豊前江

ぶぜんごう

概要

「刀 無銘 伝 江(豊前江)」「刀 無銘義弘(名物豊前江)」

大磨上げ無銘。
無銘ではあるが、越中の郷義弘の作と伝えられている打刀。

号のいわれは明らかではない。

昭和12年の重要美術品認定の名義が小笠原忠春伯爵(旧蔵も小笠原長幹伯爵)であり、『享保名物帳』に記載がないにも関わらず名物と呼ばれ、重要文化財の指定名称にも名物の文字が含まれていることから、おそらくは豊前小倉藩小笠原家の御家名物と考えていいと思うが、この辺りに言及した本がない。

1937年5月27日、重要美術品認定。
1956年6月28日、重要文化財指定。

いつ小笠原家を出たのか定かではないが、1949年にはすでに個人蔵。
その後は所有者を転々としていたが、現在は文化庁が所在不明になっている「国指定文化財」として、心当たりを求めている。

号のいわれは明らかでない

『正宗とその一門』などによると、号のいわれは明らかではない。

1937年(昭和12)5月27日、重要美術品認定

昭和12年(1937)5月27日、重要美術品認定。
小笠原忠春伯爵名義。

「刀 無銘義弘(名物豊前江)」

『官報 1937年05月27日』
著者:大蔵省印刷局 [編] 発行年:1937年(昭和12) 出版者:日本マイクロ写真
目次:文部省告示第二百五十三号 昭和十二年五月二十七日
ページ数:824 コマ数:5

『山口県国寳重要美術品解説』の記録

1949年発行の『山口県国寳重要美術品解説』では、山田新松氏蔵となっている。

『山口県国寳重要美術品解説』(データ送信)
著者:山口県総務部文化課 編 発行年:1949年(昭和24) 出版者:山口県
目次:太刀 名物豊前江 宇部市 山田新松氏藏
ページ数:26 コマ数:22

『山口県文化財概要 第1集』(データ送信)
発行年:1952年(昭和27) 出版者:山口県教育委員会
目次:附錄
ページ数:42 コマ数:36

持っていたけど手放した記録

1958年発行の『備山愛刀図譜』の前書に、岡野多郎松氏が一時期豊前江を入手したがこの本の発行前に手放したことが説明されている。

時期の近い中沢暁氏所有の記録が1956年からあるので、岡野多郎松氏が所有していたのはそれ以前のことと考えられる。

『備山愛刀図譜』(データ送信)
著者:佐藤貫一 編 発行年:1958年(昭和33) 出版者:岡野多郎松
目次:備山愛刀図譜の出版に当つて 寒山 佐藤貫一
コマ数:10

1956年(昭和31)6月28日、重要文化財指定

昭和31年(1956)6月28日、重要文化財指定。
中沢暁氏名義。

『指定文化財総合目録 〔昭和33年版 第2〕』(データ送信)
発行年:1958年(昭和33) 出版者:文化財保護委員会
目次:大阪府
ページ数:518 コマ数:268

『正宗とその一門』の記録

1956年発行の『日本文化財 (14)』や1961年発行の『正宗とその一門』では、中沢暁氏蔵となっている。

『日本文化財 (14)』(データ送信)
発行年:1956年 出版者:奉仕会出版部
目次:新指定目録
コマ数:23

『正宗とその一門』(データ送信)
著者:本間順治、佐藤貫一編 発行年:1961年(昭和36) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:74 重文 刀 無銘 伝 江(豊前江) 1口 中沢暁氏蔵
コマ数:194、195

その後

1968年発行の『指定文化財総合目録 [昭和43年版] (美術工芸品篇)』では田島良一郎氏蔵となっている。

『指定文化財総合目録 [昭和43年版] (美術工芸品篇)』(雑誌・データ送信)
発行年:1968年(昭和43) 出版者:文化財保護委員会
目次:大分県
ページ数:951 コマ数:487

現在、所在不明

文化庁のサイトで「所在不明になっている国指定文化財(美術工芸品)」の中に名前がある。

心当たりが在ったら連絡してほしいと文化庁の刀〈無銘義弘(名物豊前江)/〉のページに連絡窓口の番号が載っている。

作風

刃長は二尺二寸五分、反り五分
鎬造、庵棟、中峰
鍛は小板目杢交り、地沸つく。
刃文はのたれ調の大互いの目乱れ、足入り金筋かかる。
鋩子は沸くづれ 乱込み掃かける。
茎は大磨上げ、鑢目勝手下り、目釘孔一個。

『正宗とその一門』(データ送信)
著者:本間順治、佐藤貫一編 発行年:1961年(昭和36) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:74 重文 刀 無銘 伝 江(豊前江) 1口 中沢暁氏蔵
コマ数:194、195

