荊の墓標 22

120*

 夢を見ていた。
 あの日の庭園。
 クルスは自らの剣を持って、一人の青年にその切っ先を向けている。手袋を叩きつけて、相手を睨む。今の自分から昔の自分に忠告が叶うなら即座にやめろと言ってやるのに、そんなことできるわけないのが哀しかった。
 決闘を仕掛けた。負けた。
 相手はその端正な容貌を歪めて嗤う。
 それだけならまだしも、打ち負かされたクルスへと手を伸ばす。剣技に関してはまだともかく、この時のクルスの腕力はまだ、少年期を抜けない子どものそれ。頼りない、それ。とうに成人した大人の力には敵わず、呆気ないほど簡単に地面に押し倒されて組み伏せられる。
 無理矢理仰ぐことになった空が狂気のように青く、一瞬のその光景すら青年の長い蒼い髪が紗幕のように塞ぐ。
 見上げた相手の、白い肌に浮かぶ口元が嗤う。ふいに、決闘で怪我をすることや命を失うのとはまったく違った恐怖が込み上げてきて、思わず身も世もなく抵抗した。叫んだ。
 口づけられて滑り込んだ男の舌の感触。生温い唾液の味。肌蹴られた胸元を撫でる手。何もかもが気持ち悪い。イヤだ。誰か。助けて。
 王宮に用事のあった父親が姿を見せたときは本当にほっとした。
 相手は伯爵。こちらは当時侯爵子息。相手は元は公爵家が降格されたもので、こちらはもともとの階級から成り上がったもの。そして事が事だけに訴えることもできない。
 蟠りを抱えたままクルスは成長し、やがて、その因縁ある相手がクルスと同じくシェリダン王子の懐刀の一人だと知る。
 もう、あの頃ほど彼を怖いと思っているわけではない。現に、シェリダンの命令だと思えば協力だってできる。だけれど。
 そこで夢は急速に遠ざかっていった。人の気配に、身体が自然と起きはじめる。
 冷たい。硬い……石? の感触。クルスは今までどこか石床のある部屋に転がされていたらしい。
「気がつきましたか?」
 聞き覚えのある……なんてもんじゃない。よく知っている声が聞こえた。
「イスカ……ト、……く」
「おはようございます」
「ここ、は……」
「地下牢ですよ。あなたが忍び込んだあの屋敷の、ね」
 薄汚れて凍えた静謐なその部屋に、嘲るような彼の声は思いがけずよく響く。
「な……ん……」
 喉が貼りついたように、声が上手く出ない。渇いたな、と思った瞬間、鉄格子の扉を開けてイスカリオット伯は中に入ってきた。
 けれど扉が開いても、逃出す事はできない。地下牢の床に転がされていたクルスの手足は、縄できつく縛られている。腕も動かせないよう胸の辺りと、膝までがっちりと。まったく、これでは本当に手も足も出ない……。
 このままならさぞや首を落とし安いだろう。
 そう思った瞬間、足の拘束が解かれた。ついでに胸も。えっと思う暇もなく肩を無理矢理抱き起こされ、顔をあげさせられて。
「ん……」
「喉渇いてるんでしょう、さ、どーぞ」
 投げ遣りな口調で、イスカリオット伯爵ジュダはクルスの口元にどこからか取り出した水差しを近づけた。ようやく水分をとって、人心地がつく。
「はっ……イスカリオット伯!」
「なんです? クルス=ユージーン侯爵」
「先ほどの話は、本当なのですか!?」
 この際腕の拘束などどうでもいい! クルスは真っ先にそれを尋ねた。どうあってもこれだけは、確かめておかねばならない。
「あなたはこの国を……シェリダン様を裏切るおつもりですか!?」
「裏切る?」
 彼は酷薄に微笑んで、祭壇の上の羊を眺めるような、哀れなものを見つめる眼差しでクルスを見た。
「裏切るも何も、私ははじめから誰の味方でもない」
「そ……」
