B-HISTORIA

悪い魔法使いと剣士見習い

「勝負だ! そこのお前! 勝負をしろ!」
「は?」
 道端を歩いていたら、いきなり決闘を申し込まれる、というのはなかなかある体験ではあるまい。
「その長い杖! お前はきっと、悪い魔法使いだな! 我が正義の刃の錆びになれ!」
「いや、誰が悪い魔法使いだよ」
 魔術師の青年は剣を持った少年に突っ込んだ。そう、彼に声をかけて来たのは剣士――ではなく、まだ見習いであろう剣を持った少年だったのだ。
 歳の頃は十を一つ過ぎたか、二つ過ぎたか。短い髪に男の子らしい太い眉の、なかなか愛らしい容姿をしている。
 身なりはよく、動きやすい格好ではあるが良い生地を使用した服を着ているのがわかる。恐らく、どこかの貴族の子と言ったところだろう。剣の修業をしていて、自分の実力を試してみたくでもなったのか。
 都合がいいのか悪いのか、道の途中には誰もいない。本当に遠く、豆粒サイズに見えるくらい向こうの方で、牛が長閑に草を食んでいるのが見えるくらいだ。魔術師は一人旅で、少年もどうやら一人のようだ。
 普通に勝負をするのもなんかアレだし、断ってさっさと歩き去れば後ろから剣の柄で思いきりどつかれそうな気がする。魔術師は迷った。
「……うーん、いいよ。決闘しよう。邪魔が入らないように、そこの森の中でどうだろう」
「わかった。神聖な勝負は何人たりとも穢すわけにはいかないからな!」
 先程からどこで覚えて来たのか、何かを激しく間違えた言葉を使っている少年に魔術師は苦笑した。
 彼は別に悪い魔法使いなどではなく、協会の認可を受けた正式な魔術師である。黒いローブは魔法使いの正装のようなもので、悪の印などではない。
 数瞬悩みこんだ魔術師の出した結論は、この勘違い少年に少しお灸を据えてやろうというものだった。これからもこの調子で通りがかる人に片っ端から剣を向けるのはよくない。たまたま彼だったからいいようなものの、単に体格が良いだけの農夫を熟練の格闘家などと因縁つけて剣で斬りかかったりしたら大事になってしまう。
 手っ取り早く怯えさせるために、魔術師は少年からの勝負を受けた。道をそれ、二人して森の中に入る。
「ここがいい。ちょうど開けているからな」
 木々が途切れたかなり広い空間で、二人は向かい合う。
 少年の構えは意外としっかりしていて、真剣なその表情だけを見れば彼がその歳にしては実力者、と言っていいかもしれないことを示す。
 だが所詮は子どもだ。歳より優れていても、いっぱしの剣士と名乗れるほどではない。つまり、正式な魔術師の敵ではない。
「悪の魔術師め、覚悟――!」
「はい、雷の矢」
「ギャン?!」
 子どもが最初に習うような初級魔法一発で片が付き、少年は地に倒れ伏した。威力は最小限に抑えたので、ちょっと数瞬、体がビリビリするくらいだろう。
「勝負に勝ったから私は道を通るね。じゃあね」
「ま、待て……!」
 少年は結構しぶとく、地面に倒れたまま魔術師のローブの端をがっちりと掴んできた。子どもの力ぐらい振りほどけない青年ではなかったが、今そうすると少年が怪我をするので、大人しく掴まれてやる。
 しかし大人しくとは言っても、口までは止めない。あのねぇ、とまるきり大人が子どもを叱る時の口調で語りかけた。
「道を通りがかった人に片っ端から因縁をつけて勝負を申し込んで回るなんて、するもんじゃないよ」
「そ、そんなことしてない。お前みたいな悪い魔法使いだけだ!」
「だから私は悪い魔法使いじゃないって……――」
 言いかけた魔術師は、ふむ、と言葉を途切れさせた。
 涙を浮かべた目で必死でこちらのローブの端を掴む少年は、やはり愛らしい顔をしていた。
