罪人

02

 一人の少年を、屈強な男たちが取り囲んでいる。
「ん……ふぅ、ん、んっ……」
 ロシンは一人の男の膝の上に座らされて、その硬く屹立したものを受け入れさせられていた。また、正面には別の男が立ち、熱く滾ったものを無理矢理ロシンの口に咥えさせている。更に両手にはあぶれた男たちの欲望が擦りつけられ、ロシン自身の股ぐらにも悪戯な指が伸ばされていた。
「おら、こっち向け」
「ん、んんっ!」
 ひとたび解放されたと思っても、たちまち伸びてきた腕がロシンの口を開かせて屹立をねじ込み、抱きあげた華奢な体を膝の上に落とす。少年は休む間もなく、十人近い男たちの慰み者とされていた。
 武骨な指は、ロシンの滑らかな太腿を撫で、彼らの剛直と比べればまるで玩具のようなそれを指でひっかき、抓りと弄んでいる。単純な痛みだけでなくむず痒いような奇妙な感覚がそのたびに寄せられ、気が狂いそうになる。
「は……うむ、ん、むぅ……」
 抵抗したらまた酷い目に遭わされると知っているロシンは、男たちに小突かれるままに奉仕を続けていた。紅く染まった目元には泣いた痕が残り、ソルバに犯された下腹部には鈍痛が疼く。それでも反乱軍の男たちは、暴虐を重ねた王国の最後の王子に容赦をする気はなかった。
「次、俺な」
「ああ、いいぜ」
 そんなやりとりと共に、もう何度後ろと口を犯す男が変わったのか。朦朧とする意識の中必死で奉仕を続ける少年は覚えていなかった。口いっぱいに男のものを含むが当然呑み込みきれるわけもなく、端から唾液がひっきりなしに伝っている。擦りきれて血の味がし始めた舌が、必死で男たちのモノを機械的に舐め続ける。
「んぐ、ぐぅう!」
 口の中に出された白濁の液体を、ロシンはついに嚥下しきれずに咳き込みながら床に零す。もはや体を起こす気力すらなく、そのまま男の腕の中に倒れこんだ。
「ちっ、また気絶しやがったぜ」
「起こすか?」
「もう一通りやっただろ? それ以上やったら、温室育ちのお坊ちゃまはさすがに死んじまうぜ」
 荒くれの男たちをまとめるソルバが、未練がましく気絶した少年を抱えている男たちに制止の声をかける。
「仕方ねぇなぁ」
 残された男たちはせめてもの慰みにと、ぐったりと倒れ伏した少年の顔に向けて次々に白濁した精を放った。

