劫火の螺旋 01

4.玩具

 一晩中ナブラに弄ばれたせいで眠気がとれない。
 だがこれぞ媚薬の効果ということか、体力は意外なほど残っていた。ナブラに言わせれば、あらかじめそうなるよう調整の上でラウルフィカを弄んでいたらしい。
 そして現在、ラウルフィカはナブラとゾルタという実に気まずい面々と顔を突き合わせながら馬車に乗り、大商人パルシャの屋敷へと向かっている。
「眠っていていいのですよ、陛下。昨夜はお疲れでしょうから」
 からかうゾルタの声にきつい眼差しを返し、ラウルフィカは二人と視線を合わせないためにひたすら窓の外を見ていた。
 城下はすこぶる穏やかで、争乱の気配一つない。わかっている。今のラウルフィカの力では、この景色を自分一人で維持する事はできない。
 だからと言って、金銀財宝でも他でもない自分自身の身体を他者に差し出して安寧を買う行為には吐き気がする。それでも他に選択肢はない。
 パルシャは王城の近くに屋敷を構えていたために、目的地にはすぐに着いた。ナブラとゾルタは別室で話があるのだと先に案内され、ラウルフィカだけが屋敷の奥まで連れていかれる。
「ようこそ、我が屋敷へ。ラウルフィカ陛下」
「能書きはいい。さっさと始めろ」
「話の早いことで。宰相殿と貴族長官殿から何か言われましたかな?」
 ぐふぐふと醜い笑いを見せつけるパルシャの顔は、潰れたヒキガエルによく似ている。
 足元に幾つも散らばった小箱の中から、何かを取り出して顔の傍に寄せた。
 男根を模した張型だ。パルシャはそれをべろりと舌で舐める。
 あまりの気色悪さにラウルフィカは一歩引いた。震えだす身体を自分の腕で抱きしめる。
「この日のために、あらゆる道具を準備させました。きっと陛下もお気に召すでしょう」

 ◆◆◆◆◆

「う……」
 少年の尻の白い谷間に、潰れたヒキガエルのような男が顔を埋めている。
「は、はなせ……」
 肛門に鼻を押し付けられて、ラウルフィカは凄まじい背徳感と気色悪さから、弱弱しい声をあげた。人の顔を尻の下に敷くような趣味はない。ましてや自らの臀部に男が顔を埋めるなど考えたこともなかった。
 しかしパルシャは、ラウルフィカの肉付きの薄い尻に頬を挟んで恍惚とした笑みを浮かべていた。
「ううん、良い香りだ、陛下。ナブラ様に渡したあの薬を使ったのですね?」
 ラウルフィカは手首を抑えられて動くこともできずに、ただ昨日のナブラとの行為を思い出す。直腸に挿入された錠剤、性器にかけられた媚薬入りの香油。
「おいしそうなお尻だ」
 少年の白い双丘に頬ずりをしたパルシャが言う。ひたすら恥辱を耐えていたラウルフィカは、突然尻に走った衝撃に思わず声をあげた。
「ひぁ!」
「ふふふ、柔らかくて気持ちよくて、このまま食べてしまいたいなぁ」
 パルシャが尻の肉を甘噛みしたのだ。ほとんど痛くはないが、まさかそんなところを噛まれるとは思わずラウルフィカの頭は真っ白になる。
 ただでさえ先程パルシャも言った通り、昨夜ナブラに媚薬を仕込まれ散々弄ばれた身体の疼きは収まっていないのだ。太りきったパルシャの指が尻を揉み、肛門を撫でるたびにラウルフィカの身体は刺激に耐えきれずびくびくと震える。
「ひっ、あ、もう、本当にやめ」
 ぐりぐりと指先を後ろの入口に押し付けていたパルシャに哀願するが、悪徳商人は素知らぬ顔で指を捏ねくり回す。
「やめて? 指はいやですかねぇ陛下」
「もう、はなし……」
「だったらこれでどうかな?」
「ヒャ!」
 生温くざらついたものが、後ろの蕾へと触れる。
「ひっ! や、やぁ! 離せ! 離してくれ!」
 ラウルフィカは必死でパルシャの手を振り払おうとするが、力が入らなかった。パルシャの舌が、更にちゅぷちゅぷとラウルフィカの入口を舐める。
 軟体動物のような舌先が蠢いて、中に押し入って来る。
「やめて……うぁ……」
 昨夜ナブラに散々突き入れられたものよりはずっと小さくて柔らかいものなのだが、その未知の感触はラウルフィカを追い詰めるのに十分だった。
「やめて、やめてっ……気持ち悪い、お願い、別のにして!」
 ここ数日立て続けに遭わせられた辱めに、王と呼ばれてはいてもまだ十三歳の少年であるラウルフィカの心は限界だった。
