小説(BL)

Fastnacht

Fastnacht 19

第4章 波音の向こう 19.愚者の叡智 073  船は滑るように波の合間を進んでいく。航海は順調だった。 「平和だな。なんと見事な晴天か」 「嵐にも凪にも海賊にも遭わなかったしな」  客船の甲板に立ち、リューシャとダーフィトは近づく島影を見...
Fastnacht

Fastnacht 18

第3章 折れぬ翼 18.運命の交錯 069  宮殿内を隅から隅まで見て回った。普段は人がいないようなところまで。スワドがラウルフィカとレネシャにしか知らせていないような隠し部屋まで。  執務室にも立ち寄った。重要書類はすでに文官たちが持ち出...
Fastnacht

Fastnacht 17

第3章 折れぬ翼 17.破滅の記憶 065  何かが壁にぶつかる激しい音に、廊下を歩いている途中だったラウルフィカは慌てて駆け寄り部屋の扉を開いた。 「リューシャ!」 「陛下……」  呼びかけに反応したのは本人ではなく、同じく部屋の中にいた...
Fastnacht

Fastnacht 16

第3章 折れぬ翼 16.神への階梯 061  高級宿の一室に、その宿の雰囲気にそぐわないぴりぴりとした気配を持つ者たちが集まっていた。誰も彼も美形で立ち居振る舞い物腰も上品なのに、纏う空気ばかりが殺伐としている。 「これ以上は待てない」  ...
Fastnacht

Fastnacht 15

第3章 折れぬ翼 15.折れぬ矜持 057*  時間の感覚がない。食事は与えられるが不規則で、窓もない部屋の中では全てが曖昧だ。 「ん……ぐっ」  せめてこのまとわりつく不快感を何とかしたいと、呻きの一つも発してみようかと口を動かすのも無駄...
Fastnacht

Fastnacht 14

第3章 折れぬ翼 14.不屈の翼 053  突然目の前の人間が消えたことに驚き、ベラルーダの兵士たちは騒然とした。いまだリューシャの身を拘束したままのラウルフィカだけが、まだ冷静にリューシャに問いかける。 「あの女は誰だ」 「月の女神セーフ...
Fastnacht

Fastnacht 13

第3章 折れぬ翼 13.硝子の箱庭 049 「いつ頃からいない」 「夕刻のようです。見張りは宴が始まり城内が騒がしくなった辺りまでは記憶があるそうです」 「王都の封鎖は」 「すでに伝心の魔術で各部署に通達済です」 「あの二人は目立つからな。...
Fastnacht

Fastnacht 12

第2章 縁を結ぶ歌 12.螺旋の枷 045*  ぴちゃぴちゃと猫が水を舐めるような音が響く。ラウルフィカが軽く広げた足の間に入り込み、リューシャはその欲望に懸命に奉仕していた。 「……っ」  達する瞬間、ラウルフィカに軽く髪を掴まれる。汗の...
Fastnacht

Fastnacht 11

第2章 縁を結ぶ歌 11.遠い歌声 041  むかしむかし、一人の少年が海辺の村に流れ着きました  忌まわしい異形の子 呪われた魔術師  けれど村の人々は彼を受け入れて、魔術師の少年はそこで初めて幸せを知りました  その村は邪神を崇める背徳...
Fastnacht

Fastnacht 10

第2章 縁を結ぶ歌 10.黄金の檻 037  父親はいつも通りだった。自分もいつも通りだったが。  長い廊下を歩きながらスヴァルは考える。周囲に護衛の兵士はいるが、何の会話もない。重苦しい沈黙を携えて、葬列のように彼らは進む。  スヴァルに...