005
「祈りたまえ。さすれば神に通じよう」
「願え。我らの望みは叶う」
「神は慈悲深く、必ずそなたを救うであろう――」
「そうだ。我らは選ばれた存在なのだから」
メイセイツの王都の一画に建てられた広い教会。その中で、室内を薄暗くしたミサが行われている。
「教主様!」
「ローデリヒ様!」
教主と呼ばれる人物は全身を白いローブで覆っている。薄暗い部屋の中でその姿が光り輝くようだ。顔の前にヴェールが垂らされていて、容姿はわからない。それでも体つきからおそらく男だろうと予想される彼が身動きするたびに、銀に近い薄灰色の長い髪が揺れる。
「信じよ、我らの神を」
「ローデリヒ様!」
「我らに永遠の命を!」
死者を生き返らせる。その触れ込みでメイセイツで圧倒的な支持を得たローデリヒ教教主ローデリヒ、彼は定例のミサを終えると、護衛の部下一人だけを連れて自室に戻った。
「お疲れ様です、ローデリヒ様」
常日頃から影のようにローデリヒにつき従う青年は、ローブを纏ったまま長椅子に無造作に腰掛けた教主に一声かけた。その上で、長椅子に座る主君のもとへと歩み寄る。
「お召し物を、そのままでは皺になってしまいますよ」
「ああ。そうだな」
ローデリヒはローブを脱ぐと、青年の腕にそれを預けた。誰にも素顔を晒さない教主の顔を、この青年だけは見ることが許されている。それは何よりの信用であった。
しかし、その信用が常に美しいものだとは限らない。
「シュタッフス、あの娘に関する情報はまだ入ってこないのか?」
シュタッフスと呼ばれた青年はローデリヒに問われて彼の上着を手にしたまま、彼の方を振り返りながら答える。
「まだです。リリというあの教師の娘はどうやらまっすぐ皇帝領に向かったのではなく、様々な道を使ったようでして」
「お前の言う真っ直ぐは本当に山も林も突っ切るまっすぐだからな。そんな道、あんな脆弱な人間の娘が通れるわけないだろう」
「申し訳、ありません」
くすくすと笑いながら遠回しに責めるローデリヒに対し、シュタッフスは深緑の眼を伏せながら答える。
長椅子で寛ぐローデリヒの声には自分より弱い立場の者を甚振る響きがあり、シュタッフスはそれに服従する。彼は教主ローデリヒの部下だ。逆らうことは許されない。そして、シュタッフスにはできない。
「まぁ、いいさ。あの娘が皇帝領に向かったというのはわかっているのだ。再びこの街に現れたとすればその時連れている者たちは皇帝領の使者か間者か……どちらにしろ私たちに不利なことには違いないが、皇帝デメテルが出てくるのでなければどうにでもなる」
「大地皇帝は賢君と名高い方です。あのような平民の娘の訴えを鵜呑みにして、わざわざ出向くことなどないでしょう」
「ああ。そうだ。だったら丸め込めるさ。私は別にこの国の王に取り入ったからと言って、この国を転覆させようという気なんてさらさらないんだ。そう、そこそこ便宜を図ってもらえればいいだけで」
くす、と赤い唇を歪めながら笑うローデリヒの肌は白い。白いからこそ、唇の赤が目立つ。
あんなローブで全身を隠してはいるが、ローデリヒは美しい。陶磁器人形のように整った顔立ちをしている。
しかしそれを人前では決してさらさない。
「ローデリヒ様、あなたの目的は、この国のどこにあるのですか?」
「どこというほどのこともないよ。私はただ、私の故郷が苦手だっただけだ。このメイセイツは私の故郷から見れば世界の反対側だ。ここでなら誰も私を知らない。この国では上手くすれば、私は一大勢力を築けるだろう」
この国では、と強調することは逆に彼は故郷では勢力を築けなかったということを示すのだが、ローデリヒの事情を一切口外できないシュタッフスにそれを言うことは出来ない。
「別に国を煩わせるほどのことはないさ。私はただちょっとメイセイツ王に私の覚えをよくしていただいて適当にうまい汁を吸えれば、ね」
「……あなたの目的は、メイセイツで権力を握るということなのですね……」
「権力なんて俗な言い方をするものじゃないよ、シュタッフス。私が広めているのは、神の教え。得たいのは神への信仰だ」
「それは……」
あなたへの信仰の、間違いではないのですか?
