愛玩

03

 男は前を寛げるようにして椅子に座っていた。全裸に赤い首輪だけを嵌められた少年が、その前に跪かされている。
「ん……ふぅ……」
 男の手に頭を押さえつけられるまま、少年は男に奉仕していた。淡い金髪に青い瞳の、とても美しい少年だがその瞳は涙に濡れている。
「そう、上手ですね。イオン」
 アイオンという本名を封じられ、イオンと名乗るように命じられた少年は赤い舌を男のものに這わせる。ぴちゃぴちゃと子猫がミルクを舐めるような音を立てて、男の欲望に舌で奉仕し続けた。
 歪むように笑う男の唇から熱に浮かされた吐息が漏れる。これまで自らのものでない権力を振りまわして主君面をしていた少年が、彼の指示に従って大人しく屈辱的な奉仕に没頭するのが心地よくてたまらない。
 充分に幼さを残す愛らしくも美しい面差しが、自分の無体な命令に凍りつく様を見るのがルーファスは好きだった。これと同じような傲慢なことを自分は何度も他人に強要してきたくせに、いざとなると追い詰められた小動物のように震えだして涙目で情けを哀願する。その矜持の欠片もない姿に更に高圧的に出ると今度は大きな瞳からぽろぽろととめどなく涙を零す。そうなればもう彼の思うつぼだった。
 目の前で家族の死体を切り刻んだ記憶が心に染みついているのか、少しでも暴力の気配を見せれば少年は体面も何もなく足に縋りついて来る。家畜のように首輪を嵌められて奉仕させられても、涙を流すばかりで文句の一つも零さない。
 絶頂が近いのを感じ、男は少年の首輪につけた鎖を引いた。突然のことに、少年は無防備なまま喉奥を彼のものに塞がれる。その刺激で男は達し、小さな口の中に溢れんばかりの白濁を放った。
 けほけほとやけに可愛らしい様子でアイオンが咳き込むのを満足げに見下ろし、ルーファスは口を開いた。
「おやおや、ご主人様のものを零すなんて、悪い子ですね」
 口の端を伝う白濁を拭いながら必死で呼吸を整えていたアイオンがさっと青ざめる。かたかたと震えながら、恐る恐るルーファスを見上げた。
「ご……ごめんなさい。ご主人様」
「粗相をしたらお仕置きだと、私は何度も言って差し上げたのに」
「ごめんなさい! ごめんなさい! また痛いことしないで!」
 数日前、今では痕も残らないほど軽く叩いただけなのに少年は必要以上に怯えた眼差しで彼を見た。甘やかされて育てられたこの元貴族の少年は、他者から与えられる痛みに酷く弱い。下町の子どもなら怪我のうちにも入らないようなかすり傷を作っただけでこの世の終わりのような顔をするのだ。暴力で簡単に調教はできないが、ある意味では暴力を使う以上に簡単に言うことを聞かせられる。
「お仕置きが嫌なら、誠意を見せることだ。ねぇ、イオン。こういう時はどうするのだっけ? わかるね?」
「は……はい」
 微笑んで水を向ければ、彼は先日教えた通りに動き始めた。膝立ちになって尻に手を伸ばすと、いつも男を受け入れる場所を自らの手で慣らしはじめたのだ。
 細くて白い指が伸び、自分で自分の孔に触れる。それも、これからご主人様を受け入れるために。ルーファスは口元に笑いが浮かんでくるのを止められなかった。これが今まで自分に無体な命令を強いては偉そうにふんぞり返っていた、あの生意気な子どもだとは。
「ん……んぅ……んむ……」
 アイオンは身体の正面をルーファスに見せている。だからルーファスには、彼の孔が今どうなっているかまではわからない。しかし細い足の間から少しだけ見える指先が細かく動く様や、ぽたぽたと先走りを零すアイオン自身、それに何より羞恥を堪えて後ろを弄る少年の顔を眺めているだけで欲望が刺激された。
 噛みしめた唇の隙間から、堪えられずに嬌声が漏れる。自分のいいところを刺激してたまらずに恍惚となりながら、悩ましげに眉間の辺りに皺を寄せる様が子どもながらに色っぽい。
 ハァハァとどこかここではない場所に心をやって熱い吐息を零す少年に、もういい、と声をかける。
「十分解したんだろう? その成果をはっきりと見せてご覧」
 求められていることの通りに、彼はルーファスに尻を見せる形で後ろを向いた。膝立ちになり、自分の尻に手を伸ばす。
 小さな孔に右手と左手の人差し指をそれぞれ差し込んで、孔を広げて中身を見せるように、左右にぐいっと指を引く。首だけ振り返ってルーファスの顔色を伺おうとするが、そうすると体を斜めにしなくてはならないため、どうしても主人の顔を見ることができない。それがまた少年を怯えさせる。
「ご、ご主人様にお喜びいただけるよう、一生懸命解しました」
「そうだね」
 ルーファスはじっくりと、視姦という言葉が正しいほどにその場所に視線を向ける。普段秘められた場所は、酷く刺激された上思いがけず外気に触れたためか、ひくひくと震えている。
