025*
身じろぎを妨げる微かな金属音で目が覚めた。
「ん……」
「気がつかれましたか?」
動かそうとした腕は、途中で何かに引かれて止まってしまった。カチャンと涼やかな音を立てたそれは、銀色の鎖だ。
ゆっくりと瞼を持ちあげたロゼウスは、己が純銀の鎖で拘束されていることに気付いた。立ったまま、両手を頭上で鎖に繋がれている。
目の前に金髪の青年が立っている。
「ゼイル、お前……」
部屋の中に視線を走らせれば、そこは皇帝領の豪華な一室とは違う、飾り気のない灰色の石造りの部屋だった。空気が淀んでいて、湿った黴臭いにおいがするところから考えれば、どこかの建物の地下牢だろう。だがどこかはわからない。
ゼイルは学者の端くれだけあって、施設に備え付けの移動魔法陣を動かせる程度の魔道知識はあるはずだ。ここはすでに皇帝領ではないどこか別の国だろう。
考えなければいけないことはいろいろとあるはずなのに、頭が上手く動かない。体も。眠りに落ちる前に聞かされた、ヴァンピル専用だという薬のせいだ。
それでも体の痺れ自体は収まってきて、だんだんと感覚が戻り始めている。
ゼイルもそれはわかっているようで、唐突にロゼウスの顎へと指を伸ばしてきた。軽く持ち上げて、表情や眼球の動きを確認しているようだ。
「時間通り、薬はそろそろ抜けてきたようですね。頭の方をはっきりしてきたでしょう。皇帝陛下、御自分の今の状況はおわかりですか?」
「ああ……」
掠れた声が出た。ゼイルが床に置いていた水差しを取り上げ、中の水をそのままロゼウスの口に注ぎ込む。
「ごほっ、けほっ」
そんな適当なやり方でうまく呑みこめるはずもなく、ロゼウスは軽く咳き込んだ。その様子をゼイルは相変わらず涼しい眼差しで見下ろしている。
「せっかくのドレスが濡れてしまいましたね」
言われて気づいた。彼が眠っている間に、ロゼウスの衣装は着替えさせられていた。貴族的な簡易な略装から、女性物の紺色の地味なドレスに。飾り気のないシンプルなデザインだが、それだけに少年体型のロゼウスの体には合わないのが一目でわかる。
こんなことなら皇帝用の何枚も布を重ねた着るのも脱ぐのも七面倒な衣装を着こんでおくんだったと思ったロゼウスだが、そんなことはおくびにも出さず口を開く。
「……これはお前の趣味か? 面白くもない男だな、ゼイル」
「そうですか。それは失礼を。なにぶん、男性に似合うドレスを見立てるのは初めてでしたので」
もはやロゼウスを罠にかけたことを隠す様子もなく、淡々とゼイルは語る。
「濃い青とか緑ってのは身持ちの固い女性が着る服で、男としてはあまりそそられない色なんだとさ。お前がそういう大人しそうな慎ましやかな女性が好みだというなら、俺を捕らえる意味はなさそうだけれど?」
「いいえ。皇帝陛下。あなたはどんな服でもよくお似合いですよ。それにわかっているのでしょう? 私が何のために、あなたに近づいたのか」
「……復讐か」
皮肉の掛け合いを楽しむ様子もなく、早くも本題に入ったゼイルに、ロゼウスも表情を引き締める。
「お前は十年前の……セィシズの部下だったんだな」
「そうです。貴方を愛して破滅へと足を踏み入れたしまった我が主、セィシズ様のため……皇帝陛下、あなたに復讐させていただきます」
「恨みを持たれた相手からそんな律儀に復讐宣言をされるのは初めてだな」
ロゼウスは苦笑する。その微かな体の動きに合わせ、またもやカチャンと鎖が音を立てた。強がりはしても、銀の鎖のせいで力が出せない。ゼイルは余程念入りにヴァンピル対策をしたようだ。
いきなり身ぐるみ剥ぎ取られてあられもない格好にされて拘束されているとはいえ、ロゼウスはこれでも四千年間生きてきた、それもただ年を重ねるのではなく、皇帝として生きてきた男だ。復讐も逆恨みもその果ての拷問も慣れている。
