第4章 あなたは祈りの姿をしている
073.女性お断り
月明りも届かぬ暗い夜更け。ゆるりと静かに河を流れてくるもの。
水に半分浮いた籠の中に、一人の赤子が収められている。
その息はすでにない。
親はこの子を育てられなかったのか、それとも初めから産声を上げることの叶わなかった児であったのか。
そんな赤子の死体に向けて、姿さえ見えぬ何者かがそっと語り掛けた。
『……人の子よ』
人ならざるものが、人であった赤子に語り掛ける。
肉体が死んでもまだ、そこにいるはずの魂に。
『あなたの命はすでに尽きた。しかし、あなたの肉体に私が入れば、私は私を通してあなたにこの世界を見せることができる』
人ならざるものの言葉は、肉体の年齢や脳の発達に伴った理解力という問題を超えて、魂に直接内容を伝える。
『けれど、そうなった暁には、もはやそれは私であってあなたではない』
取引を持ちかける声には、感情らしい感情の熱は何も宿らない。
これは慈悲でも救済でもない。けれど悪意でも懲罰でもない。
お互いに有益であれば締結するが、そうでなければそれで構わないと言った温度のない声。
『問おう。……あなたは、何を選ぶ?』
そして、息を吹き返した赤子は大河を流れるうちに、近隣のフェニカ教会の司祭へと拾われる。
彼は己が知るさまざまな良い言葉の中から一つを選び、そのままの意味を赤子に与えた。
タルティーブ――「秩序」という意味を持つ名を。
月日は流れ、河から拾われた孤児はフェニカ教会内で特別な地位を得た。
人々を襲う獰猛な竜を退治し、その武功によって昇進したのだ。
その直前に受けた別の試験で落ちているのに、戦闘能力で武功を挙げる。
色々と言いたいことのある者たちもいただろうが、最終的に全てを実力でねじ伏せていった。
「おめでとう、タルティーブ」
「いいえ。当然のことです」
「それは当然のことをしたまで、という意味かね? それとも自分ならこのぐらいの地位を得ることは当然だと?」
「両方です」
「まったく君は……」
育ての親である司祭は苦笑する。
「だが、君の優秀さは全てにおいて通用するわけではない。私は時々心配になるよ」
「私の能力が通じないのであれば、それはもともと私が必要ではないということ。ならばどうでもいいでしょう。私が他にやらなければならぬことを探しに行くまでです」
「昔から不思議だった。タルティーブ。君は、一体何に追われているのだね。やるべきこと、しなければならないこと、そのような義務感をまとわせた物事の話ばかりで、君自身が本当に何をやりたいのか、育ての親である私にもわからない」
「それは……」
タルティーブ……普段は略称のタルテと呼ばれることの多い一聖職者は少しばかり返答に詰まった。
「私にも、理由はわかりません。ただ常に、私の中の誰かが言うのです。役目を果たせ、と」
それを聞き育ての親である司祭は、ますます感慨深い様子となった。
聖職者として幾人もの孤児を教会で引き取り育ててきた彼の目には、タルテという子どもの特異性ももちろん見えている。
そしてタルテの才能が世に有益なものであり、異端を咎めてこの才能を潰しても誰も幸せにならないだろうことまでわかっていた。
何よりタルテ自身が、周囲の困惑などものともせず、ただ己の力を最大限に発揮できる状況へと、出世欲とはまた別の何か急き立てられるような熱意によって、自ら突き進むことを選び続けている。
「運命というものがあるとしたら、人は誰しも、生きる中で己の役割を見つけていくことだと私は思っている。だが君は少し違うのかもしれない。それを天に選ばれしものと言うべきかどうか私は知らないが……」
教会ではタルテを拾った直後から様々な不思議な出来事に出くわしている。今のところそれで周囲が不利益を被ったことはないが、タルテが最初から何か特別なものを持っているのではないかという疑念は多くのものが抱いていた。
それこそが人が世に言う「運命」の正体であるかもしれないと。
それでも司祭は、ただ己の育てた子どもの幸福を願う。
「祈ろう、君の道行に、幸あらんことを」
◆◆◆◆◆
夜の河辺に、竪琴の音が響く。
今日は普段のように依頼されて酒場や貴族の屋敷で演奏するのとは違う、ただ一人のためだけの演奏会だ。
