薔薇の皇帝 24

第16章 死神の眠る国

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 懐かしい夢を見た。
 もうこの世にはいない人の。
 もうこの世に存在しない笑顔。
 いつまで経っても忘れられない。
 あの頃、あなたは私の世界だった。

 ◆◆◆◆◆

 ロゼウスはローゼンティア王国にやってきていた。
「それで! どうなんですか!? 皇帝陛下!!」
「やはりここは伝統あるノスフェル家のロートラウト閣下ですよね陛下?!」
「いえ、陛下! ライマ家のテオデリヒ伯爵ですよね?!」
「俺は――」
「「どちらなんですか?! 陛下!!」」
 故国に帰ってきたと言ってもいい状況なのだが、何故だかさっぱり寛げない。
 それもこれも現在のローゼンティア王国が、次代の国王の選定に混乱しているからだ。
 皇帝領のロゼウスの城にも似た漆黒の王宮に招かれて、ロゼウスは先程から現在この国の二代権力者と目される公爵たちの言い分をひたすら聞かされている。
「頼む、ロスヴィータ。馬鹿な俺にもわかるよう一からこの状況を説明してくれ」
「陛下は馬鹿ではありません、現実から目を背けるのはおやめください。あなたの故国の馬鹿たちが馬鹿な争いを繰り広げているだけです」
 ロスヴィータ=ネーデ=ノスフェルは学者会議でも顔を合わせたローゼンティア出身の学者だ。名前からわかる通り、ロゼウスの母方の家系ノスフェル公爵家の出身である。四千年生きているロゼウスからすればもう血縁などあってないようなものではあるが。
 ロスヴィータは生まれながらの大貴族だが子どもの頃から芸術方面に造詣が深く、学者の道へと進んだ。国内外を問わず美術学では第一線に立つ人物で、本人の血筋の良さを利用して庶民と一緒に国宝級の美術品の鑑定などを行うため、老若男女貴族平民問わず誰にでも人気のある人物だ。
 そのロスヴィータの弟のロートラウト=ネーデ=ノスフェルは現在のローゼンティアで国王候補とされている。王家ではなく公爵家から跡継ぎを貰う話になっていることからわかる通り、現在の国王には玉座を継げる実子がいない。
 そこで縁戚の貴族の中から国王に相応しい人物を養子としてとり、次代の国王とする案が浮上した。ノスフェル家のロートラウトとライマ家のテオデリヒは、その候補である。
「わたくしとしましては、ライマ家のテオデリヒを推しますよ。だってロートラウトが国王になってしまえばノスフェル公爵を継ぐ者がいなくなり、わたくしが公爵を継がなければならないではないですか」
「頼む、ロスヴィータ。自分に正直なのは結構だが、少しは国のことも考えてくれ」
「誰が考えたって同じですよ。我が弟ロートラウトも、ライマ家の肝いり伯爵テオデリヒも、分野が違うだけでどちらも国王としては申し分のない人格と能力の持ち主です。幸い当人たちの仲も良いですから、どちらかが王になれば、どちらかがそれを支えることでしょう」
「理想論だな……はじめからそうして話が上手くいっていれば、私を呼ぶ羽目にはなっていないだろう?」
「そうですね、皇帝陛下。はやくなんとかしてください」
「だからって全部私を頼るのはやめろ」
 ロートラウトは政治、テオデリヒは軍事に優れているという。
 この二人は長所がお互い別の分野であるために、これまで一度も衝突することなく友人関係を築いてきたという。しかし彼らの後ろ盾であるノスフェル公爵とライマ公爵はそうはいかない。彼らは二人が国王となれる可能性が浮上した際、なんとしてでも自分の勢力内から次代国王を選出することに躍起となった。