「御丁寧に拉致までしてくれちゃって、お前らは俺に何をしてくれる気だって? 無駄なことはやめろ、ゼイル。見た目がこれでも、俺をその辺の初心な生娘と一緒にしてもらっては困る」
「そうでしょうね。現にあなたは我が主のことは拒絶しながら、フェルザード王子は《愛人》として傍に置かれている方だ。色事には慣れておいででしょう」
ですが、とゼイルは続けた。
「色を好むのと、好きでもない相手に弄ばれる不快感は別でしょう。ただの人間が皇帝を殺すことができないことなどわかっております。私の企みごときであなたが過去のことを泣いて詫びるはずなどないことも」
泣いて詫びるも何も、ロゼウスはただ単にゼイルの主に惚れられただけで、実質的には何もしていない。セィシズを殺したのはフェルザードだ。
「だからせいぜい、傷ついてもらいます。男と肌を合わせることなど、もはや考えるのも嫌になるくらいに。フェルザード王子をも捨てておしまいになるくらいに」
ロゼウスの過去を知らないゼイルはそう言う。
「私の主を選ばなかったのだから、もうどんな男も選ばなければいい」
「こんなことをしても、お前の主は……」
「陳腐なお決まりの文句はやめていただきましょう」
ロゼウスの説得の言葉をぴしゃりと遮り、ゼイルは背後へと視線を向けた。
「シャーウッド伯」
呼びかけると扉が開き、そもそもゼイルを皇帝領に連れてきた男が地下牢に入ってきた。
「ご機嫌麗しゅう、皇帝陛下」
「この格好で本当に機嫌が良いと思うのか?」
貴族ではあるが、これと言ってにぱっとしたところのないシャーウッド伯。彼がどんな事情でゼイルと手を組んだのかは、どちらも話す気がないようだ。
ただ、彼とゼイルが協力してロゼウスを罠にはめようとしていることだけは確かだった。
シャーウッドはロゼウスの姿を上から下まで眺めまわしてひとしきり感心した後、ゼイルに声をかける。
「男とは思えぬほどに似合いすぎていますな。だがゼイルよ、もう少しデザインに凝っても良かったのではないか?」
「そうでしょうか? この方の美しさであれば、どちらでも同じでしょう」
男色家でも女装趣味でもないのか、一応女衣装を着こなせるロゼウスの様子を珍獣でも見るように観察しているシャーウッド伯は、特に乗り気ではないようだ。ひとを目の前にしておきながら、好き勝手言う。それに対し、ゼイルが淡々と返す。
「私にも好みというものがあるだろう」
「ですから男になど興味ないと言う伯のために、こうして着替えを用意したのではありませんか。男皇帝を男が犯しても、被害など訴えることはできまい。そうして弱みを作って裏から帝国を操るなど、不遜なことをお考えになったのは伯でしょう」
「お前の復讐に協力してやってのことだろう」
「ええ。そこには感謝しております」
シャーウッドの望みはわかった。反吐が出るような動機だが、納得はできる。
この期に及んで土壇場でごちゃごちゃと言い始めたシャーウッドに焦れたか、ゼイルが懐から短刀を抜いた。切っ先をロゼウスの胸元に突き付ける。
「もう事を始めてしまったのですから、さっさと終わらせましょう。今更尻ごみしたところで、大宰相にでも内密に始末されるだけです。伯、さぁ」
《碧の騎士》がその主を素早く助けに来れば皇帝の勝ち、それまでにシャーウッドがロゼウスを犯し、皇帝に凌辱されたという弱みを作り、圧力をかけて首輪をつけることができれば彼らの勝ち。
「だがしかしなぁ、自分と同じものがついている相手を触りたくは……」
「別に男を抱くのも女の後ろを使うのも同じことですよ。この道に先に興味を示したのは伯の方でしょう」
