012*
「――そうか」
その報告を聞いたシェリダンは、それしか言う事ができなかった。ふつふつと身のうちに湧き上がる怒りを堪えるのに必死で。
「ご苦労だった。下がってよい」
侵略した隣国から急ぎ馬を飛ばして駆けつけた伝令の兵を下がらせて、シェリダンは執務室を後にする。仕事はすでに終わっていた。一日の最後にもたらされた報が先程の内容だった。
執務室を出ると、侍従のリチャードが後ろについてくる。
「バイロンはどうしている?」
「はい、陛下の命令どおりに地下牢へと拘留していますが、特に不満は出ていません。日々、静かに己の内面と向かい合うかのように瞑想しています。健康状態は、さほど衰えてもおりませんがやはり顔色が少し悪いようで」
「あと五日ほどで奴は出すか。……例の方は」
「以前とお変わりなく」
「そうか」
一通りシェリダンが直接は手を出さない仕事について尋ね、廊下を大股で歩く。シェリダンが通る時には端により平伏する侍女たちを横目に、私室へと向かう。途中、布の山を抱えたローラと鉢合わせた。
「あ、陛下」
「ローラ、その格好はどうした」
「それが……王妃様が何だか血まみれのぼろぼろのお姿で帰って来たもので」
シェリダンとリチャードは急いで部屋の扉を開き、寝台に座って身体を布で拭いているロゼウスの無事な姿を確かめた。
「ロゼウス!」
「シェリダン?」
こちらへと顔を向けた彼の顔色は常と変わらず、細かい傷を除けば怪我をしているようでもない。
「何があった。怪我は?」
「ない。……庭園で刺客に襲われた」
「刺客? 反王権派か?」
「いや、狙われたのは俺じゃなくてカミラの方で……・なんか、あんたのためがどうのこうの言ってたけど」
「……」
例の奴等か。あれもそのうち整理をつけねばならない。シェリダンが考えている間にロゼウスはローラから新たな布を受け取り、シェリダンの方はリチャードに上着を預けていると部屋の扉が騒がしく開かれた。
「シェリダン様! 庭園の方で問題が……って」
身体の汚れは湯に浸した布で拭ったとはいえ、ぼろぼろに引き裂かれたドレスはそのまま血に染まっているロゼウスの姿を見て、顔を出したエチエンヌが絶句する。それから彼はシェリダンの方へと歩み寄りながらロゼウスに視線を向け。
「なるほど。カミラ殿下を狙った暗殺者を倒したのはあんたか。ローゼンティアの王子」
苦い顔をしてロゼウスを睨む。
「どういうことだ、エチエンヌ」
「さっき、庭で殿下のお命を狙う事件があったそうです。あ、殿下はご無事です。今警備隊が調べているそうです。その時に、もう一人誰かがいたとは聞きましたが」
エチエンヌは警備隊から直接話を聞いたわけではなく、別の使用人から話を又聞きしたらしい。刺客の半数がすでに死に、残る半分も戦闘不能。急を要する話ではないと警備隊のほうで判断されたから、シェリダンへの連絡が少し遅れているのか。
「刺客の一人は下級貴族の男爵で、中には各国で有名な剣の手練もいたそうです。カミラ様の手駒にそれほどの使い手がいたかと不思議だったのですが」
「ロゼウスが、か」
顔色も変えずに返り血を拭うロゼウスを見遣って、エチエンヌが溜め息をつく。
「シェリダン様、あんな化物をこのまま手元に置いといて平気なのですか?」
「それはこれから考える話だ」
刺客のことは気になるが、それは選りすぐりの優秀な警備隊の報告を待てばいい。それよりも前に、はっきりさせておかなければいけないことがある。
シェリダンが一通り身体を拭い終わったロゼウスに歩み寄ると、ローラが汚れた布を抱えて引き下がった。
「……何?」
僅かな疲れを顔に滲ませたロゼウスが、胡乱な瞳でシェリダンを見上げる。
「刺客を撃退したそうだな」
