宗三左文字

そうざさもんじ

概要

「刀 義元左文字 無銘中心ニ「永禄三年五月十九日義元討捕刻彼所持刀織田尾張守信長」ト金象眼アリ」

『享保名物帳』焼失之部所載、築州左文字作の太刀。
焼失之部所載ではあるが、越前康継が焼き直したものが現存している。

もと四国の三好政長入道宗三所持、よって宗三左文字と呼ぶ。
三好左文字、義元左文字とも呼ばれる。

(現在では「義元左文字」の名で呼ばれていることが多いと思われる)

三好政長の愛刀から、武田信虎、今川義元へと伝わり、今川義元を討ち取った織田信長の手に入って磨り上げられ金象嵌銘を入れられた。
その後も豊臣秀吉に献上され、豊臣秀頼から徳川家康へと渡り、徳川将軍家の重宝となり、明暦の大火で焼けても再刃されと、次々に持ち主が変わったが丁重に扱われてきた。
明治になって建勲神社が造営された際に、徳川家達公爵から寄付された。

銘文(金象嵌)は
表「永禄三年五月十九日 義元討捕刻彼所持刀」
裏「織田尾張守信長」

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:よしもとさもじ【義元左文字】
ページ数:5巻P285

三好政長(三好宗三)から武田信虎へ

もと三好政長こと三好宗三所持、武田信虎へ渡った。

『詳註刀剣名物帳 : 附・名物刀剣押形 増補』
著者:羽皐隠史 発行年:1919年(大正8) 出版者:嵩山堂
目次:名物「燒失之部」 義元、三好、宗三左文字
ページ数:277、278 コマ数:153、154

『日本刀大百科事典』では、

甲州の武田信虎に贈ったのは、大永7年(1527)2月、武田家の分家にあたる若狭の守護・武田元光を、城州山崎に破ったことがある。
あるいはその時、信虎が元光方につかないための工作に、これを贈ったものかも知れない。

と推測している。

1537年(天文6)2月、武田信虎の長女が今川義元に輿入れした時の婿引き出らしい

天文6年(1537)2月、信虎の長女が今川義元に輿入れした時、婿引き出として義元に贈った。

信虎から義元へまでは『名物帳』の記述を元にしているようだが、酔剣先生が言う「婿引き出」がどこからわかるのかはよくわからない。

『名刀と名将(名将シリーズ)』(データ送信)
著者:福永酔剣 発行年:1966年(昭和41) 出版者:雄山閣
目次:武田家の名刀
ページ数:94~97 コマ数:54、55

1560年(永禄3)5月、桶狭間の戦いで今川義元が討ち死にした際に信長が入手

永禄3年(1560)5月、義元が桶狭間で討死したとき、これを佩用していたので、戦利品として信長の手に入った。

そのとき二尺六寸(約78.8センチ)あったという。

『徳川実紀 第壹編』
著者:成島司直 等編, 経済雑誌社 校 発行年:1904~1907年(明治37~40) 出版者:経済雑誌社
目次:東照宮御實紀附錄
ページ数:348 コマ数:183

武田家や今川家では磨り上げていなかったことになる。信長はそれを幾度も試し斬りさせた。
切れ味が良いのが分かったので、二尺二寸一分(約67.0センチ)に磨り上げさせ、自分の差料にしていた。

『戦国史料叢書 第2』(データ送信)
(『信長公記』収録)
発行年:1965年(昭和40) 出版者:人物往来社
目次:巻首(是れは、信長御入洛無き以前の双紙なり)
ページ数:58 コマ数:33

1582年(天正10)6月2日、本能寺の変、その後豊臣秀吉が入手

天正10年(1582)6月2日、信長が本能寺で明智光秀に襲われた時、その枕席にはべっていた松尾神社の祠官の娘が、これを持って逃げだした。
そして父のもとに隠していたが、文禄(1592)になって、豊臣秀吉に差し出したという。

『名刀と名将』によればこの話は『徳川家名物刀目録』に「秀吉の時、文禄の頃、松尾の社人より差出す」とあるのと大体一致するとのことである。

『名刀と名将(名将シリーズ)』(データ送信)
著者:福永酔剣 発行年:1966年(昭和41) 出版者:雄山閣
目次:武田家の名刀
ページ数:94~97 コマ数:54、55

