小説

Pinky Promise

Pinky Promise 010

第1章 月夜の時盗人2.チェシャ猫の道標 010 ――遠くで誰かが呼んでいる。『アリスト』 ああ、これは姉さんの声だ。この世界で自分が誰より何より一番愛している人の声だ。 白く濁る視界の中、自分は彼女を見上げている。 懐かしい。これはまだ、...
Pinky Promise

Pinky Promise 009

第1章 月夜の時盗人2.チェシャ猫の道標 009 学院の廊下を四人の男女が歩いている。皆、ここの制服を着た高等部の学生だ。「しかし、マギラスさ」「あのちびっ子にやけに絡んでたよな~」 フートとレントの二人が、後ろを歩くギネカを振り返りながら...
Pinky Promise

Pinky Promise 008

第1章 月夜の時盗人2.チェシャ猫の道標 008 アリストはヴァイスと並んで通いなれた校舎の中を歩く。よく知った環境のはずなのに自分自身の目線が低いせいで違和感を覚えながら。「フュンフ=ゲルトナーの説明はどうだった」「参考にはなったよ。まだ...
Pinky Promise

Pinky Promise 007

第1章 月夜の時盗人2.チェシャ猫の道標 007『――むかし、むかし 創造神がかつて名を持っていた頃、かの方はその強大な力を以て世界と数多の神々、数多の種族、そして人間を作り出した。 創造の母の子たる神々は長兄である太陽神フィドラン、長姉で...
Pinky Promise

Pinky Promise 006

第1章 月夜の時盗人1.白兎との邂逅 006 フローミア・フェーディアーダは円を描くように並んだ六つの大陸と六つの海、そしてその円の中に存在する一つの大陸とで構成されている。 時計の文字盤のようにちょうど等間隔で並んだ六つの大陸を十二時から...
Pinky Promise

Pinky Promise 005

第1章 月夜の時盗人1.白兎との邂逅 005「――で、こういうことに」「何やっとんだ、馬鹿者」 アリストが一通り事情を説明し終えると、ヴァイスはこれでもかと呆れた眼差しを向けた。「まったく、運が悪いというか、悪運が強いと言うべきか」「知らね...
Pinky Promise

Pinky Promise 004

第1章 月夜の時盗人1.白兎との邂逅 004 誰かの死を願ったわけじゃない。 ただ、取り戻したかっただけ。 失った過去を。戻らない時間を。この手のひらから零れていくすべてのものを。 けれどそのせいで、また誰かが何かを喪って行くと言うのなら―...
Pinky Promise

Pinky Promise 003

第1章 月夜の時盗人1.白兎との邂逅 003 ――午後十一時過ぎだ。 そんな時間にも関わらずインターフォンが鳴ったことに、部屋の住人ヴァイス=ルイツァーリは驚いた。彼にはこんな時間に余程の事情もなしに不躾に訪ねて来るような友人はいない。 い...
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Pinky Promise 002

第1章 月夜の時盗人1.白兎との邂逅 002 「ねぇ、出ておいでよ。迷子の迷子の仔猫ちゃん? それとも、白兎を追いかけてきたアリスちゃんと言うべきかな?」 ――兎。その人物を真正面から見た時、アリストは咄嗟にそう連想した。 遠い嶺に降り積も...
Pinky Promise

Pinky Promise 001

第1章 月夜の時盗人1.白兎との邂逅 001 夜の帳が降りた頃、人々は夢の時間からようやく目を醒ます。 目の前をふわふわと行き過ぎるしゃぼん玉がぱちんと割れたように、現実へと帰って行った。 誰もが自然と手を打ち鳴らして万雷の拍手を舞台へと送...