よりも後ろの孔の方が締まりがいいという下卑た噂、あれは本当だったのか。
 ゆるゆると腰を動かし始めると、少年の口から断続的な嬌声が零れる。いきなり押し倒してきて足を開かせた青年の行為に怯えるでも怒るでもなく、少年はただただ狩人の歪んだ欲望を受け止める。
 まるでこの行為の意味も、その先にあるものも全て知っているかのように。
 打ち捨てられた廃教会に、荒い息づかいと、肉を打ちつけあう音だけが響く。青年は無我夢中で少年の身体に耽溺していた。細い身体の奥、どこまで入るのか試してみるかのように自身を突きこみ、入口まで一気に引き抜く、そんな動きを何度も繰り返す。
 彼の動きに合わせ、少年の滑らかな背がしなる。
「あ……あ……もう……」
 少年の瞳から一筋の涙が零れたのを合図とするかのように、青年はその奥に精を放っていた。
 自身を引き抜いた孔は閉じきらず、彼が放ったものを逆流させて零している。それが内股を濡らすのを見て、少年を征服してやったという妙な満足感が強く湧き上がった。
 おかしい、と青年は感じた。こんな乱暴を働くことは、自分の望みではないはず。
 だが僅かに舞い戻った冷静さも、少年がふらふらと立ち上がり、二度目の行為を求めるかのように彼の膝の上に収まった瞬間から消えていく。

 ◆◆◆◆◆

 ――青年の荒々しい欲望を受け止めながら、少年はほくそ笑んだ。
 この狩人は、否、すでに元狩人というべきか、彼は気づいていないのだ。先程彼の手によって倒れた吸血鬼の男は操り人形のようなもので、少年こそが、彼がこれまで追ってきた吸血鬼本体なのだと。
 少年を犯して征服したように感じている目の前の青年は、そう感じる自身こそが、すでに少年姿の吸血鬼の支配下にあると理解できていない。わざわざ血を吸わずとも、こうして肉を交えることで、すでに青年の身体は吸血鬼の力に感染した。
 血を吸われれば人間も吸血鬼になるなど、人間から見た思いこみにすぎない。真の吸血鬼はこうして相手と肌を交えながら、その精神に寄生して病のように感染していくものだ。
 人形の姿を介して、この青年のことを好みではないなどと言ったがそれは嘘だ。吸血鬼は彼のことが欲しかった。とてもとても。何せ吸血鬼ハンターの身体だ。さぞや力に溢れているのだろう。
 相手を油断させるという意味ではこの少年の外見も充分役立ってくれたが、やはり戦いに使う身体は強い方が良い。その点、目の前の青年はうってつけだった。
 それに何より、目の前の青年が正気に返ったところを考えると胸がぞくぞくと快感に疼く。まずはいたいけな子どもに手を出した自分を鬼畜のように感じ、更に少年こそが自分が追い求める吸血鬼だったと知って絶望するだろう。その時の彼の反応が、今から楽しみで仕方ない。
 ああ、と下から激しく突きあげられて嬌声をもらしながら、白い喉を震わせて彼はくすくすと笑った。

 02.

