Fastnacht 05

019*

「じゃ、さっそく味見させてくださいね」
 にんまりと猫のように笑ったウルリークがリューシャを押し倒す。
「な! いきなりか!」
「当然ですよ。ここを出て旅路に着いたらゆっくり二人きりになれる場所なんてそうそうないでしょう?」
 とは言いつつ街の宿屋などで隙を見計らってはリューシャに手出しする気満々のウルリークが、これぞ悪魔といった笑顔でリューシャに迫る。
 外套を脱がせ、引きずりおろした下衣の中を見て、笑いを堪える。
「ああ、さっきのキスですか? 気持ち良かったですもんねぇ。こんなに敏感なのに、契約が成立するまでずっと我慢してたんですか」
 すでに芯を持ち始めたリューシャのものを、白い指で突く。リューシャは顔を真っ赤にしていた。
「……うるさい! さっさと始めろ!」
「もう、そんなに俺が欲しいなんてせっかちさん」
「馬鹿言うな! さっさと始めてさっさと終われ!」
「じゃあ魔界基準の“さっさと”で。俺たち人間の何倍もの寿命がありますけど」
「ふざけるな」
「じゃ、このまま突っ込みますね」
「お前は我を殺す気か?!」
 防音の結界を張っていなかったら間違いなくセルマとダーフィトが鬼気迫る表情で飛び込んでくるだろうという会話を繰り広げ、リューシャはそれでもなんやかやとウルリークに組み敷かれてしまう。
 むさ苦しい屈強な男たちならともかく、こんな女顔の美少年にまでいいようにあしらわれてしまう自分が悲しい。いや、別に屈強な男共に抱かれたいわけではないが、自分より華奢な相手に力で負けるのが悔しいのだ。
 強くなるように育てられはしなかったが、本当は強くなりたかった。リューシャがもっと強ければ他人の手など借りずに生きていけるのに思わずにはいられない。
 実際のところ、個人でどれだけ強い力を持とうと一人で生きていける人間などいないと悟りきるには、リューシャはまだ幼すぎた。表面上の思考回路は大人びたことも考えられるが、その奥の情緒面では小さな子どものよう。
「お前なんて呼び方可愛くないです。俺のことは、リークって呼んでください」
「どけ、リーク」
「嫌です」
 愛称を呼ばれたことににっこりとしながらもにべもなく言い放ち、ウルリークはリューシャと再び唇を交わした。顎を掴まれた瞬間、リューシャは思わずきゅっと目を瞑る。
「んっ」
 今度は適度な長さで終わったそれに、リューシャは密かに安堵した。淫魔の術にかけられていた間は、欲望がまるで制御できなくて酷く怖かった。あの術を再びかけられるくらいなら、このまま、意識があるまま弄ばれる方がマシだ。
 ウルリークはリューシャの足の間に顎を落とすと、先程中途半端なところで止められたために欲求不満なそれを口に含む。生温かい口内に先端を迎え入れられ、舌が丁寧に筋を舐める感触にリューシャはぞくりと背中を震わせた。
「……ん……」
 呪われた王子と憎まれ蔑まれ犯された経験はあるが、こんな風に奉仕めいたことをされた経験はない。大概の相手はリューシャの身体中をまるで玩具のように扱ったし、一際敏感なその個所は大抵酷い責苦を与えられた。
 漏れ出る声を抑えようと、自らの指を軽く咥える。ウルリークはそんなリューシャの姿を上目遣いで眺め、更に舌に入れる力を強くした。
 魔族だから、淫魔とはそういう種族だからとわかってはいる。だがウルリークはお世辞抜きで本当に綺麗なのだ。サラサラの髪。細い指。動くとふわりと、何か甘い花の香りがする。視線が、唇が、表情が、仕草が、全てが男を誘う魔性。
 その相手が髪をかきあげながら自らのものに吸い付くその光景自体にリューシャが興奮したとして、誰がそれを咎めようか。
「……うっ」
 小さく呻いてリューシャの吐きだしたものを、ウルリークは何の躊躇もなく飲み込んだ。溢れて口の端を伝った滴を指にとると、今度はリューシャの後ろにその指を滑り込ませる。
