前田藤四郎

まえだとうしろう

概要

「短刀 銘吉光(名物前田藤四郎)」、「短刀 銘吉光」

まえだとうしろう【まえだとうしろう】

『享保名物帳』所載、鎌倉時代の粟田口吉光作の短刀。

初め前田孫四郎利政所持で、その嫡子・三左衛門直之から前田家本家に献上された。

以後、前田家伝来。

代付けは延宝8年時点で代百枚だったものが『享保名物帳』の頃までには五千貫に上がったと言う。

本阿弥長根によるお手入れの記録などがある。

昭和8年(1933)1月23日、国宝(旧国宝)指定。

現在の所有者・保管施設は「公益財団法人前田育徳会」。
「前田育徳会」は加賀藩主前田家伝来の美術品などを管理している財団法人であるため、前田藤四郎は実質的にずっと前田家の刀である。

「前田育徳会」の収蔵品の一部は寄託先の「石川県立美術館」で展示されることがある。

前田孫四郎利政所持

初め前田孫四郎利政所持。

『享保名物帳』では前田孫四郎は利長の次男になっているが、これは各研究書で研究者たちが訂正している。

前田孫四郎利政は前田利家の次男、能登守と称し、能州七尾城主だったが、関ヶ原の戦いの際、西軍に与して兄・利長を攻撃したため、領地を没収された。

その後、京都に卜居し、寛永10年(1633)死去。
その嫡子・三左衛門直之は、前田利常に召し返され、その死後、一万五千石を与えられ、小松城代を命じられた。

『日本刀大百科事典』では、こうした本家の厚遇に報いるため、この短刀を本家に献上したものであろうと推測している。

『刀剣名物牒』(データ送信)
著者:中央刀剣会 編 発行年:1926年(大正15) 出版者:中央刀剣会
目次:(中) 同右 前田藤四郎
ページ数:11 コマ数:8

松平加賀守殿
前田藤四郎 有銘長さ八寸壹分代五千貫(一本長さ八寸壹分半とあり) 拝観長賀

前田孫四郎所持息三左衛門より加賀宰相殿へ上る孫四郎は利長卿御二男也今前田近江守先祖也

『詳註刀剣名物帳 : 附・名物刀剣押形 増補』
著者:羽皐隠史 発行年:1919年(大正8) 出版者:嵩山堂
目次:粟田口藤四郎の部 前田藤四郎
ページ数:14 コマ数:22

松平加賀守殿(前田侯爵家)
前田藤四郎 在銘長八寸一分 代金五千貫

前田孫四郎所持子息三左衛門より加賀宇柏殿へ上る。孫四郎は利長卿御二男なり今前田近江守先祖なり。

異説 利政の弟・大和守利孝が所持

『日本刀大百科事典』では、『名物扣』を出典として、初め利政の弟・大和守利孝が所持していた、という異説を紹介している。

利孝は元和二年(1616)、上州甘楽郡において一万四千石を幕府より与えられ、七日市藩主になった。

ただし、この人の所持とするのは誤りのようである。

『国事雑抄』によると、本阿弥長根が文化9年(1812)3月、前田家の蔵刀のお手入れをした際の報告書にも、「前田三左衛門上る」、とあるらしい。

それは鞘書きに「前田三左衛門上 延宝八年十二月代百枚上ル」、とあるのに拠ったものであるという。

1812年(文化9)、本阿弥長根が前田家の蔵刀の手入れをした

『日本刀大百科事典』による『国事雑抄』出典のお手入れの情報はここだと思われる。
195ページ2行目下の「藤四郎」とだけ書かれているが、下に「前田三左衛門上る」となっているものだと思われる。

『国事雑抄 上』
著者:森田柹園 [著], 日置謙 訂 発行年:1932年(昭和7) 出版者:石川県図書館協会
目次:卷五
ページ数:195 コマ数:111

鞘書の話は下記の雑誌にも載っている。

「刀剣と歴史 (430)」(雑誌・データ送信)
発行年:1966年(昭和41)3月 出版者: 日本刀剣保存会
目次:名物帳に記された山城の名刀(二) / 辻本直男
ページ数:7 コマ数:10