青の大陸北部の夏でもなお冷たい河辺に、この地方では珍しい蛍のような光が飛び交っている。
違う、あれは蛍ではない。
黄金に縁どられた黒い輝きは、いつか空の上で弾けた魂の欠片たち。
その中の一際大きな輝きは、吟遊詩人の足元で蛇のようにとぐろを巻いてその歌声に聞き入っている。
「背徳神様は、本当にラルム様の竪琴がお好きですね」
岩に腰かけ、演奏のおこぼれにあずかっていたリーゼルが溜息を吐く。
「光栄だね」
一曲奏で終えたラルムは、傍に寄ってきた淡い光を抱きしめるような仕草で迎えた。
「こうしていると、“黒い星”と言われる魂の欠片もただ綺麗なだけの光にしか見えないのに……それでも勇者たちは背徳神様を退治したいのでしょうか」
「“黒い星”もただ無害なだけではないからね。魔獣の脅威に晒された人々としては、やはりこの世から消えてほしいんだろう。魔獣も、魔王も、背徳の神様も」
「贖罪の勇者など、本当に現れるのですか?」
「さぁ、どうだろう。秩序神に世界を救う気があるのならば、もっと早く動いても良かったと思うけど」
この世界における魔王の発生には、背徳神グラスヴェリアの他に秩序神ナーファの存在が深く関わっている。
彼女は全ての責任を取る形で再び地上に降りてくると伝えられているらしいが、黒と白の神話から千年経った今でもその存在が確認されたことはない。
もともと秩序神は人間に厳しい神様だ。
彼女は人類を救う気などないのかもしれない。
おかげで星狩人協会などは話の始まりである千年前から、人間の力だけで全ての魔王を討伐するために努力し続けている。
「秩序神に人類を救う気がないのならば、人類としても秩序神を希求することはない。けれど……」
ラルムは自分の竪琴の音に聞き入る、竜形の背徳神の欠片を目にとめながら囁く。
「背徳神様にとっては、かつて道を別った秩序神様の存在はどんな意味をもっているのだろうね」
◆◆◆◆◆
第4章 あなたは祈りの姿をしている
◆◆◆◆◆
青の大陸、とある国のとある街。
レイルは星狩人協会の支部の食堂で、座れる席を探していた。
「すまない、ここは空いているだろうか?」
「どうぞ。僕は連れを待っているだけですから」
「俺も同じだ。少しだけ別行動になって」
長い銀髪を頭の後ろで一括りにした、二十歳前後の緑の瞳の青年は、目の前の席を気前よく示す。
レイルは礼を言ってそこへ着席した。
世界各地に存在する星狩人協会だが、青の大陸には少ない。
この大陸で依頼を受けようという星狩人は、数少ない星狩人協会の支部に集まりがちだった。
「僕はウィラーダです」
「レイル・アバードと言う。よろしく頼む」
「僕は普段から青の大陸を中心に活動していますが、これまでにお会いしたことはありませんよね?」
「ああ。俺はそもそも、星狩人になってまだ半年も経っていないので」
「新人さんでしたか。よりによって今年星狩人になるとは度胸がありますね」
「よく言われる」
今年は天上の巫女たるセルセラが、全ての魔王を倒すという宣言をした年だ。
星狩人になればろくな実力もないまま、魔王との決戦に参加させられる可能性がある。
従って今年は特に受験者の人数自体が少なかったはず。
ウィラーダの不思議そうな顔に、レイルは苦笑して見せた。
二人がしばらく話していると、ウィラーダは知人を見つけて新たに席に呼び寄せる。
「おや、グレンツェント」
「ウィラーダか、邪魔するぞ」
ウィラーダに気づいたグレンツェントは、その隣の空席に座った。
丁寧に撫で付けた黒髪に紅い瞳。纏う衣装はどこか軍人めいた、堅苦しい雰囲気の青年だ。年齢は二十代の半ばくらい。
「そちらは?」
「レイル・アバード。今年、星狩人となった新人だ。よろしく頼む」
「ほう……」
グレンツェントもまた、この支部で初めて見る顔に興味を向ける。
「新人とは言うが、なかなか場慣れしていそうだな」
「グレンツェント、初対面の方相手に」
「かまわない。武人の性だろう」
武人同士なら、対面した相手の力量をつい測ってしまうのは癖のようなものだ。レイルもそう考えているので、別段構うようなことではない。
「先程連れがいると仰ってましたよね。どんな方々ですか?」
