蛍丸

ほたるまる

概要

「太刀 銘来国俊 永仁五年三月一日」

安蘇惟澄の太刀。鎌倉時代の刀工・来国俊の作。

銘文によれば作刀時期は1297年(永仁5)3月1日。
同じ年号を刻まれた短刀が存在する。

1336年(延元1)、多々良浜の合戦において、安蘇惟澄は、この太刀を揮って奮戦した。

『刀剣或問』によると、多々良浜の合戦において、安蘇惟澄の太刀は鋸のように刃こぼれしたが、その夜、欠けた刃が飛んできて、もとの場所に納まった。

その飛んで来るのが、蛍のようだったので、蛍丸と名付けられたという。

以後、阿蘇家に伝来。

江戸時代には『集古十種』にも記載され、『刀剣或問』の著者である肥後藩士で刀工の松村昌直や、尊王攘夷派の志士・清河八郎などが実見している。

1931年(昭和6)12月14日、国宝(旧国宝)指定。

世に名高い名刀であり、また所有者である阿蘇家の人々も大切にした記録が残っているのだが、第二次世界大戦で日本が敗戦し、GHQによる「刀剣接収騒動」が起きた際に米軍からの命令に従って差出したところ、行方不明となってしまった。

安蘇惟澄の太刀

安蘇惟澄の太刀。

延元元年(1336)3月2日、筑前の多々良浜の合戦において、肥後の阿蘇神社の神職で、菊地武敏の軍に従った安蘇惟澄は、この太刀を揮って奮戦したことが『太平記』にも見えている。

(『太平記』本文に「蛍丸」という名が出ているわけではない。
阿蘇神社側で「蛍丸」が安蘇惟澄の刀だという説明はされている。)

号の由来は欠けた刃が蛍のように飛んできて直った逸話から

幕末の肥後藩士にして刀工・松村昌直(水心子正秀の弟子)の『刀剣或問』によると、

多々良浜の合戦において、安蘇惟澄の太刀は鋸のように刃こぼれした。

その夜、欠けた刃が飛んできて、もとの場所に納まった。
その飛んで来るのが、蛍のようだったので、蛍丸と名付けられた。

『肥後文献叢書 : 6巻[附1巻] 第六卷』(データ送信)
著者:古城貞吉, 武藤厳男, 宇野東風 等編 発行年:1910年(明治43) 出版者:隆文館
目次:征西大將軍宮譜巻一 ページ数:22 コマ数:19
目次:刀劍或問追加 ページ数:671、672 コマ数:343、344

以後、阿蘇家伝来

以後、連綿と阿蘇家に伝来。

1800年(寛政12年)発行の古宝物図録集、『集古十種』にも記載されている。

『集古十種 : 兵器・刀劔. 兵器 刀劔 三』
著者:[松平定信] [編] 発行年:1900年代(不明) 出版者:不明
目次:肥後國阿蘓大宮司藏螢丸太刀圖
コマ数:4、5

1931年(昭和6)12月14日、国宝(旧国宝)指定

昭和6年(1931)12月14日、国宝(旧国宝)指定。
阿蘇惟孝男爵名義。

「太刀 銘来国俊 永仁五年三月一日」

『官報 1931年12月14日』
著者:大蔵省印刷局 [編] 発行年:1931年(昭和6) 出版者:日本マイクロ写真
目次:文部省告示第三百三十二号 昭和六年十二月十四日
ページ数:381 コマ数:3

戦後、行方不明

戦後、行方不明。

『日本刀大百科事典』では「ただし、日本国内にあるとの情報もある」とのことだが真偽はわからない。

下記の雑誌では当時、GHQによる刀剣接収騒動時の熊本の状況の過酷さが書かれている。

「刀剣と歴史 (434)」(データ送信)
発行年:1966年11月(昭和41) 出版者:日本刀剣保存会
目次:熊本の刀狩り / 石田博義
ページ数:45~47 コマ数:29、30