「誰も彼もを自分の基準で考えるのは誤りですよ、クルス卿。それがいい意味であれ悪い意味であれ、人は確かに自分と同じように他人を考える生き物ではあります、が……」
 クルスよりも八歳ほど年上のジュダは、大人が子どもに対して言い聞かせるように言う。
「飛んで火にいる夏の虫、か」
「え?」
「さぁ、どうしようかな。ここであなたを始末してもいいんですが、そうすると陛下の疑惑を深めますからね」
 そうだ。自分は出る前にこのことをエルジェーベトに告げてきた。彼女から連絡が行けば、あるいは。
 しかしジュダの言葉は憎らしいくらいに余裕綽々で、この事態にも全然動じていないようだった。クルスは今更になって自分の行動を後悔する。一人で出てきたのが吉と出るか凶と出るか、自分でもわからない。部下を使えば人知れず始末されてしまうだろうし、自分で行けばこういう危険はあるけれど、少なくとも侯爵が行方不明になれば、シェリダンに何らかの異常を知らせることだけはできるだろう。
 殺すなら殺せばいい、と腹を決めて叫ぼうとしたクルスの耳に、ジュダの、どこか気だるげで投げ遣りな声が届いた。
「まあ、いいか」
「な……」
「準備はすでに整っているのだし、後は計画を予定よりも早めてしまえばいいだけですしね。先ほどあなたも見たとおり、あのヴィルヘルム王が協力してくれるというならば、わざわざ彼らを待つ必要はない。むしろ、ドラクル閣下たちがいない今の方が好都合かも……」
「な、何を……」
 するつもりなのだと、最後まで問いかけることは叶わなかった。
「がはっ!」
 腹部に入れられた一発のせいで、一瞬息が止まった。彼は腕を拘束されたままのクルスの前髪を掴んで、無理矢理顔をあげさせる。
「い、ぐっ」
「準備は整っているとはいえ、やっぱり人に計画を左右させられるのは不愉快ですからね……」
 余裕に見えたが、これはこれでジュダは怒っているらしい。橙色の瞳を細めて、彼はクルスを見下ろした。その瞳がふと、興味深そうな色を湛える。
「連絡をつけて状況を整えるまでに、少なくとも数日はかかる、か。シェリダン様がユージーン侯爵の不在に気づくのもだいたいそのぐらいだとすると」
 エルジェーベトには細かいことを連絡していない。彼女が動き始めるのがいつになるのか。国内で彼女に勝てる者がいない以上、ジュダが彼女に口封じの手を放つ事はないとしても。
 嫌な予感がする。
「別にここであなたを殺すことに益はないわけですし、そう、それに」
 彼はクルスの前髪を放し、代わりに落ちた頭を、顎に指を当てることでまた顔を上げさせる。至近距離で見つめられて、その瞳から目が離せない。
「そういえば君には、他にも何度か借りがありましたね……五年前の続きも」
 びくり、と自分の身体が震えるのをクルスは止められなかった。目覚める前に見ていた夢を思い出した。
 庭園。青空。のしかかる男の身体。
 もっと酷いことに、今日は腕を拘束され、しかもここは誰の助けも来ない地下牢。
「ユージーン侯爵クルス卿、実は私は、あなたの事が嫌いで嫌いで。その陛下に忠誠を尽くして、それを疑うことなど考えてもいないというような態度に腹が立って仕方ないんですよ。その、挫折など知らないというような態度も。だからあの時、ずたずたに引き裂いてやりたかった。本当なら王宮で強姦された侯爵の一人息子は、あまりの絶望に自ら首を括るという悲劇を演じてくれるはずだったのに」
「イスカリオット伯……」
 ジュダがクルスを見る目は、例えようもなく冷ややかだ。
 視界が揺れる。あの日に戻る。
「さぁ、しましょうか。あの日の続きを。――知ればいいんですよ、あなたも。この絶望を」

 ◆◆◆◆◆