「まさか今更権力闘争の調停をローゼンティアでやるとはな……。これが因果というものか」
「因果?」
 ロスヴィータが不思議そうに首を傾げる横で、ロゼウスは明け方に見た懐かしい夢を思い出す。遠い日、確かにあの人はロゼウスの世界そのものだった。そんな時代があった。
 ドラクル=ローゼンティア。ロゼウスの兄。そしてロゼウスが王子時代の頃に第一王位継承者とされていた人物だ。ロゼウスは彼を誰よりも敬愛していた。
 紆余曲折を経てドラクルはローゼンティアの王位を得ることなくロゼウスに殺害された。そのほんの一年前まで、ロゼウスにも他の兄妹にも考えられないようなことだった。
 未来に何があるかなど、誰にもわからない。
 ドラクルは完璧な王太子と目され、彼の即位を厭う者は国内に誰もいなかったと言っていい。ただ一人――ロゼウスの父親である国王だけが彼の即位を嫌い、その後、彼の子どもたちの運命を分ける事件の引き金を引いた。
 暴走したのはドラクルだったのか、それとも他の誰かか。あるいはロゼウス自身か。
 今となっては誰が悪とも言い切れぬ時代、ただ一つの玉座を巡る闘争の中、彼らは多くのものを喪った。
 今の状況は、あの時とはまるで正反対だ。嘘や隠し事がなく清々しいぐらいにはっきりと途切れた直系の代わりに、次代の王をただその能力で選出する。
 ロートラウトとテオデリヒは仲が良いという。
 この国王選出が、その二人の間に一体何をもたらすのだろう。ロゼウスはそれに興味を抱いた。
 正直に言えば、ロゼウスの在位はあと一年もない。フェルザードという次代皇帝の存在が明かされた以上、それは確かだ。だからどちらが王位に着こうと、その治世はもはや皇帝ロゼウスの手を離れ、次の皇帝であるフェルザードが御することになるだろう。
 そしてフェルザードであればどちらが王位に着こうと、この王位継承問題に決着がつかずに泥沼の戦争が始まろうと、どのような状況であっても対処していけるだろう。だからロゼウスはローゼンティアという国の今後について、特に心配らしい心配はしていなかった。
 ローゼンティアはロゼウスの故国ではあるが、それだけだ。誰より仲の良かった妹もかつて愛していた兄も姉も、全てが皆土の下に眠る。みんなみんな、とうの昔に薔薇の下の人となってしまった。
 この国を率いていくのはロゼウスではない新しい世代の人間たちの役目だ。それがどのような結果をもたらすことになろうと、彼らにはそれを受け止める義務がある。それが自由ということなのだ。それが生きるということなのだ。
 それは、ロゼウスには存在しないものなのだ。
 これからの時代に生きることのないロゼウスがせめて彼らにできるのは、実家や後見者という権力の思惑ではなく、次の国王候補と呼ばれる青年二人の意志を確かめてそれが現実に反映されるよう力を貸してやるくらいだ。
「ロートラウト=ネーデ=ノスフェル、テオデリヒ=ノイズ=ライマ」
 嘆願を繰り返す公爵二人を余所に、ロゼウスは別室に国王候補の二人を呼び寄せて尋ねる。
「お前たちはどうしたい? 今回の王位継承問題について、どう考えている? 国王になりたいという意思はあるのか?」
 二人のローゼンティア人の青年は顔を見合わせた。
「陛下、実は……――」
 そしてロートラウトとテオデリヒの二人が出した答は、ロゼウスの想像すらも超えた意外なものだった。