調査所感

重要美術品認定も昭和12年となかなか早く、昔から名刀として広く知られているような口ぶりで書かれているものの、何故かこの刀そのものに関してはどんな来歴のどういう刀なのかという情報が全然ない。

これに関してはそれこそ同じように小笠原伯爵名義で重要美術品認定されている秋田藤四郎も同じような感じなので何とも言えないが、名刀として知られているのと来歴が周知されているのとは違うのだな……と思う。

もともと江の刀は在銘品が一振りもなく伝来か極かで郷義弘作と判断されている刀たちである。この在銘品が一振りもないことなどをさして刀剣本では「郷と化け物は見たことがない」などと言われる。このフレーズ自体は刀剣本の郷義弘の項目を見れば普通に載っているだろうほど有名。

江に関しては一振り一振りの来歴をじっくり説明するような文章はあまりなく、郷義弘の作風を説明するために複数振りをあげてそれぞれの特徴を軽く語る文章が多い気がします。

検索で探そうとしても「~~江」という名は地名に多く、刀の話ではない資料がいっぱい引っかかってくる。

豊前江に関してちょっと笑ってしまうのは、すでに所持していないのに『備山愛刀図譜』の前書に、岡野多郎松氏が以前持っていたことが書かれていたこと。疾過ぎて見えなかったのか……。

まったく笑えないのは、現在所在不明となっていること。

最後の足取りである田島良一郎氏蔵の際は大分県の項目に在り、現在文化庁のサイトでも所有者の都道府県は大分県なのでこの間に移動があったのかどうかよくわかりませんが、少なくとも現在は行方不明……。

お心当たりのある方はぜひ文化庁まで連絡してあげてください……。

参考文献

『重要美術品等認定物件目録 第2輯』
著者:文部省宗教局 編 発行年:1936~1938年(昭和11~13) 出版者:文部省宗教局
目次:昭和十二年五月二十七日認定ノ分 繪・彫・文・典・書・刀・工・考古・建(一九七點)
ページ数:68 コマ数:45

『官報 1937年05月27日』
著者:大蔵省印刷局 [編] 発行年:1937年(昭和12) 出版者:日本マイクロ写真
目次:文部省告示第二百五十三号 昭和十二年五月二十七日
ページ数:824 コマ数:5

『大日本刀剣商工名鑑』(データ送信)
著者:金関阿久利 編 発行年:1942年(昭和17) 出版者:日本刀剣新聞社
目次:昭和十二年五月廿七日附官報
ページ数:40 コマ数:24

『日本新刀人名辞典』(データ送信)
著者:富田正二 発行年:1942年(昭和17) 出版者:立命館出版部
目次:日本新刀人名辞典
ページ数:65 コマ数:164

『重要美術品等認定物件目録』
発行年:1943年(昭和18) 出版者:文部省教化局総務課
目次:東京府
ページ数:126 コマ数:169

『日本刀分類目録』(データ送信)
著者:郷六貞治 編 発行年:1944年(昭和19) 出版者:春陽堂
目次:目録
ページ数:45 コマ数:39

『山口県国寳重要美術品解説』(データ送信)
著者:山口県総務部文化課 編 発行年:1949年(昭和24) 出版者:山口県
目次:太刀 名物豊前江 宇部市山田新松氏藏
ページ数:26 コマ数:22

『山口県文化財概要 第1集』(データ送信)
発行年:1952年(昭和27) 出版者:山口県教育委員会
目次:附錄
ページ数:42 コマ数:36

『日本文化財 (14)』(データ送信)
発行年:1956年 出版者:奉仕会出版部
目次:新指定目録
コマ数:23

『指定文化財総合目録 〔昭和33年版 第2〕』(データ送信)
発行年:1958年(昭和33) 出版者:文化財保護委員会
目次:大阪府
ページ数:518 コマ数:268

『正宗とその一門』(データ送信)
著者:本間順治、佐藤貫一編 発行年:1961年(昭和36) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:総説 文学博士 本間順次 コマ数:39
目次:74 重文 刀 無銘 伝 江(豊前江) 1口 中沢暁氏蔵 コマ数:194、195

『郷土の文化財 〔第8〕 (日本文化財シリーズ ; 第1-9) 』(データ送信)
発行年:1961年(昭和36) 出版者:宝文館
目次:山口県 重要美術品
ページ数:50 コマ数:27

『郷土の文化財 第8』(データ送信)
発行年:1966年(昭和41) 出版者:宝文館出版
目次:大阪府
ページ数:153 コマ数:83

『指定文化財総合目録 [昭和43年版] (美術工芸品篇)』(雑誌・データ送信)
発行年:1968年(昭和43) 出版者:文化財保護委員会
目次:大分県
ページ数:951 コマ数:487

『日本名刀物語』(紙本)
著者:佐藤寒山 発行年:2019年6月 発行社:河出書房新社
(中身は1962年白凰社より刊行のもの)
目次:三作
ページ数:43、44