 私はどうしてこんなところにいるのだろう。
「カミラ姫、どうかしたかえ?」
 ロゼウスの一番上の姉……アン王女がカミラの様子に気づいて声をかけてくる。
「いえ、なんでもありません」
「そうか? だが、無理をしてはならんぞ。具合が悪くなったら、すぐにでもわらわにでも誰にでも言うがいい」
「はい……」
 ローゼンティア第一王女は、どうやら随分なお人好しらしい。カミラの身体を気遣ってそんな態度をとるのは、彼女くらいのものだ。男性陣はもちろん、もう二人の王女はすっかり萎縮してしまっている。
 それは当然でしょう。だって、私はエヴェルシードの国王の妹。
 あのルースという姫はわからないけれど、メアリー姫はカミラに怯えているようだった。あの姫君はカミラだけでなく、自らの兄であるドラクルたちにも怯えているようだから仕方ないが。
「……これから、どうするのかしら」
「え?」
「アン姫。何かドラクル殿下から聞いていらっしゃいますか?」
「……いいや。わらわは、まだ何も。ルースならば何か知っておるやも知れぬが」
 彼女は今、ここにはいない。ドラクルも、それからヘンリーと呼ばれていた王子もいない。
「まあまあ、そんなに気構えないでよカミラ姫」
 彼女たちをここに押し込めている張本人ハデスは飄々としたもので、同じ部屋の隅のソファを独占して寝そべっている。
「今は情勢が不安定だからね。さすがにシェリダン王たちも動き出してきたし、ローゼンティアの方も」
 ローゼンティア、と言う言葉にアン王女が一瞬身体を震わせた。彼女は国を思っている。
 カミラとは違って。
「そうか……やはり、割れてしまうか。国民も巻き込まれて」
「今更だよ、アン殿下。国の頭が争えば尾まで巻き込まれるのは仕方ないでしょ」
「じゃが、民には何の罪もないのに……」
「人間なんてそんなものだよ。何もしないのが良いこととも限らないし」
 そこでアン王女は視線をそっと彷徨わせた。
「そう……じゃな」
 今の彼女たちの現状は、これまでの誰かの行動の結果であり、それは何も行動を起こさなかったという行動の結果でもある。あの日、あの時、もしも勇気を出して止めていれば起きなかったはずの問題の。
 気分が悪くなってきた。
「カミラ姫?」
 カミラはアンの手を振り払い、駆けた。気持ちが悪い。吐き気がする。何もかもがおぞましい。怖い。
 胃をひっくり返して中のものを吐き出して、一息ついたところで脱力感が身体を支配して、洗面所から動けなくなってしまう。どうしようもない不安と恐怖に、誰かに抱きしめて欲しいと思ったとき、やはり一番に頭の中に思い描いたのはロゼウスだった。
 愛しい愛しいあの方。
 なんで私はここにいるんだろう。できるなら昔に戻りたい。国と国の争いの話なんて、難しい事は知らないわからない考えたくない。ああ、どうして。
 私をこんな状況に追いやったシェリダンが憎い。あんな男、さっさと死んでしまえばいいのよ!
「……ま、ロゼウス様……」
 目尻に涙が浮かんでくる。それが嘔吐に伴う生理的なものか、心から流れてくるものなのかもう判別がつかない。
 どちらでも今、カミラが泣いているということには変わりがない。
 そしてそんなときに、抱きしめてくれる人も慰めてくれる人も誰もいないということも。
「ロゼウス様、ロゼウス様、ロゼウス様……」
 戻りたかった。戻れないと知っているからこそ、戻りたい。
 カミラを嘔吐させる原因は、この腹に宿った命。それはもしかしたら希望かもしれない、もしかしたら、絶望、なのかも知れない。
 無理矢理組み敷かれて足を広げさせられた恐怖と屈辱は忘れない。シェリダン。あの男は私の兄でありながら!
