博多藤四郎

はかたとうしろう

概要

「短刀 銘吉光(博多藤四郎)」

『享保名物帳』追記の部所載、粟田口吉光作の短刀。

『享保名物帳』追記の部によると、元筑前福岡城主・黒田忠之所持。
福岡の隣の博多から出たため、博多藤四郎という異名がついた。

黒田忠之は豊前小倉城主・小笠原忠真に、この刀を小倉の海上で贈った。

喜んだ忠真は、郷義弘の太刀とともに、博多藤四郎を陣刀にした。
このエピソードは『本阿弥行状記』に詳しく書かれている。

以後、小笠原家伝来。

1931年(昭和6)12月14日、国宝(旧国宝)指定。
現在は重要文化財。

戦後、小笠原家を出て、現在は文化庁の収蔵品となっている。

元筑前福岡城主・黒田忠之所持

『享保名物帳』追記の部によると、元筑前福岡城主・黒田忠之所持。
福岡の隣の博多から出たため、博多藤四郎という異名がついたとされている。

『刀剣名物牒』(データ送信)
著者:中央刀剣会 編 発行年:1926年(大正15) 出版者:中央刀剣会
目次:名物追記
ページ数:88 コマ数:47

『詳註刀剣名物帳 : 附・名物刀剣押形 増補』
著者:羽皐隠史 発行年:1919年(大正8) 出版者:嵩山堂
目次:名物追記 博多藤四郎
ページ数:297 コマ数:163

小笠原左近将監殿
博多藤四郎 長八寸一分半代 金二百枚古極

黒田忠之小倉表海上にて、古右近殿へ進せらる、博多は黒田殿領分にて博多より出る道具ゆえ、右の通り名付るなり。

黒田忠之から豊前小倉城主・小笠原忠真に贈られる

『享保名物帳』追記の部によると、黒田忠之は豊前小倉城主・小笠原忠真に、この刀を小倉の海上で贈った。

『日本刀大百科事典』では、参勤交代の時であろう、と推測している。

小笠原忠真が郷義弘の太刀と共に陣刀にしたという

『本阿弥行状記』によると、
喜んだ忠真は、郷義弘の太刀とともに、これを陣刀にした。

本阿弥光室が、郷義弘は七千貫、博多藤四郎は五千貫(実は二百枚)という高価な名刀、それを陣刀になさるのは珍しいこと、と言ったところ、忠真は、大坂夏の陣で、父と兄は討死、自分は深手を負う、という体験をした。
武士は最期が大事だから、最後のため名刀でも陣刀にするのだ、と答えた、という。

『本阿弥行状記』(紙本)
著者:日暮聖、加藤良輔、山口恭子 訳注 発行年:2011年(平成23) 出版者:平凡社(東洋文庫)
目次:第五七段
ページ数:296

惣じて名将の御陣刀はみな銘物なり、小笠原右近殿古き例を思召けるが、陣刀には七千貫の義弘、指添は五千貫のはかた藤四郎なり。如此銘物の御陣刀は珍らしき御事と申ければ、武士の一大事は最期なり、大阪にて親と兄は打死しける、我数ヶ所深手をおひけれども仕合悪しくながらへける故、自然の事有ばと朝夕むねにせまり有也。余の人とは大きにちがひたる身なれば、陣刀にいたるまで心得あり、御心安き故におかしき御物語なさるると仰られける。

以後、小笠原家伝来

昭和前期辺りまでの刀剣書では小笠原家蔵となっている。
『享保名物帳』所載の短刀で国宝として複数の書籍で名が挙がっている。

『国宝刀劒図譜 解説』(データ送信)
著者:本間順治 発行年:1936年(昭和11) 出版者:岩波書店
目次:國寶刀劒圖譜 第五囘配布(十圖版附解說) 目錄
コマ数:51

1931年(昭和6)12月14日、国宝(旧国宝)指定

昭和6年(1931)12月14日、国宝(旧国宝)指定(現在は重要文化財)。
小笠原長幹伯爵名義。

号は書いていないが3コマ目下段13行目の「短刀 銘吉光」だと思われる。

『官報 1931年12月14日』
著者:大蔵省印刷局 [編] 発行年:1931年(昭和6) 出版者:日本マイクロ写真
目次:文部省告示第三百三十二号 昭和六年十二月十四日
ページ数:380 コマ数:3

戦後、小笠原家を出る

『日本刀大百科事典』によると戦後、小笠原家を出た。

現在は文化庁の収蔵品

現在の所有者は国(文化庁)、
保管施設は「東京国立博物館文化庁分室」。

「国指定文化財等データベース」

作風

刃長八寸一分五厘弱(約24.6センチ)、
平造り、筍反り、行の棟、
差し表には護摩箸、裏には腰樋を彫る。

地鉄は小杢目に地沸えつき、大肌まじる。
刃文は、ハバキ元に五の目を二、三個焼き、上は直刃になる。
ふくらは研ぎ減りで刃が細くなる。
鋩子は小丸、少し返る。
茎はうぶ、
目釘孔一個。

「吉光」と二字銘。

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:はかたとうしろう【博多藤四郎】
ページ数:4巻P175

調査所感

博多くんの研究史と言うとちと話が逸れますが、豊前小倉藩の小笠原家伝来の刀ってあんまりこの伝来先の藩からの情報がないんですよね……。

博多くんは元黒田家の刀で、小笠原忠真が陣刀にしたという立派なエピソードがありますがこれも出典は『本阿弥行状記』ですし。

豊前小倉藩に関しては秋田藤四郎、豊前江、不動行光と博多藤四郎が伝来。
このうち秋田藤四郎、豊前江、博多藤四郎は小笠原家名義で国宝だの重要美術品だのに指定されています。

現在は文化庁の所有ですが、保管施設は東京国立博物館文化庁分室ということで、ほぼ東京国立博物館にいるのかな?