 馬鹿にしている。本当に馬鹿にしている。本当に馬鹿にされた!
「待て! このクソガキ!」
 夜の街を悪罵と共に駆け抜けるのは、吸血鬼ハンターの青年だ。彼が追っているのは、幼い子ども。否、子ども姿の吸血鬼だ。
 小奇麗な顔立ちのあの悪魔は、くすくすと軽やかに笑いながら青年を翻弄する。
 伸ばした腕をきわどいところでかわされる。そんな場面をもう何度も繰り返して、青年はぎりりと奥歯を噛みしめた。
 彼は景気良く騙されたのだ。あの時の天国から地獄に落ちるような驚愕と絶望は忘れられない。これまで追っていた吸血鬼が本体ではなく傀儡人形で、その男が連れていた少年の方が本物の吸血鬼だなどと誰が思うものか。
 傀儡人形に犯されて下肢を白濁に染めていた少年の姿は本当に色っぽくいやらしく男にとっての劣情を誘い……いやいやそんなことはどうでもいいのだ。とにかく、少年の方が吸血鬼だったなどとは、青年は夢にも思わなかったということだ。
「今度こそ、今度こそお前を倒す! 今度ばかりは絶対に逃がさねぇえええ!」
 鬼気迫る表情で建物の屋上を跳んでやってくる青年に、少年姿の吸血鬼は淡々と一言。
「色香にあっさりと騙されて、私の上でよがっていたくせに」
「ぶち殺す!」
 青年はキレた。真実とは真実であるがゆえに、一番言ってはいけないことなのだと彼は主張する。
 もはや採算は気にしないと、両手に構えた拳銃から次々に銀の弾丸を繰り出す。しかしそのどれも、少年姿の吸血鬼は軽やかにかわす。煉瓦造りのアパートの屋上で、二人は向かい合った。
 全体的に色素の薄い少年の姿は例え黒を着ていても夜の闇の中で鮮やかだ。古典貴族のようなフォーマルな衣装の半ズボンからすらりと覗く白い足が艶めかしい。
 そこまで考えて、青年は必死で首を振った。今度こそは、今度こそはこんな年端もいかない子ども、それも男、とどめに吸血鬼などの色香に惑わされるわけにはいかない。
「覚悟しろ! 穢れた魔物め!」
「穢れたというか、私を穢したのはお前……」
「うるせぇ!」
 あれは過去だ、間違いだ、なかったことだ! と自分にこれでもか! と嘘をつき、青年は目前の少年にも銀の弾丸の雨を降らせる。
 下手な鉄砲数撃ったことでそのうちの一発が少年の足に引っ掛かり、一瞬だが動きを止めた。その一瞬があればハンターには十分だった。
 子ども姿の吸血鬼を、体格と腕力で地面に抑えつける。もともと凄腕の狩人。銃の腕も決して悪いわけではないのだ。一度隙をつくればなまじ子どもの体格をした吸血鬼など取り押さえるのは簡単だった。
 少年の、銀の弾丸が貫通したふくらはぎからは血が流れている。
「ふん」
 傷を負って競り合いに負けても殺されるとまでは思っていないのか、少年は必死な様子も焦りも見せない。
「ようやく捕まえた……!」
 狩人の青年の方は、喜びに爛々と目を輝かせる。ほっそりとした滑らかな手首を押さえこみ、腹に乗り上げるような形で取り押さえたことに自らの優位を確信する。
 握った手首はやはり頼りなく、目の前で背けられた顔立ちは愛らしい。下腹の辺りがずくりと疼くのを感じ――青年はまたしても自分が罠にはめられかけたのを知った。
「こら! お前また、俺を変な術で引っかけようとしただろう!」
「変な術ではない。魅了の術だ」
「どっちにしろ罠にかけようとしたのは一緒だろ?!」
 青年ハンターは焦った。罠とわかっていながらも、やはり組み敷いた少年の美しさに目を奪われてしまっている自分に。
 美女ではなく、美少女ではなく、それどころか女ですらない。だが細い手足や肉づきの薄い身体、白いうなじ、シャツの間から覗く鎖骨などに少年独特の色気を感じる。
 なまじ少年の全身を――全裸をくまなく見つめた経験があるからこそ始末に負えなかった。タイを引きちぎりフリルのついたシャツを剥ぎ取って肌を露わにすれば、そこにどんな身体があるのか、容易に想像できてしまう。白い胸元を汗が滑る様子だとか肩甲骨の形まで、廃教会でその術に流されるままこの身体をさんざん楽しんだ記憶がある。
 少年がにやりと笑った。
「私を抱きたいのだろう?」
「お前……!」
「身体の方は誤魔化せないぞ?」
 銃で撃たれた痛みを感じていないような少年は、青年のズボンの股間の辺りを見ていた。そろそろ苦しくなってきた部分は、解放されるのを今か今かと待っている。
「自分の欲望に正直になればいい。なぁ、お前は魅了の術などなくとも、すでに私の身体に欲情している。だから前回も、あんなにも簡単に罠にはまったのだ。そうだろう?」
 子どもらしいなめらかな指先がのしかかる青年の頬を怪しく撫でる。少年は彼自身潤んだ眼差しでもって、敵対者であるべき狩人の青年を熱く見つめた。
「私が欲しいのだろう?」