「ああ。死体の片付けは後から来た兵士に任せちゃったけど」
「カミラを助けたのか。私の最大の敵は妹だと知っているのに」
「……悪いのか?」
深紅の眼差しが険しくなり、シェリダンを睨み上げる。彼は寝台に腰掛けるロゼウスを押さえつけるようにして、上から覆いかぶさり、真下に組み敷いたロゼウスの顔を見ながら告げる。
「そのことは後でよい。それよりも……《風の故郷》が暴かれたそうだぞ」
ロゼウスの顔色が変わる。《風の故郷》というのは、ローゼンティア国内にある王家の墓所だ。だがその報告を聞いたロゼウスの表情は、父母の眠る場所を荒された怒りではない。
これはそう、期待、待ち焦がれていたものを手に入れたような。
そしてシェリダンはさらに告げる。
「幾つかの墓は内側から暴かれていたそうだ。……これはどういうことだ? ロゼ王妃」
通常、墓を暴くのは副葬品目当ての盗賊か、常軌を逸した死体愛好家だけだ。それも当然外側から土の掘り返した跡も新しい墓を暴く。内側から墓が開けられるなど通常は考えられない。死者は蘇りはしないのだから。そのありえないことが、今回は起こった。
「…………くっ!」
ロゼウスが顔を歪める。濡れたような紅唇の端を持ち上げて――嗤う。
ローゼンティアの民はヴァンピルだ。
そしてヴァンピルは、不死の魔物と呼ばれる。
「くくくくく。ははっ! そうか、ついに」
心臓を刺したら死んだ。首を斬ったら死んだ。四肢をばらばらに切断したら死んだ。首を絞めたら死んだ。だから吸血鬼にまつわる不死の話など嘘だと思っていたのに。
「そう……生き返ったんだ。あんなにバラバラにされたからどうなるかと心配だったけれど、それに目覚めさせる者もいなかったし。でも大丈夫だったんだ」
ヴァンピルは不死の魔物。それは死なないのではなく。
殺しても、蘇る。
「死体をかき集めた甲斐があった」
寝台の上に横たわりながら、ロゼウスが嗤う。上に覆いかぶさるシェリダンの作る影がその顔に落ちて、暗い効果を与える。普段は人形のように美しく冷ややかな美貌が、今は禍々しい愉悦に歪む。
そうだ。あの時、城中の王族を惨殺したとき、シェリダンはその死体をロゼウス自身に集めさせた。不死の魔物であるから念入りに切り刻めと引き連れた兵士たちに命じ、その通り四肢を首を切断させた無残な亡骸を彼は丁寧に拾い集め、それぞれの身体をそろえて土の下に埋葬した。あれは死者への敬意だと思っていたが。
「このためか」
全てはこのためだったのだ。ロゼウスにはわかっていたのだ、同族たちが蘇ることが。それでも殺した王族の全てが生き返ったわけではない。彼の父に当たるだろうブラムス王と、第二、第三王妃の亡骸はそのままだった。墓が暴かれ消えていたのは、王子や王女たちの遺体。
だが、それで十分だ。ロゼウスの長兄はすでに二十七歳、長命のヴァンピルであるからこそ年若く思えるが、シェリダンより十も年上。十分に王位を継げる年齢だ。そして彼が生きているとわかれば、此度手に入れた所領は呆気なく取り返されるだろう。例えこちらにロゼウスがいるとしても、彼は第四王子。人質としての意味は薄い。
そして何よりも、ロゼウスは嗤っている。自らの勝ちを確信した者の笑顔だ。
ああ、そうか、お前は。
「私を裏切ったな」
「――裏切るも何も、最初から俺はお前の仲間なんかじゃない」
突き放す言葉。
それは確かに真実。
シェリダンは懐に手を入れて短刀を握り、柄の部分でロゼウスのこめかみを打った。ガッと鈍い音がして、頭部から血を流したロゼウスが身を捩る。横を向いた拍子に髪がこぼれ、その表情は窺えない。
「シェリダン様! 何を」
「王妃様!?」
