荊の墓標 36

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「エヴェルシードに戻りたい」
「私は便利な移動道具じゃないわよ。シェリダン王」
「……」
「……わかったわ。連れてってあげるわよ」
 デメテルの移動能力により、シェリダンたちは皇帝領薔薇大陸から再びシュルト大陸東部の国、エヴェルシードへと戻ることとなった。
 準備を整え、一行は城の門前に立つ。虹色の花畑の中に立ち、最後の武器確認を行う。
 デメテルは何の思惑があってか、これ以上はないというほどしっかりと彼らの装備を揃えてくれた。ロゼウス、シェリダン、クルス、リチャード、アンリには長剣を、ローラとエチエンヌには使い捨てのナイフを幾本も。ロザリーとジャスパーには武器はないが、全員が衣装を一新したので個々の防御力は上がった。
 エヴェルシードを追放され、着の身着のままで国を出てきた一行はもともとの持ち物が少ない。それぞれセルヴォルファスやジュダの下で最低限の路銀はもらったが、もはやそれで何とかなるような状況でもない。
 その経済面に関する不安を、デメテルは一蹴したのだ。出し惜しみなく彼女は皇帝の居城からこれまで貢物として届けられた財宝を引っ張り出し、それぞれに見合う武器を与えた。数ヶ月分の生活費に困らないだけの金を、すぐに使える金貨、銀貨、銅貨といざと言うときの質草になるような宝飾品とで渡された。
 ロゼウスたち自身にも、何故彼女がここまでしてくれるのかがわからない。以前デメテルはこうしてロゼウスたちに協力する理由を、次期皇帝であるロゼウスに貸しを作るため、などと言っていたが……。
 デメテルにどんな思惑があろうとも、今のところ彼女が味方だというのは本当のようである。渡された品には、毒や罠の仕掛けられたものはない。それに関してはこういったものを見分けるのが得意なアンリが保証した。
「今度は全員で行くのね」
 門前まで見送りに出てきたデメテルが、最終の準備をする一行を見る。
「ああ。いつまでもここに、あなたの世話になるわけにもいかないし」
 彼女の言葉にロゼウスは頷き、隣に立つ弟を見遣る。
 初めはミカエラもミザリーもウィルもエリサもいたのに、今はもうロゼウスとアンリとロザリー、そしてジャスパーだけとなってしまったローゼンティアの兄妹。それもこの場で最年少の弟に当たるジャスパーのことは、まだ本当に味方になったとは言いがたい。ハデスに唆されて、彼は確かにロゼウスを嵌めたのだ。その行動が結果的にミザリーを殺すことにも繋がった。
 ジャスパーに関しては、不確定要素が多すぎる。ハデスやデメテルの言葉によれば、選定者は皇帝のために生まれるのだという。その宿命に則って、ジャスパーもその主君であるロゼウスのために存在するのだ。だが神の意志を現世に示す選定者としての行動とジャスパーの本心は、傍から見る分には酷くわかりにくくて仕方がない。
 一体彼が何を望み何を求めるのか。残念ながら、ロゼウスたち兄妹でさえ彼のことをこれまで本当には知らなかったということだ。ジャスパーにはジャスパーの思惑があるのだというが、ロゼウスやアンリにはそれが何なのかわからない。
 ところがシェリダンやエチエンヌたちエヴェルシードの面々は、なんとなくそれがわかるような気がすると言う。
 下手に目を離してまたハデスや誰かに接触される恐れがあるよりは、とシェリダンの提案によって今回はジャスパーも同行させることにしたのだ。奴隷として売られ、吸血衝動によって暴走し、シェスラートに協力し、ハデスを脅されたジャスパーはロゼウスたちから見れば多少性格が変わったように思える。もともと口数の多い少年ではなかったジャスパーは、最近とみに喋らなくなってきている。
