僕の愛しい勇者様 01

6.暗殺者の謎*

 植物系の魔物はウォルフを睨んだ。
「よくも俺様の腕を落としてくれやがったな!」
「腕?」
 ウォルフが顔を顰めた。目の前の魔物は全身蔓が絡みついて形を成したような姿で、どこが腕なのかさっぱりわからなかったのだ。
「そこの少年を返してもらおうか」
「抜かせ!」
 魔物の緑の鞭のような一撃が、ウォルフを襲う。暗殺者は身軽に飛びのいてそれをかわすと同時に、四本のナイフを同時に放った。
「うぎゃあ! 今度は足を……!」
 またもやどこが足なのか見分けのつかない体の一部をナイフに落とされて、魔物は悲鳴を上げる。しかしこのままでは無数の蔓が伸びて来るばかりで埒が明かず、先にウォルフの武器の備えの方が尽きてしまう。
 彼は懐からナイフよりは長い短刀を二本取り出して構えた。毒の粉を吹きつけて来ようとした魔物の攻撃をかわし、目にもとまらぬ早さで両手の短刀を一閃させ、魔物を十字に斬り裂いた。
「ち、畜生……!」
 罵声と共に、植物型の魔物が倒れる。絶命した魔物はどろどろと地面に溶け崩れた。
 あとにはその場に佇むウォルフと、あられもない姿で意識を失ったままのライアが取り残された。
 ウォルフは、倒れた少年に近寄る。そのまなざしは、倒れている少年を凝視していた。
「……」
 眩い銀髪に、今は閉じた瞼の奥に隠された翡翠の瞳。まだ十四歳という年齢ながら、恐ろしく整った顔立ち。
 たくましさとは縁遠い華奢な体、それに何かにつけ兄のことを呼ぶ仕草が彼を幼く見せるせいで、勇者一行の一人にしては少年は女の子にきゃーきゃー言われるようなこととは縁遠い。けれど誰も話題に乗せないのが不思議なほどに、こうして見る少年の容姿は美しい。
 ウォルフは無言のまま、倒れていたライアを抱きかかえた。
 蔓に暴かれた白い胸元。擦り傷のような紅い痕が無数に残っている。その中で一際赤く存在を主張するような二つの小さな突起を、男の手はきゅっとつまんだ。
「ん……」
 刺激に反応して、少年の唇からか細い声が漏れた。ウォルフは玩具でも弄ぶように、こりこりとそれを弄り続ける。撫で、突き、つまみ、軽く抓る。しかしまだライアは目覚める様子はない。子どもがむずがるように、眉根を寄せるだけだ。
「んん……」
 苦しげな様子に気づき、ウォルフは少年の足の間からその後ろの蕾に無造作に突き刺さっていた蔓の残骸をずるりと引き抜いた。倒れたときに少しは抜けたが、まだ他の蔓が入ったままだったのだ。
 ついでに体に絡んだ他の蔓の残骸も取り払ってやる。更に引きちぎられてぼろぼろになった用無しの衣装もすべて避けた。
 擦り傷だらけの裸体を晒す少年の身体をじっと見下ろす。そうして、ウォルフはおもむろに、その手をこれまで蔓の残骸に包まれていた少年自身へと伸ばした。
「ん……!」
 一際敏感な場所に触れられ、ライアがいまだ目覚めないまま喘ぎ声を漏らす。ほんのりと赤く色づいた頬を眺めながら、ウォルフは彼のものを握る手を意識した。
 壊れものでも扱うように繊細な手つきで、勃ちあがりかけたものを擦り、しごく。更に少年が眠っているのをいいことに、ウォルフは自分のズボンのベルトを外した。
 ぬらぬらとあの蔓が出した汁で濡れ、太い物でこじ開けられたために程良く緩んだ場所に自らをそっと突きこむ。少年が無意識に閉じようとした足を押さえこみ、そのまま腰を動かした。
「ふぁ……あ、あ……」
 体に負担をかけないように快楽を与えるウォルフの腰使いに、ライアは一瞬だけ瞳を開けた。しかし夢だとでも思ったのか、すぐにまた再び目を閉じてしまう。
 少年の身体を秘密裏に蹂躙しながら、ウォルフはライアの肌を見ていた。
 白濁を放った自身を引き抜いて、ウォルフはライアの背中を見る。しかしそこで、彼は顔をしかめた。迷うような素振りで何度か少年の横顔と背中に視線を行き来させながら、軽く溜息をついてライアの下半身に指を伸ばす。
 男は先程放ったものを丁寧に指でかきだし、植物の汁をも丁寧に布でふき取った。そうして少年の身支度を整えている間に、ようやく薬の影響が抜けたライアが目を覚ます。
「ん……? う、うわぁ! ウォルフ! なんであんたが?!」
 意識を取り戻したライアは、咄嗟に彼の胸を突き飛ばしてウォルフから離れた。続いて自分が全裸であることに気づき、体を隠すようにしゃがみこむ。
「ど、どうしてこんな格好?!」
「覚えていないのか?」
 無口な男は一言だけ言って辺りの惨状に首を巡らせた。先程の魔物が残した蔓の残骸が散らばっているのを見て、ライアも自分がどのような目に遭ったのかをすぐに思いだしたようだ。サーッと青ざめた少年に、ウォルフは服を投げながら声をかける。
「体は拭き清めた。あとはこれを着ろ」
「きよ……」
 全裸にされて全身を触られたのだということに思い立ったライアが今度は顔を真っ赤にする。先程までの人形的な美貌とは違い、その顔にはいきいきとした生気が宿っていた。
 慌てながらウォルフが投げた替えの服を身につけ、別の空間に仕舞っていた装備を取り出してそれも着込む。
「う、あ、あんたが助けてくれたのか?」
「一応そういうことになる」
「あ……ありがとう」
「別に」
 その後にまさかウォルフに体を弄ばれたなどとは思ってもいないライアは、非常に悔しそうな様子で礼を言った。ウォルフは素っ気なく言って、さっさと先に立って歩きだした。
 ライアはライアできょとんとした顔をしている。先程まで、誰かに体の奥を撫でられていたような気がする。しかしそれは魔物に蹂躙された時に残された鈍痛のせいだろうかと、すぐに自分の記憶の片隅に追いやった。
 この時のウォルフの行動の意味を、まだ誰も知らなかった。