「……」
だがシュタッフスがそれを口にすることはついになかった。
彼が口を閉ざしたということももちろんあるが、それ以上に邪魔が入ったためだ。
「ローデリヒ様!」
「どうした? そんなに慌てて」
ドンドンッと教主の部屋を訪ねるには多少乱暴な調子で外から扉が叩かれたのだ。
シュタッフスが急いでローデリヒにローブを着せ掛ける。顔を隠すヴェールを用意している間にローデリヒが扉の外の信者の一人に事の次第を問いただした。
「それが、街中で妙な一行が暴れているということです」
「妙な一行? だがそれを取り締まるのは警吏の仕事ではないのか?」
「いえ、それが」
信者はもごもごと口ごもると、やがて決心したように悲壮な声で教主に街中の被害状況を告げた。
「その一行は、我らの宗教施設を破壊して回っているとのことです……!」
◆◆◆◆◆
メイセイツはバロック大陸の西端にある国だ。特にこれといった特徴のない国で、代わりに大きな問題を抱えているということも基本的にない。皇帝領《薔薇大陸》を除く二つの大陸の情勢と言えば世界最強の軍事国家と魔族の二大国家を抱くシュルト大陸の中央部から北東部が一番危険なのは常のことで、それを差し引いても全体的にシュルト大陸は治安が悪く、バロック大陸の方が穏やかだ。
その中でも大陸西端、つまり皇帝領に近い位置にある国は情勢が安定し、経済的に困窮する国も少ない。完全なる大地と呼ばれる皇帝領の安定した気候と世界一の権力者たる皇帝の威光が影響しているのだと思われる。メイセイツもその例に漏れず、内憂外患と無縁な国は特段発展しているわけではないが、大きく情勢を崩して皇帝領にその解決を依頼することもなかった国だ。
メイセイツ人の容姿は薄い灰色の髪に、深緑の瞳。そしてこの国は彼らの瞳と同じく緑を貴色として好んでいる。
馬車を降りて国内、それも国のほぼ中央に置いてある王都に入ったロゼウスたち一行は、メイセイツの人々の中で悪目立ちしていた。
「ロゼウス、お前それ目立つって」
「何を言うんだ、エチエンヌ。お前だってその金髪が派手だ」
「僕は単なるシルヴァーニ人です。お前は格好がそぐわないって言ってるの」
ロゼウス=ローゼンティアはその名の通りローゼンティア人、エチエンヌはシルヴァーニ人。シュルト大陸のやや西部にあるシルヴァーニは現在飢饉で困窮しているが、その国の民は多くが美しい容姿をしていることで有名だ。エチエンヌもその例に漏れず、美しい容姿をしている。
ただ、そのエチエンヌ以上に目立つのがロゼウスだった。
ローゼンティアは魔族、ヴァンピルの王国。そのため、他の人間諸国とは感覚が違う。ローゼンティアで一般的に衣装に使われる黒という色は、他国では喪の色として忌み嫌われている。それは人間の中でも異端とされている黒の末裔がその色を戴くということにも関係している。
が、ロゼウスはそんな人間の感覚などものともせず、黒を着ている。それが目立つとエチエンヌは指摘しているのだ。
「そりゃ、お前の感覚に毒されて迂闊にもそれを忘れていた僕も僕だけどさ……」
はぁ、と自戒の意味も込めた溜め息をつきながらエチエンヌは周囲の様子を見回す。
ロゼウスの美貌と格好、エチエンヌの美貌に道行く人々の注目を集めている。
「お二人とも十分目立っています……」
二人をここまで案内してきたリリは、あれ? 自分がこの国を出てきた時には誰にも見つからないようもの凄く気を遣ったのに。と微妙な胸中になりながら、しかし目の前にいるのが皇帝とその従者であればなんとでもなるだろうと気を落ち着けて皇帝に声をかけた。