1601年(慶長6)の桃の節句、豊臣秀頼から徳川家康へ贈られる

慶長6年(1601)の桃の節句に、豊臣秀頼は徳川家康を招待し、これを贈った。

『日本刀大百科事典』によれば出典は『豊臣家御腰物帳』となっているので、『光徳刀絵図集成』に収録されている資料の中の「御太刀御腰物御脇指方々え被遣之帳」辺りの記述ではないかと思われる。

「慶長六年三月 一 義元左文字 御刀 大御所様え被進之」とある。

『名物帳』の方でも「秀頼公の御物となる家康公に遣はさる」とある。

『光徳刀絵図集成』(データ送信)
著者:本阿弥光徳 画, 本間順治 編 発行年:1943年(昭和18) 出版者:便利堂
目次:慶長五年ゟ同拾八年十二月迄 御太刀御腰物御脇指方々え被遣之帳
コマ数:115

家康はこれに替え鞘をいくつも作らせ、愛蔵していた。
皮肉なことに大坂城攻めのときも、この刀を帯びて出陣したという。

『徳川実紀 第壹編』
著者:成島司直 等編, 経済雑誌社 校 発行年:1904~1907年(明治37~40) 出版者:経済雑誌社
目次:東照宮御實紀附錄
ページ数:348 コマ数:183

1632年(寛永9)1月23日、2代将軍・徳川秀忠から3代将軍・徳川家光へ

秀忠もこれを重視し、嗣子・家光に譲ったのは、寛永9年(1632)正月23日、死の前日だった。

『徳川実紀 第2編』
著者:成島司直 等編, 経済雑誌社 校 発行年:1904~1907年(明治37~40) 出版者:経済雑誌社
目次:巻十九 (寛永九年正月−三月)
ページ数:229 コマ数:122

1657年(明暦3)の正月、振袖火事(明暦の大火)により焼身となる

明暦3年(1657)正月の振り袖火事で、焼け身となったが、幕府ではただちに越前康継に焼き直させた。

明暦の大火で多くの刀剣が燃えたこと、その中の名刀の多くを越前康継が焼き直したこと自体は『駿府記』などで確認できる。

『史籍雑纂 第2』
(『駿府記』収録)
発行年:1911年(明治44) 出版者:国書刊行会
目次:駿府記 慶長廿年 閏六月十六日 コマ数:157

1880年(明治13)、建勲神社が創建されると徳川家から寄付された

明治13年、京都に信長を祭神とした建勲神社が創建されると、徳川家達公爵がこの刀を寄付した。

『日本国寳全集 第4輯』
著者:文部省 編 発行年:1923~1926年(大正12~15) 出版者:日本国寳全集刊行会
ページ数:39 コマ数:5

『名刀と名将(名将シリーズ)』(データ送信)
著者:福永酔剣 発行年:1966年(昭和41) 出版者:雄山閣
目次:武田家の名刀
ページ数:94~97 コマ数:54、55

1923年(大正12)3月28日、国宝(旧国宝)指定、現在は重要文化財

大正12年(1923)に国宝指定。建勲神社蔵。
現在は重要文化財。

『日本刀分類目録』(データ送信)
著者:郷六貞治 編 発行年:1944年(昭和19) 出版者:春陽堂
目次:國寶の刀劒 ページ数:4 コマ数:8
目次:目録 ページ数:113 コマ数:73

現在も「建勲神社」所有、京都国立博物館に寄託

「国指定文化財等データベース」
「京都国立博物館」

作風

丸棟。
表裏に棒樋をかくが、磨り上げた時の後樋。
地鉄は小杢目肌詰まり、地沸えつく。
刃文はもと五の目乱れで、飛び焼きあり、鋩子も乱れ込んで尖る。
(『三好下野入道口伝』『本阿弥光柴押形』『本阿弥光温刀譜』『光徳刀絵図集成』)

焼き直し後は、広直刃で所々に足が入る程度。
鋩子はすぐで小丸。
茎は目釘孔二個。

差し表に「永禄三年五月十九日 義元討捕刻彼所持刀」
裏に「織田尾張守信長」、と金象嵌が入る。

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:よしもとさもじ【義元左文字】
ページ数:5巻P285

調査所感

凄いぞ宗三さん!

