安宅切

諸情報

名前(とうらぶでの呼び名) 安宅切(あたきぎり)
他の呼び方、表記 なし?(他の刀にあるような号+刀工名のような名も見かけない)
銘(刀工本人が刻んだ情報) 備州長船祐定 大永二二年八月日 
銘(刀に刻まれている情報) 備州長船祐定(金象嵌)あたき切脇毛落 大永二二年八月日
彫物  
刀工 祐定(末備前、永正備前)
系統 長船(備前国)
分類 古刀
時代 室町時代
制作年代 年紀銘により大永4年(1524)の制作が明確
刀種 打刀(刃長2尺(約60㎝)以上で反りが浅く刃を上にして帯に差す)
刃長 二尺二分(61.2㎝)
文化財指定 外装の「金霰鮫青漆打刀拵」が重要文化財指定されていてその中の刀
指定名称  
外装 金霰鮫青漆打刀拵(きんあられさめあおうるし うちがたなごしらえ)
現在 現存
所蔵 福岡市博物館
備考 拵の「金霰鮫青漆打刀拵」は現在のへし切長谷部の拵の本歌とされる

刀工の情報は下記参照

『日本刀大観 下巻』
著者:本阿弥光遜 発行年:1942年(昭和17) 出版者:日本刀研究会
目次:第三章 各國刀匠の略歴と其の掟と特徴 第一 古刀の部
ページ数:716 コマ数:233
https://dl.ndl.go.jp/pid/1125212/1/233

刃長、作風について

『打刀拵』(データ送信)
著者:東京国立博物館 編 発行年:1987年(昭和62) 出版者:東京国立博物館
目次:作品解説 四八、◎金霰鮫青漆打刀拵
ページ数:254、255 コマ数:258、259
https://dl.ndl.go.jp/pid/12659623/1/258

 

概要

略歴

室町時代の備前長船の刀工・祐定作の打刀。

「大永二二年八月日」「備州長船祐定(金象嵌)あたき切脇毛落」の銘文から大永4年の制作と、「脇毛」と呼ばれる部分を斬り落とした截断銘を持つ切れ味の良い刀であることが明確。

黒田孝高(如水)の陣刀。

1581年(天正9)11月、黒田孝高(1546~1604年)が淡路(兵庫県)の由良城主・安宅河内守冬一を攻略したとき、河内守を斬ったものと言われる。

(しかし河内守は降伏して織田信長に謁しているので別人とも言われる)

桃山時代に新刀の祖・埋忠妙寿による打刀拵が制作された。

その後も昭和まで黒田家伝来、1978年頃、黒田家の重宝が福岡市に寄贈された時に他の重宝と同じく寄贈されたと考えられる。

現在も「福岡市博物館」蔵。

外装である「金霰鮫青漆打刀拵」は1982年(昭和57)6月5日、重要文化財指定。

この拵は同じく黒田家伝来の国宝「へし切長谷部」の現在の「拵の本歌」である。

 

1524年(大永4)、備州長船祐定作の打刀

「大永二二年八月日」「備州長船祐定(金象嵌)あたき切脇毛落」という銘文から長船派の祐定一門の刀工によって大永4年(1524)に制作されたことがわかる。

※二二年という表記に関して
刀剣の世界では数字の「四」を「二」を二つ並べた「二二」という字で表記することがある。

また、金象嵌銘の部分から「脇毛」と呼ばれる部分を切った截断銘のある刀であることもわかる。

※「脇毛」はこの場合は他の刀の二ッ胴だとか四ッ胴だとかと同じ試し斬りの際に呼ばれる部位の一つ。「脇毛と呼ばれる部分」を切り落としたという切れ味を示す。

 

1581年(天正9)11月、黒田孝高(1546~1604年)が安宅河内守を切った刀とされる

黒田孝高(如水)の陣刀。
安宅はアタカ・アタケとも読むらしい。
号の由来は定かではないが、黒田孝高が天正9年(1581)11月、淡路(兵庫県)の由良城主・安宅河内守冬一を攻略したとき、河内守を斬ったものか、という。

『日本刀大百科事典』によると出典は『黒田家御重宝故実』。
国立国会図書館デジタルコレクションにもまだない。

『黒田家譜』に載っている由来の方は下記で読める。

『新訂黒田家譜 第4巻』
著者:川添昭二, 福岡古文書を読む会 校訂 発行年:1982年(昭和57) 出版者:文献出版
目次:継高記 三
ページ数:106 コマ数:63
https://dl.ndl.go.jp/pid/12208294/1/63

 一 安宅切 祐定 貳尺貳歩

 天正九年十一月、黒田勘解由孝高、阿波ゟ淡路え渡海、三好之一族安宅河内守居城由良の城を攻、安宅没落候由、安宅河内守世ニ聞え候剛強之勇士ニ而候を、勘解由孝高自身討取たる刀ニ而候故、安宅切と名付置候事

斬られた安宅は誰か?