この鞘書によると代付けは1680年(延宝8)時点で代百枚、『享保名物帳』(1720年)では五千貫に上がったことがわかるという。

1933年(昭和8)1月23日、 国宝(旧国宝)指定

昭和8年(1933)1月23日、国宝(旧国宝)指定。
前田利為侯爵名義。

現在は重要文化財。

「短刀 銘吉光」

『官報 1933年01月23日』
著者:大蔵省印刷局 [編] 発行年:1933年(昭和8) 出版者:日本マイクロ写真
目次:文部省告示第十五号 昭和八年一月二十三日
ページ数:460 コマ数:3

現在

「国指定文化財等データベース」によると、現在の所有者・保管施設は「公益財団法人前田育徳会」。

「前田育徳会」は加賀藩主前田家伝来の古書籍、古美術品、刀剣などの文化遺産を保存管理する公益法人。

前田藤四郎は実質的に現代までずっと前田家に所有されていることになる。

「前田育徳会」は収蔵品を展示する施設を持っていないため、その収蔵品の一部を寄託している「石川県立美術館」で展示されれば見ることができる。

近年だと2021年(令和3)、53年ぶりに展示されていたという。

参考:「国指定文化財等データベース」「公益財団法人前田育徳会」「石川県立美術館」

作風

刃長八寸一分(約24.5センチ)(『享保名物帳』『名物扣』『御太刀幷千貫以上之御刀脇刺』)
または八寸一分五厘(約24.7センチ)(『享保名物帳(享保八年本)』)

平造り、真の棟。
地鉄は小杢目詰まり、大肌まじる。
切先に地斑(符)あらわれ、また全身に棒映り出る。
刃文は直刃、小足入り。
鋩子は小丸で、荒沸えつく。
茎はうぶ、目釘孔二個。
「吉光」と二字銘。

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:まえだとうしろう【前田藤四郎】
ページ数:5巻P67

調査所感

・同名の版画家が検索に引っかかる

デジコレで単に前田藤四郎で検索すると版画家の前田藤四郎さんが引っかかって凄い量の検索結果になってしまうという。
かといって金工(NDC番号756)で絞ると引っかかって来ない情報もある。

・確実に「前田藤四郎」だが、あまりこの号で呼ばれていない?

ただ、前田藤四郎の場合は実はこの名前で史料に記載されていることがあまりないのか、『国事雑抄』などにはそもそも藤四郎としか書いてないし旧国宝指定の官報も名物としての表記を含まないタイプなんですよね。

享保名物なので1720年頃には本阿弥家側ではこう呼ばれているはずなんですが、前田家ではあまりそう呼んでいない、と。

考えてみれば当たり前の話で、所有者由来の号はその所有者の手を離れた後につけられるパターンが普通で、前田藤四郎の場合は本家と分家の違いはあってもみんな前田さんなので前田さんの家にいるうちは前田くんとはそりゃ呼ばれないよな……と。

前田藤四郎はずっと前田家にいる。
だから前田藤四郎とはあまり呼ばれないのかもしれないけれど、本阿弥家が享保名物として記録しているので1700年代辺りからは「前田藤四郎」として存在している、と。

意外と新しい名前の扱いパターンかもしれません。

・保存状態や銘字など、鑑定方面の話題に出てくる

享保名物として間違いなく有名なんですが、来歴に関しては前田家周辺で納まっているためか贈答の記録や変わった逸話などはありません。

ただ保存状態が良いとか銘字のパターンとか、直接刀の鑑定の話題になるとちょこちょこ登場しますし名物帳の話題にも登場します。

そういうわけで私のような素人にはこの刀はこういう刀なんですよ~の説明がちょっと難しいのですが、刀そのものの特徴から学びたい方は吉光の短刀の典型的な作としてよく見ることになると思います。

・「石川県立美術館だより」はデジコレでも読める

53年ぶりの展示だったとかそういう近年美術館側が出している情報はデジコレでpdfを読むことができます。

参考サイト

「文化遺産データベース」
「国指定文化財等データベース」
「公益財団法人前田育徳会」
「石川県立美術館」

参考文献

『刀剣談』
著者:高瀬真卿 発行年:1910年(明治43) 出版者:日報社
目次:第十二門 名物牒(目録略す)
ページ数:292 コマ数:171

『日本刀』(データ送信)
著者:本阿弥光遜 発行年:1914年(大正3) 出版者:日本刀研究会
目次:第七章 刀匠の掟と其特徴
ページ数:218 コマ数:143

『詳註刀剣名物帳 : 附・名物刀剣押形 増補』
著者:羽皐隠史 発行年:1919年(大正8) 出版者:嵩山堂
目次:粟田口藤四郎の部 前田藤四郎
ページ数:14 コマ数:22

