笹貫

ささぬき

概要

「太刀 銘波平行安」

薩摩の樺山家伝来、波平行安作の太刀。

「波平行安」と四字銘。黒塗太刀拵えつき。
南北朝~室町初期頃製作と思われる太刀拵えには、島津の家紋がついている。

『日本刀講座 第10巻 新版』(データ送信)
発行年:1970年(昭和45) 出版者:雄山閣出版
目次:山陰・山陽・西海道
ページ数:217、218 コマ数:230、231

行安の銘を刻まれた刀はいくつかあるが、刀工の年代の特定はなかなか難しいようである。
笹貫自体は鎌倉初期の作とみられているようであるが、そうすると次項の逸話の応永時代(室町)の行安が刀を作るところから始まる逸話と年代がずれることに注意する必要がある(要はそれが酔剣先生のいうこの逸話は創作であろうという話なんですが)。

現在は京都国立博物館蔵。
重要文化財の指定名称に号は入っていないが、「文化遺産オンライン」のページの解説ではっきり「笹貫と号して」とある。

竹藪や海中に捨てられても光り戻ってくる逸話

応永(1394)頃の波平行安が妻に、鍛冶場を決して覗いてはならぬ、と厳命した。
妻は鍛冶場を覗いてしまったので行安は怒り、仕上げ中の刀を家の裏の竹藪に投げ棄てた。
その竹藪から夜な夜な妖しい光が発するので、村人たちが捜索すると、刀が地中に逆さに立ち、その切先に竹の落ち葉が無数に突きささっていた。
妖しい刀というので、海中に投棄したところ、海中からも光を発するので、村人たちは刀を海中から引き揚げた。
話を耳にした島津の分家・樺山音久がそれを召しあげ、島津家に献上した。
しかし、島津家宗家でもまた怪異なことが起こったので、樺山家に返却された、という伝説がある。

『薩摩の刀と鐔』(データ送信)
著者:福永酔剣 発行年:1965年(昭和40) 出版者:薩摩の刀と鐔刊行会
目次:刀の部 薩摩編 古刀期
ページ数:32、33 コマ数:32

酔剣先生がこの話の出典としているのは『波平刀工系譜』と江戸期の著者不詳の『剣緒』という資料らしいのだが、簡単に読める手段がなさそうなので酔剣先生自身の著書『薩摩の刀と鐔』を出典としておく。

ただし、この伝説について、『日本刀大百科事典』で酔剣先生は“当時の波平鍛冶の居住地が、現在の鹿児島市上福本町笹貫だったことから考えついた創作であろう”と推測している。

樺山家を出て、個人蔵へ

『薩摩の刀と鐔』によれば、樺山家を出て、近藤竜三郎氏蔵となった。

『薩摩の刀と鐔』が1965年の発行であるのでそれ以前に近藤氏の秘蔵となったということになる。

1972年(昭和47)5月30日、重要文化財指定

『鹿児島年鑑 昭和57年版』(データ送信)
発行年:1982年(昭和57) 出版者:くらしの鹿児島新聞社
目次:鹿児島の文化財
ページ数:882 コマ数:442

現在は国有、京都国立博物館蔵

「京都国立博物館」
「文化遺産オンライン」
「国指定文化財等データベース」

作風

刃長二尺三寸九分五厘(約72.5センチ)。
地鉄は板目に柾目まじり地沸えつく。

刃文は直刃。鋩子は小丸。茎はうぶ。

鉄拵えがついており、銅ハバキには十文字の毛彫りがあるという。

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:ささぬきのたち【笹貫きの太刀】
ページ数:2巻P314

調査所感

京都国立博物館蔵なので京博のサイトやe-国宝のページなんかで基本的な情報は収集できます。

と、いうか笹貫に関してはそもそも刀工の「波平行安」の研究が難しいようで古い研究書だと製作年代というか刀工の時代と代数が一定していない感じです。

刀工は同じ名前を親子や師弟で二代三代と名乗ったり、それとは関係なく同名の刀工が存在したり、古剣書の記述(主に刀工の系図)が明らかに間違っていたり、複雑な事情が現代で解明されたり、色々あって、研究内容が変わることがあります。

笹貫に関しては肝心の竹藪に捨てられ海に捨てられそれでも光って帰ってきたぜ! の逸話の年代が「室町時代」なので、この時期に活動している行安って実はいなくない? という文献情報の整理と笹貫自体の制作年代は「鎌倉時代」初期(古い研究書だと平安末期とも)とみられることから、情報をまとめる際にはちょっと注意が必要です。

古い本だと波平行安がもともと正国と名乗っていたところに京から三条宗近が罪を犯して流されてきて正国に弟子入りして……みたいなエピソードが書かれています。波平行安の刀を海に投げ込むと波が収まったとか。色々伝説のある刀工のようです。まぁ古刀の名刀工は大体伝説付きだけど。

