B-HISTORIA

青春は暴走する

 だからさ、全部全部君が悪いんだってば。

「あのさ、ねぇ何? 君のそのツンデレがもはや今更矯正しようのないアイデンティティだということは知っているけどさ、だからってこの仕打ちはないんじゃないの? 昨日だってタオル忘れたからって素っ裸で僕の目の前を横切ったし、今日の実技だってわざわざ隣で着替えることはないじゃないか。だからって誘ってるのかと思えば話を始めるきっかけはくれないし、僕の前で平然と着替えた直後に別の友人の部屋に行くなんて何それは僕を嫉妬させたいの? 僕の忍耐力を試してるの? 僕としてはいつ君に手を出せばいいんだい? ここまで焦らすことはないんじゃない? 君のせいで僕が一年三六五日悶々としているのを見て楽しんでいるわけ? S? 隠れSなの君って?」
「一体何を言いたいのかさっぱりわからんがお前がどういう料簡だろうととりあえず僕の言いたいことはただ一つだ、放せ! この馬鹿!」
 もうこれ以上は我慢できないと彼の身体を壁についた両手で囲みこむようにして問い詰めた僕にシファはそう言った。真っ赤に染まった顔は羞恥というよりは本気で怒っている顔だ。二年間の同居生活(ルームメイト)で把握した。
 僕とシファはエトラ学院の同級生だ。二年前僕が十三の時に、シファが飛び級で十一歳で僕のクラスに入ってきた。それから寮で同室になった関係で仲良くしていた。
 でもだからって僕も怒っていないわけじゃない。もうとっくに理性は崩壊、我慢の限界突破なんだ。これ以上一秒だって焦らされるのは耐えられないね!
「放さないよ。放したら君はすぐに逃げてしまうだろう? これまでだって何度も何度も僕が近づくたびに僕を避けるようにして!」
「それはお前が必要以上に僕に近づくからだろうが! なんだよアリオス、お前頭がどうかしたんじゃないのか?!」
 人がこんなに真剣だというのに失礼なことを言うシファの態度にカッとなって、思わず僕は彼の唇を自分の唇で塞いだ。
「んん……っ?!」
 驚きに琥珀の目を見開いたシファの声が中途半端に途切れる。
「んーっ……!」
 僅かな隙間から舌を潜り込ませる。僕はシファの顎を掴んで角度を変えた。口腔内をまさぐり、逆に僕の唾液を無理矢理彼に飲ませるようにして流し込む。僕の胸を押し返すシファの力が弱くなった。
「んっ、はぁっ、はぁ、は……」
 唇を離すと、シファはまず何よりも呼吸を優先させた。よっぽど苦しかったらしく、瞳の縁に涙を浮かべている。子猫がするように舌先をちろりと出したまま喘ぐ。
 ああ色っぽい。くる。誘ってる? 誘ってるよねこれは、どう考えても!
「お前……」
 ようやく呼吸が整ったシファが必殺・上目遣いで僕を睨んでくる。そんな、なんていう男殺しの技を使うんだ君は。いくら視線が射殺すような殺人的眼差しでもただでさえ可愛いシファにそんな可愛い仕草をされて、僕の理性はぷっちーんと焼き切れる。
「シファ……」
「放せ! アリオス! この変態がっ! 男同士でなんてことしやがるんだてめぇ! 人のファーストキスをよりによって男なんかに……!」
「やっぱり僕が初めてなんだシファ。嬉しいよ」
「人の話を聞けぇ――っ!!」
 僕とシファは頭の中身は同程度だが、二歳の歳の差で身体は僕の方が大きい。つい最近十六歳の誕生日を迎えた僕はシファより一足先に大人になり、まだ頭一つ分背の低い子ども体型の彼を見下ろす形になる。
「とにかく放せ!」
「ヤダ」
「何ガキみたいに聞き分けのないこと言ってんだ! 冗談だろっ、いくらここが男子校だからって……」
「冗談なんかじゃないし、もちろん気の迷いでもないよ。シファ、僕は」
「黙れよアリオス!」
「僕は君が好きなんだ。君だって気づいていたんだろう?」
 ついに僕は言った。これまで態度の端々にあからさまに出していても言葉にはついぞしたことのなかったその台詞を。
「好きだよ、シファ」
「……! ……、お、お前!」
 動揺するシファにトドメの一言を投げる。
「それに、君も僕のこと好きだろ?」
「なっ……!」
 シファが絶句した。口をぱくぱくと数度開いた後に、可愛らしい顔を歪める。
「す、好きって……友達としてだよ! ただのダチだ! それ以上でも以下でもない!」
「じゃあなんで先月、上のクラスに入る話を断ったんだい?」
 シファには先月、教師からもう一つ上のクラスに入るよう話が持ち込まれていた。学園としてはこの百年に一人と言われる天才児を、これまでの最短記録で卒業させたいらしい。
 だがシファはその話を断った。実力的にはもう十分僕たちのクラスをクリアしているのに。
「僕と一緒にいたいから、進級の話を断ったんだよね?」
「勝手なこと言うな!」
「もう、やっぱり君って素直じゃないよねぇ」
「お前はやっぱり人の話を聞かないな!」
 腕力では僕に敵わないシファは、僕に掴まれた腕を何とか引き抜こうと必死で抵抗する。
 そんな抵抗すらいじらしく、僕は彼を抑えこむ腕に力を入れて、もう一度その可愛い果物のような唇に口づけた。
「ん、んんっ」
 絡めるとびくんと揺れる舌が、震える体が愛らしい。僕は目を瞑って、じっくりとシファの唇、舌、唾液、口腔の粘膜をくまなく堪能した。
「ふっ……」
 お互いの口の端から呑みこみ切れない唾液が零れる頃になってようやく唇を離すと、虚勢も臨界点に達したのかきつく瞑られたシファの瞳からぽろぽろと涙が零れる。
 僕はそんなシファの額にちゅっと軽く唇で触れた。
「シファ、泣かないで」
 震える彼をそのまま部屋の中のベッド、僕の方のベッドの上にまで連れて行って押し倒す。
「あ……アリオスっ、やだ……やめろ、よ」
 手のひら同士を合わせるようにして繋いだ手に縋るように力を込めながら、シファがまだ拒絶の言葉を囁く。
 青ざめた顔に流れる涙がとっても綺麗。
 だから僕は言った。
「いやだ。今日は、今日こそはやめない」
 いつも逃げられてしまうから、今日ばかりは君を逃がさない。
「好きだよ、シファ」
 僕はシファの柔らかい首筋に甘く噛みついた。