 ちゅぷ、と名残惜しげな音を立てて、パルシャの舌が離れていく。ラウルフィカは耐えきれずに膝を落とした。パルシャに尻を向けた格好のまま、傷ついた獣のように蹲る。
「う……」
 じわりと目に涙が浮んだ。
「おや、陛下? ラウルフィカ様?」
 ラウルフィカの白い尻たぶを指先で撫でていたパルシャが怪訝な声をあげ、蹲るラウルフィカの顔を覗き込む。
「そんなにお嫌でしたか? 陛下の御為ですのに。ああ、よしよし、泣かないでくださいな」
 小さな子どもをあやすようなパルシャの口調に、ラウルフィカの口から幼児のようなたどたどしい言葉がもれる。
「もう……やだ。わけわかんない、気持ち悪い事ばっかり、ヤダ……」
 父王の死からはじまり、五人の男に凌辱され、ゾルタに抱かれナブラに抱かれ、今またパルシャの手で弄ばれ。
 いくら年齢の割にしっかりとした少年と言えど、ラウルフィカの精神は限界に来ていた。年端もいかぬ子どものように、みっともなく声を荒げて泣いてしまいたい。どうして自分がこんな目に遭わねばならないのかと、自分一人が世界で一番不幸な人間であるかのような顔をして喚きたい。
 理性でそれを抑えこんでしまうのが、ラウルフィカの不幸だった。ゾルタやナブラに対しては国内の有力貴族として警戒しようと懸命に気を張り詰めていたが、今ほとんど面識のないパルシャにまで犯されて、自分が何のためにこうしているのか、何故こんなことをされなければならないのかわからなくなってしまった。
「もういや……やだ……」
 ぽろぽろと涙を流してしゃくりあげるラウルフィカに何を思ったか、パルシャは少年の身体を抱え上げると、胡坐を掻いてそのでっぷりした膝の上に座らせた。
「……泣いたところで仕方がありませんよぉ、陛下」
 パルシャはぽんぽんと軽くラウルフィカ肩を叩き、幼子を宥めるように言い聞かせる。しかしその言葉の内容は優しさや救いとは正反対のものだった。
「例えわしやザッハールが手を引いたとしても、宰相様とナブラ様は手を止めないでしょう。ミレアス殿もだ。あの方は酷い加虐趣味で、裏で密かに何人もの少年少女を殺している」
 まだ涙を流しながらだが、ラウルフィカはパルシャの言うことを大人しく聞いていた。
「わしら五人が手を組むことによって、ようやく均衡が作りあげられているのですよ。宰相様一人があなたを手に入れたなら、あなたはもっと過酷な運命に晒されることとなったでしょう」
 だから、とそれまで優しくラウルフィカの身体に添えていたパルシャの手に力が込められる。
「あなたに出来るのは一つだけ。せいぜいあの男たちの機嫌をうまくとることです」
「そんなの……」
 ラウルフィカの僅かな抵抗の言葉は中途で途切れた。パルシャに再び、柔らかな絨毯の上へと押し倒される。今度はうつ伏せではなく仰向けだった。
 のしかかる男の顔が、嫌でもよく見える。その口元が歪な欲望に微笑んでいるのも。
「大丈夫ですよ、陛下。あなたのお身体は、男たちのどんな要求にも耐えられるようわしが“開発”してさしあげますから」
「な、何を……」
 見下ろしてくるパルシャの笑みの不気味さに、ラウルフィカは凍りついたように動けなくなる。
「ほら、これ。なんだかわかりますか?」
 いつそんなものを引っ張り出したのか、パルシャはその手に何か道具を持っていた。
「そ……」
 男根を模した、おぞましい道具だ。しかも並の男のものよりも大きく作られている。
「これで慣れれば、他のどんな男に何をされたところで動じない人間になれますよぉ」
 ぐふぐふと笑いながら、パルシャは張型をラウルフィカに見せつける。ぴたぴたとそのおぞましいもので頬を叩かれて、ラウルフィカは蒼白となった。
「や……やだ! そ、そんな大きいの入るわけない!」
「入りますよ。いずれは、このくらいじゃないと満足できないようなお身体になってもらうつもりなのですよ」
「いや……」
「大丈夫、時間はじっくりありますから」
「いやだぁ!」
 身も世もなく悲鳴をあげて逃げようとしたラウルフィカを、パルシャが簡単に抑えこむ。少年としても華奢なラウルフィカに、肉だるまのパルシャが押しのけられるはずもない。
「大丈夫……大丈夫ですよぉ、陛下」