 気がつくと彼は何か言いたげに口元を引き結びながら、ロゼウスをじっと見つめているのだ。
 ――僕は兄様のために生まれた。
 いつかの暗い告白がロゼウスの脳裏を過ぎる。あれはジャスパーの本心だったのだろうか。それとも選定者としての使命がそう彼に言わせたのか。
 わからないが、このままジャスパーを捨てるわけにもいかない。
「もうここに戻ってくるつもりもありませんから、ジャスパーも連れて行きます」
「そう。わかったわ。……と言っても、あなたが次の皇帝である以上、私が死んだらこの城はあなたのものになるんだけどね」
 ロゼウスの服の裾を握って佇むジャスパーを見ながらそのことを聞いて苦笑したデメテルは、どこか諦観の漂う口調で告げる。
「……そのことなんですけれど、皇帝陛下。何故、次の皇帝が即位すると前皇帝は必ず死なねばならないんですか? 皇統に関してはあまり伝わってませんけど、わざわざ前皇帝を処刑とかするんですか?」
 ハデスはロゼウスの前で何度もそう繰り返したが、実のところロゼウスはそれについてよくわかっていなかった。ロゼウスだけでなく、一般的な国王になるべく帝王学を叩き込まれたシェリダンやアンリもそれについては詳しくは知らないと言う。
 皇統には謎が多い。皇統というより、皇帝と言う方が正しいのだろうか。あくまでも皇帝は世襲制ではないのだから。だが代々の皇帝たちの前歴や退任後についての話と言うのは、ほとんど流れて来ないのが現状だ。
 現に先だって、ロゼウスたちは彼の前世だというシェスラート=ローゼンティアとその名を交換して実際に始皇帝として務めたロゼッテ=エヴェルシードの因縁を聞いたばかりだ。
「ああ、それ。そんなもの、文句は神様にでも言ってちょうだい」
「何?」
「そういう宿命ってものがあるそうよ。皇帝と選定者の殉死の運命やら、代替わりが速やかに行われるためか何か知らないけれど、前の皇帝が必ず何かで死んでから次の皇帝が即位するっていうの」
 そしてデメテルはその若く美しい顔に、悟りきったような表情を浮かべた。
「私は最近になって特に皇帝の任を解かれるような大きな失敗をした覚えはないし、これと言って生き方を変えたことはないわ。それでもあなたが今ここに、その子の身体に選定紋章印を宿して存在すると言う事は、私は近いうちに死ぬのでしょう」
「デメテル陛下」
「いいのよ。ハデスはあなたに八つ当たりで怒っているかも知れないけれど、それ自体はあなたのせいではないもの。あの子のしたことをあなたに許してほしいとは言わないけれど、あの子にも心はあるわ。特に私はあの子に対して無茶をしたからね」
 両親を殺して父の腕から紋章印を剥ぎ取り生後間もない弟の腕に移植してまで選定者の任務と宿命を与えた。デメテルの行ったそれは、ハデスの望んだことではなかった。
 けれどそうしてハデスに逃れようのない運命を与えた彼女もまた、自らが志願して皇帝になったかと言われれば違う。天啓はある日突然彼女に訪れたのだ。
 虹色の花畑で、傍目には争う気配もないほどに静かに対峙するデメテルとロゼウスの間にあるのは、去り逝く者と生き続ける者という以上に、奪う者と奪われる者という関係だ。
 二人の持つ色彩はまったく対照的である。人間の女帝は黄色い肌に黒い髪と黒い瞳を持ち、吸血鬼の王子は白い肌に白い髪と紅い瞳を持つ。生まれ育った環境も身分も何もかも違う二人。
 だがその根底には、一つの連帯感とも言えぬ共感があった。二人は同じことを知っている。
 この世には、自分自身ではどうにもならないことがあることを。
