小説(BL)

Fastnacht

Fastnacht 29

第5章 祈りの行方 29.王の血 113  一度戻ってきたはずのクラカディルがまた慌ただしく出て行った。  こんな夜中に? 昨日とは態度が違った。何か不測の事態でもあったのだろうか。  ルゥは慎重に感覚を研ぎ澄ませる。  塔の中には自分以外...
Fastnacht

Fastnacht 28

第5章 祈りの行方 28.豊穣の国 109 「この国で何が起こっているかだって? そんなもん俺たちが教えてほしいくらいさ」  パン屋のおやじは大仰に肩を竦めて言った。 「あれ? 兄ちゃん、ひょっとしてこの国の人じゃないね」 「ああ、そうなん...
Fastnacht

Fastnacht 27

第5章 祈りの行方 27.一滴の慈悲 105  リューシャたち一行はラーラを連れて、とにかく街中に宿をとった。  ラーラもこの国ではそこそこ顔の知れた人物だが、例によってダーフィトが前に立ち堂々と宿泊申し込みをすれば、店主は圧倒されて部屋の...
Fastnacht

Fastnacht 26

第5章 祈りの行方 26.聖なる者 101  自ら投降したルゥは、兵士たちに連れられてある塔へやってきた。  街中の目立つ道は避け、人目を憚る罪人のように馬車で護送される。血と鉄の匂いをさせた兵士たちとの重苦しい沈黙の時間のせいで、気分が悪...
Fastnacht

Fastnacht 25

第5章 祈りの行方 25.動乱 097 「困りましたね」  疲れ切って座り込んだリューシャに飲み物を差し出しながら、セルマが眉尻を下げて口にした。 「ああ。ここまで順調だったのに、まさかここで引っかかるとはな」  リューシャも眉間に皺を寄せ...
Fastnacht

Fastnacht 24

第4章 波音の向こう 24.この世界に生まれ 093 「ちょっと! はぐれてしまったじゃないですか!」  ひとまず人の流れから離れた脇道。セルマが白蝋の襟首を掴んでがくがくと揺さぶる。  こっそりウルリークと目配せを交わし合っていた白蝋は、...
Fastnacht

Fastnacht 23

第4章 波音の向こう 23.微かなる波音 089  昼を過ぎてもリューシャはまだ微妙に落ち込んでいた。ウルリークがけらけらと笑い、ダーフィトが首を傾げつつも声をかける。 「で、今日はどうするんだ?」  昨夜から今朝にかけては白蝋の夜這い、紅...
Fastnacht

Fastnacht 22

第4章 波音の向こう 22.見知らぬ愛しき人 085  前触れのない高波はどう考えてもただの自然現象ではない。  大いなる海の力がリューシャと辰砂を包み込み、二人を海岸から沖合まで一瞬にして連れ去った。  水の中なのに息ができることに気づき...
Fastnacht

Fastnacht 21

第4章 波音の向こう 21.魂の向こう側 081 「正直言って、僕は紅焔や銀月程の忠誠心はないんですよ。あの二人みたいに絶体絶命のところを辰砂に救われたわけではありませんから。でもね、あの人がいなければ、紅焔は前みたいに笑えるようにならなか...
Fastnacht

Fastnacht 20

第4章 波音の向こう 20.混乱の塔 077  数冊の本を抱えたまま叫び声を上げたのは、先程リューシャたちを案内してくれたあの女性司書だ。  一番動きが早かったのはダーフィトだ。室内を見回し逃走者を発見するとすぐに追いかける。  リューシャ...