背後のリチャードとローラが慌てた様子で叫ぶが、シェリダンはただロゼウスだけを見ていた。苦悶に顔をしかめるでもなく、こめかみから血を流した彼は顔をシェリダンへと向けなおす。
「――俺はあんたのことを、愛してなんかいない。これからもずっと、愛したりしない」
憎み続けると、紅の瞳が告げる。この世の何よりも美しい柘榴石の瞳が、憎悪と冷たい怒りに染まっている。
そして口元は愉悦に嗤う。シェリダンの胸に、暗い感情が湧き上がり喉元に込み上げる。
口をついて出る言葉。
「リチャード、エチエンヌ」
「は、はい」
「なんですか? シェリダン様」
強く殴ったにも関わらず、こめかみから一筋だけ血を流した他はさしてダメージを受けた様子もないロゼウスの顔も、怪訝そうにシェリダンを見る。
彼は侍従と小姓へ告げた。
「ロゼウスを犯せ」
「なっ……!」
「えっ?」
振り向かないまでも背後の二人の驚いた顔がわかる。目前のロゼウスは、ただ口元を引き結ぶ。
「何をしている。命令だ、従え」
「で、ですが、陛下」
戸惑うリチャードに対し、素直に頷いたのはエチエンヌの方だ。
「いいじゃない、リチャードさん。こんな裏切り者どうなったって。今更牢に放り込んだり処刑なんかしたら国民にも不審に思われる。そのぐらいだったら、こっそりバレないように、ここで痛めつけておけばいいじゃない。女と違って犯したからって孕むわけでもないし、抱かれるしか脳のない奴隷人形らしくさぁ。やっちゃえばいいんだよ」
シェリダンと場所を入れ替わったエチエンヌは、ローラと同じ愛らしい顔立ちを暗い愉悦に歪める。
「あんたが二度と、シェリダン様を裏切ったりできなくしてあげる」
◆◆◆◆◆
「陛下、お気を確かに」
「私は正気だ、リチャード。疑うならむしろ王妃の方を心配しろ」
そうしてシェリダンは、王妃となった彼へと視線を向ける。ロゼウスはエチエンヌに押さえ込まれて、破れた衣服から艶かしい素肌を晒している。それも年若い小姓の手によって無理矢理剥ぎ取られ、全裸にされる。
「いいザマだな、ロゼウス。……せめて何も知らぬ存ぜぬで黙っていれば、こんなことにはならなかっただろうに」
ロゼウスを挑発しながら、しかしそれこそがシェリダンの本心に聞こえた。彼はロゼウスに裏切られたことが辛いのではない。力尽くで祖国から攫い、無理矢理女衣装を纏わせて妃などと呼ばせている相手から少しも恨みを買わないなどと思うほど、シェリダンは愚かではない。
だが、あの哄笑はなかった。高慢に振舞いながら本心では近しい者の親愛を欲しているシェリダンを逆上させるには十分だった。ロゼウスがしたことは。
あれはあからさまな敵意を示す行為。
もしも彼がシェリダンの目の前で嗤わなければ、黙ったまま陰でほくそ笑んでいれば、シェリダンはここまで傷つかずに済んだだろう。所詮はその程度の下郎だと、ただ手慰みに弄ぶだけの肉人形が何を考えていようと構いはしないと、自分を納得させられただろう。
けれどロゼウスは、ただ容貌の美しいだけではなく、飾り気ない言葉と背筋に戦慄を走らせる程の強気でシェリダンに真正面から向き合う人物だった。それだけに、堪えたのだ。
リチャードがシェリダンに命令されるがまま、エチエンヌに先導される形でロゼウスを犯す。幾つもの虚実の上に織り成された地位とはいえ、一国の王妃の立場にある人物を、夫の目の前で。しかもそれを命じたのは夫である国王自身だ。
同じようにこの役目を言いつけられたエチエンヌは躊躇いもなく、自分とさほど外見年齢の変わらない少年の柔肌に手を伸ばす。シェリダンがわざわざ「犯せ」と言ったからには、手荒に、軽い拷問をしろと言う事だろう。その意味に忠実に、小姓は王妃を嬲る。
「よくも、シェリダン様を」
「いっ、あああっ!」