 ◆◆◆◆◆

「決定を伝える」
 ロゼウスの言葉に、ローゼンティアの王宮は静まり返った。謁見の間に集った人々がロゼウスに注目する。
「次代のローゼンティア王は――」
 形良い唇から吐きだされる言葉を、全員が息を殺して待った。
「いない。ロザリンデ王、お前が最後のローゼンティア国王だ」
「なっ!」
 ロゼウスとロートラウトたち以外の全員が呆気にとられた。名を呼ばれた現女王は皺に埋もれた眼をぽかんと見開く。
「そしてこの国は、約一年後にはローゼンティア共和国となる。それが次期国王候補、ロートラウト=ノスフェルとテオデリヒ=ライマ。二人の総意だ」
 ロートラウトとテオデリヒが前に進み出た、ロゼウスに事情を説明させるばかりではなく自分たちの言葉で語った。
 ロートラウトは政治、テオデリヒは軍事方面で二人手を取り合ってこの国を支えていきたいということ。
 最初はどちらかが王になり、どちらかがそれを支える方向で話し合いを幾度も重ねたが、有事の際に権力を行使して自らの意志を押し付けずにいられるか自信がなかったこと。
 二人だけでなく、あらゆる身分や職業の人々の意見も政治に反映させてこの国を良くしていきたいと思うこと。
「身分制度のある社会で貴族として生きながら身勝手なことを思われるかもしれませんが、僕たちは誰かを従えたり、命令したりという生き方をしたくはありません。志を持つ者同士誰とでも、対等に語り合いたいのです」
「どちらかが王になれば、その背後関係なども相まって、絶えず権力関係を意識しながら行動しなければいけなくなるだろう。そうではなく、その時々に適した能力を持つ人間が民の意見を反映させた国づくりを協力して行っていく。俺たちはローゼンティアを、そういう国にしたい」
「……お前たちは、それがどういうことか本当にわかっているのか?」
「共和制を否定するわけではありませんが、このローゼンティアは初代皇帝陛下にも認められた魔族の国として、これまで数々の伝統を引き継いできた王国です。それを、本当に捨て去る覚悟があるのですか」
 二人の後見者もその意志が固いことを知り、代わる代わるに問いかける。
「……いいのではなくて?」
 そんな中、ロスヴィータがいち早く頷いた。
「ロスヴィータ!」
「ノスフェルの!」
「もともとローゼンティア人は争い事が嫌いでしょう。なのに一度権力を握っちゃったらそれに溺れる奴が出てきて、周囲を巻き込んで継承争いを始めて。そういうの、もう終わりにしましょう」
「――わたくしも、そのように思いますよ」
「女王陛下!」
 これまで黙してそれぞれの意見に耳を傾けていた現在のこの国の王が頷いた。
「ロートラウト、テオデリヒ。ロスヴィータの言うとおり、悲しいことにこのローゼンティアでも王位継承問題が不安定になるたびに闘争を起こしてきました。我が国に限った話ではありませんが、帝国中の国々は一度滅びても、皇帝陛下の代が変わればまた新たな王家を立てて存続することができます。けれどそのように国の名に拘るのであれば、いっそ争う事態を引き起こすのをやめるべきでしょう」
 最後の王となる女王は、皇帝に一つ微笑みを向けてから、未来を生きる若者たちに厳かに告げた。
「ロートラウト、テオデリヒ。あなた方二人に平等にこの国の王としての権力を譲ります。その権限をもって、あなたたちはあなたたち自身の意志と力で、新しい未来を作りなさい」

