桑名江

くわなごう

概要

「刀 金象嵌銘義弘本阿(花押) 本多美濃守所持」

『享保名物帳』所載、南北朝時代の越中国の刀工・郷義弘の刀。

郷義弘の刀は「郷」の字と「江」の字、どちらも使われることがある。

大磨り上げ無銘。
本阿弥光徳が郷義弘と鑑定し、金象嵌銘が入っている。

『国宝刀剣図譜』などによると、本多家の記録では、

伊勢国桑名城主・本多美濃守忠政が鷹狩りに出た際、在る在郷の民家で休憩した際に祀られているのを発見した。
忠政は頼み込んでその刀を譲ってもらった。
忠政が当時、勢州桑名の城主であったために「桑名江」と名付けられたという。

『埋忠銘鑑』によると、
本阿弥光徳が郷義弘と鑑定し、埋忠寿斎に金象嵌銘を入れさせた。

以後、岡崎城主の本多家伝来。

1934年(昭和9)7月31日、重要美術品認定。
1937年(昭和12)5月25日、国宝(旧国宝)指定(現在は重要文化財)。

戦後、本多家を出て個人蔵になり幾度か所有者が変わる。

現在は「京都国立博物館」蔵。

本田忠政が民家で発見し、召し上げたとされる

『国宝刀剣図譜』によると、「本多家の記録」では

伊勢国桑名城主・本多美濃守忠政が鷹狩りに出た際、在る在郷の民家で休憩した際に祀られているのを発見した。
家主に故を問うと、家主は昔から我が家に伝わる霊刀故に清浄にしていると答えた。
忠政がその刀を見せてもらうと頗る利刀とわかったため、頼み込んで譲ってもらった。

忠政が当時、勢州桑名の城主であったために桑名江と名付けられた。

『国宝刀剣図譜 古刀の部 大和,相模,越中,但馬,伯耆』(データ送信)
著者:本間順治 編 発行年:1938年(昭和13) 出版者:岩波書店
目次:国宝刀剣図譜 古刀の部 大和
コマ数:97、98

『武将と名刀』(データ送信)
著者:佐藤寒山 発行年:1964年(昭和39) 出版者:人物往来社
目次:本多忠勝と桑名江・蜻蛉切など
ページ数:272~277 コマ数:141~143

上記の内容の出典は具体的な史料名はわからないが「本田家の記録」と説明されている。

下記の本によると「在る在郷の民家」とは「土豪片岡掃部頭家」らしい。

『桑名市史 本編』(データ送信)
著者:近藤杢 編, 平岡潤 校補 発行年:1959年(昭和34) 出版者:桑名市教育委員会
目次:第二十八章 学術及び芸能
ページ数:610 コマ数:324

本阿弥光徳の鑑定により、郷義弘と極める

『埋忠銘鑑』によると、
本阿弥光徳が郷義弘と鑑定した。
埋忠寿斎に金象嵌銘を入れさせた。

表 「義弘 本阿(花押)」
裏 「本多美濃守所持」

併せて拵えの金具も寿斎に作らせた。

『詳註刀剣名物帳 : 附・名物刀剣押形 増補』
著者:羽皐隠史 発行年:1919年(大正8) 出版者:嵩山堂
目次:松倉郷義弘の部 桑名郷
ページ数:85 コマ数:57

本田中務殿(三州岡崎本多子爵家)
桑名郷 象眼銘長貳尺貳寸九分 代金三百枚

桑名より出る鎺より七寸程にこぼれあり中佩面に本多美濃守所持裏に義弘、本阿弥象眼入り、光徳なり。

『埋忠銘鑑 訂再版』
著者:中央刀剣会本部 編 発行年:1932年(昭和7) 出版者:中央刀剣会本部
ページ数:166 コマ数:172

『埋忠銘鑑』(データ送信)
著者:本阿弥光博 解説 発行年:1968年(昭和43) 出版者:雄山閣
目次:四、本書の掲載諸刀散見 コマ数:52
目次:埋忠銘鑑 全 コマ数:226