 だけれどそれと同時に、痛いような甘い記憶も蘇る。ロゼウス様。いくら細く見えても、女であるカミラより確かにしっかりとした体つきだった。すまなそうに触れる手。だからこそ、涙が零れる。
 あの薔薇の庭園で、ただ向かい合って話をしているだけでカミラは幸せだった。
 もう、どうやってもあの日には戻れない。

 ◆◆◆◆◆

 身体が動かない。
「さっきの水……何か、薬を……」
「そうですよ。ようやく利いてきたようですね」
 奇妙な倦怠感を覚えて、クルスは目前のジュダに尋ねた。彼は嘲るような笑みを浮かべたまま、その言葉に頷く。
「これでは抵抗もできませんね」
 全身が気だるく重く、動かない。先ほど飲ませられた水に入っていたのが何かはわからないが、どうせろくなものでないことは確かだろう。
 抵抗できないならこれも必要ないだろうと、伯爵はクルスの腕の拘束も全て外す。縄が解かれる瞬間、力を振り絞って身体を動かそうとしたが、やはり駄目だった。
「ああ……綺麗に痕がつきましたね」
 手首を縛っていた縄のために、赤い模様がくっきりと残っている。それを眺めて、伯爵は恍惚と呟いた。
 腕に残った縄目を舌で舐め上げる。生暖かく濡れたその感触に、鳥肌が立つ。
「あ……あ……」
「さて、お楽しみといきましょうか」
 すらりとした長く形良い指が、シャツの胸元を掴む。力を入れて、生地を引き裂いた。悲鳴のような甲高い音が響く。
 ここは彼の屋敷の地下室。
 薄暗い石造りの牢獄。床は冷たく、かび臭い。鉄格子が無慈悲に外界へのつながりを閉ざす。
 クルスは今、ここで、裏切り者のイスカリオット伯に犯されようとしている。
 五年前の忌まわしい記憶が蘇って、恐怖に身体が震える。それを、伯は目ざとく見抜いて声をかけてきた。
 破られた胸元が肌蹴られ、晒された肌に指が這う。
「怖いんですか? ユージーン侯爵。……いいえ、ここはあえて、クルス君と呼ばせてもらいましょうか」
「あ……」
 クルスは自分で自分が青ざめていくのがわかった。
「や、やめ……ん!」
 床に押し付けられ、唇を重ねられた。口腔を蹂躙するあの日のように濃厚な口づけに、ますます恐怖が煽られる。
「ん……っ、ぐ、……はぁ」
 絡められる舌に、意識が奪われる。口の端から唾液が零れて顎を伝った。息が、苦しい。
「はっ……はぁ、はぁ」
 口づけをやめて、伯はクルスの下唇をぺろりと嘗めてから顔を離した。
「どうです?」
 猫のように細められた瞳が、こちらを覗き込む。
「何、が……」
「まだ、駄目ですか。じゃあ、今度はもうちょっと……」
 クルスの返答がつまらなかったのか、ジュダはまた何か手を動かし始めた。
「何を……ひっ!」
 その手が、クルスの下肢に触れてくる。
「ああ、その前にこっちから慰めてあげるべきでしたかね。処女でしょうし」
「なっ……やめ、イスカリオット伯! ん!」
 下肢に伸びた手はそのままに、胸元に伸びたもう片方の手が破いたシャツをのけて敏感な場所へと触れる。
「痛っ」
 乳首を抓んだジュダは、それを執拗なまでに弄び始めた。力の入らない身体はいつの間にか、ジュダの膝に抱えあげられている。
「あ……いや、やめ、てくださ……い……」
 大人の男の、優美だけれど戦いを知らぬものではない武骨な指に弄り回されて、そこが赤く尖り始める。
 それと共に、何ともいいようのない感覚が背筋を這い上がってきた。
「痛いだけじゃないでしょう?」
「……っ!」
 くすくすと耳元で笑われて、思わず頬が紅潮する。それに気をとられていると、ふいに身体の中心に刺激が加えられた。
「あっ……!」
「そろそろこちらも可愛がってあげましょうか。ああ、気にしなくていいですよ。後でたっぷりこちらも楽しませてもらいますから」
 服の上から乱暴に握りこまれて、思わず悲鳴が上がる。強くすりあげる手の動きに、腰が逃出そうとするがそれを許してくれる相手でもない。
他人の手に自分のものを触られているという羞恥に、どうしようもなく顔が熱くなる。
