小説(BL)

荊の墓標

荊の墓標 13

第5章 黄金の復讐姫(1) 067*  コツコツと廊下を歩く音が聞こえる。  ああ、また今日もそんな時間になったのか。  現在は急ぎの仕事もないというから、夜になって執務が終わったのだろう。この部屋から出してもらえない身には、今が何時である...
荊の墓標

荊の墓標 12

第4章 眠り姫よ贖いたまえ(3) 061* 「いや、いやぁ……いやぁあ!」  どうして。  どうして、こんなことに。 「や、やめて……! やめてください! 兄上! お兄様!」  再会した兄に無理矢理体を引き裂かれながら、ロゼウスは矜持も何も...
荊の墓標

荊の墓標 11

第4章 眠り姫よ贖いたまえ(2) 055  で、場所を移り、身内だけが取り残されたわけで。 「どういうことよ!」 「わっ」  まだ全員が部屋のそこかしこに立ったまま。  ミザリーは弟の頬を思いっきりはたいた後、ロゼウスの耳を掴んで引っ張った...
荊の墓標

荊の墓標 10

第4章 眠り姫よ贖いたまえ(1) 049  ……部屋の中は豪奢な調度品で埋め尽くされている。柔らかな絨毯が体を受けとめ、春が来てもまだ役目を終えない暖炉がどっしりとした存在感で部屋の一角に構えている。  長椅子には繊細な模様の施された上掛け...
荊の墓標

荊の墓標 09

第3章 双子人形(3) 043  ジュダがいないのならば何も好き好んで気の合わない相手と顔を合わせていなくてもいいだろうと、早々に部屋を追い出された。ローラもたまには一人で羽を伸ばしたいのだそうだ。念のため、クルスがジュダとリチャードが帰っ...
荊の墓標

荊の墓標 08

第3章 双子人形(2) 038 「エチエンヌ! どうした!」  廊下の向こうから歩いてきたのは、エチエンヌを抱きかかえたリチャードだった。シェリダンが慌てて二人に駆け寄り、ぐったりとしたエチエンヌの具合を見る。一見意識を失っているように見え...
荊の墓標

荊の墓標 07

第3章 双子人形(1) 033  愛している、愛している、愛している。誰よりも。 「ローラ。私の愛しい人よ」 「……鬱陶しいわね」  五年前より主君より下された妻を組み敷きながら口を開けば、一言目でまずそう罵られた。この後彼女の決して豊富と...
荊の墓標

荊の墓標 06

第2章 薔薇の下の虜囚(3) 027  その光景を見た瞬間、ロゼウスは咄嗟に飛び出していた。  そして今、腕の中に気を失った妹を抱きながら、シェリダンに剣を突きつけられている。 「何故」  低く、いつもより掠れた声。  シェリダンの折れた首...
荊の墓標

荊の墓標 05

第2章 薔薇の下の虜囚(2) 022*  仰のけば普通目に付くのは天井かも知れないが、生憎とロゼウスの眼には薄紫色の天蓋ばかりが映る。今ではもうかなり慣れてしまった。エヴェルシード王シェリダンの部屋の、寝台の天蓋。 「ひっ!」  だが、ぼん...
荊の墓標

荊の墓標 04

第2章 薔薇の下の虜囚(1) 017  体が痛い。それにやけに寒い。  視界は利かなかったが嗅覚だけはやけにはっきりしていた。五感が鋭いのはヴァンピルに限らず魔物係種族の特徴なのだが、今は何も見ることができないし、外の音を聞き取ることも困難...