 ◆◆◆◆◆

 そして青年はまたしても欲望に負ける。
 本人としては、これはまたもや怪しい術をかけられたのだと自分に言い訳していたが、傍目から見れば彼が嬉々として少年を襲っているようにしか見えなかっただろう。
 少年の顔立ちは妖の者特有の美しさで、子どもらしい体つきの中にもどこか独特の色香がある。腕の中にすっぷりと収まる小さな身体に青年はすっかり魅せられていた。
 肌蹴られた胸元に唇を落とす。
「ん……」
 首筋を甘く噛み、鎖骨の辺りに口付けの痕をつける。赤い突起を舌先で転がすと、むずがるような声が少年の唇から漏れた。
 青年はその声を聞いているだけで達してしまいそうだと思った。中身はともかくこの少年姿の吸血鬼は、彼の好みそのものだった。これまで男色に手を出したことなどないはずなのに、当たり前のように年端もいかない子どもの姿に欲情してしまう。吸血鬼なのにというが、これで少年が吸血鬼でなかったら、彼の方が犯罪者だ。
「は……っ、反則だろ。長年生きてる化けもんのくせに、こんな綺麗な肌……男の純粋な欲望を、ガキの姿なんかで弄んで……」
 白い肌の内股に噛み痕をつけながら青年が言えば、自らの指を咥えて嬌声を堪えていた少年が返す。
「ガキの姿も何も、私はまだ十歳だ」
「何ぃッ?!」
 吸血鬼と言えば不老長寿の化け物。そう考えていた青年は突如がばりと身体を起こす。反動で少年がころりと横に転がった。
「いきなり何をする」
「お前、実はジジィとかそういうオチじゃなかったのか?!」
「この姿が本体だと言っているのにどこをどう見てそんな結論に達した。私は正真正銘の十歳児だ」
 ムッと唇を尖らせる愛らしい少年の姿に、彼をすっかり見た目だけ若づくりなのだと思いこんでいた青年は一瞬呆然とした。
「その口調は何なんだよ」
「同族の者たちはみなこういう言葉づかいだ」
 吸血鬼が不老長寿と信じられているのは、そのせいもあるのではないかと青年は思った。見た目幼い子どもなのにこんなじじむさい話し方をされたら、なまじ相手が人間ではないと言う先入観のために、見た目通りの年齢ではないのだと思ってしまう。
 青年の頭の中に一瞬で色々な考えが通り過ぎていった。十歳児相手にこれって犯罪いやいや相手そもそも化け物だしっていうか人外相手にそもそもこんなことをするのがまずどうなのだが人外と言ったって可愛いものは可愛いそれに人間でないなら身体の作りも違うはずで――。
 考えるべきことはいろいろあるはずだったが、少年がその小さな手で彼のものを撫であげたために、その問題に関して考えることをあっさりと放棄した。
「今更常識人面して迷う振りなどしてみせたところで、お前なんか、私のような子ども相手に欲情した変態のくせに」
「言ったな化け物」
 実年齢十歳だと聞けば尚更生意気そうな言葉を吐くその口を封じてやりたくて、青年は少年吸血鬼の、小さな玩具のようなそれを手の中に収めた。
「ふぁっ!」
 幼くも敏感な身体は、青年の大きな手に刺激を与えられて反応する。
「あ、んっ……そこ、いい、んっ……」
 すでに何度も顔を合わせていて、肌を合わせるのもこれで二度目。少年はすっかり慣れた様子で、青年の手によって快感を享受する。自身を弄ぶ青年の手に自らの手も重ね、他人の手で自慰をするような背徳的な快楽に燃え上がる。
「お前も……しろよ」
 青年は少年の手を、自分のものの上に導いた。滑らかな指の腹が、張り詰めた肉塊を懸命に擦る。いたいけな子どもにいかがわしいことをさせているようで、青年は興奮にますます鼓動が速くなるのを感じた。十歳という本人の申告が本当ならば、まぎれもなく子どもにいかがわしいことをさせている。
 商売女の慣れた手つきとも、街娘のぎこちないやり方とも違う、明らかな子どもの手が慣れたように、しかし懸命に自分のものを扱くのにそそられてあっという間に達してしまった。
 そそり立ったものから飛び散った白濁が、少年の頬を穢す。たらりと顎まで伝った汁をしかめつらで舐めとる様子に、青年の頭からは遠慮の言葉が消えた。
「ひゃん!」
 少年を屋上の床に押し倒すと、片足を抱え上げるようにして股を開かせる。白い尻の谷間を指でたどり、その間にひっそりと隠れていた小さな穴に指先を埋めた。
「んんっ」
 男を相手するのに慣れた場所はすぐに青年の指にも馴染み、小さな口から熱にうかされた吐息を零させる。
「もう……いいよな?」
 相手が人外、それも基本的には敵だと言うことで遠慮なく、後ろをほぐすためだけの愛撫をおざなりにして青年は自らの欲を満たすために少年の身体を抱えあげる。頼りない細い腕が、すぐに首の裏に回された。
「は……ふぅ……」
 子どもの身体にはきついだろう大きなものを受け入れて、少年は恍惚とした顔をする。人間よりも頑丈な吸血鬼は、少し乱暴と言われるくらいが気持ち良いらしい。投げやりな愛撫しかせずにいきなり突き入れてきた青年にも文句を言わず、自ら腰を振って更なる刺激をねだる。
 聞きわけの良いその様子に、青年は背徳的な満足感を覚えた。
 細い首筋に噛みつきながら、華奢な身体を揺さぶるようにして突きあげる。
「あっ……あ、あ……っ」
 背中に爪を立てながら、少年が胸を擦り合わせるようにしがみついてくる。爪に破かれた皮膚が流す血の匂いよりも今この瞬間だけは汗の匂いに惹かれたように、青年の鎖骨を辿った塩辛い滴をぺろりと舐めた。
 同時に、下腹部の奥で熱い液が弾ける感触がした。
 荒い息をつきながら、彼らは夜の屋上で何度も何度も混じり合う。

 ◆◆◆◆◆

「ではな。狩人よ。今回もまた良かったぞ」
「ち、畜生ぉおおおおおお!」
 意志弱い、否、自制心が弱いというべきか。そんな青年の罵倒が深夜の街に長く尾を引いた。
 今日も、彼の負けである。