「あっ……」
 つぷん、と滑り込んだ指の感触に、リューシャが短く声を上げる。熱を帯びて潤んできた青い瞳を微笑んで覗き込み、ウルリークは片手をリューシャの手のひらと繋ぎ合わせる。
 自らもそこを使うことの多い淫魔の少年は、並の男以上にその身体が感じる場所をよく知っていた。あまりにも的確すぎる刺激に、リューシャは指で中をかき回されているだけだというのに達してしまいそうになる。
 必死で声を殺している少年が可愛らしく、ウルリークは何度もその耳元で囁いた。防音結界は張ってあるから、声を出していいですよ、と。しかしリューシャは喘ぎ声を身体を重ねる相手にすらろくに聞かせる気がないらしく、顔を背けて唇を噛みしめている。
「そういうことすると、ちゃんと気持ちよくなれないんですよー」
「あ……お、お前が勝手にしろ。我は、そんなの欲しく……あぁッ!」
 素直にならないリューシャを鳴かせるために、ウルリークは先走りを零す彼のものの先端をぐりぐりと親指で刺激した。リューシャの嬌声は悲鳴じみていて、どうにも嗜虐心を刺激する。さて、これからじっくりどう調教していくか。
 薄く汗を浮かべてのけ反る白い背に、ウルリークはようやく一時的な満足を覚える。だがもっと楽しいのはこれからだ。
「そんな唇を噛みしめていたら、身体の力が抜けないでしょう。ほうら」
 抱き寄せて無理矢理唇で唇を塞ぎ、リューシャの身体の力が抜けた隙にウルリークは一気にその中に押し入る。充分に解された場所とはいえ、ぬめりを借りて勢いよく腹の中を埋め尽くした質量に、リューシャは唇を塞がれたまま悲鳴を上げる。
「ん、んんっ。ん――ッ!!」
「……ぷはっ。あ、いけない。俺が口塞いでたらどうせ声は聞けませんでしたね」
 あっさりと言い放ちながらも、ウルリークの腰はしっかり動き、リューシャの中を貪欲に堪能している。
「あ……つ……」
「気持ちいいでしょう? 俺も気持ちいいですよ。あなたの中。熱くてきつくて最高ですね。男に抱かれるのは初めてじゃないでしょうに、これだけきついと毎度大変そうですね。いや、それともその方が良いのかな……?」
 ウルリークのものはあつらえたようにちょうどいい大きさで、リューシャの直腸を埋め尽くす。身じろぎする微かな振動でさえ敏感になった身体中に響き、リューシャは息も絶え絶えに喘いだ。
 心地良くも残酷な音楽となるその嬌声を楽しむため、ウルリークはますます腰遣いを激しくした。
「ねぇ、知ってますぅ? リューシャ王子。淫魔って、これの大きさいくらでも変えられるんです。もう一回り二回り大きくしたりとか、変幻自在で」
 随分余裕があるのか、淫魔はリューシャを突き上げながらも無駄話に余念がない。奥まった場所にある突起を逃さず、執拗に責めたてながらまた舌なめずりをする。
 休む暇もなく与えられる快感にリューシャはつぶらな瞳に涙を滲ませながらびくびくと胸を震わせた。可愛いその泣き顔見て、ウルリークは更にリューシャの耳を歯と舌で柔らかく嬲った。相手が自分に犯されていることを感じるように強く。
 怯える小動物のようなリューシャの今の表情は、相手がこれほど綺麗な少年でなければこの行為があくまでも合意の上だとはとても思えなかっただろう。第三者が見れば可憐な姫君が悪い相手に蹂躙されているようにしか見えない。
「あ……はぁ……」
 ウルリークの悪夢のような言葉だけが原因というわけでもなかろうが、リューシャは気が遠くなるのを感じた。良いところばかり突く腰の動きに揺さぶられて、ただでさえ疲れ切った身体は初めてと言っていい絶大な快感と共にそろそろ体力の限界を訴えている。
「いろんな大きさを試しましょうね。先はまだまだ長いんですもん。俺も前だけじゃなく後ろであなたのこれを堪能したいですし」
 淫魔の心底楽しそうな台詞を聞きながら、リューシャは遠ざかる意識を素直に手放した。