荊の墓標 46

第20章 貴方が見た夢(1)

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 我が荊の墓標となれ――。

 ◆◆◆◆◆

 さぁ、最後の戦いを始めよう。
「来たよ」
 ハデスの一声に広間中の全員が注目した。軽く仰のいて天井の向こうの空を見上げる彼の仕草を真似るようにその視線を追う。
 時刻は昼日中。ヴァンピルたちにとっては眠りの時間であり、その陽光は身を焼く。眩しいほどに城の外の光は白く、広間の窓からも豪奢なステンドグラスを透かして虹色の紋様が落ちた。けれど、高い天井の辺りはまだ影が落ちている。薄暗さと薄明るさの入り混じる灰色の城、狭間の地にて、因縁ある者たちは集う。
 床に淡い緑の魔法陣が敷かれ、そこを中心として突風が巻き起こった。空間を裂くようにその中から四つの人影が現れる。
「ドラクル!」
 ロゼウスの叫びに反応し、集団の中央に立っていた青年が顔を上げる。彼の両側を固めていたルースとアウグストも振り返る。アウグストは明らかに敵意を込めた眼差しで、ルースはいつもの得体の知れない微笑を浮かべて。
 一人魔法陣のある足下に屈んでいたプロセルピナは立ち上がると、彼らとはまた別の方向を見つめた。漆黒のドレスの裾がふわりと揺れ、自らと同じように漆黒を身に纏う者の方を向く。
「ハデス」
「姉さん」
 どちらの陣営もお互い見慣れた顔だ。今更自己紹介をする必要もない。挨拶も必要ない。
 ただ淡々と、目的だけを告げる。ドラクルの唇が動いた。
「決着をつけようか、ロゼウス。大人しく私のものになるか? それとも――」
「戦う」
 ドラクルとよく似た顔立ちを苦しげに歪め、しかしはっきりとロゼウスもそれに答えた。
 今の彼は、ローゼンティアでドラクルに虐待を受けてただ泣いているしかできなかった子どもではない。エヴェルシードでシェリダンの玩具として身を捧げていただけの者でもない。
 カッチリとした男装に身を包んだロゼウスはあまやかな面立ちを持ちながら、存外に凛々しい。
「ドラクル=ローゼンティア。俺は、あなたと戦う」
「……上等だ」
 その言葉を合図として、彼らは各々の得物に手をかけると広間の四方に散開した――。