 パルシャの手が何か小さなものを持ち、無理矢理ラウルフィカの口の中に押し込む。
「はぅ……む、うう……」
「飲んでくださいよ、あなたのためですよ」
「ん、んー!!」
 吐き出そうにも口を押さえられ、小さな粒を出すことができない。
「これは媚薬ですわ。多少の痛みも快感に変えてくれる便利な道具です。さぁ!」
 口どころか鼻まで塞がれ、息を詰められる。ラウルフィカの抵抗も虚しく、小さな薬の粒は嚥下された。
「はっ、はっ」
 解放されたばかりで荒い息をつくラウルフィカの身体に、早速変化が現れる。昨夜ナブラに塗りつけられた媚薬の効果もまだ完全に消えていないというのに、身体を苛む熱が更に高まった。
「あ……」
「ほらほら、熱いでしょう? 身体が疼くでしょう?」
 全身が敏感になり、肌を撫でる室内の空気さえ今ならば感じ取れそうだ。そして昨夜ナブラに荒らされた場所が、じんと熱を持って疼きだす。
「うぅ、やだ……」
「さぁ、陛下」
「ああっ!」
 パルシャにへその辺りを撫でられただけで、思わず高い声があがる。
「やだ、やだぁ……」
 じんじんと疼く体がまるで自分のものではないように感じられて、ラウルフィカはまたもむずがる幼児のような声をあげた。
 身体のどこもかしこも熱くて、疼いて、何も考えられなくなる。ナブラに昨日散々弄ばれた場所がじわじわと痒みのような熱に侵される。
「あ、あ、あ」
 熱を持つ部分を思い切り掻きまわし、掻きむしりたい。そう思って反射的に伸ばした手が掴まれた。
「駄目ですよぉ、陛下。お一人で楽しむなんて」
 言ってパルシャは、ラウルフィカの腕をひとまとめにして押さえこんだ。
「だって……だって!」
 全身を苛む感覚が辛く、それから解放することも許されずに思わず再びしゃくりあげたラウルフィカの耳にぱくりと軽く噛みつきながら、パルシャが耳元で言う。
「ああ、可愛い。可愛いなぁ。陛下、あなたの苦しみは、わしが取り払って差し上げますぞ」
 そう言ってパルシャは、手元に引き寄せた箱の中をがさごそと漁る。すでにまともにものを考えられなくなっているラウルフィカは、熱い息を吐きながらぼんやりとそれを見ていた。
「最初はこんなものだな」
 差し出されたのは、先程見せられたものよりは小さい張型だった。それでも成人男性の標準的な性器と同じくらいの大きさはあるのだが、差し出されたものが先程の太すぎる張型でなかったことにラウルフィカはひとまずほっとした。
「さぁ、これを舐めてくだされ」
「は、ぅむ……」
「先程の慣らしは、陛下が嫌がられるもので途中となりましたからなぁ」
 目の前に押し付けられたそれに、意識が熱で朦朧としているラウルフィカは反射的に吸いついた。金属で出来た張型は、鉄の味がする。
「うん……あ、はぁ……ふむ……」
 舐めても舐めても決してふやけることのない鉄のそれをラウルフィカがたっぷりと唾液で濡らすと、パルシャはすいとそれをラウルフィカの口元から遠ざけた。
 ひくひくと小さく動いて何かが押し込まれるのを待つ後ろの蕾に、ラウルフィカ自身が唾液で濡らした張型を押しあてる。
「あ、うぁ、ぁああああああ! ああああ!」
 ずぷずぷと中へ押し込まれるそれに、ラウルフィカは悲鳴というには高い声をあげた。昨夜幾度となく男のものを受け入れさせられて慣れた身体に媚薬、そしてこれまで味わったことのない張型の感触に、未知のものへの恐怖と同時に挿入の歓喜で応える。
「ああ、あ、ああっ、やああああ!」
 パルシャの手は休まずに金属の丈夫な張型をラウルフィカの中に出し入れし続ける。
「こんな、こんな道具なんかでぇ……!」
 鉄の塊は人体とは比べ物にならない強度で、無慈悲に少年の中を犯し続ける。その感触は数日前から昨夜にかけて受け入れてきた男たちのモノとはまた違い、ラウルフィカを戸惑わせた。
「ぐふふふ、気持ち良いか? 男に抱かれるのとはまた一味違った楽しみじゃろう」
 じゅぷじゅぷと音を立てながら何度も何度も張型を行き来させ、パルシャはラウルフィカを喘がせる。
 次第に金属の重量感や異物感にも慣れてくると、それはラウルフィカにとって未知のものではなくただ快感を与えてくれるための道具となった。
