劫火の螺旋 02

11.籠絡

「レネシャ……」
 耳元で甘く囁いてやると、腕の中の少年の身体が震える。
「いいのか? 君に触れても」
「は……はい」
 緊張のあまりか、乾いて掠れた声でレネシャは答えた。
「はしたないとお思いになられるでしょうが、僕は……その、陛下に触れてほしくてたまらないんです……」
 赤く染まった目元をぎゅうっと瞑って、小動物のように震えながらラウルフィカの言葉を待つ少年は愛らしいの一言に尽きる。
「ならば……来てくれ。部屋に行こう」
 レネシャの身体を少女にするようにそっと抱き上げて、ラウルフィカは隣室の寝台に向かう。
 小卓の上には、打ち合わせ通りに姿を消したザッハールからの短いメモ書きが残されていた。
「ザッハールは仕事を言いつけられたそうだ。まぁもともとこちらが雑用だしな」
「そうなんですか? でも、陛下のお傍を離れるなんて……」
「いいんだ。それでこそ、この時間を君と二人きりでゆっくり過ごせるのだから」
 隣に腰掛けて微笑んでやれば、レネシャは白い肌をカッと赤く染めて俯く。
「レネシャ……」
 十分な時間見つめ合った後、ラウルフィカは再び少年の唇に自らの唇を重ねた。
「ん……ふぅ……」
 自分の快楽は二の次で、とにかくレネシャが感じるように濃厚な口付けを交わす。
 これまでの一連の出来事によるショックと媚薬の効果で理性のたがが外れている状態の少年を、この機に一気にたぶらかす。
 口付けが終わると、ラウルフィカは少年を寝台に優しく押し倒した。
「あ……」
「どうした? やはり怖いかい?」
「い、いえ! ……今更こんなこと言うのもなんですけど……恥ずかしくて」
 さすがに生娘のように胸元を覆ったりはしないが、異性と肌を交えたこともない少年は同性の裸を見るのも見られるのも気恥しいらしい。レネシャも相当な有力者の子息なので自分より下位の者を相手にするなら恥ずかしくはないのだろうが、目の前にいるのは憧れの国王だ。
「先程までも裸を見せあっていたじゃないか」
「で、でも」
「ふふ。可愛いよ、レネシャ」
「ぁあ……国王陛下……」
「ラウルフィカと呼んでくれ」
「ラウルフィカ、様……」
「そうだ。お前には、そう呼ぶことを許そう」
 もう一度深く口付けしてから、ラウルフィカはその顔を少年の首元に埋めた。
「んっ!」
 白い肌に吸いついて痕を残し、徐々に下へと向かっていく。
 昂ぶって熱を持ちながらもその発散方法を知らないような幼いものへと指を伸ばした。
「あ! 陛下、だめぇ、そ、そんなとこ」
「どうして? お前はこちらも可愛いよ、とても」
 実際、これまで男たちの醜悪な欲望を無理矢理押し付けられてきたラウルフィカからすれば、レネシャのものは言葉通りに可愛らしいとしか思えないものだった。
 躊躇う必要もなく舌を伸ばし、芯を持ち始めているものを口の中で包み込む。
「ん」
「ひゃあ! 陛下ぁ……」
 じゅぷじゅぷとわざと聞かせるように淫らな音を立てながら、ラウルフィカはレネシャを射精まで導く。出されたものを綺麗に飲みこんで、ラウルフィカは口元を拭いながら顔をあげた。
「ご、ごめんなさっ」
「そうだよ、レネシャ」
 呆然としていたレネシャが謝罪を口にしようとするのを遮って言う。
「ラウルフィカと呼ぶようにと言っただろう」
「あ、あの」
「それ以外は気にしなくていい」
「でも……」
「そんなに気にするなら、お前も私をイかせてくれる?」
 羽織っていた薄物を脱いで、ラウルフィカはレネシャの前に自らのものを晒す。
「あ……」
 ラウルフィカもまだ少年だが、レネシャよりは男として成熟している。レネシャは目の前に差し出されたものに一瞬驚いたように固まってしまった。
「無理に口にいれなくていいから、こうして、指で……」
ラウルフィカはレネシャの手に自分の手を添えて、それをつかませる。
「ゆっくり擦って、そう……んっ……いい子だ」
 初めこそ硬直していたレネシャも、実際に触れてみると思ったよりも簡単に覚悟が決まったようだ。赤黒い塊に少女のように白くほっそりとした指を絡ませると、熱心に擦り上げる。
 媚薬の効果か、熱にうかされた吐息がひっきりなしにその唇から零れていた。
 レネシャの金髪に片手を置いて頭を撫でていたラウルフィカも、徐々にせり上がって来る快感に息を零す。達する寸前、彼はレネシャの手を止めさせた。
「……ありがとう、レネシャ。もういい」
「え? でもまだ」
「あとは……こちらで、だ」
 ラウルフィカは、無防備なレネシャの後ろの穴に指をあてる。
「な、なん、です?!」
「男同士の場合、こちらを使うんだ。レネシャ、力を抜いて」
「あ、あの、でも、だってそこは」
「きちんと消毒しただろう? だから大丈夫だ。でもあとでまた薬を塗り直す必要があるな」
 まだ十分にほぐれている内部へとラウルフィカは指を滑りこませた。
「ひゃん!」
 先程塗った軟膏が滑りを助け、あっけないほど簡単に指が入る。レネシャの方も苦痛を感じていないようで、むしろ媚薬によって早くも覚えさせられた快楽に戸惑っているようだ。
「あ、あっ……何か、変なのに……いい、なんで……っ」
「そんなにいいのか? だったら、もっと声をあげてもいいよ、レネシャ。どうせこの部屋には誰も来ないんだ」
「あ、陛下ぁ……! ラウルフィカ様ぁ」
 先程探り当てた良いところをつくと、慣れていない少年の身体はたやすく流される。
 二本、三本と指の数を増やすたびに、レネシャの唇からは歓喜の声が漏れた。
「ん……ふぁ……陛下」
「レネシャ……挿れるよ」
 少年の足を抱え上げて股を開かせ、ラウルフィカは腰を落としていく。
 すっかり快楽に酔っている少年には、もうまともな思考は働かない。ラウルフィカの掌の上で、ただ喘ぐのみ。
「あ……陛下!」
「ラウルフィカだよ、レネシャ」
「ラウルフィカ様、ラウルフィカ様ぁ!」
 レネシャはラウルフィカの背に腕を回し、うわ言のように何度も名前を呼んだ。口の端から涎が零れ伝う。目元には再び薄らと涙が浮かんでいた。
ラウルフィカはその汗を浮かべたこめかみに一度口づけると、細い身体に負担をかけないようゆっくりと動き始めた。