獅子王

ししおう

概要

「太刀 無銘 黒漆太刀拵」

土岐家伝来、源頼政が鵺退治の功により下賜されたと伝えられる名剣。

作者については
『古今銘盡大全』『古刀銘盡大全』『伊呂波部類古今刀剣銘盡』などでは「豊後定秀」
『享保名物帳』の控え本では「備前実成」
と言われているらしい。

同じく『享保名物帳』の控え本によれば、一条天皇の時造らせたもので、鞘に獅子の螺鈿があるともいう。

『古刀銘尽大全 上 増訂 (日本故有美術鑑定便覧 ; 第4集) 』
著者:大館海城 編 発行年:1901(明治34) 出版者:赤志忠雅堂
ページ数:114 コマ数:63

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:ししおう【獅子王】
ページ数:3巻P12、13

源頼政が鵺を退治した功績により天皇から下賜された

源三位頼政が鵺を退治した功により、天皇より下賜された名剣

『源平盛衰記』では鳥羽天皇より相伝となっている。

『源平盛衰記 上 (友朋堂文庫) 』
著者:石川核 校 発行年:1911-1912年(明治44-45) 出版者:有朋堂
目次:第十六巻 三位入道芸等事
ページ数:536 コマ数:276

『平家物語 上巻 (岩波文庫 ; 411-415) 』
著者:山田孝雄 校訂 発行年:1945、1946年(昭和20、21) 出版者:岩波書店
目次:鵺
ページ数:286 コマ数:120

『日本刀大百科事典』によれば「獅子王丸」ともいうらしい。

その後、頼政の後裔、但馬国竹田城主・斎村政広に伝わっていた。

但馬国竹田城主・斎村政広の切腹、その後、家康から頼政子孫の土岐頼次へ

政広は関ヶ原の役の際、因州鳥取の城下を焼き払った罪により、徳川家康より、自殺を命ぜられた。
獅子王は家康が没収し、慶長年中に拝謁にきた土岐頼次が頼政の子孫というので、頼次に与えた。

『寛政重脩諸家譜. 第1輯』
発行年:1923年(大正12) 出版者:国民図書
目次:巻第二百八十三 清和源氏(頼光流)土岐 頼次
ページ数:519 コマ数:269

『武徳編年集成 下』(データ送信)
著者:木村高敦 著 発行年:1976年(昭和51) 出版者:名著出版
目次:武徳編年集成巻第四十八 〇三
ページ数:40 コマ数:28

本阿弥光徳や光瑳もそれを拝見した、と本阿弥光甫に語ったという

本阿弥光山が筆録した目利の秘書という写本、光甫の物語なりと記したものに、

『康治の頃、近衛院より頼政に下され候獅子王の太刀、豊後の定秀作なるよし、光徳光瑳の物語両人ながら拝見せし由云々』

と、あるらしい。

『大日本刀剣史』では本阿弥長根の『校正古刀鑑』で作者が定秀とされていることに関して検討している。

『大日本刀剣史 中巻』(データ送信)
著者:原田道寛 発行年:1940年(昭和15) 出版者:春秋社
目次:土岐の名寶獅子王
ページ数:22~24 コマ数:21~22
(『大日本刀剣史』はデジコレに2冊あるのでご注意)

明治時代に土岐家から皇室に献上

『日本刀大百科事典』や『武将と名刀』によれば、明治時代に土岐家から皇室に献上されたという。

現在は「東京国立博物館」蔵

「国指定文化財等データベース」

『武将と名刀』によれば東京国立博物館には戦後移ったらしい。

1971年(昭和46)6月22日、重要文化財指定

「国指定文化財等データベース」

「文化遺産オンライン」だと「太刀 無銘 黒漆太刀(号 獅子王)」という記事になっている。

作風

長さ三尺五寸五分、反り一分、鎬造りで腰反りが高く、鋒(きっさき)はかますとなった古香の高い太刀で、細直刃、小沸出来、匂口が締って小足が入る。

生ぶ茎無銘。

薄肉の黒漆太刀拵が付属している。

総金具は山金の無地、目貫は丸く三巴紋が薄肉で高彫されている。
柄は黒塗鮫を着せているが、柄糸はきれて原型をとどめない。

明治時代以後、獅子王太刀拵は多く模造されて流行した。
それを見ると黒塗の鞘には三巴紋を螺鈿で施している。
これは江戸時代の刀装集に載せられているものを、そのまま信じて模造したものらしいが、実際の拵えとは違うという。

『武将と名刀』(データ送信)
著者:佐藤寒山 発行年:1964年(昭和39) 出版者:人物往来社
目次:源三位頼政と獅子王の太刀
ページ数:26~30 コマ数:18~20

真偽不明?

