顔のない男 顔のない男 02 第2章 王子と少年 6.王子と少年とレジスタンス 「いいか。今夜俺たちはあの貴族の屋敷を襲撃する。Aグループは西の棟から入り込み中の警備を撹乱、Bグループは俺と一緒に東棟の金庫から金目のものを運び出す」 「それって要するに泥棒……?」 深... 2024.08.17 顔のない男
顔のない男 顔のない男 01 第1章 顔のない男 Ⅰ 0.絵の中の女神 彼は目の前のキャンバスを眺めた。 「完璧だ……」 恍惚として指を触れようとして、寸前で思い留まる。伸ばした指先を胸の位置まで戻し、間違って動かぬようにと、不必要なほどきつくもう片手で握りこんだ。... 2024.08.17 顔のない男
風の青き放浪者 風の青き放浪者 04 第4章 王国に吹く風 19.青の記憶 ゆらゆらと青い光が揺れている。 閉じているはずの瞼を透かして、青や銀や紫の光は揺れる。 やがてそれは像を結び、美しい竪琴の音色と共に彼に一人の女性の姿を届ける。ああこれは夢なのだ、と。ようやくアデ... 2024.08.17 風の青き放浪者
風の青き放浪者 風の青き放浪者 03 第3章 語る者、語られぬ者 13.揺らぐ世界 エクレシアでは、王子の代わりに〝放浪〟の呪いを引き受けたアディスが旅に出てから、数か月が経過していた。 我知らず溜息を零していたクレオの様子に、父王であるシグヌムが声をかける。 「……また、... 2024.08.17 風の青き放浪者
風の青き放浪者 風の青き放浪者 02 第2章 闇色の少年、墓守の魔女 8.惜別の岸辺 白い部屋の向こうは黒い屋外だった。 木々も地面も、全てが黒い影で作られたような峡谷。巨大な黒曜石を縦に割ったような黒い岩壁がそびえ、遥か下方からは激流の音が響く。 頭上を見上げれば黒い天... 2024.08.17 風の青き放浪者
風の青き放浪者 風の青き放浪者 01 prologue さよなら故郷 「待ってくれ! アディス!」 背にかけられた声に、アディスと呼ばれた少年は振り返った。青から紫へと変わる淡い色合いの光を帯びた銀髪が、彼の動きに合わせて揺れる。 年の頃は十五か、六か。空の青と呼ばれる色の... 2024.08.17 風の青き放浪者
短編 花は根に鳥は故巣に 花は根に鳥は故巣に 1.桜魔ヶ刻 夕暮れの時間を、黄昏という。 すれ違う相手の顔もわからぬ「誰そ彼」が変化したもので、これに対し明け方は「彼は誰」時と呼ぶ。その一方、夕暮れはこうも呼ばれることがある。 逢魔が時。 赤い太陽が西の空に... 2024.08.17 短編
朱き桜の散り逝く刻 朱き桜の散り逝く刻 03 第3章 朱き桜の散り逝く刻 8.暴走 気持ちが酷く急く。朱莉は自らも両の足を動かして道を小走りに歩きながら、胸の内でいくつもの名前を呼んだ。 (上総、青葉、閏、千足、詠、七尾……) (私に、力を貸して。あの人たちを見つけて) 朱莉の願い... 2024.08.17 朱き桜の散り逝く刻
朱き桜の散り逝く刻 朱き桜の散り逝く刻 02 第2章 国王と亡霊 4.国王 嶺家の広い庭に白刃の煌めきが舞う。蝶々は愛用の薙刀を手に、武術の稽古に励んでいた。 常人の目には視えぬが、退魔師や霊能者と呼ばれる人種ならば気付くであろう、彼女の肉体を取り巻く、霊力と呼ばれる力に。蝶々はた... 2024.08.17 朱き桜の散り逝く刻
朱き桜の散り逝く刻 朱き桜の散り逝く刻 01 prologue 邂逅――黄昏の出会い―― 彼は追われていた。 森の奥のあちこちから、異形のものの視線が追ってくる。追手の数は六まで数えたが、その先は何匹いるのかもはや彼にはわからない。 影の中を泳ぐ銀の魚、一つ目の小さな猿、二股の尾... 2024.08.17 朱き桜の散り逝く刻