『日本趣味十種 国学院大學叢書第壹篇』(データ送信)
著者:芳賀矢一 編 発行年:1924年(大正13年) 出版者:文教書院
目次:八 刀剣の話 杉原祥造
ページ数:337 コマ数:189

『刀剣談 再版』(データ送信)
著者:羽皐隠史 著[他] 発行年:1927年(昭和2) 出版者:嵩山房
目次:第八 名物牒
ページ数:233 コマ数:128

『官報 1933年01月23日』
著者:大蔵省印刷局 [編] 発行年:1933年(昭和8) 出版者:日本マイクロ写真
目次:文部省告示第十五号 昭和八年一月二十三日
ページ数:460 コマ数:3

『日本刀講座 第8巻 (歴史及説話・実用及鑑賞)』(データ送信)
著者:雄山閣 編 発行年:1934年(昭和9) 出版者:雄山閣
目次:(實用及鑑賞四)國寶刀劍解題(上)
ページ数:82、83 コマ数:510

『大日本刀剣新考 訂』(データ送信)
著者:内田疎天 発行年:1934年(昭和9) 出版者:岡本偉業館
目次:第二章 古刀略志(第一) 五畿内
ページ数:388 コマ数:468

『刀剣刀装鑑定辞典』(データ送信)
著者:清水孝教 発行年:1936年(昭和11) 出版者:太陽堂
目次:マヘダトウシラウ【前田藤四郎】
ページ数:453 コマ数:237

『国宝刀剣図譜 古刀の部 山城』(データ送信)
著者:本間順治 編 発行年:1938年(昭和13) 出版者:岩波書店
目次:〔古刀の部〕 山城
コマ数:61、63

『大日本刀剣史 下巻』
著者:原田道寛 発行年:1941年(昭和16) 出版者:春秋社
目次:名物牒記載の名物 ページ数:67 コマ数:44
目次:享保の名物牒 ページ数:541 コマ数:281

『日本刀分類目録』(データ送信)
著者:郷六貞治 編 発行年:1944年(昭和19) 出版者:春陽堂
目次:目録
ページ数:8 コマ数:21

「刀剣史料 (57) 」(雑誌・データ送信)
著者:南人社 発行年:1963年8月(昭和38) 出版者:南人社
目次:写真 前田藤四郎短刀
ページ数:9、10 コマ数:6、7

『日本古刀史 改訂増補版』(データ送信)
著者:本間順治 発行年:1963年(昭和38) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:三、 鎌倉時代
ページ数:44 コマ数:58

『日本刀新価格総鑑』(データ送信)
著者:刀剣春秋新聞社 編 発行年:1966年(昭和41) 出版者:徳間書店
目次:銘字の真偽
ページ数:13 コマ数:18

『日本刀全集 第5巻』(データ送信)
著者:加島新、藤代松雄、池田末松、高橋信一郎(監修:本間順治、佐藤貫一) 発行年:1967年(昭和42) 出版者:徳間書店
目次:古刀I 加島進
ページ数:16 コマ数:16

「刀剣と歴史 (430)」(雑誌・データ送信)
発行年:1966年(昭和41)3月 出版者: 日本刀剣保存会
目次:名物帳に記された山城の名刀(二) / 辻本直男
ページ数:7 コマ数:10

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:まえだとうしろう【前田藤四郎】
ページ数:5巻P67

概説書

『刀剣目録』(紙本)
著者:小和田康経 発行年:2015年(平成27) 出版者:新紀元社
目次:≪第二章 鎌倉時代≫ 山城国粟田口 吉光 前田藤四郎
ページ数:99

『物語で読む日本の刀剣150』(紙本)
著者:かゆみ歴史編集部(イースト新書) 発行年:2015年(平成27) 出版者:イースト・プレス
目次:第7章 短刀 前田藤四郎
ページ数:165

『刀剣物語』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:粟田口吉光作の刀 前田藤四郎
ページ数:94、95

『刀剣説話』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2020年(令和2) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
(『刀剣物語』発行年:2015年を加筆修正して新たに発行しなおしたもの)
目次:戦国大名が所有した刀 前田藤四郎
ページ数:142、143

『刀剣聖地めぐり』(紙本)
発行年:2016年(平成28) 出版者:一迅社
目次:前田藤四郎
ページ数:85