山伏国広

やまぶしくにひろ

概要

「太刀 銘 日州古屋之住国広山伏之時作之 天正十二年二月彼岸 太刀主日向国住飯田新七良藤原祐安」

1584年(天正12)、安土・桃山時代の刀工・堀川国広が山伏時代に打った作。

差し表に「太刀主日向国住飯田新七良藤原祐安」
裏に「天正十二年二月彼岸 日州古屋之住国広山伏之時作之」と在銘。

(銘文の「時」の字はPCで通常打てない字)

この銘文から刀工・堀川国広が当時山伏であったことを伝える作のうちの貴重な一振り。

『日本刀大百科事典』によると、伊東家の領内である日州古屋において、山伏鍛冶だった堀川国広は、伊東家が天正5年(1577)の暮れ、島津氏に敗れ、国外退去した時、伊東満千代(伊東マンショ)のお供をして日向を去った。
満千代が肥前の有馬セミナリヨに入学し、主を失った国広が、同じく流浪中の飯田祐安のために、主家再興のときに備えて打ったのがこの刀であると言われる。

斯界での発見は1925年(大正14)年頃と考えられ、個人の所有だが所有者である愛刀家方は積極的に展覧会などに出品したらしく、研究書への登場はこの頃から現在までかなり多い。

堀川国広の天正打と呼ばれる初期作品のうちでも白眉と呼ばれる作品。

1942年(昭和17)12月16日、重要美術品認定。
1955年(昭和30)2月2日、重要文化財指定。

現在も個人蔵である。

1584年(天正12年)、刀工・堀川国広が山伏時代に作刀

銘文から天正12年(1584)の作刀であることが明確。

同じく銘文に「日州古屋之住国広山伏之時作之」とあり、この頃の刀工・堀川国広が「山伏」であったことを知ることができる貴重な作品。

『寒山刀剣講座 第一巻 京鍛冶篇』(紙本)
著者:編集 刀和会(代表 広井雄一) 発行年:1980年(昭和55)出版者:大塚工藝社
目次:堀川国広の研究・図版 ページ数:154

三 太刀 銘 日州古屋之住国広山伏時之時作之 天正十二年二月彼岸 太刀主日向国住飯田新七良藤原裕安
長さ 七七.三糎 反り 二.三糎 鎬造、庵棟、小板目肌やや流れごころに地沸つく。
山伏之時と銘していることは国広研究上の貴重な資料で、出来も天正打中の白眉であり彫物も力強く上手である。

伊東家家臣としての堀川国広が飯田祐安のために打った刀

伊東家の領内である日州古屋(宮崎県東諸県郡綾町)において、山伏鍛冶だった堀川国広は、伊東家が天正5年(1577)の暮れ、島津氏に敗れ、国外退去した時、伊東満千代(伊東マンショ)のお供をして日向を去った。

満千代が肥前の有馬セミナリヨに入学し、主を失った国広が、同じく流浪中の飯田祐安のために、主家再興のときに備えて打ったのがこの刀であると言われる。

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:やまぶしくにひろ【山伏国広】
ページ数:5巻P238

斯界での発見は大正時代か

『刀剣雑話』の巻頭を飾っている。

この頃(大正14年)は佐賀市の永野静雄氏蔵。

『刀剣雑話』
著者: 室津鯨太郎(川口陟) 発行年:1925年(大正14) 出版者:南人社
目次:二 國廣本國作の刀に就て
ページ数:3 コマ数:25

1942年(昭和17)12月16日、重要美術品認定

1927年(昭和2)頃は伊東祐夫氏蔵。

『堀川国広考』
著者:中央刀剣会 編 発行年:1927年(昭和2) 出版者:中央刀剣会
コマ数:11

1942年(昭和17)12月16日の重要美術品認定時も同じく伊東祐夫氏名義。

「刀 銘 日州古屋之住国広山伏之時作之 天正十二年二月彼岸 太刀主日向国住飯田新七良藤原祐安」

『官報 1942年12月16日』
著者:大蔵省印刷局 [編] 発行:1942年(昭和17) 出版者:日本マイクロ写真
目次:文部省告示第六百四十二号
ページ数:326 コマ数:4