現在、東京国立博物館保管となっている獅子王は、黒漆の太刀拵え、つまり武用刀である。

『日本刀大百科事典』の福永酔剣先生によれば、当時朝廷から下賜されたものは、飾り太刀のはずだから、それは獅子王の真物ではないことになるという。

他の「獅子王」

『日本刀大百科事典』によれば「真物とは受取りがたい」としながらも、他にも獅子王と称する刀があるという。

大隈の旧族・廻(めぐり)氏は頼政の子孫といわれ、獅子王とともに、鵺に止めを刺した金剛剣を伝承していた。

後裔の廻頼次は寛文13年(1673)、同国曽於郡福山郷福山(姶良郡福山町)の宮浦神社に奉納した。
刃長七寸四分(約22.4センチ)、樋をかいた無銘の短刀という。

出典は『薩隈日地理纂考』となっているが、2023年現在、国立国会図書館のデジタルコレクションでは発見できなかった。

調査所感

・作者に関して

いつもの通り酔剣先生が紹介してくれてるけどほとんど読めない古剣書類では

豊後定秀
『古今銘盡大全』『古刀銘盡大全』『伊呂波部類古今刀剣銘盡』

備前実成
『享保名物帳』の控え本

ついでにデジコレ検索に引っかかってきた『三十輻』第1巻収録の『春湊浪話』だと

備前助平

などなどいろいろな説があります。
『大日本刀剣史』だと原田道寛先生がいろいろ推測しています。

ちなみに豊後定秀、僧定秀と呼ばれる刀工は古今伝授の太刀や地蔵行平を打った刀工・豊後行平の父親だと言われています。

・戦後の話は昭和の刀剣書頼り

重要文化財指定が意外と遅い? 昭和46年だったのでこの頃の文化財指定の本はぎりぎりデジコレで読めないためネットのデータベース頼りですね。
ただ重要文化財に関する本はむしろ図書館に行けば普通にありますのでどうしても紙の本で確かめたいという方はお近くの図書館の国宝・重要文化財関係の書籍をお確かめください。

土岐家からの献上周りのことに関して『明治天皇紀』を読もうかと思いましたがデジコレが国会図書館限定で(略)。

『明治天皇紀』自体は図書館ならあるみたいですが十二巻+索引で館内用だったりしますね……。探すのはちょっと余裕ができてからにしたい。

・検索がなかなか難しい

獅子王だけだと別のものが出てきてしまうし。
獅子王の太刀だと刀の話ですが肝心の『源平盛衰記』がこの字ではなく「師子王」表記になってるし。
獅子王の剣だと「玉藻前旭袂」が出てきちゃうし。
無銘だから銘文検索も難しいし。

普通に検索漏れで見落としてる情報ありそうだなと思います。

・歌舞伎との縁?

『大日本刀剣史』で原田先生が獅子王の有名さの例として「稗史」の一説の挙げています。

「稗史」は正史の対義語で公認されていない民間の歴史、または民間の物語・伝説だそうです。

原田先生の挙げた一説は内容的に上で獅子王の検索でこっちが引っかかってくるよと例に出した「玉藻前旭袂」ではないかと思います。歌舞伎のようです。

刀剣の話というよりとうらぶの作品構造・設定として関連ワードから能や歌舞伎の話題を持ち込んでいることもありますので、獅子王の名を冠する剣の話や、源頼政の鵺退治がそのまま「鵺」という名の能になっていることなども知っておいて損はなさそう。

・拵が有名

今村長賀氏の『剣話録』でもおもに拵のことが載っているし、寒山先生の『武将と名刀』でも江戸時代の刀装の本(どれ?)に載っていたものの模造が流行したとありますし、江戸時代から伝承として大人気だったってことですかね。

・真物じゃないの?

有名な刀にはつきものの言われ方なので特に気にする必要もないと思いますが、それでも気になる方は古刀を中心にこれまでの刀の研究史を調べるだけで「どいつもこいつも……」って気分になれます。

参考サイト

「文化遺産オンライン」
「文化遺産データベース」
「国指定文化財等データベース」

参考文献

『古刀銘尽大全 上 増訂 (日本故有美術鑑定便覧 ; 第4集) 』
著者:大館海城 編 発行年:1901(明治34) 出版者:赤志忠雅堂
ページ数:114 コマ数:63

『源平盛衰記 上 (友朋堂文庫) 』
著者:石川核 校 発行年:1911-1912年(明治44-45) 出版者:有朋堂
目次:第十六巻 三位入道芸等事
ページ数:536 コマ数:276