そう言ってゼイルはロゼウスの胸元の布地にかけた刃に力を込めた。
「!」
微かな音をさせ、ドレスが胸元から下腹まで切り裂かれる。
「それにこの身体は、私たち普通の男の肉体などとは次元が違うと思いませんか?」
シャーウッド伯がごくりと生唾を飲み込む。
確かにゼイルの言う通り、切れた布の隙間から覗く少年皇帝の肌は白く、滑らかで美しい。細い腰も華奢な肩も、男のものとは思えない。扁平な胸をその目にしていてさえ、男と呼ぶよりも、貧乳の少女と見た方が納得がいくような。
ゼイルがまだ差し込んだままの短刀の切っ先は、ちょうど股間の辺りだろう。さすがにロゼウスもこれで動く気にはなれないらしく大人しくしている。
下着はもともとつけていなかったのか、布の隙間からはみ出した銀の陰毛が扇情的だ。バロック大陸では銀髪そのものを見かけず、メイセイツ人の灰色とも違った妙にきらきらとした色合い。その下の大事な部分が隠されているものだからなまじ、細い腰の薄い腹の下の銀の陰毛の下に、自分と同じものがついているなどとシャーウッドにはとても思えない。
ふらふらと銀髪に手を伸ばしかけたところで、思い留まらせるようにゼイルの声が降ってきた。
「仕方ありませんね。シャーウッド伯が男性器に触るのも嫌だと言うのであれば、『下ごしらえ』は私がしましょう」
「ゼイル?」
短刀を仕舞い、ゼイルが拘束されたロゼウスの背後に回る。
「ん!」
それまで文字通りの急所に刃物を当てられていたロゼウスはほっと体の力を抜いたのも束の間、伸びてきた指に声を漏らす。
ゼイルは背後からロゼウスを抱きしめるような形で腕を伸ばし、薄い胸の上に手を滑らせた。頭一つ分背の高い彼は肩の上からロゼウスの体を見下ろし、シャーウッドに見せつけるように弄りだす。
「あ、ちょ……痛っ」
学者よりも武人寄りの男の骨ばった手が、乳首を摘む。容赦のない力にロゼウスは小さな悲鳴を堪えた。ゼイルは両手でそれぞれの乳首を摘み、玩具でも扱うように乱暴に刺激する。
「あっ、ん、んん……!」
ぎょっとしたのはシャーウッドだ。少女めいた面差しの少年が凌辱される様に、ひそかな興奮を覚え始める。ロゼウスは声まで普通の少年より高いので、喘ぎ声はとても男のものとは思えない。押し殺した悲鳴と寄せられた眉根に、加虐心が刺激される。
ゼイルは剣士として鍛えているだけあって、体格が良い。しかもカウナード人の色黒い肌が、ロゼウスの白い肌を容赦なく攻め立てるのだからたまらない。男の無骨な黒い指が薄紅色の乳首を押しつぶすさまは、一層ロゼウスの可憐さを引きたてた。
「下の方も、弄って差し上げましょう。陛下」
「ひゃぁあ!」
スカートの後ろをまくりあげて、ゼイルはロゼウスのものに触れる。
その様はシャーウッドには見えておらず、紺色の布地の中で何が行われているかは、刺激に歪められたロゼウスの表情から想像するしかない。
白い頬に朱が上り、辛そうに噛みしめられた唇が時折たまりかねたように喘ぎを上げる。
「あ、や、やめ……触らない、でぇ!」
いやいやと首を振るが、それに触れていない方の手でゼイルが乱暴にロゼウスの髪を引いた。
「あぁ!」
「拷問には慣れているのではなかったですか? 陛下」
相変わらず落ち着いた表情ながら、ゼイルは皮肉にロゼウスを責める。
「あん……ふぁ、ああ……」
「あの薬には実はもう一つ効果があって……」
丹念に、焦らすように、ロゼウスのものを触りながらゼイルが解説する。
「媚薬の効果も含めていたのです。失敗かと思いましたが、効いてきたようですね」
「だ、から、こんなに……」