本阿弥光博氏も所有という

本阿弥光遜氏の息子で本人も鑑定や研究で活躍した本阿弥光博氏も一時期山伏国広の所有者だったようである。

雑誌「刀剣美術」にその時のエッセイが載っていると刀剣系のWEBサイトでは有名なのだが、残念ながら現在国立国会図書館のデジタルコレクションにはこの時期の「刀剣美術」がない。

1955年(昭和30)2月2日、重要文化財指定

1955年(昭和30)年2月2日に重要文化財指定。
この時は田口儀之助氏蔵。

『日本美術年鑑 昭和30年版』(データ送信)
著者:東京国立文化財研究所美術部 編 発行年:1956年(昭和31) 出版者:東京国立文化財研究所
目次:新指定重要文化財一覧
ページ数:37 コマ数:52

現在

個人蔵。所在都道府県は大阪府。

(「国指定文化財等データベース」)

作風

刃長二尺五寸五分(約77.3センチ)
差し表に不動明王・梵字・爪・棒樋、裏に「武運長久」・梵字・爪・棒樋を彫る。
杢目肌の地鉄に、五の目乱れをやく。

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:やまぶしくにひろ【山伏国広】
ページ数:5巻P238

調査所感

デジコレで読めない本阿弥光博氏のエッセイに当時の購入状況とか所有者たちの考えとか書かれているという話は聞くんですけどね。

「刀剣美術」は1960年代からしかデジタル化されてないんですよ……!(悔)

私が大体刀剣の調査をざっくり始めたのが2021年、いっそゲームの実装刀第一節分までは全員やるかと行動し始めたのは2022年なんですが、その2022年の5月にちょうど国立国会図書館のデジタルコレクションがこれまで提携図書館でしか読むことのできなかった本を個人のPCや携帯でも見られるように開放してくれたおかげで、刀剣の調査はこの一年で飛躍的にやりやすくなりました。

刀剣関係も書籍に関してはこの一年で簡単にチェックできる本がどっと増えたんですが、雑誌ってどうなんでしょうね……。

いつか過去の雑誌もデジタル化してくれる望みを持って待つか。それとも複写依頼などの方法を考えるか。

ここの記事はあくまでも簡単調査をモットーとしておりますので複写依頼まで考えていないんですが、山伏に関しては本阿弥光博氏周りの情報が読めるかどうかで大分違うような気がします。

それ以外だと、デジコレのインターネット公開分にも『刀剣雑話』とか『堀川国広考』とか結構興味深い本があります。

山伏は堀川国広関係の研究書の数々でその存在について大体触れられているので、堀川国広関係を調べているとかなり有名な刀だという気がします。押形や写真もよく見かけます。

ついでに号の話をしとくと、山伏に関しては寒山先生側が珍しく号っぽい呼び方をせずに、酔剣先生側が「山伏国広」と呼んでいます。

酔剣先生は本阿弥光博氏の父親の本阿弥光遜氏と交流があるみたいなんで、所有者との距離はやはり重要なんですかね?

参考文献

『刀剣雑話』
著者: 室津鯨太郎(川口陟) 発行年:1925年(大正14) 出版者:南人社
目次:二 國廣本國作の刀に就て
ページ数:3 コマ数:25

『刀剣銘字典』(データ送信)
著者:川口陟 等著 発行年:1928年(昭和3) 出版者:商人社
目次:クの部
ページ数:313 コマ数:168

『新刀古刀大鑑 下卷』
著者:川口陟 発行年:1930年(昭和5) 出版者:日本刀剣学会
目次:新刀之部
ページ数:12 コマ数:21

『日本刀物語』
著者:前田稔靖 発行年:1935年(昭和10) 出版者:九大日本刀研究会
目次:三十 堀川國廣考
ページ数:266 コマ数:143

『刀剣銘大集 (第八輯)』(データ送信)
著者:清水澄 編 発行年:1935年(昭和10) 出版者:美術倶楽部出版部
目次:國廣 新刀/第31葉
コマ数:35

『新刀押象集. 上巻』
著者:内田疎天・加島勲 発行年:1935年(昭和10) 出版者:大阪刀剣会
コマ数:94

『国広大鑑』(データ送信)
著者:日本美術刀剣保存協会 発行年:1954年(昭和29) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:研究篇 堀川國廣の研究 一、略伝 ページ数:1 コマ数:23
目次:(五)所持銘及び添銘考 ページ数:21 コマ数:43
目次:解説篇 一、年紀のあるもの ページ数:25、26 コマ数:47、48
目次:図譜 國廣(年紀のあるもの) ページ数:4 コマ数:85