「若い女の子が二人と、聖職者が一人だ。……あなた方は?」
ウィラーダからの問いにレイルは答え、逆にウィラーダとグレンツェントの仲間事情も尋ねていく。
「僕は弟と、その友人と旅しています。このグレンツェントはずっと一人旅らしいですよ」
「お二人は友人同士だろうか?」
「友人と言うより、好敵手(ライバル)だな。俺の相手になるような星狩人はこのウィラーダだけだ」
「そんなことありませんよ。俺よりも、あなたよりも強い星狩人はいくらだっているじゃないですか。セルセラ様だってアンデシン様だって」
「あのお二人はそもそも別格だろう。ただの腕前の話だけでなく、魔王討伐や人命救助の功績が違い過ぎて我々と比べるのもおこがましい」
旅仲間であることは否定した青年二人だが、やりとりを聞いているとその関係自体はどうやら気安い友人同士のようだった。口振りから言って、星狩人協会内でもかなりの腕前だろう。
「そういえばウィラーダ、弟たちはどうした?」
「それが……」
グレンツェントの当然の問いに、ウィラーダは一瞬顔を曇らせる。
彼が事情を説明しようとしたところで、協会の入り口がバンッと乱暴に開けられた。
「おいこらイケメンっ!! 出番だ!!」
突然のセルセラの登場に、レイル、ウィラーダ、グレンツェントは思わず揃って反応する。
「ああ」
「はい!」
「なんだ!?」
「ん?」
セルセラは自分で呼んでおいて、目をぱちくりと瞬かせる。
「……ああ、すまん。レイルを呼んだつもりだったんだが、まさかウィラーダとグレンツェントまで居るとは思ってなかったんだよ。本当に顔の良い男が揃ってやがるじゃねーか」
「あ、本当だ。みんな格好いいー!」
「というか、何も『イケメン』を呼ぶ必要はなかったですよね……。我々に必要な人材は単に『男性』でしょう。あの遺跡を攻略できる」
セルセラに続いて、ファラーシャとタルテも支部内に入ってきた。
人数が増えて席が足りないと、隣の二人掛けのテーブルを動かしてレイルたちが座っている四人掛けの席とくっつける。
「三人とも、遺跡の攻略はどうしたんだ? その調子だと順調に終わったわけではなさそうだが」
目を白黒させるウィラーダたちには悪いと思いつつも、レイルはセルセラの先程の発言が気になってまず状況を尋ねた。
「それが開口一番お前を呼んだ理由だよ」
「遺跡が『女性お断り』だったから、私たち全員弾き飛ばされちゃって、そもそも中に入れなかったんだよ――!」
ファラーシャが適当な飲み物を注文しながら端的に事態を説明する。
「女性お断り……タルテは?」
恐る恐るといった調子でレイルが尋ねるのに、タルテはしれっと答える。
「私は女性として判定されたようですね。少なくとも肉体は男性なのですが」
「あのー、前から聞きたかったんだけど、タルテって男なの? 女なの?」
ものはついでとファラーシャも直球で質問する。
実はここまで数ヶ月共に旅をしながらも、セルセラたち三人は一度もタルテ本人の口からその性別について言及するのを聞いたことがなかった。
お互いに衣服の上からでも骨格や筋肉の動きを読む技術が高いので肉体的には男性だと読み取っているのだが、性格がどうにも男性らしくない。
かといって女性らしいかと言われるとそれも微妙だと首を傾げてしまう有様で、聞かずとも別に困るような状況にも陥らなかったので、今までこの辺りに突っ込もうにも突っ込めなかったのだ。
「心は女とかそういうやつ?」
「心が女と言うより、この肉体の中に入っている魂が女、の方が正しいかと」
「……ごめん、本当に今更なんだけど、タルテって人間だよね?」
「肉体的には人間のはずですが、普通と言われると語弊があるかと。レイルのように不老不死とはいきませんが、それに近い異端の何かでしょう」
「お前自身も自分の具体的な正体はわからない感じか。それで平然としているのがある意味お前らしいが」
これを機にずっと確かめようにも躊躇われていた疑問の一つが解消されたところで、セルセラたち三人はまず喉を潤す。
女性陣三人が人心地ついたのを見計らって、ウィラーダが尋ねた。
「すみません、なんだかややこしい話をしているところに割り込んでも良いでしょうか? セルセラ様」