「皇帝陛下、これからどうするおつもりですか? 今から目立たないように地下に潜伏するのは……」
フィデルや両親、街の人々を助けたいだけのリリにとっては、街中で揉め事を起こすつもりはない。教主と話をつけてさっさと人々を怪しい宗教と不可思議な術から解放してもらえればいいのだ。だがロゼウスにはロゼウスの思惑が別にある。
「とりあえずいきなり俺がメイセイツの教主に会いたいなどというのも不自然だから、建物の一つ二つぶっ壊して騒ぎを起こそう」
「え?」
これ以上なく即物的で乱暴な結論を返されて、リリは再び呆然とするしかない。
「さて、エチエンヌ。宗教指導者を引っ張り出すにはどんな手が得策かなぁ?」
「うーん、人知れず近づくなら信者を装って潜入、だろうけど僕らみたいな異大陸人がこの国にいるってところですでに不自然だろうからね。かといってリリは顔が割れているし、ここは確かに教会や宗教絡みの場所を襲撃でもして宗教関係者にとっつかまって見るのも一つの手かもね」
「えええ――――ッ!?」
エチエンヌまでロゼウスの乱暴に過ぎる作戦を推奨しだしたので、リリは思わず頬に手を当てて叫んでしまう。
「何言ってるんだ、リリ。お前はどうせこの国ではローデリヒ教とかいうヤツラから目をつけられているお尋ね者なんだろう? 今更建築物破壊の罪が加算されたところで変わりは」
「ありますよ!」
リリの必死な抗議もロゼウスは聞いてはいない。
「さて始めるか」
「やめて――――!!」
「大丈夫、建物を潰しても怪我人は出さないようにするから」
「そういう問題ではありません!」
「じゃ、始めるぞ」
聞いちゃいねぇ。
ロゼウスはにっこりと、この上なく綺麗だが、この上なく邪悪に笑う。そして。
「俺は待つのは嫌いなんだ」
近くに教会を見つけると、その扉にあっさりと強烈な蹴りを見舞った。
◆◆◆◆◆
「一体何があったんだ!?」
「ああ! 教会が!」
「誰だあいつらは!」
王都の一画は混乱に陥った。その混乱の中心にいるのは、メイセイツ人には最も見慣れない人種であり、見慣れない格好をした一人の少年である。
服は黒、そして肌も髪も白い。かと思えばその少年の顔を正面から見た者はどきりとする。深い深い、血のような深紅の瞳。
少年――ロゼウスは声を張り上げる。
「よく聞け! メイセイツの者ども!」
彼の手近にあった教会はローデリヒ教でも有数の大教会で、それを一蹴りで半壊させながらロゼウスは堂々と告げる。
「ローデリヒ教などただの詐欺だ! 教主は嘘をついている!」
今現在この国で最大の勢力を誇る宗教の名を、突然現れたやけに居丈高な少年が勝手に断罪する。半壊した教会からぞろぞろと出てきた信者たちに怪我はないが、皆一様に呆然としている。
ロゼウスに目が行き過ぎて、はじめのほうは彼らもその連れにこれまた見慣れない人種である金髪の少年ともう一人がいることに気がつかなかった。しかししばらくして粉塵がおさまり、瓦礫に足をかけて立つロゼウスの背後に別の人間がいるのが目に入るようになると、幾人かがその姿に気づく。
「リリ!」
「お前さん、一体どうして!?」
黒山の人だかりの中から知り合いの顔を見つけてリリ自身も動揺する。どうしても何も、リリ自身にもどうしてこのような状況になるのかさっぱりわからないので説明のしようがないのだ。
「え、えっと、これは」