作風

刃長三尺三寸四分五厘(約101.35センチ)、
もと身幅一寸三分(約3.9センチ)、重ね三分九厘(約1.2センチ)という豪刀。

表裏に棒樋と連れ樋をかく。
佩き表に二寸一分(約6.36センチ)の護摩箸をかき、その上に「八幡大菩薩」の文字、佩き裏には六寸八分(約20.6センチ)の素剣、その上に梵字を彫る。

地鉄は肌つまり、地沸え白くつく。
刃文は直刃丁子乱れ、匂い沈む。
鋩子は乱れ込んで小丸、わずかに返る。
中心はうぶ。
佩き表に「来国俊」、裏に「永仁五年三月一日」と切る。

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:ほたるまる【蛍丸】
ページ数:5巻P24

『日本刀大百科事典』の作風解説は『刀剣或問』『刀剣図説』『集古十種』を出典としている。

『刀剣図説』は水心子正秀の門人で肥後熊本藩士の沼田直宗著のものらしい。
「刀剣と歴史」で部分的に翻刻を掲載していたようだが蛍丸の話は検索に引っかからないので未収録部分かもしれない。

元禄年間は細川家が借り上げていた?

『剣話録』などに、
細川家の3、4代頃の当主が蛍丸を取り上げようとしたが、当時の宮司がどうしても承諾しないので一時細川家が借上げていたという話が載っている。

『剣話録 上』
著者:剣話会 編(別役成義) 発行年:1912年(明治45) 出版者:昭文堂
目次:二 京物(下)
ページ数:8、9 コマ数:14

『剣話録 下』
著者:剣話会 編(今村長賀) 発行年:1912年(明治45) 出版者:昭文堂
目次:二八 本阿弥光山押形(下)
ページ数:279~282 コマ数:149~151

『刀剣談』
著者:高瀬真卿 発行年:1910年(明治43) 出版者:日報社
目次:第三門 堂上家及社寺 阿蘇の蛍丸 ページ数:30、31 コマ数:40
目次:第六門 諸家の名刀 米田男爵の国俊 ページ数:164 コマ数:107

同じ年号に打たれた短刀がある

『刀剣談』によると、
米田男爵家の来国俊の短刀も同じ年号が刻まれている。
蛍丸と同時に打たれた刀だろうと推測されている。

幕末の尊王攘夷派志士・清河八郎の話

下記の本に、清河八郎が蛍丸を見たことが書かれている。

『清河八郎遺著』
著者:山路愛山 編 発行年:1913年(大正2) 出版者:民友社
目次:第三 濳中始末
ページ数:150、151 コマ数:99

調査所感

・阿蘇家が本当に心から大切にしていた刀

この資料では、江戸時代後期から明治時代にかけての阿蘇大宮司が蛍丸の剣歌を作ってそれが掛け軸になっているという話が読めます。

『久木野村誌 第1巻』(データ送信)
著者:久木野村誌編纂委員会 編 発行年:1985年(昭和60)久木野村教育委員会
目次:螢丸剣歌の掛け軸
ページ数:188、189 コマ数:103

・戦後行方不明

蛍丸に関してはなまじ戦前の刀剣書ではどこでも礼賛されまくっている有名な名刀であるだけに、戦後所在不明という落差に目の前が真っ暗になる気がしますね……。

廃棄や破壊されたところを誰も直接見たわけではないので実は日本国内にあるとか米国が持ち去ったとかいろいろな噂が流れていたりするようですがこればっかりは真実は闇の中かもしれません。

