小説

風の青き放浪者

風の青き放浪者 02

第2章 闇色の少年、墓守の魔女8.惜別の岸辺  白い部屋の向こうは黒い屋外だった。 木々も地面も、全てが黒い影で作られたような峡谷。巨大な黒曜石を縦に割ったような黒い岩壁がそびえ、遥か下方からは激流の音が響く。 頭上を見上げれば黒い天井なの...
風の青き放浪者

風の青き放浪者 01

prologue さよなら故郷「待ってくれ! アディス!」 背にかけられた声に、アディスと呼ばれた少年は振り返った。青から紫へと変わる淡い色合いの光を帯びた銀髪が、彼の動きに合わせて揺れる。 年の頃は十五か、六か。空の青と呼ばれる色の瞳を持...
短編

花は根に鳥は故巣に

花は根に鳥は故巣に1.桜魔ヶ刻 夕暮れの時間を、黄昏という。 すれ違う相手の顔もわからぬ「誰そ彼」が変化したもので、これに対し明け方は「彼は誰」時と呼ぶ。その一方、夕暮れはこうも呼ばれることがある。 逢魔が時。 赤い太陽が西の空に沈みかかり...
朱き桜の散り逝く刻

朱き桜の散り逝く刻 03

第3章 朱き桜の散り逝く刻8.暴走 気持ちが酷く急く。朱莉は自らも両の足を動かして道を小走りに歩きながら、胸の内でいくつもの名前を呼んだ。(上総、青葉、閏、千足、詠、七尾……)(私に、力を貸して。あの人たちを見つけて) 朱莉の願いに応じ、彼...
朱き桜の散り逝く刻

朱き桜の散り逝く刻 02

第2章 国王と亡霊4.国王 嶺家の広い庭に白刃の煌めきが舞う。蝶々は愛用の薙刀を手に、武術の稽古に励んでいた。 常人の目には視えぬが、退魔師や霊能者と呼ばれる人種ならば気付くであろう、彼女の肉体を取り巻く、霊力と呼ばれる力に。蝶々はただ薙刀...
朱き桜の散り逝く刻

朱き桜の散り逝く刻 01

prologue邂逅――黄昏の出会い―― 彼は追われていた。 森の奥のあちこちから、異形のものの視線が追ってくる。追手の数は六まで数えたが、その先は何匹いるのかもはや彼にはわからない。 影の中を泳ぐ銀の魚、一つ目の小さな猿、二股の尾を持つ黒...
短編

Calamity Children

【1】 Calamity Children夜語り 01.  闇は深く舞い降りて、木々の狭間で静謐と変わっていた。空と地を分ける境界線も、夜と言うこの時間の間はその身を休めている。世界は天も地もなく、等しく黒に塗りつぶされていた。今宵は朔月。...
花は毒姫

花は毒姫 04

第4章 一度だけの聖女10.始める者と終わらせる者 あなたが愛してくれたから、愛するということも理解できた。 ◆◆◆◆◆ シャウラとタラゼドは睨み合う。 二人の間にはこれまで常にシャウラの想い人であり、タラゼドの主人であるレグルスの存在があ...
花は毒姫

花は毒姫 03

第3章 毒の花、鋼の竜7.咲き誇る仇花の行方 ――でも、そうやって世界を恨むのはやめることにしました。 ◆◆◆◆◆ 今日は《毒薬屋》の定休日だ。その時間を使い、シャウラはいつものように薬を作る。 慣れた作業手順に複雑な思考はいらない。扱うも...
花は毒姫

花は毒姫 02

第2章 類は友を呼びすぎる4.温室に眠る処刑人 自分が幸福になれないのだから、他の誰も彼もが不幸になればいいと思っていました。 ◆◆◆◆◆ その後もゼノは二日ほどかけて何人かの貴族に面会し、シャウラの情報を求めたが全ては空振りに終わった。 ...