愛玩

02

 今朝までは自分のものだった部屋で、アイオンはルーファスに撫でまわされていた。
「あ……や……」
 ルーファスの手が、胸元を肌蹴た少年の白い胸を探る。男の手に肌を撫でられて、アイオンは湧き上がる恐怖と未知の感覚に背筋を凍らせた。
 あの後、サヴァンの手によってアイオンは上から下まで隅々洗われた。いつも通りの服を着せられ、髪も整えられる。そして連れられたのが、ルーファスが待つ自身の部屋だった。アイオンの寝台の上で、ルーファスは上物のワインを開けて彼以上に寛いでいた。
 この状況について問い質す暇も、話しあう間もなくアイオンはルーファスの手により寝台の上に押し倒された。半ズボンから覗く膝頭から太腿までを、男の手が形を確かめるようにじっくりと触れていった。
 アイオンはその手の動きに嫌なものを感じたが、具体的にそれが何なのかわかってはいなかった。ただ漠然とした恐怖感が少年を支配する。
「ルーファス、その」
 目前の男の名を呼んだ途端、頬でパシンと乾いた音が鳴った。一瞬で横に流れた視線を意識する間もなく、じんじんと頬が痛みだす。
「ルーファス様、もしくはご主人様と呼ぶように」
「ご、ご主人様」
「結構」
 くっと皮肉な笑みを口元に浮かべ、ルーファスは再び少年の身体を弄り始めた。執事の着替えさせた上着を脱がせ、リボンを解いて、シャツの胸元を肌蹴させ手を触れる。現れた細い首筋に、男は獲物の喉首を食いちぎる肉食動物の獰猛さで吸いついた。
「あ、痛っ……ルーファ、ス、様」
 他人の舌が首を這う未知の感覚に、少年はぞくりと背筋を震わせる。咄嗟に呼びかけた名前に、なんとか「様」をつけたおかげで今度は叩かれずにすんだ。
 ルーファスの手がアイオンのズボンの留め金を外し、下着ごと引きずりおろす。局部を外気と男の目に晒されて、少年は瞬間的に真っ赤になった。
「ふうん」
 ルーファスはアイオンの体を、舐めるように見つめる。恥ずかしさにアイオンが顔を背けた次の瞬間、後孔に異物感が生じた。慌ててアイオンは正面のルーファスに視線を戻す。
「ひっ、なん……! や、やめ」
 ルーファスの長い指が不浄の場所に潜りこんでいる。アイオンは驚きに目を見開いた。本来と違う使われ方をしようとしている場所に入り込んだ指先に、凄まじい背徳感と、罪悪感のようなものを感じる。
「だ、だめ。そんなとこ、指、入れないでっ」
 アイオンの懇願も虚しく、ルーファスは中にいれた指で少年の内部をかきまわした。先程サヴァンの手で入れられた薬が中で溶け、その滑りを助けていた。ぐちゅぐちゅと粘度の高い卑猥な音と共に、未発達な体が男の指で蹂躙される。
「ああ、あ、ああっ」
 異物感を与え続ける指。自身の中で蠢くそれを感じながら、アイオンはのしかかるルーファスの顔を正面から見た、見てしまった。その酷薄な笑みを。
 目が合う。ルーファスはアイオンの顎を指で捕らえると、無理矢理少年の唇を奪った。性に疎い少年でも、この行為の意味くらいは知っていた。しかしそこにはかつて子どもが夢想したような甘さはどこにもない。
 口腔を舌で犯される。
 少年の瞳から涙が零れた。
 ようやく男の唇から解放されたと思った途端、ふいに下半身に違和感を覚えた。薬で滑りがよくなった中をかき回す指が奥の一点を突いた瞬間、アイオンは今までにない、鼻にかかった声をあげた。
「ここ? ここですか? お坊ちゃま」
「あ、ひゃあっ、やめてぇ! なんか、変……!」
 腰の辺りから靴下を履いたままの爪先まで、痺れるような甘い感覚が走り抜ける。アイオンは悲鳴をあげた。少年自身が悲鳴だと思っているそれは、他者には嬌声としか聞こえなかった。
 子どもらしい柔らかなアイオンの手とは違い、ルーファスの節くれだった大人の男の手、指がアイオンの中を散々刺激する。軽く曲げられた関節が内壁を擦る感触さえ、やがて少年に背徳的な快楽をもたらすようになった。
「ああ、ルーファス……ルーファスぅ……」
「様、を忘れていますよ」
 甘い声で名を呼ばれ、男は今度は少年を打たなかった。その代わりにツンと尖った乳首を捻り、少年に高い悲鳴を上げさせる。
「そろそろいいでしょうね」
 ルーファスが自分のベルトに手をかけ、硬くそそり立ったものを取り出す。アイオンはそれを見て、目を丸くした。彼自身のものとあまりにも違うその色味、大きさに、少年は本能的な恐怖を覚えた。
「な、何をするの」
「いいことですよ。とても。気持ちのいいこと」
 男は少年の足を自分の肩に乗せるようにして抱え上げた。アイオン自身は気づいていないが、先程ルーファスの手によって解された場所はひくひくと、より強い刺激を求めて疼いている。
 そこへ、男は自らの欲望を突き立てた。
「……ぅあああ、あ、あああ!」
 アイオンの口から紛うことのない悲鳴が上がった。潤滑薬の助けを借りて、狭い穴はルーファスを飲みこんだものの、その指とは比べ物にならない圧倒的な質量に、少年は体の内側から引き裂かれそうな気分を味わった。
「や……! く、るしっ、抜いて、抜いてぇえ!」
 腹の底から声を出すこともできず、潰れたような叫びを上げる少年を気遣うこともなく、男は腰を進める。声もなく肺に溜まった空気を残らず吐き出すような悲鳴をアイオンは上げた。
「かはっ、あっ、あっ……んぁあああ!」
 苦しさでいっぱいになっていた少年は、しかし男が腰を動かし始めるとまた激しく嬌声を上げていた。太く硬く熱いものが内部を突き、抉る。直腸がめくれあがりそうな感触も、すぐに気にならなくなった。それよりガツガツと容赦なく中を突かれる感覚が、年端もいかない子どもをあっさりと魅了してしまった。
「ふふ……淫乱なお坊ちゃまですね」
「ああ、ルーファス……」
「ご主人様、ですよ」
「ご主人様……」
 もはや何も考えられず、少年は男の言うままに復唱した。ルーファスが満足げに笑い、慈しむようにアイオンの頭を撫でた。
「あなたはもう私のものなんですよ。アイオン様、いえ、アイオン。あなたはもう私の主人ではない、私こそがあなたの飼い主なんですよ」
 何かが弾けるような感触と共に、熱いものが内側に広がる。アイオンはまたもぞくぞくと背筋を震わせた。
 意識はぼんやりとしていて、男の言葉はすでにほとんど耳に入っていない。意識が闇の中に滑り落ちる瞬間に、楽しそうなルーファスの声を聞いたのが最後。
「さぁ、お坊ちゃま。首輪は何色がいいですか?」