「もう、やめてください……っ!」
「まさか」
 クルスの懇願を薄笑いで一蹴し、ジュダはさらに大胆な行動に出る。服を剥ぎ取られ、裸身を目の前に晒された。刺激を加えられて緩々と熱をもちかけた場所を見せ付けられて、いたたまれなくなるクルスの様子には構わずに、不躾なくらいまじまじと観察してくる。
「へぇ……」
「やめ、やめてください……あっ」
 生暖かい舌の感触を覚えると同時に、濡れた粘膜に包み込まれる。
「な、何をして……ああっ!」
 先ほど手で弄ばれた部位を、今度は口でしゃぶられる。異なる刺激に、もう言葉も出ない。
「ふ……うぁ、うう……」
 ぴちゃぴちゃと卑猥な水音が響いて、耳からクルスの行動を束縛する。認めたくはないけれど確かな快感に、動けない。
 頭が真っ白になる。
 息があがって、思わず呼吸を荒げて酸素を求めた。
「信じ、られない……!」
「そうですか? よくやってるでしょう? シェリダン様とか」
 怒気を込めて呟けば、飄々とした言葉が返される。だけれど、主君のことを持ち出されては黙っていられない。
「ふさけないでください! あの方とあなたのような人を一緒にするなんて!」
「私とシェリダン様と、どこがそんなに違うって?」
 イスカリオット伯はクルスの両腕を掴むと、身体の上にのしかかってきた。
「あなたはあの人を神聖視しすぎていませんか? ご幼少の砌より父王陛下に強姦されて、いけない遊びをいろいろと教え込まれているあの方がそんなに初心なわけはないでしょう。そんなんだったら、どうして男を花嫁になんかするもんですか」
「ですが、あの方は……っ!」
「諦めなさい、クルス君」
 彼はいっそ酷薄なほどに優しく微笑んで。
「あなたもあの方も、これから堕ちるところまで堕ちていくんですよ」
 絶望を突きつけた。
「ぐっ!」
「さぁ、今度はあなたが僕を楽しませてください」
 いきなり口内に彼のものを突っ込まれて、涙が出そうになる。いっそ噛み切ってやろうかと思ったのに、顎に力が入らない。
「う、むっ、ん――っ!?」
「薬がいいように利いているみたいですね。今のあなたでは、大人しく僕のものをしゃぶるくらいしかできない」
 熱く硬いものに口腔内をかき回されて、吐き気が込み上げる。
 しばらくして出された白濁を、残らず床に零した。ごほごほと噎せるクルスを、ジュダは無理矢理ひっくり返す。
 固い床に押し付けられて、あちこちが軋んだ。冷たい石床に胸の先端が直接触れて、妙な感覚を伝えてくる。
 ジュダに腰だけを抱えあげられて、みっともなく犬のように顔を床につける羽目になった。
「な、にを……」
 自分でも触れた事のない場所を男の指がいきなり暴く。
「ひいっ!!」
「やっぱりきついですね」
「あっ、痛、痛い! やだ! いやぁ!!」
 しばらく自分の指を舐めていた伯が、その指をクルスの後ろへと伸ばしてきたのだ。肛門に無理矢理侵入しようとした指の質量に、激痛が走る。
「痛! や、やめて! やだぁああ!! ああっ!」
 構うこともなく、ジュダの指がクルスの中をかき回す。その奥の腸ごと引きずり出されそうな感覚に、言葉にならない恐怖を覚える。
 けれど、中のある一点をジュダの指がついた時、確かに痛みだけでない感覚が背筋を走った。
「ここ、ですね」
「な……あ、ああっ! ひっ、ふぁあ!」
 もうたまらなくなってぽろぽろと涙を零せば、くすくすと笑う声が降ってきた。段々と数を増やし、先ほど感じた場所を集中的に攻める指先に、何も考えられなくなる。
 やがて、指先が抜かれるとようやく圧迫感が消えてほっとした。
 けれどそれも一瞬のことで。
「あ……あ――っ!!」
 指とは比べ物にならない質量が、さんざん解きほぐされて、けれど間違ってもこんな風に受け入れるためではない場所へと侵入してきた。
すさまじい痛みが神経を焼ききる。
「あなたが悪いんですよ、クルス君」
 執拗に中を突き、内壁を擦るそれの感触に気をとられて、その言葉が何を意味するのかもわからずに。
 クルスは意識を失った。