 ◆◆◆◆◆

 来た早々だが、ロゼウスは皇帝領に戻ることとなった。さすがに話し合いの最中に姿を消しました、というのは何なので、ひとまずは謁見の間で行われる会議に一段落つき、誰かが皇帝の見送りを申し出るまで待つことにする。
 ロゼウスは城の中庭を訪れる。四千年前とは随分様子が変わったが、土地自体が備える空気までは変わっていない。銀の薔薇が美しい、ローゼンティア特有の風景だ。
 この国では珍しいことに昼の東屋でお茶を飲む。薄曇りの灰色の空が心地よい。
 ローゼンティア人は基本的に夜行性だ。しかしすでにこの国を離れて久しい皇帝のロゼウスは普通の人間と同じように昼間に活動する。ローゼンティアの人々はわざわざ生活習慣を逆転させてまでロゼウスを待っていた形だが、実際に今回皇帝としてロゼウスがしたと言えるようなことは何もない。
 ロートラウトとテオデリヒは、自分たちですでにこの国の未来を決めていた。
 二人の若者の行く末に思いを馳せながら、ロゼウスの意識は自然と過去にも遡る。
「あの時、俺に今の彼らのような選択をする強さがあれば――」
 四千年前、まだロゼウスがこの国の王子だった頃。
 国全体どころか隣国のエヴェルシードまで巻き込むような騒乱が起きた。当初はエヴェルシードの一方的な侵略とみられていたそれは、次第にローゼンティアの第一王子ドラクルが企んだことだと判明した。
 完璧な王子と目されていたドラクル。
 しかし彼は、実は国王の子ではなかった。
 二十年以上も秘匿されていた事実を盾に、国王はドラクルを廃嫡しロゼウスを次の国王にすると言い出した。
 納得が行かないのはドラクルだ。二十七年間世継ぎの王子として生きてきた彼は、与えられないならば自らの手で奪うまでと、父王を殺害して玉座を狙う。
 それまでロゼウスにとって優しい兄であった青年は、ローゼンティア王位を巡る敵となった。ロゼウス自身は王位を望まなかったが、自らに無体な仕打ちをした父王への分までロゼウスを憎んだドラクルは、執拗にロゼウスから玉座を奪うことに拘った。
 それまで例え表面上だけの絆だったとしても、仲が良かったはずの兄弟の絆を分かったものは王位。
 ――もしもあの時、ロゼウスが今のロートラウトとテオデリヒのような選択をしていれば。
 自分が王位を望まないだとか、譲るだとか、そういう話ではなく。ただ血筋のみに頼って国の支配者を決めるのではなく、全て民の意志を反映して国の指導者に相応しい人間を選ぶ機関を作ろうと、王制をやめて共和制にしようとドラクルに話をすることができていれば。
「そうしたら、どうなっただろうな……」
 でもそれはありえない仮定だ。
 ドラクルの玉座への固執は、狂気に近かった。彼がロゼウスに向ける感情は父王への愛憎と絡まり合い、果てのない絶望と分かちがたく結びついていた。その証拠に一度は手に入れたはずの玉座にあっても、ドラクルは死者ばかりの国で賢君となれず破滅へとひた走った。
 そして何より、ロゼウス自身に共和制を提言できるほど国政への熱意がなかった。
 今でもロゼウスは、自分が誰よりも国王に遠い人物だと思う。それを他の人間は王ではなく皇帝だからだと言うが、違う。本当はロゼウスに支配者としての資質などないのだ。
 ロートラウトとテオデリヒは、どちらもすでに王として相応しいだけの資質を有している。その上で彼らは、王位を奪い合うだけではない道を自らの手で選び取った。
 世界は変わる。前に進んでいく。
「皇帝陛下!!」
 中庭に自身を呼ばう声が響いたのを聞き取り、ロゼウスは手を上げた。
「ここだ」
 ロートラウトとテオデリヒの二人だった。穏やかで政治に詳しいロートラウトと軍事向きの苛烈なテオデリヒ。性格も特技も正反対の二人だが、それ故に仲が良いと言う。
 二人が重ね重ねそれぞれの口調でロゼウスに感謝を述べるので、ロゼウスは苦笑する。
「そんなことを言ったって、俺は今回に関しては何もしていないぞ。お前たちはお前たち自身で、この国の未来を決めたんだ。その発言に覚悟と責任を持ち、世界を変えていけ」
「それでも陛下、僕たちは陛下に感謝しています。僕らが今のように在れるのは、陛下の治世のおかげですから」
 ロートラウトの言葉に、ロゼウスはきょとんと目を丸くする。
