荊の墓標

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荊の墓標 23

第9章 蘇芳のユダ(1) 125  黄金事変。  帝政を造りたまいし神聖悲劇から三千年後。皇歴三〇〇三年晩春、ここに、アケロンティス帝国世界北大陸シュルト東方の王国、エヴェルシードは動乱の時期を迎える。  欲しい物は力尽くで奪うのが道理とし...
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荊の墓標 22

第8章 破滅の花嫁(2) 119  華麗な舞。  それはそのように表現するのが相応しい剣だった。白刃のきらめきが流麗な弧を描き、残影を残して鞘に収まる。一瞬後には、辺りを舞う木の葉の全てが真っ二つに叩き斬られていた。 こんな場面、昔シェリダ...
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第8章 破滅の花嫁(1) 112  夢を見る。  夢が滑り込んでくる。  見たくないと目を逸らそうとしても、逃げることは許されない。赦されない。  その夢は神のお告げ。  神によって選ばれ、その手のひらの上で転がされる私たち。持っている力は...
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第7章 湖底の王家(2) 105 「さぁ、これで役者は揃った」  始めよう、とその人は告げる。  これは絶望に満ち、狂気に堕ち、腐敗した白骨に還るための舞台。 「ディヴァーナ・トラジェディアを」  神聖なる悲劇。  硝子の柩に縋る未来。薔薇...
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第7章 湖底の王家(1) 098 「裏切ったな、クローディア」  男はそう言って、妻の首筋に剣を突きつけた。女の優雅にして繊細な印象を与える細い喉首に、一筋の朱が走る。室内に一瞬香った鉄の香りは、えもいえぬほどに馨しい。  そして女は嫣然と...
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第6章 忘れ果てた痛みの先に(3) 092 「殺さない、あんただけは」  執務が終わってその部屋を訪れてみれば、やけに憔悴した表情のロゼウスに迎えられた。 「……そうか」  エルジェーベトが訪ねると言っていた通り、室内には彼女の持ってきた薔...
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第6章 忘れ果てた痛みの先に(2) 087*  シェリダンは御前試合のときのことをクルスに調べさせたようだが、結局、カミラについては何一つわからなかったようだ。 「だが、あれはカミラだ」  シェリダンは断定する。  そしてロゼウスは。 「対...
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第6章 忘れ果てた痛みの先に(1) 082  これは十年以上前のこと。  場所は故郷であるローゼンティア王城で、警護の兵を捕まえて、アンリは兄の居場所を聞いた。ドラクルに用事があったのだ。小難しいことの相談相手はやはり長兄に限る。  長兄も...
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第5章 黄金の復讐姫(3) 077  さあ、行っておいで。  これはあなたのための舞台だ。 「……ちょっと、そこのあなた」 「はい?」  彼女は自分のすぐ横を通り過ぎようとした一人の青年を呼び止めた。何かしたのだろうかと目を瞬かせて返事をし...
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第5章 黄金の復讐姫(2) 072* 「何故そのまま、その刃で私を殺さない」  シェリダンの剣を弾き飛ばし、喉元に刃を突きつけたロゼウスが切っ先をひくのを見て、シェリダンは思わずそう口にしていた。  剣技ではシェリダンに敵わないなどと言って...