1665年(寛文5)2月3日、300枚の折紙がつく

寛文5年(1665)2月3日、本阿弥光温が金三百枚の折紙をつけた。
この折紙は「京都国立博物館」のサイトで見ることができる。

以後、岡崎城主の本多家に伝来

岡崎城主の本多家伝来。

1886年(明治19)には本多家の世襲財産として登録されている?
羅列されている刀の中に「桑名郷刀一口」が含まれている。

『官報 1886年12月07日』
著者:大蔵省印刷局 [編] 発行年:1886年(明治19) 出版者:日本マイクロ写真
ページ数:79 コマ数:6

1934年(昭和9)7月31日、重要美術品認定

昭和9年(1934年)7月31日、重要美術品認定。
本多忠昭子爵名義。

「太刀 金象嵌銘義弘本阿花(光徳) 本多美濃守所持(名物桑名江)」

『官報 1934年07月31日』
著者:大蔵省印刷局 [編] 発行年:1934年(昭和9) 出版者:日本マイクロ写真
目次:文部省告示第二百三十二号 昭和九年七月三十一日
ページ数:778 コマ数:4

1937年(昭和12)5月25日、国宝(旧国宝)指定

昭和12年(1937)5月25日、国宝(旧国宝)指定。現在は重要文化財。
本多忠昭子爵名義。

「刀 金象嵌銘義弘本阿(花押) 本多美濃守所持」

『官報 1937年05月25日』
著者:大蔵省印刷局 [編] 発行年:1937年(昭和12) 出版者:日本マイクロ写真
目次:文部省告示第二百五十号 昭和十二年五月二十五日
ページ数:738 コマ数:8

戦後、本多家を出る

『武将と名刀』によると、本多家を出た後、神奈川の愛刀家・宮崎富次郎氏の所有になった。
『正宗とその一門』の頃も宮崎富次郎氏蔵。

『神奈川県文化財目録』(データ送信)
著者:神奈川県教育委員会事務局社会教育課 編 発行年:1952年(昭和27) 出版者:神奈川県教育委員会事務局社会教育課
目次:国宝及び重要文化財(宝物類)
ページ数:19 コマ数:16

『正宗とその一門』(データ送信)
著者:本間順治、佐藤貫一編 発行年:1961年(昭和36) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:71 重文 刀 金象嵌銘 義弘(桑名江) 1口 宮崎富次郎氏蔵
ページ数:143、144 コマ数:188、189

1968年ごろには所有者が変わって江原正一郎氏蔵であったようである。

『出品目録 : 第17回全国大会』(データ送信)
発行年:1968年(昭和43) 出版者:日本美術刀剣保存協会
ページ数:14 コマ数:10

現在、「京都国立博物館」蔵

「国指定文化財等データベース」によると、
現在の所有者は「独立行政法人国立文化財機構」。
保管施設は「京都国立博物館」。

「京都国立博物館」のサイトでは折紙なども見られる。

作風

刃長二尺二寸九分(約69.4センチ)。
区より七寸(約21.2センチ)ほど上に刃こぼれがある。

板目肌に柾まじり、地沸えのよくついた地鉄に、浅い彎れ乱れに五の目まじりの刃文を焼く。
茎は大磨り上げ無銘。

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:くわなごう【桑名郷】
ページ数:2巻P186

調査所感

『享保名物帳』所載でとても有名な刀だが、いかんせん現代のネットで検索すると桑名江だろうが桑名郷だろうが地名に絡む別の情報が引っかかりまくって何気に調査が大変な刀。

忠政が鷹狩の際に民家から召し上げたという内容の「本多家の記録」って結局どれだ?