 ◆◆◆◆◆

 目覚めた時には、物置ではない別の部屋に移されていた。様式から王宮の中のどこかだろうことはわかったが、これまでロシンが足を踏み入れたこともない一角のようだ。王子の感覚からすればその部屋はかなり小さく狭く、どうやら使用人部屋の一つらしい。
「う……」
 寝台の中で小さな呻きを上げた彼の顔を、脇に立っていた人物が覗き込む。
「ああ、起きたのか」
「ひっ」
 その男の顔を見て、ロシンは掠れた悲鳴を上げた。それはソルバと呼ばれていた、反乱軍のリーダー格の男だったからだ。
 咄嗟に起きだして逃げようとしたロシンの体は、二つのものに引きずられて床に倒れ込む。一つは長時間犯され続けて消耗した彼自身の体力、もう一つは、足首につけられていた鎖の存在だ。
 それに彼は全裸だった。身を包むもの一つない姿に、足首の重苦しい鉛色の鎖だけが鈍く輝いている。
「なっ……」
「俺たちがお前を逃がすと思うのか? 王子様。ま、逃げたければ逃げればいいぜ。お前の顔はこの国中に知られているんだ。すぐに民衆がお前を八つ裂きにするだろうよ」
 ソルバは寝台の枕元のチェストから水差しを取り出すと、からからに乾いて貼り付いてしまっていたロシンの口に注ぎ込む。ロシンは恐れながらも、切実に水分を欲する体はその水をごくごくと飲みこんだ。
 これまでどんな扱いをされる時も丁重にされていた少年の口の端を、零れた水が伝う。城の使用人たちは皆王子の機嫌を損ねることを恐れて、こんな無体な真似はしなかった。だがソルバはロシンの召使ではない。
「さて、ようやく落ち着いたか。面倒だが改めて説明してやろう。俺の名はソルバ。この王宮に攻め込んだ部隊を率いていた者だ。で、お前は今、俺たちの捕虜、いや……奴隷だよ」
「ど、れい?」
 聞き慣れてはいたが、いざ自分がその立場になるとは思ってもいなかった言葉の響きにロシンは呆然とする。青ざめて顔色の悪い少年に、なおもソルバは畳みかけた。
「お偉方にしてみればお前も王である父親と一緒に処刑したかったらしいが、いろいろと思惑があってな。殺されることで恨みをぶつけられる奴もいれば、あえて生かすことで恨みの的となるべき存在もいるってことさ。それに」
「ひぐっ」
 床に倒れ込んだロシンの脇に屈みこんだソルバの指が、少年の胸元の飾りを乱暴につまむ。ロシンはびくりと体を震わせたが、抵抗しても何にもならないと知っていたので、ただ怯えて蹲ることしかできなかった。
「血の気が多い奴らが集まっている以上、その欲望を処理する奴が必要だからな。かといって、仮にもここまで暴虐の王に対して正義を唱え続けて来た俺たちが、野蛮人みたいに貴族娘を片っ端から娼婦扱いするわけにもいかんだろう? いくら勝者と敗者っつっても、立場が入れ替わっただけでお前の親父と同じことを表だってやるわけにはいかないからな。……そう、お前は生贄だよ。王子様。これまでさんざ好き放題しやがった王族の一人として、一生男どもに抱かれる肉人形として生きるんだ」
「い、一生……?」
「ま、そう長くはないだろうさ。稚児趣味なんてせいぜいあと数年もてばいい方だろう。お前さん可愛いからな。あるいは大人になっても同じような扱いかもしれねぇが」
 悲壮な表情のロシンを嘲るように、ソルバの指が少年のおとがいを持ちあげる。青年は無造作に少年の唇を奪い、あえかな抵抗ごとその感触を堪能した。
「ま、難しい話はもうお前には関係がない。せいぜいその可愛い顔と身体で、俺と部下たちを満足させてくれよ? 奴らにもちゃんと、お前が大人しく俺たちに服従するようなら乱暴にしないように伝えてやるからさ」
 ソルバの言葉に、ロシンは縋るような目で彼を見た。王子とはいえこのような状況に対応する術を何一つ学んでいなかった彼にとっては、たとえうまく王宮を逃げ出せても生きていく方法がない。
 今日にいたるまで、何人もの王宮の兵士たちが反乱軍と戦っては無残な死体となって返り討ちにされているのをロシンも知っていた。大人たちはそのたびに意地になって兵を差し向けていたようだが、ロシンはただただ怖かった。いつか自分もそうやって、ぼろ布のような悲惨な肉塊に変えられてしまうのではないかと。
 今、この立場が綱渡りのような状況にあることぐらいはロシンもわかっている。反乱軍の中には先日の男のように、王の差し向けた兵士に家族を殺された者とているのだ。そういった者たちからの恨みを、ロシンは一身に背負っている。他に恨みをぶつけられそうな対象である王族は軒並み殺されてしまったのだから尚更だ。
「無駄な抵抗はするなよ」
 ソルバがロシンの耳元に唇を近付けた。
「お前は今、この国で最も地獄に近い罪人だ。お前が逆らうってことは、それだけお前の罪が重くなるってことさ」
 舌が伸びて耳朶の縁をぺろりと一舐めすると、ついで青年は獣のように彼の耳を甘噛みする。ロシンはぴくりとも動けなかった、
 罪人。
 その言葉が、重くロシンの胸に刻まれる。