『剣話録 上』
著者:剣話会 編(別役成義) 発行年:1912年(明治45) 出版者:昭文堂
目次:三十二 太刀、刀の鐔(上)
ページ数:261 コマ数:140

『剣話録 下』
著者:剣話会 編(今村長賀) 発行年:1912年(明治45) 出版者:昭文堂
目次:二十三 古の太刀
ページ数:213 コマ数:116

『三十輻 第1』
著者:大田南畝 編 発行年:1917年(大正6) 出版者:国書刊行会
目次:春湊浪話
ページ数:224 コマ数:131

『寛政重脩諸家譜 第1輯』
発行年:1923年(大正12) 出版者:国民図書
目次:巻第二百八十三 清和源氏(頼光流)土岐 頼次
ページ数:519 コマ数:269

『日本趣味十種 国学院大學叢書第壹篇』(データ送信)
著者:芳賀矢一 編 発行年:1924年(大正13年) 出版者:文教書院
目次:八 刀剣の話 杉原祥造
ページ数:330 コマ数:186

『広文庫 第十三冊』(データ送信)
著者:物集高見 編, 物集高量 校 発行年:1926年(大正15) 出版者:広文庫刊行会
目次:つ之部 つるぎ(剣) 獅子王の剣
ページ数:403 コマ数:224

『日本随筆大成 第3期 第5巻』(データ送信)
著者:日本随筆大成編輯部 編 発行年:1929年(昭和4) 出版者:日本随筆大成刊行会
目次:春湊浪話
ページ数:739 コマ数:378

『日本刀剣の研究. 第1輯』(データ送信)
著者:雄山閣編集局 編 発行年:1934年(昭和9) 出版者:雄山閣
目次:文献に表はれた名剣名刀譚 源秋水編
ページ数:108、109 コマ数:64

『大日本刀剣史 中巻』(データ送信)
著者:原田道寛 発行年:1940年(昭和15) 出版者:春秋社
目次:土岐の名寶獅子王
ページ数:22~24 コマ数:21~22
(『大日本刀剣史』はデジコレに2冊あるのでご注意)

『平家物語 上巻 (岩波文庫 ; 411-415) 』
著者:山田孝雄 校訂 発行年:1945、1946年(昭和20、21) 出版者:岩波書店
目次:鵺
ページ数:286 コマ数:120

『武将と名刀』(データ送信)
著者:佐藤寒山 発行年:1964年(昭和39) 出版者:人物往来社
目次:源三位頼政と獅子王の太刀
ページ数:26~30 コマ数:18~20

『武徳編年集成 下』(データ送信)
著者:木村高敦 著 発行年:1976年(昭和51) 出版者:名著出版
目次:武徳編年集成巻第四十八 〇三
ページ数:40 コマ数:28

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:ししおう【獅子王】
ページ数:3巻P12、13

概説書

『剣技・剣術三 名刀伝』(紙本)
著者:牧秀彦 発行年:2002年(平成14) 出版者:新紀元社
目次:第二章 中世武士 獅子王の太刀 源頼政
ページ数:82

『名刀伝説』(紙本)
著者:牧秀彦 発行年:2004年(平成16) 出版者:新紀元社
目次:第一章 古代・平安 獅子王の太刀――源頼政――
ページ数:41

『名刀 その由来と伝説』(紙本)
著者:牧秀彦 発行年:2005年(平成17) 出版者:光文社
目次:源平の名刀 獅子王
ページ数:70~73

『図解 武将・剣豪と日本刀 新装版』(紙本)
著者:日本武具研究界 発行年:2011年(平成23年) 出版者:笠倉出版社
目次:第3章 武将・剣豪たちと名刀 源頼政と獅子王
ページ数:110、111

『刀剣目録』(紙本)
著者:小和田康経 発行年:2015年(平成27) 出版者:新紀元社
目次:≪第一章 平安時代≫ 大和国内 獅子王
ページ数:43

『物語で読む日本の刀剣150』(紙本)
著者:かゆみ歴史編集部(イースト新書) 発行年:2015年(平成27) 出版者:イースト・プレス
目次:第3章 太刀 獅子王
ページ数:66、67

『刀剣物語』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:大名・将軍が所持した刀 獅子王
ページ数:194、195

『刀剣説話』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2020年(令和2) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
(『刀剣物語』発行年:2015年を加筆修正して新たに発行しなおしたもの)
目次:鬼・妖を切った刀 獅子王
ページ数:39

『刀剣聖地めぐり』(紙本)
発行年:2016年(平成28) 出版者:一迅社
目次:獅子王 ページ数:32

Index