本多家に関しては大千鳥を調べた時も「本多家記録」に幸村が十文字槍を使っていた記録があるという結果だったんですが、具体的な書籍名がわからない。
史料名としては「本多家記録」なのかもしれないがどこにどういう形態で収録されているのか。大坂の陣関連の抜粋は引っかかるんですが、桑名江とか桑名郷で調べると地名ばかり引っかかってこの逸話が引っかかってこねぇー!!

とりあえず最低限のことは昭和の刀剣書で調べればいいということで、この辺りで切り上げます。本多家ガチ勢がいたら後は頼む(他力本願)。

・本田忠政の勢州桑名城主時代

家督を継いで桑名藩の2代目藩主となったのが1609年(慶長14)。
姫路城主となって15万石を拝領したのが1617年(元和3)。

資料的には桑名江の入手はこの期間の話になるっぽい。

参考サイト

「国指定文化財等データベース」
「京都国立博物館」

参考文献

『刀剣講話 1』
著者:今村長賀 発行年:明治31~36年
目次:第四 相州物 コマ数:70

『刀剣講話 4』
著者:別役成義, 今村長賀 述 発行年:1898-1903年(明治31-36)
目次:第三 北陸物
ページ数:22、30 コマ数:26、35

『剣話録 上』
著者:剣話会 編(別役成義) 発行年:1912年(明治45) 出版者:昭文堂
目次:五 相州物(中) ページ数:42 コマ数:31
目次:二十四 同国物にして作の違ふ所を弁す(九) ページ数:195 コマ数:107

『剣話録 下』
著者:剣話会 編(今村長賀) 発行年:1912年(明治45) 出版者:昭文堂
目次:三 北陸物
ページ数:14 コマ数:13

『英雄と佩刀』
著者:羽皐隠史 発行年:1912年(大正1) 出版者:崇山房
目次:武田家重代の郷
ページ数:67 コマ数:45

『日本趣味十種 国学院大學叢書第壹篇』
著者:芳賀矢一 編 発行年:1924年(大正13年) 出版者:文教書院 201
目次:八 刀剣の話 杉原祥造
ページ数:360 コマ数:200(または201)

『詳註刀剣名物帳 : 附・名物刀剣押形 増補』
著者:羽皐隠史 発行年:1919年(大正8) 出版者:嵩山堂
目次:松倉郷義弘の部 桑名郷
ページ数:85 コマ数:57

『刀剣名物牒』(データ送信)
著者:中央刀剣会 編 発行年:1926年(大正15) 出版者:中央刀剣会 編
目次:(上) 名物牒
ページ数:28 コマ数:17

『今村押形 第2巻』
著者:今村長賀 発行年:1927年(昭和2) 出版者:大阪刀剣会
コマ数:72

『埋忠銘鑑 訂再版』
著者:中央刀剣会本部 編 発行年:1932年(昭和7) 出版者:中央刀剣会本部
ページ数:166 コマ数:172

『重要美術品等認定物件目録 第1輯 自昭和8年7月25日 至昭和11年2月5日』
著者:文部省宗教局 編 発行年:1936年‐1938年(昭和11至13) 出版者:文部省宗教局
目次:昭和九年七月三十一日認定ノ分 繪、彫、文、典、書、刀、工、考古(三二六點)
ページ数:98 コマ数:58

『文部省認定重要美術品目録』
著者:章華社編輯部 編 発行年:1937年(昭和12) 出版者:章華社
目次:刀劍之部
ページ数:226 コマ数:122

『国宝刀剣図譜 古刀の部 大和,相模,越中,但馬,伯耆』(データ送信)
著者:本間順治 編 発行年:1938年(昭和13) 出版者:岩波書店
目次:国宝刀剣図譜 古刀の部 大和
コマ数:97、98

『紀元二千六百年奉祝名宝日本刀展覧会出陳刀図譜』
著者:遊就館編 発行年:1940年(昭和15) 出版者:遊就館
目次:古刀の部 四九 刀 金象嵌銘義弘本阿(花押)本多美濃守所持(国宝・名物桑名郷) 東京 子爵本多忠昭
コマ数:108、109