戸惑うリリや街の人々を置き去りに、ロゼウスの言葉だけが朗々と続く。エチエンヌに関してはもうどうとでもなれと言った様子だ。やる気なさそうにロゼウスが崩した瓦礫の破片に腰掛けている。
「死者を蘇らせる神の御業など、この世には存在しない!! あるのは――――」
「そこまでだ!」
話が核心に迫ろうというところで、ロゼウスに待ったをかける声があった。芯の通った制止の響は青年のものだ。
「シュタッフス様!」
「シュタッフス様がおいでになられたぞ!」
街の人々が細身の青年が駆け寄ってくるのを眺めて口々にその名を呼ぶ。シュタッフス、と青年の名をロゼウスも小さく口の中で繰り返した。
息せき切って駆けつけた青年は、ロゼウスを見て一瞬驚いたような顔をした。ローゼンティア人、とその唇が小さく動くのがロゼウスの眼に映る。
「無礼者ども! 我らが神の教えを否定するとは何事だ!」
一瞬呆然としていた青年は我に帰ると、ロゼウスの容姿に動揺した様子など微塵も感じさせない口調で彼を怒鳴りつけた。その口からは、いかにも悪質な宗教信者らしい台詞が飛び出る。もっとも、その言葉を彼自身が本当に信じているのかどうかは疑わしいということまで、ロゼウスは読み取った。
半壊した教会の前、シュタッフスはロゼウスの目前まで来ると剣を抜き構える。刃を向けられてもロゼウスが動揺することなどないが、青年の表情に少しばかり興味を引かれるものがある。ロゼウスはリリから話を聞いた時から予想していた自分の考えが的中したことを、その青年の姿に感じた。
「ああ、なるほど。やはりお前……」
「聞いているのか! この不埒者! いいや、もういい、教会を破壊した罪により捕らえてくれる!」
シュタッフスという青年は問答無用でロゼウスに斬りかかって来た。ひらりと舞うようにあっさりとロゼウスはそれをかわす。
「この!」
「お前なんかにわざわざ斬られてやる義理もない」
ロゼウスは武器を身につけていないが、彼の力を持ってすれば人間の剣士の一人や二人、素手で十分だ。攻撃をかわすだけならば尚更だ。
「ちょ、大丈夫なんですか? シュタッフス様、あの方は教主様の護衛でとても強くて……」
「何遊んでんだよ、ロゼウスの奴」
ロゼウスとシュタッフスが戦闘状態に入ってしまったので、エチエンヌとリリはますますその場から動けない。凄腕と評判のシュタッフスの腕前を知っているだけにリリは戦いを案じるが、エチエンヌはもちろんロゼウスの心配などしない。するはずもない。あのロゼウスが、そんじょそこらの剣士崩れに負けるはずはないのだ。エチエンヌもそうだ。彼らは焔の国と呼ばれたあの国で、本物の剣士というものに出会っているのだから。
それよりも、と周囲を見回したエチエンヌは、物陰に不自然なきらめきを発見して目を細める。
陽光を反射する刃の輝きはリリを狙っていた。エチエンヌは咄嗟に立ち上がり彼女を庇う。
「危ない!」
「きゃあ!」
物陰から飛び出してきた人影が短刀でリリを狙ったのだ。間一髪エチエンヌが彼女を庇ったおかげでリリが殺されることはなかったが、その腕の服は切り裂かれ、肌を紅い色が染めている。避け切れなかった腕を刺客の得物が切り裂いたのだ。
「リリ! エチエンヌ!」
シュタッフスの相手をしていたロゼウスも振り返る。少女の護衛はエチエンヌに任せておけば大丈夫だろうと高を括っていたのだが、意外なことにそう上手くはいかずリリが傷を負ったことにロゼウスは舌打ちする。
「くそ! 誰だよお前!」