「体が熱く疼くでしょう? 媚薬によって強制的に引き起こされた熱はそう簡単には消えませんよ。解放してほしいなら、目の前の方に跪いて懇願したらどうです?」
ぎり、と唇を噛みしめたロゼウスが目の前のシャーウッドを、次いで背後のゼイルも睨みつけて、熱い息と共に吐き出す。
「誰が、そんなことをするか……!」
紅い瞳はまだ力を失ってはいない。
スッとゼイルの眼差しが冷ややかになる。
「――ならば仕方がないですね」
「うぁあああああ!」
威勢よく告げたはいいものの、その隙を狙って後ろの蕾に捻じ込まれたゼイルの指には激しい悲鳴を上げることとなった。
動きを縛る鎖が、ガチャリと一際大きな音を立てる。
「ふぁ……、くっ、ふっ……ううう……」
先程ロゼウス自身のものを弄んでいた指だ。先走りで僅かに濡れていても、いきなりずぶずぶと沈めこまれてはたまらない。
前の方と違い、後ろはこれまで触れられていない、前触れのない刺激に、捻じ込まれた指の圧迫感が消えない。
「いきなり入れたにしては、随分と平然としているようですね」
先程の喘ぎとも悲鳴じみた声とも違う苦しげな声に、ゼイルは意外そうに目を瞠る。
「中が切れてしまうかと思いましたが、どうやら相当遊んでいらっしゃるようだ」
蔑むように言ってから、ゼイルは指を動かし始める。
「ああ、ひあああ! だめ……!」
微かなぬめりを頼りに、容赦なく中を抉る指にロゼウスは堪え切れず悲鳴を上げる。
「あ、ああ、あっ……!」
媚薬で火照った身体は、指一本の刺激でも背筋に何かが這い上がるような快感を与える。
おまけに後ろに差し込まれたのと別の手は、ロゼウスのものをきゅっときつく握っている。すでに直立の姿勢は保っていられず。鎖の余るのに任せて前屈みの姿勢になる。まるで尻を突き出すような体勢になってしまうが、足ががくがく震えて耐えられないのだ。
「まだ指一本だと言うのに大袈裟な方だ」
直腸をすり上げる指を休めないまま、ゼイルが耳元で囁く。耳元で囁いてはいるが、その声は狭い石の部屋の中、シャーウッド伯にも聞こえている。
「慣らしておくのは、あなたのためですよ」
「そんなこと……」
「こんなにとろとろと濡らして、私のものに抉って、擦って、抜き差しして犯して欲しいと期待したのはあなたでしょう?」
「ちが、う……!」
「口で嫌がる割には、あなたのはしたない穴はすでに私の指を一本では足りないと締め付けていますよ」
そう言ってゼイルは二本目の指を捻じ込む。
「ひっ!」
短い悲鳴をあげながらも、ロゼウスはますます強まる刺激に震えた。
指が抜き差しされるたびにぐちゅぶちゅという卑猥な音が、当人たちの耳にしか聞こえないほどに微かに届く。それ以上に震え続けるロゼウスの体が、チャリチャリと鎖の擦れ合う音を断続的に立てる。
「あっ、あっ、……や、も、もう……!」
「何本入れればあなたは満足するのです? 三本? 四本? あるいは拳ごと? それとも……」
翻弄されるロゼウスから視線を離し、ゼイルは涼やかな眼差しを今度はシャーウッドへと向ける。
男になど興味はないと言いきっていた男は、すっかり目の前の凌辱劇に魅せられていた。
ロゼウスの下半身の大部分がドレスのスカートで隠され、限りなく少女じみているというのもあるだろう。ゼイルは思わせぶりな言葉を放ちながらも、ロゼウスが男だと思い出させるような言葉は使っていない。
何もしていないのにいつの間にか息を荒げているシャーウッドに声をかける。
「伯爵」
「……へっ? あ、いや。あ、ああ……何だ?」
「出番ですよ」
「な、何?」
「もともとはあなたが言いだしたのでしょう? この美しい皇帝陛下をものにしたいと。どうぞ」
「い、いいのか?」
今にも自らのズボンの前を寛げようとしていた男は、ゼイルのその言葉に爛々と瞳を輝かせる。
