まついごう
概要
「刀 朱銘義弘(名物松井郷)本阿(花押)」
『享保名物帳』所載、南北朝時代の刀工・越中郷義弘極めの刀。
「松井江」とも「松井郷」とも書く。
『享保名物帳』によると、細川幽斎・忠興の重臣で、豊後杵築城主・松井康之所持。
その後、徳川将軍家の所持となる。
『享保名物帳』、『徳川実紀』によると、将軍家では、綱吉の子女・鶴姫が、紀州徳川家の世子・綱教へ降嫁することが決まると、本阿弥光常に命じて、貞享2年(1685)正月3日付けで、金二百枚の折紙を書かせるとともに、中心に朱銘を入れさせた。
同年1685年3月6日、登城してきた綱教に、将軍綱吉は婿引き出として、「松井江」に「朱判正宗」の脇差をそえて与えた。
以後、紀州徳川家伝来。
昭和8、9年頃の紀州徳川家の売立で2390円で落札された。
その後、しばらく個人蔵。
1935年(昭和10)12月18日、重要美術品認定。
1954年(昭和29)3月20日、重要文化財指定。
1960年頃か、「佐野美術館」の創設者・佐野隆一氏の所有となり、そのまま「佐野美術館」蔵となった。
現在も「佐野美術館」蔵。
豊後杵築城主・松井康之所持
『享保名物帳』によると、
細川幽斎・忠興の重臣で、豊後杵築城主・松井康之所持。
『刀剣名物牒』(データ送信)
著者:中央刀剣会 編 発行年:1926年(大正15) 出版者:中央刀剣会
目次:(上) 名物牒 松井江
ページ数:28 コマ数:17
紀伊殿
松井江 朱銘長さ貳尺貳寸九分代金貳百枚細川殿内松井佐渡守所持御城に有之鶴姫君様御入輿之刻常陸介殿拝領古中心壹寸程残り朱銘出来
『詳註刀剣名物帳 : 附・名物刀剣押形 増補』
著者:羽皐隠史 発行年:1919年(大正8) 出版者:嵩山堂
目次:松倉郷義弘の部 松井郷
ページ数:83 コマ数:56
紀伊国殿「和歌山徳川侯爵家」
松井江 朱銘長さ貳尺貳寸九分代金貳百枚細川殿内松井佐渡守所持御城に有之鶴姫君様御入輿の刻常陸介殿拝領古忠一寸程残り朱銘出来もの。
徳川将軍家の所有になった事情の推測
『享保名物帳』によると最初の持ち主である松井康之の次に徳川将軍家の所有になったらしい。
『日本刀大百科事典』ではこれが徳川家に入った事情は不明であるがとしながらも、松井氏と幕府の関係からこのように推測している。
細川家が肥後に入国すると、康之の子・興長は八代城に入った。
それは八代城代ではなく、八代城主という資格で、幕府の直接命令によるものだった。
そのため、代替わりの際は、常に江戸城において、将軍より朱印状をもらっていた。
すると、興長が寛永9年(1632)、八代城を与えられた時、この御礼として、将軍へ献上した公算が、もっとも大きい。
1685年(貞享2)、5代将軍・徳川綱吉の娘・鶴姫が紀州徳川家の綱教へ降嫁する際の婿引き出
『享保名物帳』によると、
将軍家では、綱吉の子女・鶴姫が、紀州徳川家の世子・綱教へ降嫁することが決まると、本阿弥光常に命じて、貞享2年(1685)正月3日付けで、金二百枚の折紙を書かせるとともに、中心に朱銘を入れさせた。
『徳川実紀』によると、
同年1685年3月6日、登城してきた綱教に、将軍綱吉は婿引き出として、「松井江」に「朱判正宗」の脇差をそえて与えた。
『徳川実紀』では「松井江」ではなく単に「義弘の御刀」となっている。
『徳川実紀 第4編』
著者:経済雑誌社 校 発行年:1904~1907年(明治37~40) 出版者:経済雑誌社
目次:常憲院殿御実紀 巻十一 (貞享二年正月−六月)
ページ数:192、193 コマ数:101
御盃下さるる時。綱教卿へ御引出物とて。義弘の御刀。朱判正宗の御脇差たまひ。
以後、紀州徳川家伝来、1933年(昭和8)年の売立で落札
『日本刀大百科事典』によると、『茂久路具』を出典として、
以後、紀州徳川家に伝来していたが、昭和8年11月、同家の売立てにおいて、2390円で落札された。
とある。
『茂久路具』は国立国会図書館デジタルコレクションにはないようだ。
本阿弥光遜氏の『刀談片々』でもこの件について触れられていたのでこちらを紹介する。
金額は『日本刀大百科事典』と一致しているが時期は昭和9年11月の紀州徳川家第二回入札時になっている。
『刀談片々』(データ送信)
著者:本阿弥光遜 発行年:1936年(昭和11) 出版者:何光社
目次:刀劍の相場ピンカラキリまである
ページ数:215 コマ数:116
1935年(昭和10)12月18日、重要美術品認定
昭和10年(1935)12月18日、重要美術品認定。
伊藤平左衛門氏名義。
「刀 朱銘義弘 本阿(花押)名物松井江」
『官報 1935年12月18日』
著者:大蔵省印刷局 [編] 発行年:1935年(昭和10) 出版者:日本マイクロ写真
目次:文部省告示第四百二十二号 昭和十年十二月十八日
ページ数:491 コマ数:2