ローゼンティア人の尖った耳を、舐める振りで歯を立てて噛み切ったエチエンヌの行為に、リチャードに両腕を頭の上で押さえつけられたロゼウスはじっとりと汗を浮かべて苦悶の表情を浮かべる。華奢な身体が寝台の上で跳ね、背を仰け反らせる。
「ん……このままただ犯してもつまらないしね……もっと、もっと苦しんでもらわないと」
エチエンヌは乱暴にロゼウスの鎖骨や首筋の辺りに舌を這わせ、痛々しく歯型が残るほどに強く口づける。その度にもがいて逃げ腰になるロゼウスの身体をリチャードが押さえつける。ロゼウスは本来であれば抵抗の一つもするのだろうが、シェリダンと交わした約束はまだ有効だ。自分が下手に動けば故国の民がどうなるかと思えば、ろくな反抗もできやしない。
じわじわと陰湿に嬲りながら彼を犯す方法を考えていたらしいエチエンヌが、思いついたというように顔を上げる。
「そうだね……とりあえず、犯りやすいように余計なもんまず抜こうか。リチャードさん、これ、浴室まで運んでよ」
ロゼウスを指してエチエンヌが告げる。
「浴室?」
「そ、この部屋汚すわけにも行かないし。ローラ、アレ持ってきて」
「アレって……ちょ、マジで、アレ?」
「うん。いいですよね。シェリダン様」
「何だかよくわからんが好きにしろ」
もはや投げ遣りになったように気のない様子で、シェリダンは許可する。まだ戸惑う顔のローラがともかくも部屋を離れて道具を持ってきた。王族専用の広い浴室に連れ込まれたロゼウスは、それを見て青ざめる。
「なっ……」
「へぇ、知ってるんだ? 見かけより淫乱だねぇ。使ったの? 使われたの? その反応を見ると使われた側だね」
わかりやすく顔色を変えて微かな抵抗をするロゼウスの表情に、エチエンヌが嗜虐的な笑みを浮かべる。
「や、やめろ……っあぐううぅ!!」
浣腸器、と呼ばれるというそれを肛門に差し込まれ、薬を注入される。腹の中を逆流するような液体の感触に美しい少年が苦痛の表情を浮かべる。
「がっ……はっああ、ひっ……・」
腹が妊婦のように膨れるまで容赦なく薬を注ぎ込んだエチエンヌは、醜く丸くなったロゼウスの腹を指でつまむ、それだけで激しい苦悶が襲うようで、彼は喘ぎ、短く呻きながら涙を流す。
「も、だめ……破れちゃ……」
「んなことないって。このぐらいならまだいける。……でも、もういいかな」
「ああっ」
涙の滲む目元を拭う暇すら与えず、中のものをそのまま浴室の床に出させる。絶望に呻き、排泄物で濁った液で汚れた床に崩れ落ちそうになるロゼウスをリチャードが支える間に、エチエンヌは次の道具をすでに用意していた。
「ほらほら、下終ったら次は上もしなきゃね」
ホースを取り付けた漏斗でただ単純に大量の水を飲ませるというだけのことだが、やられる側にしてみればこれも立派な拷問の一種だ。またしても腹部が今度は胃の方から膨れ上がり、堪えきれずに盛大に吐き出す。すかさずまた水を流し込んで吐かせ、また流し込み……何度も飲んでは吐いてを繰り返して、胃の洗浄をする。上からも下からも出させられたロゼウスは全身を洗い終える頃にはもうぐったりとしていた。だがまだ意識はあるようだ。
「大丈夫ですか?」
死なせては困るだろうと義務的に問いかけたリチャードに、帰ってくるのは険しい眼差しだった。これなら大丈夫だろう。
「じゃ、そろそろ本番に行きましょうか」
これだけ責め苛んでおいてまだ甚振るつもりらしいエチエンヌの指示に従い、リチャードが脱力したロゼウスの体を抱え上げる。濡れた髪と身体を拭いて再び三人して寝台に上がる。力なくシーツの波に倒れ付したロゼウスは、もう抵抗する気力もないようだ。