「ええ」
「そ、そうか。そう言えばこれはもとから私の役目だったな。はははは」
すでに頬を真っ赤にしてぐったりとなったロゼウスのもとへ、いそいそと彼はやってくる。
ゼイルはロゼウスの中から指を引きぬくと、邪魔な布を裂いて更に尻を突き出させるようにしてシャーウッドへと向けた。
「さぁ、伯爵。皇帝陛下があなたのもので奥まで貫いてほしいとお待ちですよ」
「あ、ああ」
「や、やめ……」
シャーウッドが己のものを取り出し、ヒクヒクと震える小さな穴に突き入れる。
「――――ッ!」
ロゼウスがびくりと体を震わせた。反射的に逃げようとした腰を、ゼイルが横から手を出してしっかりと押さえこんでしまう。むしろより深くシャーウッドのものを呑みこむよう、押し付ける。
「うぁ、あ、ああ――ッ!」
ずぷずぷと男のものを咥えこまされ、これまで以上の声があがる。
「ふ……何という締め付けだ……これはたまらん……」
面白味もない体だとこれまで馬鹿にしていた細い少年の体をしっかりと抱きながら、シャーウッドが恍惚となる。
「ゼイル、鎖を外してくれ。このままでは動きづらい」
「はい。手枷はしたまま、横になれるようにしましょう。どうせここまで薬が効いた状態では逃げ出されることもないでしょう。それどころでもありませんし……」
最初と変わらずに淡々とした口調で物を言い、ゼイルは指示された通りにこれまでロゼウスを引っ張り立たせていた鎖を外す。
途端に膝から崩れ落ちそうになるロゼウスを、シャーウッドが背後から、ゼイルが前から腰を掴んで支える。そのままゆっくり床へと手をつけさせ、四つん這いの姿勢にさせた。
その間シャーウッドのものはずっと入りっぱなしだ。
床に倒されたロゼウスは、腕にも力が入らず頬を石の冷たい床に擦りつけるようにして倒れた。シャーウッドに支えられた尻だけが高く突き上げている卑猥な格好だ。
「無様な獣のようですね」
ゼイルが遠慮なく言葉の槍を刺す。
「そう、言うものじゃないよ。ゼイル」
白い尻を鷲掴みにして細い体にのしかかりながら、シャーウッドが低く嗤う。
「お似合いではないか。これから我々の犬になってもらう方としては」
「……そうですね」
主であるセィシズのものにならないのであれば、誰のものにもなるなとロゼウス相手にそう言ったゼイルはシャーウッドの言葉に対してもまったく熱のない様子でそう返す。
「では、陛下……そろそろ楽しませて差し上げましょう」
「あっ……ふぁ、あ、ああっ、うぁあああ!」
これまで内部を圧迫する男根の質量に小さく呻きながら耐えるだけだったロゼウスの喉から、再び高い声が上がる。
「あ、ああ――――!」
ゼイルによって散々ほぐされた後ろの蕾を、シャーウッドが遠慮もなしに荒らしていく。
ずぷ、ぬぷ、と男のものが抜き差しされ、ロゼウスの頭の中を真っ白にしていった。
「まさか皇帝に中出しできるとはな。はははっ」
白い内股を、濁った液体が伝い落ちていく。
「いっそ口の方も使ってみたらどうです? この綺麗な顔がそれこそ犬のように男のものをしゃぶるなんて想像しただけで楽しみでしょう」
ちっとも楽しんでなさそうな顔でゼイルが更にシャーウッドを唆した。
「そうか! それはいいな。だが……」
「薬の効果はまだ完全に抜け切っていませんし、媚薬による興奮状態も続いています。今なら大丈夫でしょう」
「そこまで言うなら……」
一度中で精を放ったものを取り出すと、伏せていたロゼウスの顔を無理矢理上げ、開かせたその唇に突っ込む。
「ん、ん――――!!」
すでに涙目になったその顔に無理矢理の奉仕を命じる。美しい白銀の髪を乱暴に掴んで強制した。最初は抵抗しようとしたロゼウスも、ほとんど思考能力を奪われた状態で何度も強制されて、わけがわからないまま生臭くグロテスクなものに舌を這わせ始める。