 なんだか下腹の辺りがうずうずする。こういう可愛い生き物は、もっと苛めてキャンキャン言わせてみたくなるものだ。
 もちろん青年は仲間の魔術師たちからドSと呼ばれている。そしてサディストとは、広義的には他者をいたぶることに快感を覚える者のこと。狭義的には、他者をいたぶることで「性的な」快感を覚える者のことだ。
 青年は後者であった。ありていに言えば、いかにも悔しげな気持ちを前面に押し出した少年の表情に勃起した。
「そういえば御無沙汰だったなー……」
 とある事情により師から当分性交禁止を言い渡されていた青年は、久々の獲物に舌舐めずりをした。ここなら師匠の目も届くまい。
「何をぶつぶつと言っている! 悪の魔術師め!」
「うん、もうそれでいいや」
「は?」
 怪訝な少年の様子にも構わず、青年はしゃがみこんで少年の身体を一度自分から引き離すと、仰向けにして服を剥ぎ始めた。
「な、何をする!」
 電撃のショックが抜けて来たらしくじたばたと暴れる少年の手足をいとも簡単に押さえこみ、青年は言う。
「悪い魔法使いらしいこと」
「よ、よせ!」
 何をされるかもわかっていないだろう少年の言葉に、青年は恐ろしいほどの笑顔で「いや」と返す。
 魔術師は地面に生える草に魔法をかけると、少年の手足を拘束させた。両手両足をがっちり、地面に大の字になるように貼り付けられて、少年はもはや暴れることすらできない。半ズボンを脱がされ、ブーツとシャツしか身につけていない状態で裸を晒しているのは恥辱的だ。シャツは前が開かれて、薄らと六つに割れた腹を晒している。
「な……! 解け! 解けよ! これ!」
「だからイヤだって」
 青年はあえて少年が嫌がるように、その全身にじっくりと視線を落とした。割れた腹を人差し指でつつーッとなぞる。少年の身体がびくりと震えた。
「へぇ。健康的な肌の色だね。一応鍛えてるわけだ」
 無駄な肉がなく、筋肉が薄らと乗る身体だ。肌は子どもらしく瑞々しい。
「け、剣士たるもの当然だ!」
「でも剣士って言ったって、私に負けただろう? 君みたいな子どもが無理するもんじゃないよ」
「うう……」
 もう数年したら立派な男となって腕力で相手を圧倒できるかもしれないが、今はまだ未熟な剣士。たとえ魔法で拘束せずとも、こうして武器を奪って押さえこんでしまえばやはり青年には勝てなかっただろう。
 悔しげに呻くその顔に、青年はますます腹の下に熱が溜まるのを感じた。もっと苛めて泣かせたい。この思いあがった少年が真っ赤になって顔をぐしゃぐしゃにして屈辱に泣く姿を想像すれば、それだけでイけそうだ。
「そして君は浅はかにも私に勝負を仕掛けて負けて、今こんなところでこんな恥ずかしい格好をさせられてるわけだ」
「い、言うな!」
「本当のことだろう? ほら、君の可愛い身体は、おへそもお尻も全部私に丸見えだよ」
「言うなったら!」
「負けた弱者の言うことなんか聞く耳もたないね。私が暗殺者か何かだったら、今頃君、命ないよ」
「そんな……」
「そうじゃなくても、ただの追剥程度でも君くらいの腕だったらとっくに殴り飛ばしてひん剥いて捨て置くか、人買いにでも売るところだね」
 筋肉はついているが、まだ柔らかい部分も多い太腿をうっとりと撫でながら青年魔術師はなおも少年を馬鹿にした。
「どう、反論できるの? できないでしょ。未熟者」
「うう……」
「君は愚かにも悪ーい魔法使いに手出しをしたわけだから、何をされても文句はないよね」
 魔術師はにっこり笑うと、彼自身のものに比べればまるで玩具のような、幼い少年自身に指を伸ばした。
「ギャ、アゥッ!」