『日本刀大百科事典』によると、河内守は降伏して安土にのぼり織田信長に拝謁しているので、斬られたのは一族の他の人でなければならぬ、という。

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5) 出版者:雄山閣
目次:あたきぎり【安宅切り】
ページ数:1巻P36

 

外装 桃山時代に埋忠妙寿作の打刀拵が作られる

桃山時代に新刀の祖・埋忠妙寿による打刀拵が制作された。
針書の「小判明寿」から埋忠明寿の作であることが判明している。

また、制作時期は慶長3年(1598)宗吉から明寿に改銘した時から黒田孝高没の慶長9年(1604)までの間になる。

『打刀拵』によると、安宅切は黒田孝高が常に差した実用刀であったと思われるもので、決して名刀ではない数打物と称する祐定の一口で、中身に比べて拵の豪華さが目立つという。

『打刀拵』(データ送信)
著者:東京国立博物館 編 発行年:1987年(昭和62) 出版者:東京国立博物館
目次:作品解説 四八、◎金霰鮫青漆打刀拵
ページ数:254、255 コマ数:258、259
https://dl.ndl.go.jp/pid/12659623/1/258

 

1982年(昭和57)6月5日、「金霰鮫青漆打刀拵」が重要文化財指定

安宅切の場合、刀ではなくその外装の「金霰鮫青漆打刀拵」が重要文化財に指定されている。

昭和57年(1982)6月5日、重要文化財指定。

「金霰鮫打刀拵 中身備州長船祐定」

『福岡県文化財目録 平成6年度版』(データ送信)
著者:福岡県教育委員会 編 発行年:1995年(平成7) 出版者:福岡県教育委員会
目次:工芸
ページ数:25 コマ数:23
https://dl.ndl.go.jp/pid/13231703/1/23

「文化庁月報 (6)(165)」(データ送信)
著者:文化庁 編 発行年:1982年(昭和57) 出版者:ぎょうせい
目次:重要文化財(美術工芸品)の指定等 文化財保護審議会の答申
ページ数:22 コマ数:12
https://dl.ndl.go.jp/pid/2803022/1/12

 

安宅切の「金霰鮫青漆打刀拵」はへし切長谷部の「拵の本歌」

『打刀拵』によると、安宅切の「金霰鮫青漆打刀拵」の写しはへし切長谷部の拵になるという。
安宅切とへし切長谷部の刀そのものは何の関係もないが、付属する拵の方が本歌・写し関係になる。

この拵の本歌と写しの比較は『打刀拵』の25コマに載っている。

『打刀拵』(データ送信)
著者:東京国立博物館 編 発行年:1987年(昭和62) 出版者:東京国立博物館
目次:図版
ページ数:21 コマ数:25
https://dl.ndl.go.jp/pid/12659623/1/25

 

1978年(昭和53)9月、黒田家から福岡市に寄贈か?

現在の所有者は福岡市、保管施設は「福岡市博物館」。

「国指定文化財等データベース」

「福岡市博物館」のWEBページによると、旧福岡藩主、黒田家の貴重なコレクションは昭和53年(1978)9月、黒田家から福岡市に寄贈(一部は寄託・購入)されたという。

安宅切は直接名前は出ていないが普通に考えて他の黒田家の重宝と同じようにこの時期の寄贈だと思われる。

「博物館研究 = Museum studies 19(7)(194)」(雑誌・データ送信)
著者:日本博物館協会 編 発行年:1984年7月(昭和59) 出版者:日本博物館協会
目次:黒田資料寄贈の場合の処理–受入・評価・登録・公開 / 安永 幸一
ページ数:4~10 コマ数:
4~7

https://dl.ndl.go.jp/pid/3467102/1/4

 

現在

2025年現在も「福岡市博物館」蔵。

参考:「福岡市博物館」収蔵品データベース、「国指定文化財等データベース」

 

作風

刃長二尺二分(約61.2センチ)。

鎬造、丸棟(棟を削ぐ)、先反り強く中鋒延びる。
初茎、刃上り栗尻、鑢目勝手下がり。
目釘孔三中一忍。
板目肌立ちごころとなる。
広直刃二重刃ごころとなり、葉入り、砂流かかり匂口沈む。
帽子刃は深く小丸。

『打刀拵』(データ送信)
著者:東京国立博物館 編 発行年:1987年(昭和62) 出版者:東京国立博物館
目次:作品解説 四八、◎金霰鮫青漆打刀拵
ページ数:254、255 コマ数:258、259
https://dl.ndl.go.jp/pid/12659623/1/258

 