1954年(昭和29)3月20日、重要文化財指定
昭和29年(1954)3月20日、重要文化財指定。
権藤尚二氏名義。
「刀 朱銘義弘(名物松井郷)本阿(花押)」
『指定文化財総合目録 〔昭和33年版 第2〕』(データ送信)
発行年:1958年(昭和33) 出版者:文化財保護委員会
目次:福岡県
ページ数:711 コマ数:364
現在は「佐野美術館」蔵
重要文化財指定時は権藤尚二氏、『正宗とその一門』では 佐野隆一氏蔵。
『指定文化財総合目録 [昭和43年版] (美術工芸品篇)』では旧蔵者の名前がなくすでに「佐野美術館」蔵となっているが、これはそもそも佐野隆一氏こそ「佐野美術館」の開設者だからだと思われる。
「国指定文化財等データベース」によれば現在も公益財団法人佐野美術館の所有・保管。
『正宗とその一門』(データ送信)
著者:本間順治、佐藤貫一編 発行年:1961年(昭和36) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:73 重文 刀 朱銘 義弘(松井江) 1口 佐野隆一氏蔵
ページ数:146、147 コマ数:192、193
『図説日本文化史大系 第7 改訂新版』(データ送信)
著者: [図説日本文化史大系]編集事務局 編 発行年:1966年(昭和41) 出版者:小学館
目次:遺品目録 北陸道
ページ数:422 コマ数:215
『指定文化財総合目録 [昭和43年版] (美術工芸品篇)』(雑誌・データ送信)
発行年:1968年(昭和43) 出版者:文化財保護委員会
目次:東京都
ページ数:203 コマ数:113
作風
刃長二尺二寸九分(約69,4センチ)、反り五分三厘(約1.6センチ)。
杢目肌詰まり、地沸えのついた地鉄。ただし鎬地は柾目肌。
刃文は広直刃に足入り。もと賑やか、先は寂しくなり、物打ちは特に刃幅広くなる。
小沸え出来で、匂い口締まる。棟焼きが多い。
鋩子は小丸、返りは深い。
茎は大磨り上げ、目釘孔一個。
茎に古茎残る。
佩き表に「義弘」、裏に「本阿(花押)」、と朱銘がある。
『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:まついごう【松井江】
ページ数:5巻P100
調査所感
・落札価格
松井くんそのものの話からは逸れますが、紀州徳川家の売立時の情報が『刀談片々』に載っているのに今回ようやく気付きました。
江雪さんの時に本阿弥光遜先生が落札価格の話を詳しくしてるなとは思ってたけど、この本に売立価格まとめられていたんか。
とはいえこれも全部ではないようで、松井江と江雪左文字は載ってるけど他の刀の情報がないですね。
紀州徳川家の刀はこの辺りの情報がなかなか確認しづらい。
・5代将軍・綱吉の娘が降嫁する時の婿引出物
徳川綱吉関連だと五月雨・村雲の二振りばかりだと思っていたんですが、松井江も来歴的には結構一緒にいたんですね。
・割と色々な土地を廻っている。
戦国辺りは細川氏の重臣。江戸時代は将軍家から紀州徳川家へ。
昭和の個人蔵時代も結構いろんな所有者に所有されて最終的に落ち着いた先が静岡の「佐野美術館」。
2023年はちょうどとうらぶと佐野美術館のコラボで紹介されていたように、佐野美術館では蜻蛉切と一緒ですし、割と色々な刀と一緒になっているなと思いました。
参考サイト
「国指定文化財等データベース」
「佐野美術館」
参考文献
『剣話録 上』
著者:剣話会 編(別役成義) 発行年:1912年(明治45) 出版者:昭文堂
目次:五 相州物(中) ページ数:42 コマ数:31
目次:二十四 同国物にして作の違ふ所を弁す(九) ページ数:195 コマ数:107
『剣話録 下』
著者:剣話会 編(今村長賀) 発行年:1912年(明治45) 出版者:昭文堂
目次:三 北陸物
ページ数:14 コマ数:13
『英雄と佩刀』
著者:羽皐隠史 発行年:1912年(大正1) 出版者:崇山房
目次:武田家重代の郷
ページ数:67 コマ数:45
『詳註刀剣名物帳 : 附・名物刀剣押形 増補』
著者:羽皐隠史 発行年:1919年(大正8) 出版者:嵩山堂
目次:松倉郷義弘の部 松井郷
ページ数:83 コマ数:56
『古美術 第2』
著者 高木文 編 発行年:1922年(大正11) 出版者:鳥羽書院
目次:刀名物 松井鄉
コマ数:24
『日本趣味十種 国学院大學叢書第壹篇』(データ送信)
著者:芳賀矢一 編 発行年:1924年(大正13年) 出版者:文教書院
目次:八 刀剣の話 杉原祥造
ページ数:360 コマ数:200
『刀剣名物牒』(データ送信)
著者:中央刀剣会 編 発行年:1926年(大正15) 出版者:中央刀剣会
目次:(上) 名物牒 松井江
ページ数:28 コマ数:17
「刀剣と歴史 (226)」(雑誌・データ送信)