ぴちゃぴちゃと、それこそ犬が餌を食む時のような音が聞こえ始めた。
「ああ、たまらない。皇帝陛下……、もう、あなたは私のものだ……! はははははは!」
高笑いするシャーウッドと彼に凌辱されるロゼウスを置いて、ゼイルはその部屋を後にした。
◆◆◆◆◆
「終わりましたか? 伯?」
「ああ。ゼイルか。どこに行っていたんだ?」
しばらくの時間を置いてから、幾つかの器具が入った箱を持ってゼイルは再び地下牢へと戻ってきた。
中には血の匂いこそ漂いはしないものの、腐臭としか感じられないなんとも嫌な匂いが漂っている。
どうやらあれから更にロゼウスの体を弄んだらしいシャーウッドはゼイルが部屋を出た時には脱げかけだった服をすでに脱いで全裸となっていた。ロゼウスの格好は更に酷くなっており、服を着ているのではなく、布を纏っているだけと言った方が正しい。性器もむき出しになっているが、もはやシャーウッドは相手が男だの女だの気にはしていない様子だった。
一度や二度では飽き足らず、あれから更に何度もロゼウスの後ろを犯した伯爵はまだその肌に魅入られているのかロゼウスを離さず、平らな白い胸に舌を這わせている。
「くくくっ、ゼイル。素晴らしいな。この美貌、この身体……まさしく神が作り出した最高の傑作だ。外側だけでなく、内側まで良いとはな」
ぐったりとしたロゼウスの身体を抱えながら言う。
ゼイルはその言葉に、植物の観察でもするように静かな目をロゼウスの身体に注いだ。特にその、むき出しだがあまり弄られた様子はない男性器に。
「それはよかったですね。ですがそろそろ服を着てください。風邪を引きますよ」
「仕方がないな」
名残惜しげにロゼウスから離れると、シャーウッドは脱ぎ捨てた自分の服を再び身につけ始める。
「皇帝領にこの場所がバレるまで、せめてあと数日はもつはずだったな」
「ええ。どうかしましたか?」
「いや。いつまでもこの場所に閉じ込めたままというのは流石にな。私もこの場所はもううんざりだ。次は暖かい部屋の柔らかい寝台の上で、それこそ体力が尽き果てるまで楽しみたいものだと思ってな」
「今日はそれほどお楽しみにはなれませんでしたか」
「そう言うわけでもないが、ただこれだけで手放すのは名残惜しいのだ」
すっかり少年皇帝に魅せられたシャーウッドは、もどかしそうに言う。
皇帝をいつまでも拉致監禁なぞできないのはわかっている。だがそれでも、と。生憎その気持ちはゼイルには伝わらないが、まだこれで終わりではない、と思うある一部分だけはシャーウッドと同じだ。
それにこの程度で皇帝を屈服させられたとは到底思えない。
その証拠に凌辱の痕が夥しい身体を清めようとゼイルが近づき身を屈めると、素早く何かが飛んできた。
「くっ!」
首筋を狙って伸ばされた腕を抑え込むと、先程まで気を失っていたように見えたロゼウスが悔しげな顔をした。背後でシャーウッド伯の驚く気配が伝わる。手枷まで外してしまったのは彼の仕業だろう。
「そろそろ薬の効き目が切れる頃だと思っていました。銀の影響で弱っているはずなのにそれだけ動けるとはさすがですね」
そう言ってゼイルはロゼウスの片手を抑え込んだまま、あらかじめ用意していた注射器を素早くその腕に刺した。
「!」
もう片方の腕は身体を支えるためにすぐには動けず抵抗する暇もなかったロゼウスは、再び身体の力が奪われるのを感じた。
「な……」
何を、と問いかけたくても唇でさえろくに動かない。先程の睡眠薬とはまた違う薬だ。
「これはただの麻酔ですよ。医者が手術などに使うのと同じもの」
