小説(BL)

荊の墓標

荊の墓標 03

第1章 吸血の堕天使(3) 011  敵は全部で十人。  ロゼウスはカミラを背に庇いながら、相手の様子を窺う。一番手前のリーダー各の男が、カミラへと剣先を向けたままロゼウスに告げた。 「お引き取りください。ローゼンティアの姫君」 「何?」 ...
荊の墓標

荊の墓標 02

第1章 吸血の堕天使(2) 006  白銀の髪に深紅の瞳。華奢な身体を美しいドレスに包んだその人は、庭園の四阿で今、カミラと向かい合って座っている。  ……薔薇の花をもしゃもしゃと食みながら。  カミラにのしかかって指を、というか指先から流...
荊の墓標

荊の墓標 01

第1章 吸血の堕天使(1) 001  この道はただ、いばらの這う、墓標へと繋がって。  父を母を兄を姉を弟を妹を埋めた墓標に、今にも咲き綻びそうな鮮やかな野の花を、剣を持つ資格を失った手のひらを掻き傷だらけにして摘んだ花で作った花冠をかけた...
Fastnacht

Fastnacht 36

第6章 神の帰還 36.廻る世界 141  堕ちていく。真っ逆様に。  物理法則が支配する現実空間ではないというのに、脳が覚えた重力に従って自然と体が落下していく。  人間は空を飛べないのだ。当たり前に当たり前すぎる話だ。  その当たり前を...
Fastnacht

Fastnacht 35

第6章 神の帰還 35.総てを滅ぼす者 137  一度自らの内側に封じ込んだ神剣の力を、剣のみならず籠手や鎧として装着しなおす。 あの剣は破壊神の封じられた力そのものだった。地上においてはその役割に望まれる通り王の剣として相応しい形をしてい...
Fastnacht

Fastnacht 34

第6章 神の帰還 34.封じられた名前 133  式典の日はあでやかな晴天で、自然の恩恵に文句のつけようもなかった。急な話に国中もちろん驚きに湧き立ったが、それでもこの話を多くの人間が喜んだ。 アレスヴァルド中が待ち望んだ、ディアヌハーデ侯...
Fastnacht

Fastnacht 33

第6章 神の帰還 33.神を継ぐ国 129  ダーフィトの方はゲラーシムとの腹の探り合いが難航しているのか、待っても待ってもその日は連絡が来なかった。何事もなく夜を迎えた時、逃走劇に疲れた体は自然と睡眠を欲していた。 「寝れば。僕たちも寝る...
Fastnacht

Fastnacht 32

第6章 神の帰還 32.彼が得た絆 125  待ちわびた再会に父親は相好を崩した。 「ダーフィト」  名を呼んだきり、あとは言葉もなく息子を抱きしめる。息子は一瞬困った顔をして、静かにそれを受け入れた。  髪の長さが違う。ゲラーシムと同じ真...
Fastnacht

Fastnacht 31

第6章 神の帰還 31.帰還 121  ――たぶん、その時救われたのだ。  天界にも人気のない一角はある。人とその似姿をした眷属たちだけではなく、動植物たちのためにあるような森の果ての崖。とくに見所もなく用もなければ滅多に人が寄りつかないそ...
Fastnacht

Fastnacht 30

第5章 祈りの行方 30.地の祈り、天へ 117  新しく豊穣の巫覡として紹介されたのは、アナイスと言う名の僅か九歳の少女だった。  大地の聖色である茶色の髪と緑の瞳を持つ可憐な容姿の少女だ。  しかし王都の民たちは失望した。彼らは豊穣の巫...