『日本刀大百科事典』の内容をそのまま項目ごとに日付先頭にして並べると普通になんか結構詳しい年表ができる!

婿引き出関連とかちょこちょこどこに記述あるのかよくわからない内容もあるんですが、酔剣先生が断言してるのはそのぐらいしか武将同士の贈答のやりとりがないってことですかね。

他の刀もわりと「~~の時に贈られたのだろう」みたいな曖昧な言い回しが多いからその辺は憶測で繋いでるのかもしれない。割と確度高い方の憶測ですね。

『名物帳』に記載のある刀で、元主たちの名がそこに列挙されているということは誰が持っていたのかは大体明らかだと言えるので、このぐらいの理解で問題ないのかもしれません。

焼身と再刃も一振り一振りに焼き直した記録があるわけではなく越前康継がまとめて作業したことを知っていればいいってことですかね。
康継に再刃された刀は一期骨喰鯰尾辺りまではよくセットで語られるけどここに宗三が加わっていることあんまりないなと思うんですが、逆に言えばそこぐらいしか焼失する機会もないし。そのぐらいは普通に考え付いてくれよな! ってことだろうか。

呼び名が「宗三左文字」「三好左文字」「義元左文字」とあっていきなりこの刀から調べ始めると一見面倒に思うかもしれませんが、これ全部が号であって『徳川実紀』等にもこのどれかで大体記述されているのでむしろ検索はやりやすい方です。

魔王の刀は伊達じゃなかった。
というか一番憶測になりがちな分捕り品であることを信長が堂々と銘文として刻んでいる時点で……。

参考文献

『諸家名剣集』
(東京国立博物館デジタルライブラリー)
時代:享保4年(1719) 写本
コマ数:57

『徳川実紀 第壹編』
著者:成島司直 等編, 経済雑誌社 校 発行年:1904~1907年(明治37~40) 出版者:経済雑誌社
目次:東照宮御實紀附錄
ページ数:348 コマ数:183

『徳川実紀 第2編』
著者:成島司直 等編, 経済雑誌社 校 発行年:1904~1907年(明治37~40) 出版者:経済雑誌社
目次:巻十九 (寛永九年正月−三月)
ページ数:229 コマ数:122

『刀剣談』
著者:高瀬真卿 発行年:1910年(明治43) 出版者:日報社
目次:第四門 武将の愛刀 義元の左文字
ページ数:45、46 コマ数:47、48

『剣話録 上』
著者:剣話会 編(別役成義) 発行年:1912年(明治45) 出版者:昭文堂
目次:五 相州物(中)
ページ数:44 コマ数:32

『英雄と佩刀』
著者:羽皐隠史 発行年:1912年(大正1) 出版者:崇山房
目次:今河義元の左 ページ数:21~25 コマ数:22~24
目次:關ヶ原の家康 ページ数:166 コマ数:95

『詳註刀剣名物帳 : 附・名物刀剣押形 増補』
著者:羽皐隠史 発行年:1919年(大正8) 出版者:嵩山堂
目次:名物「燒失之部」 義元、三好、宗三左文字
ページ数:277、278 コマ数:153、154

『日本国寳全集 第4輯』
著者:文部省 編 発行年:1923~1926年(大正12~15) 出版者:日本国寳全集刊行会
ページ数:39 コマ数:5

『刀剣談 再版』(データ送信)
著者:羽皐隠史 著, 高瀬魁介 訂 発行年:1927年(昭和2) 出版者:嵩山房
目次:第四、武将の愛刀 義元の左文字
ページ数:149、150 コマ数:86、87

『継平押形 : 附・本阿弥光徳同光温押形集』
著者:羽沢文庫 編 発行年:1928年(昭和3) 出版者:羽沢文庫
コマ数:210

『秋霜雑纂 前編』
著者:秋霜松平頼平 編 発行年:1932年(昭和7) 出版者:中央刀剣会本部
目次:図書十五條 三百五十 大阪御物押形
ページ数:214 コマ数:133