今度こそリリを腕の中に庇いながら、エチエンヌは懐から取り出したナイフを刺客に向けて投げる。ロゼウスとはっきり打ち合わせしたわけではないがこの状況では彼女の護衛は自分の役目だと暗黙の了解で理解していたエチエンヌにとってもこの状況は予想外だった。
しかもおかしなことには、エチエンヌの実力が低いわけでも、狙ってきた刺客が優れているわけでもない。
エチエンヌがすぐにリリを狙う気配に気づけなかったのには理由がある。殺気がなかったのだ。あれだけしっかり刃物で斬りつけておいて、刺客には人を害そうとする明確な殺意が感じ取れなかった。そのため気配で人の動きを判断するエチエンヌも対応が遅れたのだ。
そのエチエンヌの投げた二本のナイフは、ゆったりとしたローブに身を包んでいた刺客のフードを切り裂く。用を成さなくなった布地がぱらりと零れて露になったその顔に、腕の中のリリが驚愕して叫んだ。
「嘘……嘘よ! フィデル! あなたがどうして!?」
「知り合い?」
取り乱すリリの顔色は失血が酷い以上に青褪めたものとなっている。腕の傷はロゼウスたち武人から見れば浅いものだが、一般人の少女にして見れば深い怪我だ。
リリにフィデルと呼ばれたローブの少年は、彼女を狙うのに失敗して以来大人しくなっている。かといってそれは降参や敗北を示している様子でもない。
見ればフィデルと呼ばれた少年の表情は能面のように抜け落ち、瞳も焦点があっておらずひたすら虚ろだ。
フィデルの背後から、また一人軽やかな足音を立てて誰かが現れた。
「教主様!」
「ローデリヒ様!」
「教主様がお出ましになったぞ!」
シュタッフスの時よりも更に大きな歓喜と期待を乗せた声で人々が叫ぶ。
彼は全身を白いローブで覆い、顔の前にはヴェールが垂らされている。銀髪の房を少しだけ覗かせたその人物の容貌は謎。だがその格好でロゼウスにもエチエンヌにもその人物こそが教主と呼ばれているローデリヒその人だとわかった。
シュタッフスが動きを止め、それに合わせてロゼウスも教主の方へ視線を向けた。ロゼウスの姿に教主もシュタッフス同様驚いたようだったが、ヴェールに阻まれてその表情がどんなものかはわからない。声ばかりは一宗教の指導者として堂々とロゼウスたちへと語りかける。
「この街中で問題を起こしたというのはあなた方か」
「そうだ、と言ったら?」
にっこりと艶やかな笑みを浮かべて挑発するロゼウスにも惑わされず、教主は半壊した教会を眺めて溜め息をついた。
「なんという畏れ多い、神を讃える建物を打ち壊すなどと……」
「讃えているのは神じゃないだろ?」
ローデリヒの表情は見えない。だが対峙するロゼウスの表情は、誰の眼にもはっきりと映っている。
「讃えられたいのは、お前だろう? 教主ローデリヒ」
その艶やかに毒々しい笑みに、街の人々は息を飲む。彼の背後ではリリが血を流してへたりこんでいるというのに、この不敵な余裕は何なのだろうかと。
「どうやら、あなたとは話をするだけ無駄らしい」
「そうだろうな」
「シュタッフス」
そこで教主はロゼウスとの会話を打ち切り、腹心の部下に命じた。
「この者たちを捕らえよ」
あなた方は罪人だ、とローデリヒの声に言い捨てられたロゼウスたち三人は、ローデリヒ教教会本部の地下牢へと連行された。
「待ってろ、傷なら後で治してやる。痛みもないだろう」
一応負傷したリリに対するフォローはロゼウスも咄嗟の魔術でしていた。しかしリリはそれには答えず、ただ俯いて小さく震えている。
「フィデル……」
皇帝の魔術で麻酔がかけられているにも関わらず、斬りつけられた腕が酷く痛んでいた。