僕の愛しい勇者様 01

5.魔術師の受難*

 ライアが魔術師として兄・ソールについて魔王を倒す旅をしているのは、ある意味当然のことだった。彼は生まれ持った魔術の才能故に、いずれ必ず魔術師として戦いの日々に身を置くことが運命づけられていた。
 現在勇者と呼ばれるソールは、しかし勇者になることを随分後から決めた。彼は弟であるライアを守りたいだけだった。弟を守るために戦って戦って戦って強くなり、いつしか勇者と呼ばれるほどに強くなり、王国連合にその称号を授けられるほどになった。
 勇者のソールは普通の人間だが、弟のライアは魔術師である。それがそもそもの事の始まりだった。
 魔術師は魔物たちと、その力の質において通じるもの。同じように術を使う僧侶とも魔術師は違い、僧侶は修行によって法力を得て神術を使うが魔術師は生まれながらの魔力によって魔術を使う。もっとも、魔術の才能を持つ子どもが手っ取り早く異能を制御する学び舎として神殿を選ぶ場合も多く、その力が重複している場合も多いのだが。とまれかくまれ、魔物も同じように自らの持つ魔力で戦う。
 そのため魔術師も魔物も、より多くの魔力を持つことを欲していた。そして魔物たちは手っ取り早く強くなるために、魔術師を襲うことを覚えた。
 魔術師の身体、特に一人分の体液を啜るだけで魔物は普通の人間百人を食うよりも大きな力を手に入れることができる。そのために魔術師は、魔物に狙われやすい。
 生まれつき強大な魔力を持っているライアは、特に魔物たちに標的として狙われやすかった。魔術師の人生は過酷だ。彼らが強力な術を覚える前、力の弱いうちに魔物たちはその体液を啜ろうと近付いてくるから、誰にも守ってもらえなかったり、運悪く強力な魔物に狙われた魔力持ちの子どもはすぐに死んでしまう。魔術師という生き物は、強い魔術師になれなければ魔物に襲われて死ぬしかないのだ。
 ライアはソールや幼馴染たちに守られながら、この歳まで成長した。強大な力を持つだけに魔術師として成長するのも早く、魔術を扱えるようになったライアは勇者一行の中にいても遜色のない実力の魔術師となった。
 しかしやはり人間だけに、弱点も多い。
 迷いの森と呼ばれる場所で突発的な事故により兄たちとはぐれ、一人彷徨い歩いていたライアへと、魔物の手が伸びる。