「おう、こっちこそすまないな。突然やってきて。何が聞きたい? ウィラーダ、グレンツェント」
今でこそレイル、ファラーシャ、タルテと旅をしているセルセラだが、星狩人協会の幹部の一人として全星狩人との面識があるので、付き合い自体はウィラーダやグレンツェントの方が余程長い。
「セルセラ様たちとレイルさんはお知り合いなのですか? 先程レイルさんが言っていた連れが、まさかセルセラ様たちのことなのでしょうか」
「ああ、まずそこからだよな」
セルセラは今年に入ってから、星狩人の資格認定試験と辰骸環(アスラハ)取得試験で出会ったレイル、ファラーシャ、タルテの三人と旅をしていることをウィラーダとグレンツェントに簡単に説明した。
「全員実力は確かだ。基本的にはこの四人でこれまで三体の魔王を討伐した」
「……つまり、彼らはあなたが世話をしている新人ではなく、あなたと同格の実力者だと」
「そう受け取ってもらって構わない。……そうだな、ウィラーダ、グレンツェント。この三人が星狩人の実力順に上から割り込んだことで、お前たちも影響を受けたはずだ。何か言いたいことがあるなら僕がこの場で聞くぜ」
ウィラーダとグレンツェントは目配せを交わし合う。
「いえ、正直な話、順位が下がったことは確かに悔しいのですが、それが協会の判断であるならば私は支持します。他でもないあなた様が、実力以外の忖度要素でこの時期にその数値を弄るのを許すような質ではないでしょう」
グレンツェントの言葉に、ウィラーダも頷く。
「僕も同意見です。セルセラ様が彼らと共に三体の魔王を倒したと言うならば、その実力は確かなのでしょう。個人的にはいずれ是非お手合わせ願いたいところですが」
「……ずるいぞ、ウィラーダ。そういうことならば、私も一戦手合わせ願おう」
ウィラーダたちは星狩人協会としても、若手の有望株として期待されている。
それはただ剣術や腕っぷしの強さというだけではなく、こうして協会の判断や規範を重視し、なお向上心を持って戦っていく精神性含めてのものである。
「お前たちの物分かりが良くて助かるよ。この件に関してはそれなりに反発があるともちろん僕たち上層部も予想はしているが、それを差し引いてもレイルに“シリウス”の称号を与えるメリットを選んだ。こいつの実力は僕が保証する」
セルセラは離れた席にいるレイルの方を、行儀悪く顎でくいと指し示しながら言う。
「こちらの二人は?」
「ファラーシャです。特殊民族“光翅の民(ハシャラート)”です」
「私はタルティーブ。我々二人ももちろん、レイルに負けず劣らずの実力ですよ」
「それは頼もしい」
一通り自己紹介が終わったところで、セルセラは男ばかり三人が固まった席の一角を眺める。
「しかし面白い組み合わせだな。今の星狩人協会、顔の良い男子筆頭兼、実力者筆頭が揃ってやがる」
「二人とも見た瞬間格好いいーってなったけど、セルセラがそう言うってことは星狩人としての腕も凄いんだね」
「純粋な剣技で比べるならレイル、ウィラーダ、グレンツェントで今は三強だと思うぞ。剣の腕も、顔の良さもな。ただし、あくまで剣の腕だけ比べた話で、星狩人としての総合力で判断するとアンデシンが男性トップに来るというのが大半の総意だ。あいつは色々と器用だからな」
セルセラの説明に、ファラーシャが目を輝かせた。
「へー! 何それ面白ーい!」
「腕前はともかく、何故顔の良さまでランキングされているんです? 何が基準なんです?」
一方タルテは、わざわざ顔の良さの序列など決めて何の意味があるのかと疑問を覚える。
「僕ら星狩人の体内には、“庚申の虫”という魔道具が入ってるだろ? あれが集めた身体データの分析結果の一つ。別に顔の良さを決めることが主目的じゃなくて副産物
「一番最初に無理矢理飲まされたあれですか……」
「いやなこと思い出させないで……」
カナブンより大きいサイズの虫を模した魔道具を丸呑みさせられたことを思い返し、場の全員が微妙な表情になる。
「タルテは分析側が『わけわかんない枠』に分類したことで例外扱いだぞ」
情報収集とその分析に余念のないセルセラは、こういう時は聞きたくもない情報まで教えてくれるのが常だ。タルテは呆れながら言った。
「別にノミネートせんでよろしい」