発行年:1929年10月(昭和4) 出版者:日本刀剣保存会
目次:質問
ページ数:37 コマ数:19
『大日本刀剣新考 訂』(データ送信)
著者:内田疎天 発行年:1934年(昭和9) 出版者:岡本偉業館
目次:第五章 古刀略志(第四) 北陸道
ページ数:525 コマ数:605
『日本刀講座 第6巻 (刀剣鑑定・古刀)』(データ送信)
著者:雄山閣 編 発行年:1934年(昭和9) 出版者:雄山閣
目次:越中國
ページ数:45 コマ数:89
『刀談片々』(データ送信)
著者:本阿弥光遜 発行年:1936年(昭和11) 出版者:何光社
目次:刀劍の相場ピンカラキリまである
ページ数:215 コマ数:116
『刀剣刀装鑑定辞典』(データ送信)
著者:清水孝教 発行年:1936年(昭和11) 出版者:太陽堂
目次:マツヰガウ【松井郷】
ページ数:452、453 コマ数:237
『愛知県史蹟調査の栞』(データ送信)
著者:森本有親 編 発行年:1937年(昭和12) 出版者:名古屋温故会
目次:五、 認定重要美術品
ページ数:24 コマ数:18
『新考日本刀研究便覧 補』(データ送信)
著者:内田疎天 発行年:1939年(昭和14) 出版者:岡本偉業館
目次:增補附錄 重要美術品刀劔目錄
ページ数:607 コマ数:321
『日本刀分類目録』(データ送信)
著者:郷六貞治 編 発行年:1944年(昭和19) 出版者:春陽堂
目次:目録
ページ数:45 コマ数:39
『指定文化財総合目録 〔昭和33年版 第2〕』(データ送信)
発行年:1958年(昭和33) 出版者:文化財保護委員会
目次:福岡県
ページ数:711 コマ数:364
『正宗とその一門』(データ送信)
著者:本間順治、佐藤貫一編 発行年:1961年(昭和36) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:73 重文 刀 朱銘 義弘(松井江) 1口 佐野隆一氏蔵
ページ数:146、147 コマ数:192、193
『図説日本文化史大系 第7 改訂新版』(データ送信)
著者: [図説日本文化史大系]編集事務局 編 発行年:1966年(昭和41) 出版者:小学館
目次:遺品目録 北陸道
ページ数:422 コマ数:215
『日本刀講座 第2巻 新版』(データ送信)
発行年:1966年(昭和41) 出版者:雄山閣
目次:この国の一般作風概説
ページ数:373 コマ数:243
「陶説 (176)」(雑誌・データ送信)
著者:日本陶磁協会 [編] 発行年:1967年11月(昭和42) 出版者:日本陶磁協会
目次:東日本美術館めぐり(4)佐野美術館 / 磯野風船子
ページ数:69 コマ数:38
『出品目録 : 第17回全国大会』(データ送信)
発行年:1968年(昭和43) 出版者:日本美術刀剣保存協会
コマ数:10
『指定文化財総合目録 [昭和43年版] (美術工芸品篇)』(雑誌・データ送信)
発行年:1968年(昭和43) 出版者:文化財保護委員会
目次:東京都
ページ数:203 コマ数:113
『日本史の原像』(データ送信)
著者:能坂利雄 発行年:1971年(昭和46) 出版者:新人物往来社
目次:郷義弘と佐伯則重
ページ数:147 コマ数:77
『富士山麓史』(データ送信)
著者:富士急行50年史編纂委員会 編集製作 発行年:1977年(昭和52) 出版者:富士急行株式会社
目次:第2節 県指定文化財のさまざま
ページ数:491 コマ数:524
『中央区の歴史 (東京ふる里文庫 ; 21) 』(データ送信)
著者:北原進, 山本純美 著, 東京にふる里をつくる会 編 発行年:1979年(昭和54) 出版者:名著出版
目次:国指定文化財
ページ数:6 コマ数:117
『静岡年鑑 昭和60年度版 本冊』(データ送信)
著者:静岡新聞社 編 発行年:1985年(昭和60) 出版者:静岡新聞社
目次:市町村現勢
ページ数:251 コマ数:156
『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:まついごう【松井江】
ページ数:5巻P100
概説書
『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』(紙本)
発行年:2015年(平成27) 出版者:宝島社
目次:松井江
ページ数:73
『刀剣目録』(紙本)
著者:小和田康経 発行年:2015年(平成27) 出版者:新紀元社
目次:≪第三章 南北朝・室町時代≫ 越中国松倉 義弘 松井江
ページ数:245
『物語で読む日本の刀剣150』(紙本)
著者:かゆみ歴史編集部(イースト新書) 発行年:2015年(平成27) 出版者:イースト・プレス
目次:第5章 打刀 松井江
ページ数:133