そんなものを何故、という疑問は当のロゼウスではなく、麻酔のせいで動けないロゼウスの身体を濡らした布で清め始めたゼイルのやることを、ただわたわたと見ることしかできないシャーウッドだった。
「ゼイル? お前何をする気だ?」
彼の視線はゼイルが持ってきた箱の中に向けられているようだ。
ロゼウスの身体を清めながら、感情をそぎ落としてしまったかのようなこれまでの態度にほんの少しの悲哀と、奇妙に歪んだ熱を孕んだ危うい口調でゼイルが言った。
「シャーウッド伯、あなたはこの方が欲しいのでしょう?」
「あ、ああ」
「ですがこのまま皇帝領に返せば、私たちは投獄、いえ……処刑されることでしょう。この方をいつまでもここに閉じ込めておいても同じことです。皇帝陛下を救出するための部隊に私たちは殺される」
「だが、ここまでやれば皇帝陛下が私たちにされたことを口外はできぬはずだと言ったのはお前ではないか!」
「そうですね。最初はそう思っていたのですが、どうやらこの方は強姦くらいではまいってはくれなさそうですので……」
実際ゼイルのその読みは当たっている。長くも生きているし、人の恨みを買うことも多ければ、美貌故に目をつけられ、名も知らぬ相手から妙な執着を持たれることの多いロゼウスの人生だ。それ以前にロゼウス自身の事情で強姦も輪姦も口では言えないような凌辱も、あらゆることを「され」つくしている。
今更この程度の暴力で怯むような性格ではない。強姦の証拠を見せろと言われたら、その場で全裸になるくらいはできる性格だ。恥じらいなど存在もしない。
「私たちの理想としては、陛下が自らにされたことに傷つき、誰にもそんなことは言えないと思うくらい恥じ、そのまま皇帝領に戻って日常を送りながらも握られた弱み故に私たちの言うことを聞くしかない、という状況だったのですが……」
先程のロゼウスの反撃を見て分かる通り、彼はこの程度でそんな心境になる性格ではない。
だから、とゼイルは続けた。
「これで生温いと言われるのであれば、もっと酷いこと、本当に恥ずかしいことをして差し上げるしかないのかと」
「お前、これ以上酷いことって……」
シャーウッドが呆れたように言う。
「そんなこと、そうそうあるものではないだろう? ただの暴力では簡単に足がつくと言ったのもゼイル、お前だろう? そんなものは恥にも弱みにもなりはしないと。だからこそこうして性的凌辱をだなぁ」
「ええ。要は、人前に晒せないようなことをすれば……人前に晒せないような姿にすればいいのです」
「ゼイル……?」
シャーウッドは怯えるような声をあげた。ゼイルの表情は奇妙に歪んでいる。
限界まで張り詰めたものを堪えるような。
ロゼウスは動きたくても動けない。
「誰にも渡したくないなら、誰の興味も惹きつけないように、誰にも見られないようにすれば……」
ゼイルは先程持ちこんだ箱の中身を改め、幾つかの器具を取り出す。
鋭い刃。
「男に抱かれるのに、女を抱くための器官なんて必要ありませんよね」
ゼイルが見つめている先を、その言葉の意味を理解してロゼウスの顔から血の気が引く。
麻酔のせいで動けず、声を出すこともできないロゼウスにはその場で冷や汗をかくことしかできない。
「完璧なものならば、完璧でない姿にしてやれば――もう二度と誰とも肌を重ねることなどできないような――二目と見られぬ姿に――」
ゼイルは熱にうかされたようにぶつぶつ言いながら、先程自らの手で清めたばかりの、ロゼウスの男性器を片手で掴んだ。
もう片手には刃がある。
「お、おい、待て、ゼイル!」
シャーウッドの制止も聞かず、ゼイルはその刃を振り下ろした。ロゼウスは声なく絶叫する。
「――――――ッ!!」