よっぽど深く勉強したいわけでないなら笹貫単体の情報は京博・e-国宝の情報に従う方が無難だろうか。いずれとうらぶの考察で行安の情報が必要になるかもしれないけど。

とりあえず、あれだけ普段から捨てられた逸話をアピールしているけどその部分が創作! な男士がまた一振り増えたということで……。

この刀に関して検索で「笹貫」で調べようとすると地名被りで検索ヒット数が多すぎる、しかし「笹貫の太刀」や銘文で検索しても割と最近(昭和)の資料だけが引っかかる。しかし逸話の件は『波平刀工系譜』が明治19年らしいので研究者がこの資料を参考にして~みたいな文言はかなり引っかかります。引用はないが。

他の刀の調査ついでにどこかでぽろっと情報入りませんかね。

上で紹介したように、『日本刀大百科事典』によれば、笹貫という地名から「笹貫の太刀」の逸話が創作された、という見方を酔剣先生はしていて、現在の刀剣関係のサイトでもその見方が主流のようです。

調べ残したところとしては、『三国名勝図会』に逸話が載っていると言う話を聞いたんですが本文の検索に引っかからなかったのでちょっとお手上げです。この本自体はデータ送信で読めます(ただし量が多い)。

参考サイト

「京都国立博物館」
「文化遺産オンライン」
「国指定文化財等データベース」
「e-国宝」

参考文献

『薩摩の刀と鐔』(データ送信)
著者:福永酔剣 発行年:1965年(昭和40) 出版者:薩摩の刀と鐔刊行会
目次:刀の部 薩摩編 古刀期
ページ数:32、33 コマ数:32

『谷山市誌』(データ送信)
著者:谷山市誌編纂委員会 編 発行年:1967年(昭和42) 出版者:谷山市
目次:第二章 先覚者と有名人
ページ数:1182 コマ数:622

『日本刀講座 第3巻 新版』(データ送信)
発行年:1970年(昭和45) 出版者:雄山閣出版
目次:薩摩国
ページ数:373、374 コマ数:242、243

『埋忠銘鑑』(データ送信)
著者:本阿弥光博 解説 発行年:1968年(昭和43) 出版者:雄山閣
目次:四、本書の掲載諸刀散見
ページ数:9 コマ数:41

『日本刀講座 第10巻 新版』(データ送信)
発行年:1970年(昭和45) 出版者:雄山閣出版
目次:山陰・山陽・西海道
ページ数:217、218 コマ数:230、231

「文化庁月報 (4)」(雑誌・データ送信)
著者:文化庁 編 発行年:1972年4月(昭和47) 出版者:ぎょうせい
目次:文化財の新指定 美術工芸品
ページ数:4 コマ数:3

「刀剣と歴史 (480)」(雑誌・データ送信)
発行年:1974年7月(昭和49) 出版者:日本刀剣保存会
目次:五輪塔透しの鐔に対する疑問と一考察 / 上森岱乗
ページ数:13、14 コマ数:11、12

『太陽と黒潮 : 観光百科・鹿児島の旅』(データ送信)
著者:MBC観光出版事務局 編 発行年:1975年(昭和50) 出版者:鹿児島県
目次:「4」便利ガイド 指定文化財
ページ数:252 コマ数:129

『鹿児島年鑑 昭和51年版』(データ送信)
発行年:1976年(昭和51) 出版者:南日本新聞社
目次:便覧編 鹿児島県文化財一覧
ページ数:529 コマ数:267

『鹿児島年鑑 昭和57年版』(データ送信)
発行年:1982年(昭和57) 出版者:くらしの鹿児島新聞社
目次:鹿児島の文化財
ページ数:882 コマ数:442

『新入郷土誌』(データ送信)
発行年:1982年(昭和57) 出版者:新入長寿会壮年部
目次:第四編 史跡と刀剣・記念碑
ページ数:88、89 コマ数:55

「デアルテ : 九州藝術学会誌 = De Arte : journal of the Kyushu Art Society (4)」(雑誌・データ送信)
著者:九州藝術学会 編 発行年:1988年3月(昭和63) 出版者:九州藝術学会
目次:ミュージアム・ミュージアム
ページ数:142 コマ数:78

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:ささぬきのたち【笹貫きの太刀】
ページ数:2巻P314

概説書

『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』(紙本)
発行年:2015年(平成27) 出版者:宝島社
目次:笹貫 ページ数:7

『図解日本刀 英姿颯爽日本刀の来歴』(紙本)
著者:東由士 編 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:名刀の物語を読む 笹貫 ページ数:41

『物語で読む日本の刀剣150』(紙本)
著者:かゆみ歴史編集部(イースト新書) 発行年:2015年(平成27) 出版者:イースト・プレス
目次:第3章 太刀 笹貫 ページ数:90

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