「ローゼンティア人はただの人間に比べれば比較的寿命が長いからな。それでも四千年前ともなれば曾じいちゃんとかそういうレベルじゃきかねぇけど、まぁ曾祖父や祖父あたりなんかからは、その頃のこの国の様子をよく聞かされたよ。――昔は、今みたいに俺たちが自分の力で考える自由なんてなかったって」
 皇帝に従うように。
 それは帝国の民の魂に刻まれた不文律だ。初代皇帝シェスラートは、その手で皇帝候補だった最愛の存在を殺めたことから、二度と過ちを犯す者が現れぬよう法を定めた。――皇帝に叛意を抱くことなかれ。
 ロゼウスはその概念を壊したかった。皇帝という存在に人々が疑念を抱き、玉座に相応しくない王には反旗を翻すように、皇帝の治世にも疑問を覚えるようにしたかったのだ。結果的にそれがフェルザード=エヴェルシードという次代の皇帝を生み出すこととなった。
 皇帝は神に定められし絶対者。
 けれどその絶対者すらも、人は越えていく。ロゼウスはそう信じている。――信じたい。
「陛下はあえて殺戮皇帝の名を広め、人々が皇帝に畏怖と疑念を抱くようにしたかったのでしょう? 僕たちもそうです。そしてこの世界の中で、この国がどうあるべきかをよく考えました」
「帝国の民としては不遜なようだが、俺たちは王を捨てる。王も神も超えたただの一個人として、再びこの世界に。俺たちは――」
「この世界に、この帝国の民として生まれて幸せでした」
 ロゼウスは目を瞠る。
 ――彼らの事を凄いと思った。もしも自分があの時、彼らのような選択ができていれば歴史を変えることができていたのではないかと。
 でもそれはありえない、ありえないのだ。
 環境の影響というのは大きい。ロゼウスが生まれ育ったあの時代、大地皇帝デメテルの治世では、今のロートラウトやテオデリヒのような思考はまず芽生えるはずもなかっただろう。
 思いついたとしても、皇帝による帝国の支配の下、王制の否定などそれこそ狂気の沙汰として扱われたに違いない。
 ロートラウトとテオデリヒは何とか周囲を説得できたようだが、それも今この時代の、この状況でなければ難しかっただろう。ロゼウスという特異な皇帝と、更に特異なその後継者たるフェルザードは、帝国の変革を望む。
 皇帝であるロゼウスは、ロートラウトとテオデリヒを認めた。しかしロゼウスとその意志を継ぐフェルザード以外で、このような考えを認める皇帝など過去にいたのだろうか。
 わからない。歴史は決して戻らない。過去をやり直すことはできない。
 だからこそ同じ間違いを繰り返さぬために、ロゼウスは少しずつでも、この世界を変えようとしてきたのだから。
 ――そう、変えたかったのだ、世界を。
 自分たちが味わったような苦しみから少しでもこの帝国の人々を遠ざけたくて。
 善人ぶるつもりはない。ロゼウスはまたの名を殺戮皇帝という。彼に救われたと思っている何倍もの人間をその手にかけ苦しめた。そしてそんな皇帝に最も救われているはずの平穏な日々を送る普通の人間は、皇帝など初めから必要ともしていないに違いない。
 それでも。
(俺はこの世界に、少しでも何かを残すことができただろうか)
 そうであればいいと、ロゼウスは願う。

「皇帝陛下!!」

 伝令がやってくる。その内容はロゼウスもすでに知っている。
 世界は彼を置いて動き出す。時計の針は止まらない。彼が立ち止まっても、他の者たちが明日の未来へ向けて歩き出していく。
 これは、その始まりだ。
「フィルメリアが――王太子殿下が国王を殺害し、即位。そ、そして」

 そして彼は立つ。皇帝に逆らう唯一無二の王として。
 第二の反逆者。後の世に反逆王の名で呼ばれる男。
 父を殺し母を殺し、一人の学者から国王として成り上がり皇帝の前に立つ。

「皇帝陛下に宣戦を布告しました!!」

 犀は投げられた。
 ローゼンティアを導くロートラウトやテオデリヒ、次の皇帝フェルザードに、エヴェルシード王として立つゼファード。彼らに渡す前に、この世界を綺麗にしておかなければ。
 古き物、歴史の遺産と呼ばれる存在はもはや若い者に道を譲ってこの世を去るべき。
 ロゼウスは静かに唇の端を吊り上げ微笑んだ。

「さぁ――早く、私を殺しに来い。ルルティス=ランシェット=フィルメリア」

 《続く》