刀剣接収騒動は被害の激しかった地域とそうでもない地域で随分結果に差があって、熊本は特に過酷な状況だったとのことです。

・復元刀について

デジコレに収録されている「市政」(2016年5月)に、復元刀のクラウドファンディングについての情報が載っています。

「特集 : まちづくりをサポートするクラウドファンディング」
著者:赤井厚雄, 梶文秋, 松尾崇 発行年: 出版者:全国市長会

参考文献

『白雲洞遺稿』
著者:南部俊三郎 発行年:1893年(明治26) 出版者:南部俊三郎
ページ数:25、26 コマ数:19、20

『集古十種 : 兵器・刀劔. 兵器 刀劔 三』
著者:[松平定信] [編] 発行年:1900年代(不明) 出版者:不明
目次:肥後國阿蘓大宮司藏螢丸太刀圖
コマ数:4、5

『好古類纂 三編 第七集』(データ送信)
著者:好古社 編 発行年:1900~1909年(明治33~42) 出版者:好古社
目次:木原楯臣刀剣図説
ページ数:57 コマ数:77

『刀剣談』
著者:高瀬真卿 発行年:1910年(明治43) 出版者:日報社
目次:第三門 堂上家及社寺 阿蘇の蛍丸 ページ数:30、31 コマ数:40
目次:第六門 諸家の名刀 米田男爵の国俊 ページ数:164 コマ数:107

『阿蘇火山 : 附・山下の温泉名勝』
著者:角田政治 編 発行年:1911年(明治44) 出版者:角田政治
目次:阿蘇家の由来
ページ数:33 コマ数:25

『阿蘇乃面影』
著者:阿蘇惟教 発行年:1912年(明治45) 出版者:松本松次郎
目次:阿蘇氏由緒略記
ページ数:75 コマ数:53

『剣話録 上』
著者:剣話会 編(別役成義) 発行年:1912年(明治45) 出版者:昭文堂
目次:二 京物(下)
ページ数:8、9 コマ数:14

『剣話録 下』
著者:剣話会 編(今村長賀) 発行年:1912年(明治45) 出版者:昭文堂
目次:二八 本阿弥光山押形(下)
ページ数:279~282 コマ数:149~151

『清河八郎遺著』
著者:山路愛山 編 発行年:1913年(大正2) 出版者:民友社
目次:第三 濳中始末
ページ数:150、151 コマ数:99

『阿蘇小誌』
著者:熊本県阿蘇郡教育会 編 発行年:1915年(大正4) 出版者:熊本県教育会阿蘇郡支会
目次:一 阿蘇氏
ページ数:37 コマ数:26

『刀剣談 再版』(データ送信)
著者:羽皐隠史 著, 高瀬魁介 訂 発行年:1927年(昭和2) 出版者:嵩山房
目次:第四、武将の愛刀 阿蘇の蛍丸 ページ数:118、119 コマ数:71
目次:第五 諸家の名刀 ページ数:192 コマ数:108

『古今名家珍談奇談逸話集』
著者:実業之日本社 編 発行年1928年(昭和3) 出版者:実業之日本社
目次:名刀に纒はる逸話 阿蘇の蛍丸
ページ数:34、35 コマ数:32

『日本刀講座 第3巻 (鍛錬篇・研磨篇)』(データ送信)
著者:雄山閣 編 発行年:1934年(昭和9) 出版者:雄山閣
目次:第七章 試驗方法 『刀剣或問』追加
ページ数:113、114 コマ数:89、90

『日本刀講座 第8巻 (歴史及説話・実用及鑑賞)』(データ送信)
著者:雄山閣 編 発行年:1934年(昭和9) 出版者:雄山閣
目次:(歷史及說話二)刀に關する文學
ページ数:18 コマ数:206

『武道全集 第5巻』(データ送信)
著者:原田道寛 発行年:1935年(昭和10) 出版者:平凡社
目次:阿蘇の螢丸
ページ数:131~137 コマ数:77~80