ただし、決してタルテ自身の顔立ちは悪くない。
むしろ絶世の美貌としか言いようがないが、あまりにも中性的で女性とも男性ともつかない容姿をしている。この場合どちらにカウントしても面倒なことになること請け合いだ。
本人も先程自分のことを「男性の肉体に入っている魂」と説明した通り、タルテには謎が多いのだ。
ちなみにそのランキング上だと人間の女性で一番美しいのはセルセラだが、女性に関してはファラーシャのような特殊民族やそれ以外にも人外だが明らかに美しい存在がかなりいるので、あまり面白味はないらしい。
「実力順ならともかく美貌順なんてどうでもいいものまで集計しているとは、暇なのですか星狩人協会」
「それがそうとも限らないんだよな。五の魔王リヒルディスは『最も美しい魔王』『世界最高の美女』って呼ばれてる存在で、その美貌に引き付けられた四の魔王アサードは常にリヒルディスに協力しているって話だ。相手が美女だってことをきちんと周知した上で対策を練らないと、男所帯の部隊を差し向けた際に全滅する恐れがあるからな……」
「敵が美女ならそれが魔王でも全滅するの……?」
ファラーシャとタルテがげんなりした顔になる。
レイルたち男三人は普段それなりに上品な物腰をしているが、この話題だけはどうにも反論できずに複雑な顔をしていた。
「ま、本当のとこはどうだろうな。それでも、今回みたいに『女性お断り』を掲げられた遺跡なんかが存在するなら、戦力を男だけ、女だけで偏らせるのはやはり危険かもしれない」
「あ、そうだその話だよ。私たち遺跡を攻略できなかったんだよね。だからレイルを呼びに来たの」
「レイルの実力なら一人で放り込んでも大丈夫でしょうが、上手くいけばその時点で条件が変化して私たちも入れるようになるかもしれませんしね」
ファラーシャとタルテが遺跡攻略に話を戻すと、再びウィラーダがおずおずと尋ねてくる。
その顔には僅かな焦りが見て取れた。
「あの……セルセラ様たちが挑んだ遺跡というのは、ここから村二つほど西側の山にあるという遺跡ですか?」
「ああ、そうだ。どうしたウィラーダ。そういえば今回はジーヴァとシオンがいないなとは思ってたんだが……」
「実は二人は、一昨日その遺跡を攻略しに行って帰って来ないんです。今日までに帰ってこなかったら遅すぎるので探しに行こうと思っていたところなんです」
「そういうことだったのか」
同じことが気になっていたのだろうグレンツェントも納得する。
「……なるほどな。僕らは女だけで入れないと判断したが、ジーヴァたちはむしろ違和感なしに入れちまって自力で脱出できなくなってる可能性があるな。あんな条件を堂々と掲げている以上、あの遺跡は何かの理由で男を集めているのかもしれない」
「厚かましいお願いになりますが、セルセラ様たちがレイルさんと共に再び遺跡の攻略を目指すなら、僕も連れて行ってもらえないでしょうか」
「願ったりだ。こっちもレイルの戦闘面は信頼しているが、罠や事故を一人で乗り切ることに関してはまったく信用してないからな」
「う……」
ウィラーダからの頼み事に、セルセラは一も二も相談もなく頷いた。
どの道セルセラたちもレイルだけを単独行動させるのに微妙な不安があったのだ。ウィラーダが付いて行ってくれるのならば願ったりである。
「レイルって女の子斬れないから、中の敵が女子供の姿してただけでアウトになりそうだよね」
「ありえそうですね。わざわざ男だけを集めている遺跡ということは、敵は男性にとって不利な形状をしている可能性があります」
「……というわけで、レイルにウィラーダが同行してくれるなら、僕らとしてもむしろありがたい。グレンツェント、お前はどうする?」
どうせなら更に同行者を増やそうと、セルセラは同じく席に着いているグレンツェントにも声をかける。どうでもいいが先程からレイル本人の意志は一切確認していない。
「私も加えてもらいたい。ここで我が宿敵殿に会ったのも何かの縁。弟たちの救助には力を貸してやる。それに我らを抑えて星狩人の頂点たる“シリウス”の称号を得た剣士殿の実力を知るにもいい機会だ」
「そう来なくっちゃな」
こうして、いつもの四人に星狩人(イケメン)二人を加えた天上の巫女一行は、再び遺跡に向けて出発した。