 ロゼウスは望んでローゼンティア王の第一王子として生まれたわけではない。その地位こそは誉れ高いかもしれないが、それがドラクルを苦しめ続けたものであるとすれば、それは例え何百万の国民を救っても一つの罪であるのだろう。
 ロゼウス自身にはどうしようもないことではあるが。
 そんな事情を、彼以外の人々もみんな抱えているものだ。目の前にいるデメテルも、ロゼウスの服の裾を掴むジャスパーも、ハデスも、ドラクルも。
 人は人が願うとおりには生きられない。奈落の底を覗かなければ知ることのできない深淵もあると、言葉で言うのは容易い。だが。
「ロゼウス」
 デメテルとの間に言葉の続かなくなったロゼウスのもとへ、自分の方は持ち物の確認やらクルスたちエヴェルシードの面々と相談して事の次第を解決するために必要な行程やらを確認していたシェリダンが、ロゼウスのもとへと歩み寄ってきた。
「シェリダン」
 デメテルは何も言わず、ロザリーたち別の者と話をするためにさりげなくロゼウスから離れていった。何も言えないままロゼウスはその身が離れたのを見送って、近寄ってきたシェリダンへと視線を移す。
「どうしたんだ? 出発直前に」
「ちょっとな。昨日荷物整理をしていて見つけた。ここのところ忙しくてうっかり渡すのを忘れていた」
「?」
 何のことだかわからないという顔をするロゼウスの前で、シェリダンは懐の中をごそごそとやり始めた。やがてその手に、小さな袋を乗せてロゼウスの前に突き出す。目の前で袋の中身が開けられると、その中には一揃いのピアスが入っていた。
 紅い宝石は、柘榴石だろう。きらきらと控えめだが確かな光を放つ小粒の石を眺めて、ロゼウスは声をあげた。
「綺麗だね。何、これ。くれるの?」
 渡す、ということはロゼウスにこれを持っていろということなのか? そう考えて尋ねたロゼウスだが、シェリダンから返ってきたのは否定の言葉だった。
「いいや」
 ……だったら何故俺に見せたんだ。
 意図の掴めない行動に眉を上げるロゼウスの目の前で、一度その柘榴石の紅いピアスを閉まったシェリダンは、徐に自らの耳へと手をかけた。
 シェリダンがこれまで身につけていたものは、その髪と同じ色のラピスラズリのピアスだ。けれど、どこかロゼウスが見慣れたものと違う。
「エヴェルシードにいた頃につけていたやつと違わないか?」
「気づいたか? そうだ。あれもこれも旅の途中で買った安物だ。だが、細工はすでに施してある。見ろ」
 シェリダンは自らの耳から外したピアスを示してロゼウスに説明する。
「ここをこう……こうすると毒が滲み出てくるようになっている」
「ああ、うん。で?」
「お前にやる」
 ロゼウスが声を上げる間もなく、シェリダンは自らの耳から外した方のピアスをロゼウスの耳にぶすっと遠慮なく刺した。
 ちなみに同じ耳飾りでもロゼウスはそれまでイヤリングはつけたことがあってもピアスはしたことがない。そんなことは露ほども気にかけず、シェリダンは一つ目に続き、二つ目もさっさと皮膚に針を押し込んでしまう。
「いて! ……たたた、うわ!」
「ロゼ!? どうかしたの?」
 声に驚いて振り返るロザリーになんでもないと返しながら、ロゼウスは慣れない感触に戸惑いの声をあげる。
「ちょっとシェリダン、これ……」
「常時身につけられる物の方が、いざと言うとき武器になっていいだろう」
 人の耳に予告なく穴を開けてくれた男はあっさりとそう言って、自分の耳に開いた風穴には先程ロゼウスに見えた方の紅いピアスを嵌めなおしていた。こちらは当然慣れた様子で、痛みを感じている表情でもない。
 その様子をロゼウスの隣でじっと見つめていたジャスパーが、ポツリと呟いた。
「ロゼウス兄様の色」
「え?」
「シェリダン王の耳……兄様の方は、シェリダン王の色」