「あああ、ふぁ、ぁああ……っ」
 中に入れられた張型は体温で温まり、卑猥な水音をさせながら出したり入ったりを繰り返す。つるつると滑らかな金属面はいつまでも異物感を忘れさせてはくれず、自分がよりにもよって無機物にいいように犯されているのだという屈辱と背徳感を与えた。
「うう、なんで……」
 だがそのもどかしさすらも今のラウルフィカには快感にしかならず、今まで触れられていなかった自身から先走りの液をぽたぽたと垂らす。腹の上が、自らの流した液体で濡れた。
 パルシャはすでにラウルフィカの腕を押さえこんではいない。しかしラウルフィカは抗いもせず、自分から足を広げてパルシャの手に寄って張型が挿入されるのを受け止めていた。
「あ、ああ……ッ!」
「ぐふふふ、可愛い。ああ、可愛いものじゃ……」
 後ろを張型で犯されて、ラウルフィカはついに射精まで導かれた。
「そ……な……」
 パルシャが金属の張型を抜く頃には呆然とした瞳で床に横たわっている。
 前を触ることすらされず、後ろだけで達してしまった。挿入するのではなくされる側となって、力ない女性のように犯された。
「どうだね? うちで扱っている媚薬は凄いだろう?」
 パルシャはけたけたと笑いながら、次の玩具を取り出した。
「さぁ、今度こそこれだ」
「あ……」
 それは一番最初に見せられた、男性平均の男根より遥かに大きい張型だった。力の入らない腰を引きずりながら、ラウルフィカは絨毯の上を必死に後ずさる。
「い、いや」
「大丈夫、今のあなた様ならこのくらい簡単に入るはず」
「いやだ!」
 ラウルフィカは立ち上がり逃げようとした、しかしその瞬間、腰から下に力が入らず床に倒れ伏す。
「うぁ……」
「いい格好ですよ、どうせならそのままで」
 咄嗟に手をついて顔や頭がぶつかるのを庇ったラウルフィカは四つん這いの姿勢になっていた。パルシャは必死で立ち上がろうとするラウルフィカの背後に回ると、ついにその巨根の張型を挿入する。
「あっ……あ、が、ぁあ……ッ!」
 先程中をかきまわした鉄の張型とは比べ物にならない質量のものが押し入って来る。今度はパルシャも慎重で、おぞましい玩具を一気には突き入れずゆっくりとラウルフィカの中へ埋めていった。
「ひぐ……ぅ、うう、う――!」
 身体の中に太い杭を打ち込まれたように、ラウルフィカは動けない。尻をパルシャに晒したまま、身体を支える腕を震わせて呻く。
「まだ半分ほどですよ、陛下」
「半……こ、これでっ!? うぁあ、があ!」
 これまで中に入れられたどんなものより、その玩具は太くて長かった。ギチギチと身体が軋む。
「あ、ヒィっ、あ、ああ、あ」
 虫が這うような速度で、ずぶりと張型がラウルフィカの身体の中に沈み込む。
「も……やめ、それ、以上は……」
 直腸はとうに限界で、異物感は腹の辺りまで達している。
「言ったでしょう、まだ半分だと。もっといきますよ、陛下」
「うぁあああああ!」
 パルシャは容赦せず、桁違いの太さと長さを持つモノをラウルフィカの中へと押し込んだ。
「かはっ、は、はぁ……!」
 下腹の辺りが苦しくて悦楽どころではない。これまで高められた熱が、腹の苦しさに急激に冷えていく。
「ぬ、いて……おねが……」
 埋め込まれたあまりの質量に、ラウルフィカは舌を出して苦痛に喘ぎながらパルシャに懇願した。
「駄目ですよぉ……ん?」
 苦しむラウルフィカの様子を見て笑っていたパルシャが、ふいに部屋の外から呼ばれて声をあげた。
「何用だ。今は誰も入れるな、声をかけるなと言ったはずだ」
「ですがご主人様、レネシャ様が……」
「! 馬鹿者!! 今はあの子をこの部屋に近付けるな! いいか、絶対だ!」
 後ろを犯すモノの質量に朦朧としながら、ラウルフィカはそのやりとりを聞いていた。“レネシャ”という名前を聞いてパルシャが顔色を変えている。
 やがて声を潜めて二言三言執事と話すと、パルシャは戻ってきた。
「さぁ、お待たせしました陛下。そろそろ大きさにも慣れた頃でしょう。動かしますよ」
「いやあ!!」
 この後も更に様々な玩具や器具を押し込まれ攻め立てられて、ラウルフィカはこの時に聞いたやりとりを大分先まで思い出すことはなかった。