Pinky Promise 168

第7章 黄金の午後に還る日まで

28.物語の終わりに 168

「アリスちゃん」
 純粋無垢な目は誤魔化せない。
 ギネカでさえ驚いて凍り付いている。
 ローロやネスルは訳がわからないと言う顔で、カナールとアリストの二人をきょろきょろと見比べている。
 今では膝をついてカナールと目線を合わせているアリストは尋ねた。
「……わかっちゃった?」
「うん」
 思えば、最初に“アリス”を見つけたのは、このカナールなのだ。
 白兎に殺されかけて子どもの姿になり、帰ることもできずに街を彷徨っていた時に声をかけてくれた。
「どうしてアリスちゃんがアリストお兄さんなの? 何があったの……?」
「――長い、長い旅をしてきたんだ」
 少女ドロシーが家に帰る為にオズの魔法使いを訪ねるような、長い旅を。
「アリス」
 フォリーが囁きかける。アリストは頷いた。
 高等部の友人たちにとっては、アリストは元から存在していた人間だ。
 けれど、カナール、ローロ、ネスル、フォリー、そしてテラスとは、アリスの姿で初めて面識を持った。
 彼らの友人はアリスなのだ。
 ならばアリストは今、アリスト=レーヌでありアリス=アンファントリーとして決着をつけねばならない。
 高等部の友人たちにもしなかった話を、改めて彼らに説明する。
「マジかよ、そんなこと……」
「嘘じゃ……ないんですよね」
 ネスルやローロが恐る恐る口に出す。
「夢みたいな話だと思うだろ? でも、本当なんだ」
 信じてもらえなくても構わない。
 いっそ夢だと思ってもらった方が、彼らも傷つくことはないのかもしれない。
だが。
「信じるよ」
 カナールが言う。
「今の笑い方、アリストお兄さん、アリスちゃんとそっくりだったよ」
 中身は十七歳のアリスはよく彼らの勢いに負けて、困ったように笑うことが多かった。
 その笑顔と、今の苦い微笑がそっくりだったと。

「おかえり、アリスちゃん」

「……ただいま」

 時間を奪われて子どもの姿に変えられていた期間はアリストからたくさんのものを奪い去ったが、それと同時に手に入れたものもある。

 足下にある銀の靴に気づき、ようやく帰って来たのだ。

「ただいま、みんな」

 ――そして彼らは待ち続ける。約束の果たされるその日を。

 「Pinky Promise」 end.