「安宅貞宗」も「安宅切」の異名を持つ

『日本刀大百科事典』によると、享保名物の安宅貞宗も安宅(摂津守冬康)を斬ったから「安宅切り」とも呼ばれていると言う。

 

調査所感

・外装が重要文化財

安宅切は黒田如水の刀で安宅さんを切ったからこの名がついたと言われる刀ですが、価値的には外装である「金霰鮫青漆打刀拵」の方が重要文化財として指定されていて、安宅切自体はその中の刀扱いですね。

この時代の備前の刀工は戦国時代真っただ中であるため、おびただしい需要に応じるために入念作は少なく、その前の応永備前と呼ばれる時代の優しい作柄とも違う実戦刀だと言われています。

祐定とは言いますが祐定一門は全員この名を名乗り50名以上の刀工がいたため、具体的に誰かという話はほぼされません。

『打刀拵』という本で、安宅切に関して中身に比べて拵の豪華さが目立つと言われているのが興味深い話と思います。

・で、拵がとうらぶ的に重要みたいなんですが

長谷部くんこと「へし切長谷部」の拵がこの安宅切の模作(写し)であることに、これまでその辺ノータッチだったゲームの方で安宅切実装と共にこんなに強調されるとはなという感じです。
まだ回想見れてないので正直どう反応していいかわからない。
こっちとしては正直外装の本歌・写し関係とか言われても服がお揃いぐらいの感覚だったのですがゲームの方を見て感想が変わるかもしれないという謎の状況。
・外装関係は正直調べにくいし結構ややこしい

刀そのものを調べていると外装の記述にもそりゃぶち当たりますが、結構ややこしいんですよね。

私の知識ではあまり深く突っ込めないところなんですが、この辺もそろそろやらなければいけないってことでしょうかね。

・研究史としては比較的シンプル、あとはゲームの方の考察として別に考えた方がいいと思われます

安宅切そのものは上記のように来歴的にはシンプルで特に言うことはないかなって感じです。
切られた安宅さんがよくわからないぐらいはまぁよくあることかな、と。

研究史そのものに拘るより、とうらぶが刀剣用語の何にどういう要素を振っているかという考察の方に早めに思考を移した方が良い気はしますね。
ただそういう考察に入ろうにも、刀そのものの本歌・写し関係ではなく外装である刀装具の方の本歌・写し関係って概念自体、そういうものがあると知っていないと捉えにくい話かもしれません。

 

参考サイト

「福岡市博物館」
「文化遺産オンライン」
「国指定文化財等データベース」

 

参考文献

「文化庁月報 (6)(165)」(データ送信)
著者:文化庁 編 発行年:1982年(昭和57) 出版者:ぎょうせい
目次:重要文化財(美術工芸品)の指定等 文化財保護審議会の答申
ページ数:22 コマ数:12

『新訂黒田家譜 第4巻』
著者:川添昭二, 福岡古文書を読む会 校訂 発行年:1982年(昭和57) 出版者:文献出版
目次:継高記 三
ページ数:106 コマ数:63

「博物館研究 = Museum studies 19(7)(194)」(雑誌・データ送信)
著者:日本博物館協会 編 発行年:1984年7月(昭和59) 出版者:日本博物館協会
目次:黒田資料寄贈の場合の処理–受入・評価・登録・公開 / 安永 幸一
ページ数:8、9 コマ数:6

『打刀拵』(データ送信)
著者:東京国立博物館 編 発行年:1987年(昭和62) 出版者:東京国立博物館
目次:作品解説 四八、◎金霰鮫青漆打刀拵
ページ数:254、255 コマ数:258、259

『会津の美 5 (武器・武具篇)』(データ送信)
発行年:1988年(昭和63) 出版者:歴史春秋出版
目次:打刀
ページ数:148 コマ数:152

『福岡県文化財目録 平成6年度版』(データ送信)
著者:福岡県教育委員会 編 発行年:1995年(平成7) 出版者:福岡県教育委員会
目次:工芸
ページ数:25 コマ数:23

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5) 出版者:雄山閣
目次:あたきぎり【安宅切り】
ページ数:1巻P36

 

概説書

『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』(紙本)
発行年:2015年(平成27) 出版者:宝島社
目次:名刀列伝225 室町時代 安宅切
ページ数:97

『物語で読む日本の刀剣150』(紙本)
著者:かみゆ歴史編集部(イースト新書) 発行年:2015年(平成27) 出版者:イースト・プレス
目次:第5章 打刀 安宅切
ページ数:137

『刀剣物語』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:名刀の逸話 備前長船祐定
ページ数:230

『刀剣説話』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2020年(令和2) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
(『刀剣物語』発行年:2015年を加筆修正して新たに発行しなおしたもの)
目次:名刀の物語 安宅切
ページ数:222