『大日本刀剣史 下巻』(データ送信)
著者:原田道寛 発行年:1941年(昭和16) 出版者:春秋社
目次:享保の名物牒
ページ数:559 コマ数:290

『日本刀分類目録』(データ送信)
著者:郷六貞治 編 発行年:1944年(昭和19) 出版者:春陽堂
目次:目録
ページ数:45 コマ数:39

『日本刀講話』(データ送信)
著者:富田亀邱 発行年:1944年(昭和19) 出版者:京都印書館
コマ数:11

『神奈川県文化財目録』(データ送信)
著者:神奈川県教育委員会事務局社会教育課 編 発行年:1952年(昭和27) 出版者:神奈川県教育委員会事務局社会教育課
目次:国宝及び重要文化財(宝物類)
ページ数:19 コマ数:16

『日本古刀史』(データ送信)
著者:本間順治 発行年:1958年(昭和33) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:三、鎌倉時代 郷義弘 作例
ページ数:61 コマ数:66

『桑名市史 本編』(データ送信)
著者:近藤杢 編, 平岡潤 校補 発行年:1959年(昭和34) 出版者:桑名市教育委員会
目次:第二十八章 学術及び芸能
ページ数:610 コマ数:324

『神奈川県の社会教育 昭和34年度版』(データ送信)
発行年:1959年(昭和34) 出版者:神奈川県教育庁社会教育課
目次:五 重要文化財
ページ数:183 コマ数:114

「新日本経済 23(1)」(雑誌・データ送信)
発行年:1959年1月(昭和34) 出版者:新日本経済社
目次:経営者群像=東洋ラジェーターの巻
ページ数:115 コマ数:58

『文化財保護のあゆみ』(データ送信)
発行年:1961年(昭和36) 出版者:神奈川県教育委員会
目次:第三章 文化財の啓発と普及 一 公開
ページ数:84 コマ数:54

『正宗とその一門』(データ送信)
著者:本間順治、佐藤貫一編 発行年:1961年(昭和36) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:71 重文 刀 金象嵌銘 義弘(桑名江) 1口 宮崎富次郎氏蔵
ページ数:143、144 コマ数:188、189

『郷土の文化財 第4 (神奈川・埼玉・栃木・茨城)』(データ送信)
発行年:1962年(昭和37) 出版者:宝文館
目次:地域別指定文化財一覧 神奈川県
ページ数:226 コマ数:121

『武将と名刀』(データ送信)
著者:佐藤寒山 発行年:1964年(昭和39) 出版者:人物往来社
目次:本多忠勝と桑名江・蜻蛉切など
ページ数:272~277 コマ数:141~143

『図説日本文化史大系 第7 改訂新版』(データ送信)
著者: [図説日本文化史大系]編集事務局 編 発行年:1966年(昭和41) 出版者:小学館
目次:遺品目録
ページ数:428 コマ数:215

『出品目録 : 第17回全国大会』(データ送信)
発行年:1968年(昭和43) 出版者:日本美術刀剣保存協会
ページ数:14 コマ数:10

『埋忠銘鑑』(データ送信)
著者:本阿弥光博 解説 発行年:1968年(昭和43) 出版者:雄山閣
目次:四、本書の掲載諸刀散見 コマ数:52
目次:埋忠銘鑑 全 コマ数:226

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:くわなごう【桑名郷】
ページ数:2巻P186

概説書

『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』(紙本)
発行年:2015年(平成27) 出版者:宝島社
目次:桑名江
ページ数:72

『刀剣目録』(紙本)
著者:小和田康経 発行年:2015年(平成27) 出版者:新紀元社
目次:≪第3章 南北朝・室町時代≫ 越中国松倉 義弘 桑名江
ページ数:251

『物語で読む日本の刀剣150』(紙本)
著者:かゆみ歴史編集部(イースト新書) 発行年:2015年(平成27) 出版者:イースト・プレス
目次:第5章 打刀 桑名江
ページ数:133