 そういえば柘榴石はロゼウスの瞳の色、ラピスラズリはシェリダンの髪の色ともとれる。シェリダンの瞳は金色がかった朱色なので、同じ色合いの石は滅多にないし、これまでは髪の色に合わせて無難にラピスラズリをつけていたのだろう。だが今ではロゼウスとそれぞれお互いの身体の一部の色を交換した形になる。
「お前が私のものだという証だ」
 王城でつけていたものはジュダの城でなくした。旅の途中の港で買った安物とはいえそれまで自分が身につけていたピアスをロゼウスに押し付けた形になるシェリダンは、ロゼウスの耳から流れた血を舌で舐めとる。
「これから先何があっても、お前は私のものだ。――そして私がお前のものであるように。私はもう、それだけで充分だ」
「シェリダン……」
「永遠に放してなんかやらないからな。わかっているだろう。ロゼウス」
「うん」
「……お二人とも、僕がいるんですけど……」
 ジャスパーの存在を無視して二人の世界に入りかける野郎共に、弟は突っ込みを入れる。その怒りの眼差しを、シェリダンは余裕の表情でもって受け流した。
 更にジャスパーは怒りを煽られる。
「三人とも、そろそろ行くんでしょ?」
 出発の準備が整ったとデメテルが声をかけてきた。

 ◆◆◆◆◆

 少し冷たい風を頬に感じ、一行は知らず瞑っていた目を開けた。
「じゃ。私はこれで」
 そんな短い言葉だけを残し、デメテルが文字通りその場から姿を消す。魔術によってあっさりと皇帝領に戻った皇帝には、例えばここがシェリダンたちの思った到着地点でなくとも別の場所に移動させてくれるような気はないらしい。
 一行の周囲は、緑に囲まれていた。草原が広がり、遠くには田畑が見える。それを耕す農夫の姿は、ここからでは遠すぎて豆粒のようだ。
 あまりにも牧歌的な雰囲気。
 しかし、その遠くには建物の群生が見える。エヴェルシードの濃い灰色の建物郡が並ぶ、そこは王都だ。青い空の下にそびえている城は、王城。
「ここは……」
「この景色、どこかで見覚えがあるような気が」
 シェリダンの言葉に、クルスが答えた。
「王都の近くだと思います」
「それは見ればわかるんだが」
「そうではなくて……ええと……ユージーン侯爵領だと思います」
「お前の土地か」
「はい。見回りの中で何度も見た……と思います」
「そうだな。ユージーン侯爵領は王都近くそして牧歌的な土地だ。だが……」
「少し、雰囲気が昔と違います。雰囲気が暗い」
 クルスが悲しげに呟いた。シェリダンにもその理由がわかる。ユージーン侯爵領はクルスが侯爵家当主としての役目を果さずにシェリダンを追って国を出たために、侯爵領は罰を受けたのか、人の姿がこれだけ少ないというのに酷く空気が重苦しい。
「僕は……」
 侯爵失格だ。小さく呟いた声を、誰もが聞いたがそれに同意も反対もしなかった。確かにクルスのやっていることは領主としては失格だ。だがそれに救われているのは他でもないシェリダンである。
 王を捨て、忠誠を捨ててでも、民を守るのが領主の役割だ。本来ならクルスはシェリダンを捨て、民を守るためにカミラに傅かねばならない。
 それができないのであれば、確かに領主失格だ。そのせいでどれだけの人が苦むのか、所詮は王侯貴族の立場である彼らには理解できない。
だが、それでも、譲れないものがある。
「クルス」
「シェリダン様」
「ここからユージーン侯爵領に戻ってもいいぞ」
 クルスが言葉を失い、橙色の両目を見開く。
「何、を……」
「ユージーン侯爵としての立場に戻って良いぞ」
 シェリダンはその台詞を平然として言えるのが嘘のように、穏やかに微笑んでいる。
「何を仰るんですか、陛下! 僕は……!」