 先程の矢よりも更に威力を弱めた雷をその指先から少年自身に放つと、獣のような声があがった。
 少年は呆然と、何が起きたかわからないという顔をしていた。ただいきなり走った痛みに、魔術師を恐怖の眼差しで見る。
「私に逆らうと、もっと酷いことをするよ?」
 蒼白な顔になる少年の前で、青年は自らのローブを脱ぎ、前を寛げた。そして少年の首をまたぎ、まるでその顔に小便でも放つかのような姿勢でしゃがみこむと、すでにそそり立ったものを少年の唇に近づけた。
「舐めろ」
「え?」
「聞こえないの? これを口に含んで、丁寧に舐めるんだよ」
「な、そ、そんな馬鹿なことっ」
「いいからやりなよ」
「ン、ぐぅ――!!」
 絶望に目を見開く少年の表情にも構わず、青年は自分のものを彼の口の中に押し込んだ。柔らかな唇の震えと生温い口内の感触を堪能しながら、ここ一番という底冷えを含ませた低い声で囁いた。
「歯を立てたら、殺すよ?」
「!」
 今まさに青年の手の中に命を握られてる少年は、じわりと目に涙を浮かべながらも従順に青年の命令に従った。その口内にはとても収まりきらない太くて長いものを、ぺろぺろと必死になって、舌の届く限り舐める。
「は……はん、ん……」
 もういいよ、と青年が止めた時には、これでようやく解放されるのかと安堵した少年の顔を、次の瞬間、熱い滴が襲った。
 呆然とする少年のふっくらとした頬を、どろりとした白濁の液が滴っていく。
「うん、可愛くなった」
 にっこりと青年がその様子を覗き込み、満足そうに笑う。
「さて、じゃあ君にも気持ちいい思いをさせてあげなくちゃね」
「ふぇ……?」
 そんなことより早く解放してくれないかと願う少年の気持ちをわかっていて無視し、青年魔術師はまた何やら怪しげな呪文を唱え始めた。大気中の水分が凝固し、その手の中に、細い針のような、棒のようなものが現れる。
 氷の針、と少年が見てとったそれを、あろうことか青年は少年自身へと近づける。
「な、何を……痛っ!」
 針にも見える細く冷たい棒で、青年は少年の排泄口である小さな穴を突いていた。大きな手が少年の柔らかな自身を支えてまっすぐにし、壊れ物を扱うかのようなそっとした手つきで穴の中から棒を通す。
「ひぃいいいい! いた、いたい! いやぁ!」
「段々気持ち良くなってくるから、おとなしくしてなよ」
「いやだぁ! いたい、痛いぃいいい!」
「うるさい子だなぁ。暴れると、間違って折れた棒が中でもっと痛く突き刺さるよ?」
 その一言の効果は絶大で、少年はぴたりと見動きを止めた。静かになったことに満足し、青年は棒を動かす手の動きを再開する。
 激痛を堪えていた少年の顔が、最後の奥の方まで棒を突き入れられた時に変わった。
「アアッ、あ、あ!」
 まさしく地獄から天国へと強烈に揺さぶる快感に、少年はもはや言葉も出ない。性に疎い少年には、自分の身体に何が起きているのかさっぱりわからなかった。青年の方でも、そんなところまで親切に説明してやる気はない。
「や、なん、なんでぇ……?」
 恍惚となる少年の様子に、ぐりぐりと棒を突き入れている青年が笑む。先程彼のものを咥えていた小さな口から断続的に漏れる子犬のような嬌声が、彼を疼かせる。
「これはこのままにしとこうか。どうせ氷だから溶けるしね」
「そ、そん、な……」
 ここでも何か魔術を使っているのか、氷の細い棒は氷というには冷たくなかった。しかし熱で溶けるのは変わらないようで、段々と細くなっていく。
 そして青年が少年に与える責苦はそこでは終わらなかった。
 前への強烈な刺激ですでに放心状態の少年の腰を抱え上げると、ついに彼は熱い楔のような自身を打ち込み始めた。