エチエンヌが彼の足を開くと、迷わず股間に手を伸ばした。顔を引きつらせるロゼウスに構わず、小姓は彼のものに添えた手を動かす。残酷なぐらい丁寧に揉みしだき、撫で、擦る。
「あ……はぁ……うあ……」
与えられた刺激の快感に抗えず熱い息を零し始めるロゼウスの耳元にエチエンヌが囁く。
「このド淫乱の、売女風情が」
憎しみを込めて。恥辱に顔を歪めるが悦楽に抗いきれないロゼウスに、シルヴァーニ人の少年は極上の笑みを見せながら、いったん手を止める。怪訝に思った彼らの目の前で、エチエンヌは細い紐を取り出してロゼウスの足の間に近づけた。意図を察した彼の顔から血の気が引く。
「うあ……っああああ!!」
ギュッと根元をきつく縛られて、ロゼウスは目尻に新たな涙を浮かべる。男根を縛られると、イけなくなる。それをわかっていて、エチエンヌはやっているのだ。
「やめ……コレ、外して……」
「いや」
言いながら、エチエンヌはロゼウスの背中側に周り、柔らかそうな尻を開かせながら、無造作に肛門へと指を突っ込む。
「ひぃっ!」
直腸を乱暴にかき回されてロゼウスが悲鳴を上げるのも構わずに、彼は指を抜きながら言う。
「んー、拡張してないし慣らしてもないから狭いね。まあいいか」
そして壊れても構わない玩具を地面に叩きつける子どものように、エチエンヌはロゼウスの尻の下に膝を入れる。自分のモノの上にロゼウスを座らせるようにして背後から貫く。自分の体重で逃れることもできずにそれを飲み込ませられたロゼウスが絶叫する。
「あああああああああああああ!!」
慣らしてもいない箇所に無理矢理ねじ込まれたのだからそれは余程の痛みだろう。涙と涎を垂らして引きつった悲鳴を上げ続ける彼を無慈悲に貫くエチエンヌの方は、悲鳴を気にすることもなく腰を動かし始めた。内部が裂けて血が流れたのか、潤滑油となった血がニチャニチャと淫らな音をさせて、余計ロゼウスを責める。
「あ、はっ……っ、ひ、あ、ああ……あああ」
痛みと衝撃とに壊れたような断続的な苦鳴を上げて、失神寸前のロゼウスの中でエチエンヌが放つ。
「んっ――」
微かに頬を染めて、濡れた金髪からぽたぽたと雫を垂らしながら達した瞬間にエチエンヌが色っぽく喘ぐ。一方のロゼウスは死にかけの虫のように身体を痙攣させている。陵辱されて苦しんでいる姿に、エチエンヌでなくとも嗜虐心を擽られる。
もっと、もっと苛めて、啼かせてみたくなる。
ずるりと、粘性の液体が糸を引きながら自分のモノを取り出した加害者である少年が、被害者である少年の傷だらけの白い背中にふわりと抱きついて。
「あんたのせいで僕はこの頃全くシェリダン様に構ってもらえないんだもの。このぐらい当然でしょ?」
髪が垂れて露になったうなじに口づけながらのその言葉に、宿っていたのは殺意と言う名の感情。
ロゼウスが正室として、王妃としてこの国に来るまでは、女を抱かないシェリダンの夜伽役はずっとエチエンヌが務めていたのだ。彼は主君を愛している。だから。
「ん? リチャードさん」
華奢で美しい少女のような少年たちが艶かしく身体を重ねあう情事に見入っていたリチャードの方に視線を向けたエチエンヌが声を上げる。
「勃ってんじゃん、ここ」
「え? ……あっ!」
指摘されて初めて彼は自分の状態に気づく。二人のやり取りに触発されて、傍観者のくせにすっかりと自分のものを硬くしてしまっていた。膨らんだ股間を、ズボンの布の上からエチエンヌが引っかき、思わずみっともなく声を上げてしまいそうになる。
そしてエチエンヌが姉のローラに良く似た美しい面差しで誘うように。
「じゃ、普段はノーマルなリチャードさんまでやる気になったようだし、今度は三人で第二ラウンド始めようか」
その様子を、シェリダンはずっと無表情で見ていた。