『日本刀講座 第8巻 (歴史及説話・実用及鑑賞)』(データ送信)
著者:雄山閣 編 発行年:1934年(昭和9) 出版者:雄山閣
目次:(歷史及說話三)英雄と日本刀 織田信長の刀剣好
ページ数:22~29 コマ数:317~320

『刀剣実証鑑定法』(データ送信)
著者:清水孝教 発行年:1934年(昭和9) 出版者:太陽堂書店
目次:燒直し物 福島靖堂
ページ数:45 コマ数:31

『日本刀物語』
著者:前田稔靖 発行年:1935年(昭和10) 出版者:九大日本刀研究会
目次:一四 左文字とその傳說
ページ数:113 コマ数:66

『日本刀物語』
著者:小島沐冠人 編著 発行年:1937年(昭和12) 出版者:高知読売新聞社
目次:桶狭間の疾風迅雷
ページ数:16~19 コマ数:16、17

『戦国史料叢書 第2』(データ送信)
(『信長公記』収録)
発行年:1965年(昭和40) 出版者:人物往来社
目次:巻首(是れは、信長御入洛無き以前の双紙なり)
ページ数:58 コマ数:33

『光徳刀絵図集成』(データ送信)
著者:本阿弥光徳 画, 本間順治 編 発行年:1943年(昭和18) 出版者:便利堂
目次:一三七 義元左文字 コマ数:82
目次:慶長五年ゟ同拾八年十二月迄 御太刀御腰物御脇指方々え被遣之帳 コマ数:115

『日本刀と無敵魂』
著者:武富邦茂 発行年:1943年(昭和18) 出版者:彰文館
目次:宗三左文字
ページ数:172 コマ数:101

『日本刀分類目録』(データ送信)
著者:郷六貞治 編 発行年:1944年(昭和19) 出版者:春陽堂
目次:國寶の刀劒 ページ数:4 コマ数:8
目次:目録 ページ数:113 コマ数:73

『武将と名刀』(データ送信)
著者:佐藤寒山 発行年:1964年(昭和39) 出版者:人物往来社
目次:織田信長と長船光忠その他
ページ数:87~90 コマ数:48~50

『名刀と名将(名将シリーズ)』(データ送信)
著者:福永酔剣 発行年:1966年(昭和41) 出版者:雄山閣
目次:武田家の名刀
ページ数:94~97 コマ数:54、55

『日本刀物語 続』(データ送信)
著者:福永酔剣 発行年:1969年(昭和44) 出版者:雄山閣
目次:武田家の名刀
ページ数:94~97 コマ数:59、60

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:よしもとさもじ【義元左文字】
ページ数:5巻P285

概説書

『図解 武将・剣豪と日本刀 新装版』(紙本)
著者:日本武具研究界 発行年:2011年(平成23) 出版者:笠倉出版社
目次:第3章 武将・剣豪たちと名刀 織田信長とへし切長谷部、他
ページ数:162~167

『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』(紙本)
発行年:2015年(平成27) 出版者:宝島社
目次:義元左文字
ページ数:13

『図解日本刀 英姿颯爽日本刀の来歴』(紙本)
著者:東由士 編 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:大名家が所有した名刀たち 宗三左文字
ページ数:36、37

『刀剣目録』(紙本)
著者:小和田康経 発行年:2015年(平成27) 出版者:新紀元社
目次:≪第三章 南北朝・室町時代≫ 筑前国博多 安吉(左文字) 三好左文字 ページ数:266、267

『物語で読む日本の刀剣150』(紙本)
著者:かゆみ歴史編集部(イースト新書) 発行年:2015年(平成27) 出版者:イースト・プレス
目次:第5章 打刀 宗三左文字
ページ数:110、111

『刀剣物語』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:左文字作の刀 宗三左文字
ページ数:116、117

『刀剣説話』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2020年(令和2) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
(『刀剣物語』発行年:2015年を加筆修正して新たに発行しなおしたもの)
目次:三英傑と名刀 宗三左文字
ページ数:122、123

『刀剣聖地めぐり』(紙本)
発行年:2016年(平成28) 出版者:一迅社
目次:宗三左文字
ページ数:58、59

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