東京国立博物館のサイトに普通に掲載されているので、時期を合わせればこちらで見ることができそうですね。

・『本阿弥行状記』は図書館で借りられます。

『本阿阿弥行状記』は2023年現在国立国会図書館デジタルコレクションでは読めません。
しかしこの本に関しては図書館に普通に置いてあるタイプの本なのでお近くの図書館で探すのが早いと思います。

参考サイト

「国指定文化財等データベース」
「東京国立博物館」

参考文献

『刀剣談』
著者:羽皐隠史 発行年:1910年(明治43) 出版者:日報社
目次:第十二門 名物牒(目録略す)
ページ数:308 コマ数:179

『詳註刀剣名物帳 : 附・名物刀剣押形 増補』
著者:羽皐隠史 発行年:1919年(大正8) 出版者:嵩山堂
目次:名物追記 博多藤四郎
ページ数:297 コマ数:163

『刀剣名物牒』(データ送信)
著者:中央刀剣会 編 発行年:1926年(大正15) 出版者:中央刀剣会
目次:名物追記
ページ数:88 コマ数:47

『官報 1931年12月14日』
著者:大蔵省印刷局 [編] 発行年:1931年(昭和6) 出版者:日本マイクロ写真
目次:文部省告示第三百三十二号 昭和六年十二月十四日
ページ数:380 コマ数:3

『国事雑抄 下』
著者:森田柹園 [著], 日置謙 訂 発行年:1933年(昭和8) 出版者:石川県図書館協会
目次:卷廿一 二 白山御奉納吉光之御剣之事
ページ数:791 コマ数:76

『日本刀講座 第8巻 (歴史及説話・実用及鑑賞)』(データ送信)
著者:雄山閣 編 発行年:1934年(昭和9) 出版者:雄山閣
目次:(實用及鑑賞四)國寶刀劍解題(上)
ページ数:49 コマ数:488

『国宝刀劒図譜 解説』(データ送信)
著者:本間順治 発行年:1936年(昭和11) 出版者:岩波書店
目次:國寶刀劒圖譜 第五囘配布(十圖版附解說) 目錄
コマ数:51

『国宝刀劒図譜 上』(データ送信)
著者:本間順治 発行年:1936年(昭和11) 出版者:岩波書店
目次:〔古刀の部〕 山城
コマ数:23

『刀剣刀装鑑定辞典』(データ送信)
著者:清水孝教 発行年:1936年(昭和11) 出版者:太陽堂
目次:ハカタトウシラウ【博多藤四郎】
ページ数:378 コマ数:200

「御料林 (104)」(雑誌・データ送信)
発行年:1937年(昭和12) 出版者:帝室林野局林野會
目次:山彥
ページ数:202 コマ数:114

『日本刀分類目録』(データ送信)
著者:郷六貞治 編 発行年:1944年(昭和19) 出版者:春陽堂
目次:目録
ページ数:8 コマ数:21

『日本刀講話』(データ送信)
著者:富田亀邱 発行年:1944年(昭和19) 出版者:京都印書館
コマ数:10

「Museum (72)」(雑誌・データ送信)
著者:東京国立博物館 編 発行年:1957年3月(昭和32) 出版者:東京国立博物館
目次:粟田口藤四郎吉光と越前康継 / 佐藤貫一
ページ数:16 コマ数:10

「研修 (5)(167)」(雑誌・データ送信)
発行年:1962年5月(昭和37) 出版者:誌友会事務局研修編集部
目次:黒田騒動と博多小女郎(五) / 柴田和徹
ページ数:28 コマ数:16

『日本刀新価格総鑑』(データ送信)
著者:刀剣春秋新聞社 編 発行年:1966年(昭和41) 出版者:徳間書店
目次:銘字の真偽
ページ数:13 コマ数:18

「刀剣と歴史 (430)」(雑誌・データ送信)
発行年:1966年(昭和41)3月 出版者:日本刀剣保存会
目次:名物帳に記された山城の名刀(二) / 辻本直男
ページ数:5~9 コマ数:9~11

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:はかたとうしろう【博多藤四郎】
ページ数:4巻P175

『本阿弥行状記』(紙本)
著者:日暮聖、加藤良輔、山口恭子 訳注 発行年:2011年(平成23) 出版者:平凡社(東洋文庫)
目次:第五七段
ページ数:296

概説書

『刀剣目録』(紙本)
著者:小和田康経 発行年:2015年(平成27) 出版者:新紀元社
目次:≪第二章 鎌倉時代≫ 山城国粟田口 吉光 博多藤四郎
ページ数:108

『刀剣物語』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:粟田口吉光作の刀 博多藤四郎
ページ数:102、103

『刀剣説話』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2020年(令和2) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
(『刀剣物語』発行年:2015年を加筆修正して新たに発行しなおしたもの)
目次:戦国大名が所有した刀 博多藤四郎
ページ数:156、157

『刀剣聖地めぐり』(紙本)
発行年:2016年(平成28) 出版者:一迅社
目次:博多藤四郎
ページ数:82