 ◆◆◆◆◆

「うう……」
 全身から力が抜けるように感じて、ライアは唐突に蹲った。視界の端に怪しい紫の粉が舞っているのが見えたときにはもう遅い。
「げへへへへ。仲間たちとはぐれたのが運の尽きだったなぁ、魔術師さんよ」
「こ……れは……痺れ粉か……」
 目の前にいるのは植物系の魔物だった。何百本もの緑色の蔓が巻き付いて丸っこい形を成し、その頭のてっぺんには花が咲いていた。その花が紫の痺れ粉をあたりに振りまいている。
 蔓の一本が鞭のようにしなって、ライアの腹を打ってその場から弾き飛ばした。体が動かないライアは、成す術なくその攻撃を喰らってしまう。
 植物系の魔物はこの痺れ粉のように厄介な攻撃手段を持っているが、その効果は長くはない。一撃の攻撃力自体は動物系の魔物と違ってそう強力なものではないし、ライアはなんとか痺れ粉の効果が抜け切るのを待つことにした。生憎とこの森には厄介な攻撃をする魔物が多く、すでに薬品類を全て切らしてしまっている。
「魔術さえ、使えれば……お前なんか……!」
「魔術さえ封じればお前なんかただのひ弱なガキさ」
 強がるライアの言葉を、魔物が笑って返す。そして彼、としておこう、その魔物はライアの身体から魔術師としての力を絞りだそうと動き出した。
 力、すなわちライアの体液だ。これは何も血に限ったことではない。
 するすると伸びて来た何十本もの蔓が、まだ痺れ粉の威力が抜けきらないライアの身体に絡んでいく。
「あ……や、やめ!」
 ろくに回らない舌を酷使して制止の言葉を放とうとしても徒労に終わり、ライアは自力では僅かにさえ身動きできないほど魔物の触手たる蔓に絡めとられてしまう。蔓はライアの身にまとう衣装さえ引きちぎっていった。闇属性の魔術師であるライアは聖なる道具を身につけておらず、硬い鎧ではなく布製の外套を装備していたために、魔物の力で引きちぎられる。衣装の全てが剥ぎ取られたわけではないが、大事な部分ほど剥ぎ取られた恥ずかしい姿にされてしまう。
「あ、あああ……や、めろ……」
 段々と痺れ粉の影響が抜けて、麻痺していた全身の感覚が戻って来る。そうすると服の中にもぐりこみ肌の上を這いまわる蔓の感触を感じるようになって、ライアは嫌悪に身を震わせた。
 こうして魔物に身体を触られることは、一度や二度ではない。幼い頃から何度も何度も、体液を絞り取ろうと近付いて来る魔物たちにライアは狙われてきた。
 締めつけられて苦しさに喘いだ口に、太い触手の一本が潜りこむ。植物系の魔物はその皮膚である蔓からそのまま水分を吸収できるらしく。唾液を啜るためにライアの口内を荒らしまわった。
「ん、んん、ん――!!」
「へへへ。喋れなければお前さんも結構可愛いじゃねぇか。――ぎゃあ!」
 ライアの口を蔓で塞いでいた魔物が突然悲鳴をあげる。
 青臭い液を流した蔓の一部を、ライアはぺっと地面に吐きだした。魔物の一部であり敏感な器官であるらしいそれに、思い切り噛みついてやったのだ。
「たとえ体が動かなくったって、誰がこのまま大人しくやられてやるもんか!」
「このガキっ!」
 魔物は再び蔓の鞭を振るって今度はライアの頬を打つ。白い頬に痛々しい程の紅い痕が残ったが、ライアは怯まなかった。衝撃で跳ねた顔を無理矢理正面に戻すと、口の端から血を流しながらもそのまま魔物を睨みつける。
「……大人しくしていれば優しく飼ってやろうと思ったのに、俺様を怒らせたな!」
「あうっ!」
 ぎょろりと目を剥いた魔物が蔓をぎりぎりと締め上げ、ライアに苦痛の声をあげさせる。ざわざわと蔓が蠢き、明らかな意志を持った動作でライアの身体に忍び寄った。
「こうなったらとことんいたぶって、この場で精気を吸いつくしてやろうじゃないか」
 怪しい汁を出してぬらりとした蔓の一本が、少年の内股に絡みつく。
「ヒァ!」
 足から這い上がってきた蔓が小さな穴を無理矢理こじ開けて入り込み、ライアはたまらず声を上げた。他の蔓も、どんどん少年の身体を刺激するように絡んでいく。
 さらけ出された胸元の飾りには指先程度の細い蔓が絡み、また体液の一種である先走りを得ようと、何本もの太い触手が男の象徴を擦り上げる。
「ふわっ、はぁああああ!」
 敏感な箇所に巻きついて来る蔓、身体中の孔と言う孔を突いて中に入り込もうとしてくる蔓に、ライアは鼻にかかった中途半端な悲鳴をあげる。後ろに入り込んだ太い蔓が、奥を破ろうとでもするかのような勢いでガンガンを中を突きあげた。
「ひゃあ! く、るし……」
 前を無数の蔓に散々擦られ、後ろには太い蔓がひっきりなしに出し入れされていて、ライアは苦痛の声をあげた。そんな中、いつまで経っても先走り以上のものを少年が吐きださないことに焦れたのか、後孔にもう一本、二本、細い蔓が入り込んでこようとする。
「やぁあああ! も、無理ぃいいいいい! あああ、アアッ、あ!」
 しかし散々太いものが抜き差しされて柔らかくなった後孔は、中心のその蔓の隙間を無理矢理縫うようにして入り込んできた蔓をも受け入れてしまう。
「かはッ……!」
 杖を手放して魔術師を使えない少年は直腸を完全に蔓で満たされて呻いた。蔓は再び噛みつかれることを恐れて口内には入って来ないが、苦痛のあまり口を開きその端から垂れた涎には群がって来る。
「くくく。感じる、感じるぜぇ。お前の中のやわらかくて、ぐちょぐちょの熱い感触と溢れる魔力。強い魔術師は殺して食うより犯せってのは本当だなぁ……!」
 口がどこにあるかもわからない魔物が、言葉でまでも少年を侵食しようとしてくる。蔓の一本一本が腕代わりということを考えるなら、この魔物はライアの身体の中に腕を突っ込んで中から内臓を撫でているも同然だった。
「あが……ぐぅ、あ、あ、ふぁア、あ、あ」
 複数の蔓が絡まり合って極太となったそれが無理矢理少年の中を行き来する。内臓がひっくり返りそうなほどの刺激をライアは薄れゆく意識の中で感じた。
「た……すけ……兄さ……」
 無意識の懇願と共に頬を滑り落ちた涙さえ啜ろうと蔓が伸びたその時だった。
「ぎゃあああ! な、何っ!」
 上空から目にもとまらぬ速さで飛んできたものによって、ライアを捕らえていた蔓の幾本かが一度に切られた。蔓魔物は悲鳴をあげ、すでに意識を失っているライアの身体がどさりと地面に落ちる。
「何者?!」
 魔物が近くの木の上を見上げると、太い枝の上に、黒尽くめの暗殺者のような格好をした青年――ウォルフが両手にナイフを構えて立っていた。