『怪談と名刀』(データ送信)
著者:本堂平四郎 発行年:1935年(昭和10) 出版者:羽沢文庫
目次:名物螢丸
ページ数:131~136 コマ数:72~75

『観刀集』(データ送信)
著者:素堂秋元隆 発行年:1936年(昭和11) 出版者:秋元隆次郎
目次:蛍丸並引
ページ数:6、7 コマ数:9

『日本刀私談』(データ送信)
著者:原田道寛 発行年:1940年(昭和15) 出版者:春秋社
目次:史上顯著の名刀
ページ数:73、74 コマ数:48、49

『大日本刀剣史 中巻』(データ送信)
著者:原田道寛 発行年:1940年(昭和15) 出版者:春秋社
目次:名劍阿蘇の螢丸
ページ数:201~207 コマ数:110~113
(『大日本刀剣史』はデジコレに2冊あるのでご注意)

『日本刀大観 下巻』
著者:本阿弥光遜 発行年:1942年(昭和17) 出版者:日本刀研究会
目次:第三章 各國刀匠の略歴と其の掟と特徴 第一 古刀の部
ページ数:354、355 コマ数:52

『日本刀と無敵魂』
著者:武富邦茂 発行年:1943年(昭和18) 出版者:彰文館
目次:螢丸國俊
ページ数:162、163 コマ数:96

『阿蘇ガイド : 観光熊本』(データ送信)
発行年:1960年(昭和35) 出版者:熊本日日新聞社
目次:まだみつからぬ螢丸
ページ数:57、58 コマ数:38、39

『趣味の日本刀』(データ送信)
著者:大河内常平, 柴田光男 共著 発行年:1963年(昭和38) 出版者:雄山閣出版
目次:伝説につつまれた名刀
ページ数:256、257 コマ数:133

『砥用町史』(データ送信)
著者:下田曲水 編 発行年:1964年(昭和39) 出版者:砥用町
目次:二、柚留木文書 一六 下田能像奥書
ページ数:351 コマ数:190

「刀剣と歴史 (434)」(データ送信)
発行年:1966年11月(昭和41) 出版者:日本刀剣保存会
目次:熊本の刀狩り / 石田博義
ページ数:45~47 コマ数:29、30

『光山押形 乾』(データ送信)
著者:本阿弥光山 発行年:1967年(昭和42) 出版者:雄山閣出版
目次:四、 本書の掲載諸刀散見 坤の巻
ページ数:12 コマ数:32

『日本刀講座 第10巻 新版』(データ送信)
発行年:1970年(昭和45) 出版者:雄山閣出版
目次:図版 ページ数:図―26 コマ数:27
目次:畿内 ページ数:36 コマ数:140

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:ほたるまる【蛍丸】
ページ数:5巻P24

『日本刀おもしろ話』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1998年(平成10年) 出版者:雄山閣
目次:妖怪変化編 刃欠けの蛍丸国俊
ページ数:53~59

概説書

『名刀 その由来と伝説』(紙本)
著者:牧秀彦 発行年:2005年(平成17) 出版者:光文社
目次:伝承・怪談の名刀 蛍丸国俊
ページ数:193~196

『図解日本刀 英姿颯爽日本刀の来歴』(紙本)
著者:東由士 編 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:名刀の物語を読む 来国俊
ページ数:40

『刀剣目録』
著者:小和田康経 発行年:2015年(平成27) 出版者:新紀元社
目次:≪第二章 鎌倉時代≫ 山城国来 国俊 蛍丸
ページ数:129

『物語で読む日本の刀剣150』(紙本)
著者:かゆみ歴史編集部(イースト新書) 発行年:2015年(平成27) 出版者:イースト・プレス
目次:第4章 大太刀 蛍丸
ページ数:96、97

『刀剣物語』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:鎌倉時代の刀 蛍丸
ページ数:214、215

『刀剣説話』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2020年(令和2) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
(『刀剣物語』発行年:2015年を加筆修正して新たに発行しなおしたもの)
目次:神仏・霊力にまつわる名刀 蛍丸 ページ数:92、93

『刀剣聖地めぐり』(紙本)
発行年:2016年(平成28) 出版者:一迅社
目次:蛍丸
ページ数:45