罪人

03

 その部屋に集められた男たちは、明らかにこれまでロシンが見てきた粗野な戦士たちとは風格が違った。
 ソルバの説明によれば、彼らは反乱軍の中で最高位に位置する者たちらしい。もともと彼らが作り上げた抵抗組織が拡大したものが、ルグラントを打ち倒した反乱軍――今は革命軍と呼ばれる組織だ。
 当のソルバ自身も、彼らと同じく革命軍を作り上げた人間の一人だった。だから王宮を攻めた部隊の指揮を担っていたのだ。
 その、首領格の面々に引き合わされたロシンが何をされるかと言えば、やはり王子に求められることは一つだった。
「抵抗するなよ」
 ソルバの手が、ロシンに着せられた粗末な衣装を脱がせていく。
 先日無理矢理彼の部隊に犯された時とは比べ物にならないほどマシな手つきだが、されることの中身は変わらないのだ。震えるロシンの瞳に浮かんだ涙に、壁にもたれて興味なさそうにしていた男の一人が軽蔑したように鼻を鳴らす。
「そんな顔で俺たちの同情を引けるとでも思ってるのか、元王子様。俺たちが知っている限りでも、何十人という女がお前ら王族の派遣した国王軍の兵士たちにさんざん殴られた末に犯されて死んでいったんだぜ」
 男は懐から鋭い輝きを放つ短刀を取り出す。ロシンの衣服を脱がそうとしていたソルバの手を止めさせ、その切っ先を服の上からロシンに押しあてた。
「ヒッ」
「本当ならこんなもんじゃなく、手足を斬り取ってやりたいくらいだ」
 そう言いながら、男は短刀でロシンの身につけているものを切り裂いて行く。間違って肌まで斬られるのではないかと、ロシンは身動きすることもできなかった。
 嬲るように、辱めるように、男はもったいぶってロシンの衣装を切り刻み、肌を露出させていく。一枚一枚布が剥がれるごとに、ロシンの王族としての権威まで剥ぎ取ろうとするかのように。
「……ふっ、ひっく……ひっ……」
 しゃくりあげながら啜り泣くロシンの裸体が、男たちの目に晒される。
「傷だらけだな。お前たちの隊は相当手荒な真似をしたようだな。ソルバ」
「何せ長年の宿敵だからな」
「こんな貧相な身体に欲情しろと言われてもな」
 ロシンにはよくわからないが、彼らは何か意味を持ってこの場所に集まってきているらしい。
 わざわざ屈みこんだソルバが、ロシンの瞳を見つめながら言い聞かせる。
「暴れるなよ、王子様。お前が俺たちに反抗する様子を見せるなら、俺たちはすぐにでもお前を殺す。生き延びたければ、せいぜい這いつくばって俺たちの機嫌をとりな」
 先程の男がその言葉に加えた。
「それともお前が俺たちの奴隷になるのが御免だってんなら、今すぐ舌でも噛んで死ぬんだな。俺たちはお前が生きている限りは利用方法を考えるが、死んだ奴には用はない」
 両親である王と王妃が処刑された以上、ロシンは望むと望まざるとに関わらずルグラントの最後の王族だ。それは彼ら革命軍にとって、吉と出るか凶と出るかわからない要素である。
 だから革命軍の主だった面々は、最後の王子を間においてこれからの仲間内の結束を確認する必要があった。
「じゃ、始めるか」
 ロシンにとっては地獄の宴でしかないそれは、ソルバのいたって気楽な一言を合図として開始された。