「お前のここは、とっても素直で可愛いね。ピンク色の肉壁を晒して、物欲しげにひくひくってなってるよ」
 淫靡な言葉で少年の心まで毒に浸すように、わざと恥ずかしいことを告げる。アイオンは真っ赤になった。羞恥で死ねるならこの瞬間にでも死んでしまいそうだ。
「ほら」
「ヒャッ!」
 ルーファスが指を一本中に差し込むと、アイオンは悲鳴をあげた。その狭い場所はすでにアイオン自身の指二本で左右に広げられているのだ。三本目のルーファスの指は大人のものとして子どものアイオン自身の指よりがっしりしていて長い。少年の二本の指が広げた間を彼の指が通り、奥の突起を突くと今までより甲高い声が上がった。
「ヒャァアア! 駄目ぇえええ!」
「おや」
 アイオンが涙目で言うと、ルーファスはすぐに指を引き抜いた。
「え?」
 そのあまりにもあっさりとした様子に、アイオンの方が逆に物足りなさを覚えて動揺する。思わず手を離して「ご主人様」の方を振り返った少年に、ルーファスは余裕の笑みを向けた。
「どうした? お前が嫌だから手を抜いてあげたんだよ。私は優しい飼い主だからね」
 以前アイオンがルーファスに横暴な命令をし、どんなに頼みこんでもやめさせてくれなかったことを引き合いに出して告げるとアイオンは真っ青になった。
「あ……あ……ご主人様」
「やめて、と言ったのはそちらだよ。まぁ、私はこの通り優しいから、そのはしたない孔に御慈悲をくださいと精一杯お願いされれば聞いてあげないこともないけどね」
 さんざん焦らされて疼く体を抱えた少年は、それこそ雨に打たれた子犬のようにしゅんとした。それでもご主人様に奉仕している時間以外は自慰を禁じられているためか、ここでやめられたら自分がどうしようもないということはわかっている。
「ご主人様……ご、ご主人様のを……ください」
「どこに?」
 笑顔のルーファスに、アイオンは真っ赤な顔で泣きそうになりながら、恥辱に耐えて懇願する。これまでルーファスが自分を責める時に使った恥ずかしい言葉の数々を思い出しながら、獣のように這いつくばって上半身だけを持ち上げ、矜持を捨てて叫んだ。
「ぼ、僕の淫らではしたない孔に、ご主人様の立派なのを入れてください! 太くて熱くて硬いモノで、淫乱な雌犬の中をぐりぐりって抉ってください!」
「お前は自分が淫乱だと認めるんだね」
「はい。僕は淫乱で、何の役にも立たない、ルーファス様の御慈悲に縋るだけの家畜です」
「お前は家畜以下だよ。食用の牛や豚にすら劣る、キャンキャンとうるさいだけで脳のない、何の役にも立たない愛玩犬だ」
「……はい……その通りです……」
 あまりにも屈辱的な、少年に残った矜持の最後の一欠片までも打ち砕くような残酷な言葉にアイオンは小刻みに震えながら涙を零す。
 ルーファスは心の底から楽しそうにくすくすと笑っていた。アイオンは悲しみに打ちひしがれながらも、先程までの刺激で反り返った小さなものはまだその勢いを失っていなかったからだ。少年はとっくに、貴族としての矜持よりも彼に与えられる快楽の虜となっているのだ。
「まぁいい。何の役に立たなくても、愛玩犬とはそういうものだ。お前が私の機嫌を損ねないうちは、私も愚かで繁殖欲だけは旺盛な雌犬を可愛がってやろう」
 そう言ってルーファスはようやくアイオンの腰を抱いた。獣のように四つん這いにさせた少年に、後ろからのしかかる。
 涙をぽろぽろと零していた少年は、ルーファスがそのとろけた孔に望みのものを突き立てた途端、甘い歓喜の声をあげた。
「きゃぅううううう!」
 いくら解したといえ、小さな少年の身体に成人男性のそれを受け入れるのは負担が大きい。つい数日前までそこをこんな風に使うとは知りもしなかった少年にとって、内臓を圧迫されるような刺激はまだ抜けない。
 だがその苦痛すらも、子犬は自身を満たす快感に変換するようだった。開きっぱなしの唇から、透明な唾液が口の端を伝う。
「あ、あん、ああん!」
 痛みも恐怖も何もかもを快楽に変えて逃避しようとするアイオンは、ルーファスに容赦なく攻め入られてただひたすらに、甘い声をあげた。自然と腰を振り、貪欲に快感を求める。
 狭い孔の中の、先程直に見た桃色の肉壁がルーファスの昂ぶったものをきゅうきゅうと締めつけてくるのがたまらない。華奢な背中にのしかかり、無防備な胸元に腕を回して尖りきった突起を抓ると、きゃぅ、と悲鳴が上がるとともに一層中が締めつけられた。
「出すぞ」
「はい……、くださいッ。ルーファス様のもの……!」
 十分な満足と共にルーファスは少年の中に欲望を吐き出す。しばらく余韻を味わってからずるりと自分のものを引き抜けば、小ぶりな尻の間の孔から白濁の液が内股にとろとろと垂れた。染み一つない双丘はまさしく芸術品だ。ルーファスは思わずそこへ口づける。
「うひゃっ」
 可愛らしい声をあげて、愛玩犬はいましばらく主人の悪戯の玩具となった。