荊の墓標

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荊の墓標 33

第13章 荊の棺に釘を(3)183 皇帝領の天気は滅多に崩れることがない。四季を通じて枯れることのない虹色の花畑が広がっている。 しかしそれすらも、皇帝にとっては意のままに操れる現象の一部だという。今現在の皇帝領の景色がこのように穏やかであ...
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荊の墓標 32

第13章 荊の棺に釘を(2)179  夢の中で。 《――》。 誰かに、呼ばれたような気がした。「……リダン様、シェリダン様」 目を開けるとまず視界に飛び込んできたのは、全く同じ二つの顔。金髪に緑の瞳の美しいその二人が心配そうにこちらを覗き込...
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荊の墓標 31

第13章 荊の棺に釘を(1)175* 知っていた。 君が、妹への初恋など比べものにならない、生涯ただ一つの恋をすること。 知っていた。 君が、そのことによって、誰よりも不幸になること。 知っていた。 事態のカラクリの全てではない。けれどそれ...
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荊の墓標 30

第12章 宿命の子らに捧ぐ挽歌(2)170  黒い城。黒曜石を削りだして作られたような城。ぴかぴかに磨かれた床が鏡のように彼の姿を映す。ローゼンティアのヴァンピルは肌も髪も白いからこそ、この黒い床や城の中で一際その存在が映えるのだ。 王城へ...
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荊の墓標 29

第12章 宿命の子らに捧ぐ挽歌(1)164 花は何度でも繰り返し咲くけれど、前と同じ花などない。それはあまりにも明らかな事実だけれど、人は言われなければそれを重要視しない。 足元の花などどんなに美しくても、所詮はそれだけの存在。 人の世の思...
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荊の墓標 28

第11章 薔薇の覚醒(2)158「お休み。ヴィル。……お前はもう、何も心配しなくていいんだよ」 だって、お前にもう未来はない。 死んでしまえば、もう明日の心配などいらないだろう? それは、あるいは最後の慈悲だった。「じゃあね。ヴィルヘルム」...
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荊の墓標 27

第11章 薔薇の覚醒(1)152「ええ。そう。いいの。そちらはそのように。こっちはちょっと放り出してた仕事が立て込んじゃって、しばらく動く予定はないから」 皇帝領の居城、執務室。書類の山を前に、デメテルはそう言った。吊り上った口元は、遠い異...
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荊の墓標 26

第10章 白骨に祈る夜(2)146「おやまぁ……」 ドラクルの様子を見て、アンが溜め息をつく。その直前までぽかん、と大きく口を開いていたものだから、せっかくの美人も台無しだ。「そりゃあ、無様なことになったのう。ドラクル」「それはどうも。だと...
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荊の墓標 25

第10章 白骨に祈る夜(1)139 ひたひたと上がってきた水位が壁に寄りかかった体を飲み込んでいく。足首に濡れた感触。それは徐々に徐々に脛を膝を太腿を舐めていき、ついには腰に達する。「ん……」「起きたか」 罅割れたような声が耳朶を震わせる。...
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荊の墓標 24

第9章 蘇芳のユダ(2)132 その視線が遠い。「くっ……う、は、ぁあっ」 いつものように、お互いの体を重ね合わせる。習慣化した行為。肌を触れ合わせて、相手の体温を感じながらではないと眠れない日々。「ああっ」 背中に立てられる爪。一瞬の灼熱...