「あ、う、わぁ、あ、アアアアッ!」
 口の端から涎を零して放心していた少年は我に帰ると叫び始めた。しかし僅かな正気は、容赦なく腰を使う青年の動きにまたしても削り取られていく。
 内壁を擦り、奥を突く、こちらもまた人生で初めての衝撃を与えられながら、少年は青年魔術師のこんな言葉を聞いていた。
「これに懲りたら、今後誰かれ構わず喧嘩を売るような真似はやめることだね」
 師に乱交を禁じられていた青年は、久々の感触に内心嬉々としながら上辺だけはもっともらしくそんなことを言ってみせた。

 ◆◆◆◆◆

 で、これはどういうことだろう。
「お待ちしておりました。魔術師殿」
 そう言って朗らかに微笑む街の守備隊長たる騎士の影に、昨日の少年が恥じらうように半身を隠してこちらを見つめている。
 青年は思い返していた。この街に来る前、真っ白いヤギ髭の師匠が「顔だけは上等のお主に似合いの仕事じゃ」と言って青年に回したのは、とある街の騎士の子息の教育と護衛。
 まさか、依頼主の子どもだったとは。と言うか、当の護衛対象本人だったとは……。
 青年は気が遠くなるのを感じた。どうしよう、縛り首かも。よりによって、家柄だけじゃなく功績が伴わないとなれない貴族騎士の子息だよ。斬られるよ。
「どうしましたか? なんだか顔色がお悪いようですが」
「ハハハハハ。いえいえいえなんでもございませんよ。それで、依頼の方なのですが……」
「ああ、ええ。この子が来月から騎士見習いとして王都に赴くので、養成所の訓練の間に魔術の教育と護衛を。正式な騎士として軍に入れるのは十六からですが、この子はどうしても早く騎士としての勉強を始めたいというもので」
「そ、それなら、誰か訓練向きの魔術師を御紹介しますよ! 私はそういったことには疎いものでね!」
「え? しかし老師からはあなたが適任だと、いえ他に勝手を知る方を紹介していただけるならそれでも構いませんが」
「父上、僕この人がいい」
 誰か別の奴らに押しつけてとんずらここう。そんな青年の目論見はいたいけな少年のたっての願いに打ち砕かれた。
 昨日の少年は何故か頬を赤く染めて、潤んだ瞳で彼を見上げている。何故か。
「それに、昨日だってあんなことされちゃった責任とってもらわないといけないし……」
 青年は気が遠くなるのを感じた。
「ん? どうしたんだ?」
 一人事情をわかっていない騎士だけが和やかなのが場違いのようだ。

 実はこの仕事に出される前、青年は師匠から異性同性問わずしばらく付き合いを禁じられていた。
 それというのも、青年は他者を甚振るのを趣味とするドSの人だった上に顔だけは無駄によく、しかも魔術の腕も無駄に良かったので、住んでいた村の少女やら少年やら青年やら未亡人やらを片っ端から食い物にしていたのだ。
ちょっと人には言えない部類の趣味を実行してもらうために魅了の魔術だの、痛みを軽減して快楽を増す術だの、媚薬の作り方だの、昨日のように証拠隠滅のために氷での玩具作りだの、貴重な魔術の技を犯罪ではないが犯罪よりも嘆かわしいろくでもないことにばかり使うので、師匠からついに村人との交遊禁止令が出たのだった。
 何が一番まずいかって、問題なのはそれらの行為には魔術を惜しげもなく使用したくせに、相手を自分と付き合うよう口説くまではひたすら自力だというところだろうか。師は彼を改心させるため可愛い少年の教育と警護という据え膳仕事をまっとうさせるつもりだったが、その目論見は木端微塵に砕け散った。
 ……いや、ある意味これ以上なく成功しているのかもしれない。

 こうして素行の「悪い魔法使い」は、「正義の騎士」見習いに一生手綱を握られることとなりましたとさ。