 ◆◆◆◆◆

「あっ……いっ……!」
「大丈夫。すぐに気持ち良くなるから」
 僕はこの日のためにとこっそり配合していた特製の媚薬を指にとり、その指を横たわるシファの後ろに挿し入れた。
「うっ……あ、はぁ……」
 入り口付近がほんの少し緩んだところで、更に奥まで指を進める。熱い内壁を感じる指先が、きゅっと軽く締めつけられている。
 これからこの中に僕のものを突っ込むのだと思うとそれだけでぞくぞくする。
「うう、やだ、なんか、気持ち悪い……」
「異物感ってやつだね。でも大丈夫。何度も何度もやれば、すぐにこれが癖になるから」
「何度もって……」
 シファは苦しそうに眉を寄せながら、今にも泣きそうな力のない目で僕を睨む。僕はいたずら心を起こして、中に入れた指をくい、と軽く曲げた。
「ふぁっ」
 いきなりのことに驚いたシファが気の抜けた声をあげる。
「やっ、やっ……なんか、変になるっ」
 体温で溶けてきた薬がぬるぬるとした潤滑油となって、僕の指の抜き差しを滑らかにする。僕は指の腹でシファの直腸の形までも覚え込むようにじっくりとその皮膚を味わいながら、中を刺激し続けた。
 薬の効果も表れたのか、だんだんとシファの息がこれまでとは違う甘い色を宿しながら荒くなる。彼は涙を零しながら懇願した。
「ああっ、やぁ……っ。アリオス、おねがっ、抜いて……」
「抜いて? いいの?」
 違う意味だと、抜いて欲しいのは指だとわかっていたけれどもちろん僕はそのお願いには従わなかった。可愛いシファのお願いなら普段はぜひとも聞いてあげたいところだけど、僕はシファが見せてくれるなら、泣き顔だって大好きなんだ。
 シファの露出された下半身にもう片手を伸ばし、ゆっくりと握り込む。
「あっ! や、やめっ」
「可愛い。すっごく可愛いよシファ」
「うあ、ふぁあああ! ああっ」 
 キスすら誰ともしたことのなかった少年のものに相応しい綺麗なそれを目にして、僕はにっこりと笑ってみせる。シファの中に入れている手とは逆、つまりは利き腕じゃない方の鈍い手で、丁寧に擦ってやる。
「あっ、あ、あ、」
「もう、こんなに……後ろの方もいい感じだね」
 熱く張り詰めたものを握り、十分にほぐれた後肛をまだ指先で弄りながら僕はシファに言った。
 よく分からない顔をしている彼の前で、僕は自分のズボンのベルトに手をかける。
「な、にを……やめろ! やめて!」
 すっと青ざめたシファの制止を聞くこともなく、僕はズボンの中から取り出したものを、シファの入口にあてがう。
「ひっ……!」
「いくよ」
 ずぷずぷと熱い内部に入り込んでいく。
「――ッ!!」
 シファの呼吸が落ちつくのを待って動き出す。
「あ……アリオスっ、アリオス……!」
 僕の背中に腕を回して名を呼ぶシファが凄く可愛い。回された腕の感触と熱い中、汗のにおい、シファの全てに僕は酔った。
 こうして味わった世界は、まさしく天にも昇る心地というやつだった。
「シファ、大好きだよ」
 びくんと大きく震えたシファを抱きしめながらその中に放ち、僕は縋りついて来る彼に覆いかぶさるようにしながらその耳元でとびきり甘く囁いた。

 ◆◆◆◆◆

「馬鹿っ! 変態! このクズ男っ! 死ねっ!」
 先程からシーツにくるまったシファが思いつく限りの罵詈雑言を怒鳴りかけてくる。
 しかしいつもの優秀な頭脳はどこかへ飛んでいってしまったのか、選ぶ言葉づかいもどこか稚拙で可愛らしい。
「お前なんかエトラの学生の風上にも置けない! もう馬鹿っ! 最低だっ!」
 さっきから三回に一回はバカと言っているなぁ。でもシファの言うバカは可愛らしいから、うん、許す。
「うん、いいよ僕はもう最低で。馬鹿だし変態でロリコンのクズ男だよ。それで?」
「~~~~~~っ!」
 投げ付けられた言葉を全部笑顔で肯定してやると、シファは続く台詞をすぐには思いつけなかったみたいで真っ赤になった。ふるふると身体を震わせて怒鳴り出すのを堪えている。
「だってそんな僕でも、シファは僕が好きなんでしょ?」
 僕の言葉に、シファは一瞬呆気にとられた真顔になった。次の瞬間先程以上に顔を赤くすると、全てを誤魔化すように叫び出す。
「この……っ、万年脳内花畑男がっ! バカバカバーカァ!」
「はいはい」

 もう、君ってばやっぱり素直じゃないツンデレなんだから。