小説

短編

WALTZ―悪魔と踊れ―

WALTZ―悪魔と踊れ―1.ハッピーエンドの舞台裏 物語のお姫様はいつも心も姿も美しくいて、そして王子様は格好良く、正義と愛を貫かねばならないらしい。 昨今のシャロン王国で流行りの小説も、貧しいが美しい娘が王子と恋仲になり、もともと王子の婚...
短編

夢術師の子守唄

夢術師の子守唄1.出会いは悪夢にて 今日もまた疲労に追い立てられて滑り込んだ眠りの中で、彼は悪夢に追われていた。 足下には白と黒の正方形が交互に並び、無限に連なって長い長い廊下を形成している。チェス盤にも似た床と、美術館のような壁。曖昧模糊...
顔のない男

顔のない男 04

第4章 顔のない男 Ⅱ15.王弟と暗殺者「残念だよ、リューディガー。お前は私の最高のコレクションだったのに」 何が起こったのかわからない。 わからないのに、リューの体の傷口からは血が流れる。銃が手から落ちた。この時代の銃は暴発などしないが、...
顔のない男

顔のない男 03

第3章 妄執の檻11.王子と少年と仮面の男「夢……?」 ここ数日、計画が順調すぎるくらい順調に行っていたために、少し油断していたようだ。ファウストは起き上がり、目元をこする。「……ちっ」 ついついやってしまう仕草なのだが、当然のように触れた...
顔のない男

顔のない男 02

第2章 王子と少年6.王子と少年とレジスタンス「いいか。今夜俺たちはあの貴族の屋敷を襲撃する。Aグループは西の棟から入り込み中の警備を撹乱、Bグループは俺と一緒に東棟の金庫から金目のものを運び出す」「それって要するに泥棒……?」 深夜のアジ...
顔のない男

顔のない男 01

第1章 顔のない男 Ⅰ0.絵の中の女神 彼は目の前のキャンバスを眺めた。「完璧だ……」 恍惚として指を触れようとして、寸前で思い留まる。伸ばした指先を胸の位置まで戻し、間違って動かぬようにと、不必要なほどきつくもう片手で握りこんだ。 今しが...
風の青き放浪者

風の青き放浪者 04

第4章 王国に吹く風19.青の記憶 ゆらゆらと青い光が揺れている。 閉じているはずの瞼を透かして、青や銀や紫の光は揺れる。 やがてそれは像を結び、美しい竪琴の音色と共に彼に一人の女性の姿を届ける。ああこれは夢なのだ、と。ようやくアディスはわ...
風の青き放浪者

風の青き放浪者 03

第3章 語る者、語られぬ者13.揺らぐ世界 エクレシアでは、王子の代わりに〝放浪〟の呪いを引き受けたアディスが旅に出てから、数か月が経過していた。 我知らず溜息を零していたクレオの様子に、父王であるシグヌムが声をかける。「……また、アディス...
風の青き放浪者

風の青き放浪者 02

第2章 闇色の少年、墓守の魔女8.惜別の岸辺  白い部屋の向こうは黒い屋外だった。 木々も地面も、全てが黒い影で作られたような峡谷。巨大な黒曜石を縦に割ったような黒い岩壁がそびえ、遥か下方からは激流の音が響く。 頭上を見上げれば黒い天井なの...
風の青き放浪者

風の青き放浪者 01

prologue さよなら故郷「待ってくれ! アディス!」 背にかけられた声に、アディスと呼ばれた少年は振り返った。青から紫へと変わる淡い色合いの光を帯びた銀髪が、彼の動きに合わせて揺れる。 年の頃は十五か、六か。空の青と呼ばれる色の瞳を持...