 ◆◆◆◆◆

「はっ、ああっ、ふ、ぅ、ううっ」
 男の一人がロシンを四つん這いにさせ、その後ろからのしかかるようにして華奢な身体を犯している。
 自ら戦いを引き起こす役目を志願した者たちらしく、集まった男たちは皆体格が良い。その下半身に聳え立つモノも堂々としていて、幼いロシンの目からすれば見た目だけで凶器と言えるようなものだった。
 数日前までは排泄以外の用途を知らなかった穴は、ソルバにさんざん犯された今では、少し慣らしただけでするりと男のものを飲みこんだ。腹の中を満たす感覚に強烈な異物感と嫌悪感を抱くのは変わっていないが、今ではそれだけではない。
「あ……」
 思わず零れ出た吐息には、間違いなく悦楽の気配が宿っていた。その艶っぽい様子に、正面にいたソルバが唇を歪める。
「随分素直になったようだな」
 ロシンを抱えている男は、華奢な少年の細い足をぐいと持ちあげて、結合部が他の仲間たちによく見えるようにした。貧相な身体だと王子を馬鹿にした男たちも、犯されて泣きながら喘ぐ少年の痴態には心を動かされたようで、はやし立てるような口笛を送る。
「王子の命は、もはや完全に我らの手に握られている」
 白濁の糸を引きながら男が自身を引き抜くと、ロシンは床に崩れ落ちた。ガクガクと揺さぶられたせいで腰が痺れ、足が立たない。瀕死の獣のように、地に伏して集まった男たちを見上げる。
 ロシンを囲んで見下ろす男たちの目には、異様な輝きが灯っていた。革命軍として王国中の平民たちを率いたことにより思いあがった彼らの精神は、尊いと言われる王家の血を引く最後の王子を慰み者にすることによって、異様な興奮をかきたてられている。
 そこに、男の一人が銀の盆に乗せた杯を持ってきた。
 祝杯でもあげるのかと思ったが、それにしては一杯きりというのがおかしい。男たちは杯に手を伸ばすでもなく遠巻きにそれを見守っている。その中で一人、ソルバが動いた。
「頭領」
「やれ、ソルバ」
 先程までロシンを犯していた男が、ソルバへと命令する。彼の言葉に従って、ソルバは銀盆の上の杯を手に取った。それを、屈みこんでロシンの口元に近付ける。
 ロシンは顔を引きつらせた。間近で良く見ると、その液体は血のように赤く、どろりと濁っている。
「これを飲んでもらおうか」
「い、いやっ」
「お前に拒否権はないんだよ、お坊ちゃん。これを拒むなら、お前、殺されるぜ? 利用価値のない恨みある厄介者に優しくしてくれる人間なんて、どこにもいないからな」
 ソルバの脅しに、ロシンは肩を揺らして震えだした。
「飲むよな。なぁ王子様。俺たちに逆らわない、と、お前の意志で決められるよな」
 そうでなければ殺す。居並ぶ男たちの目が言葉よりも雄弁にそう語っていた。
 ロシンはその威圧感に負けて、ソルバの手から杯を受け取る。
 口に入れるのも躊躇われるような怪しい液体が、喉を過ぎる。するとすぐに、焼けつくような感覚に襲われた。
「がっ……!」
 断末魔のような呻きを上げ、ロシンは杯を取り落として蹲った。両手で押さえた喉が、誰かに絞められたように痛む。
「……っ、ぁ……!」
 咄嗟に叫ぼうとしたが、痛みに邪魔されて引きつったような声しか出なかった。何とか声を絞りだそうとするたびに喉は痛む。
 喋れない。
 ぼろぼろと涙を流しながらその事実に気づいたのは、ようやく最初の痛みが治まりかけた頃だった。
「これで王子様の口から余計な言葉が話されることはなくなった」
 転がる杯を部屋の隅に放り、ソルバが言う。
「名実共に、この国は俺たちのものになったってわけだ」
 ロシンは愕然とした。力を振り絞るが、得体の知れない薬によって焼けただれた喉から出るのは言葉にならない掠れた音ばかりだ。
 声が出ない。自分の口で、喋ることができない。
 それでは王子としての価値はないも同然だ。血を残すという意味では必要なのかもしれないが、例え他人が書いた原稿でも、自分で演説の一つもできない王族など意味がない。
 だからソルバたちは、この薬――毒を飲むことをロシンに迫ったのだ。文字通りの口封じ。殺す代わりに声を奪った。
「可愛いお人形さんの出来上がりってわけだ」
 人形。
 ああ、そうだ。喋れず、誰に言葉も届ける必要のない彼は、肉人形として、男たちの体のいい慰み者になるしかない。
 何度味わっても絶望とは馴染むことができないものなのだと思いながら、ロシンは喉の痛みから来る熱によってそのまま気を失った。