『日本刀の掟と特徴』(データ送信)
著者:本阿彌光遜 発行年:1955年(昭和30) 出版者:美術倶楽部
目次:第四章 全国刀匠の掟と特徴 新刀の部 五畿内
ページ数:328、329 コマ数:184

『日本美術年鑑 昭和30年版』(データ送信)
著者:東京国立文化財研究所美術部 編 発行年:1956年(昭和31) 出版者:東京国立文化財研究所
目次:新指定重要文化財一覧
ページ数:37 コマ数:52

『日本古刀史』(データ送信)
著者:本間順治 発行年:1958年(昭和33) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:一、 凡例
コマ数:36

「刀剣史料 (42)」(雑誌・データ送信)
発行年:1962年(昭和37)6月 出版者:南人社
目次:刀剣古文書学(6) / 福永酔剣
ページ数:10 コマ数:7

『日本名刀物語』(紙本)
著者:佐藤寒山 発行年:2019年6月 発行社:河出書房新社
(中身は1962年白凰社より刊行のもの)
目次:堀川国広
ページ数:186~189

『武将と名刀』(データ送信)
著者:佐藤寒山 発行年:1964年(昭和39) 出版者:人物往来社
目次:加藤清正とその愛刀祐定・左文字・堀川国広など
ページ数:184 コマ数:97

『日本刀大鑑 新刀篇一』
著者:本間順治、佐藤貫一(監修代表者) 発行年:1966年(昭和41) 出版者:大塚工藝社
目次:日本刀大鑑 新刀篇一 図版P18、19

『新・日本名刀100選』(紙本)
著者:佐藤寒山 発行年:1990年(平成2) 出版社:秋田書店
(中身は『日本名刀100選』 著者:佐藤寒山 発行年:1971年(昭和46) 出版社:秋田書店)
目次:72山姥切國廣
ページ数:213、214

『寒山刀剣講座 第一巻 京鍛冶篇』(紙本)
著者:編集 刀和会(代表 広井雄一) 発行年:1980年(昭和55)出版者:大塚工藝社
目次:堀川国広の研究・図版
ページ数:154

『史跡で綴る都於郡伊東興亡史』(データ送信)
著者:大町三男 発行年:1984年(昭和59) 出版者:大町三男
目次:第五章 餘燼篇 田中國広館跡
ページ数:575 コマ数:291

「刀剣と歴史 (547)」(雑誌・データ送信)
発行年:1985年(昭和60)9月 出版者:日本刀剣保存会
目次:足利庄と新田庄を訪れて / 三嶋青山
ページ数:36 コマ数:23

「刀剣と歴史 (577)」(雑誌・データ送信)
発行年:1990年(平成2)9月 出版者:日本刀剣保存会
目次:鑑刀随感 / 片岡銀作
ページ数:8 コマ数:9

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:やまぶしくにひろ【山伏国広】
ページ数:5巻P238

概説書

『図解日本刀 英姿颯爽日本刀の来歴』(紙本)
著者:東由士 編 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:大名家が所有した名刀たち 堀川国広 ページ数:22、23

『刀剣目録』(紙本)
著者:小和田康経 発行年:2015年(平成27) 出版者:新紀元社
目次:≪第四章 安土桃山・江戸時代≫ 山城国堀川 国広 山伏国広 ページ数:320

『物語で読む日本の刀剣150』(紙本)
著者:かゆみ歴史編集部(イースト新書) 発行年:2015年(平成27) 出版者:イースト・プレス
目次:第3章 太刀 山伏国広 ページ数:73

『刀剣物語』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:堀川国広作の刀 山伏国広 ページ数:126、127

『刀剣説話』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2020年(令和2) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
(『刀剣物語』発行年:2015年を加筆修正して新たに発行しなおしたもの)
目次:戦国大名が所有した刀 山伏国広 ページ数:162、163

『刀剣聖地めぐり』(紙本)
発行年:2016年(平成28) 出版者:一迅社
目次:山伏国広 ページ数:40