「だがこの土地の民はお前と言う主をなくしたことで疲弊している。かつてはこの国を治めていた者として、私はそれを歓迎したくはない。お前が私を選んでくれたことは嬉しかった。だが、民を大事にしてやれ、クルス。この土地には何十万もの……」
「どれだけ多くの民を従えたって、あなたが僕の主君でなければ意味がない!」
 滅多に感情を荒立てることのないクルスが、他でもないシェリダン相手に叫んだ。
「どんな立派な名君の称号を抱いたって、あなたのために働く事ができないなら意味がない!!」
「クルス……」
「僕は駄目な領主で結構です! シェリダン様、それでもあなたのために生きていたい! 僕の人生にはあなたという主がいないと意味がないんです!」
 クルスは腹の底から声を吐き出した。聴覚の良すぎるロゼウスたち吸血鬼にとっては耳が痛いくらいだ。
 シェリダンは溜め息をついた。
「それは、私が侯爵領に戻れ、と言ってもか?」
「はい」
「これが私の命令でも」
「はい。今の状態でこの国に戻り、シェリダン様を恨むカミラ姫の下に仕えてもあなたのためになるとは思えない。だから、まだ僕は、シェリダン様、あなたのお側におります」
 どうやっても意見を変えないクルスの頑固な様子に、シェリダンは二度目の溜め息をつく。
 ロゼウスがエリサを遠ざけたように、シェリダンもここでクルスを遠ざけたかったのだ。自分たちの問題に巻き込みたくないということもあるし、先程の言葉通りクルスにはユージーン侯爵領の民を守ってほしいという思いもある。
 エチエンヌやローラ、それにリチャードはもう帰るべき家も、守るべき民もない。だからこのままシェリダンのそばにいるしかないだろう。しかしクルスは違う、愛してくれる両親も守るべき民も財産も作り上げた功績もまだ、今ならば取り戻せる。
 それに。
「このままお前が私についていても、どうせ私は……」
「え?」
「……いや、なんでもない」
 言いかけた言葉を飲み込んで、シェリダンは瞳を閉じた。
これは今、クルスに意識させるべき言葉ではないだろう。シェリダンとて海の洞窟でサライに言われたことを、ハデスに再び告げられるまで忘れていた。いずれは思い出すかもしれないが、今はまだ忘れていた方がいいのだろう。お互いのためにも。
「シェリダン!」
 ロゼウスの鋭い声が呼んだ。
 はっと振り返ったシェリダンとクルスの眼に、こちらへと駆けてくる影が見える。馬に乗った人影らしい、相手はどうやら一騎だけだ。
 しかし話に集中しすぎたためか、身を隠すのが遅れた。もともと平原と遠くに田畑しか見えない目隠しするようなものの何もない場所に放り出されたのだ。その場に緑の布を被って這い蹲っても隠れられそうにはない状況だ。
「ちょ、どうする!?」
「私たちこの場では悪目立ちしすぎですよ!」
「僕たちじゃなくてもそうだよ!」
「いや、あるいは薄緑の髪のフィルメリア人あたりなら」
「隠れられるわけないだろ!」
「っていうか全員落ち着け! 相手は一騎だろう! 叩けばいいだけだ!」
シェリダンの一喝に、皆は冷静さを取り戻す。
「そ、そうだな。あの人影を倒して馬を手にいれられたら有利じゃないか!」
「九人で一頭には乗れないでしょう……」
 とにかく、ここで見つかるのは得策ではない。シェリダンもクルスもこの国内では有名人だ。しかもどこか田舎ならばともかく、王都に程近いユージーン侯爵領でその領主の顔と国王の顔を知らないと言う者も少ないだろう。
 しかし一行の心配は杞憂に終わった。
馬に乗った人影は、見慣れた相手だったのだ。
「シェリダン様!」
 女は驚きに目を瞠って馬上から叫ぶ。引き絞られた手綱のせいで、馬が前足を振り上げた。一幅の絵画のようなその様子を眺めながら、シェリダンたちも叫ぶ。
「エルジェーベト!」
「バートリ公爵!」