後家兼光

ごけかねみつ

概要

「刀 大磨上げ無銘(号後家兼光)」

南北朝時代の刀工・備前長船兼光作。
もとは3尺余りの大太刀を大磨上げで短くした打刀、無銘。

「静嘉堂文庫美術館」のサイトや『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』によると、

もとは豊臣秀吉所持。
その遺品として、上杉景勝の重臣ながら豊臣秀吉から特に気に入られていた直江兼続が賜った。

兼続の没後、後家となったその正室・お船の方より主家の上杉家へ献上されたことから後家兼光と呼ばれるようになった。

幕末に米沢藩上杉家は奥羽越列藩同盟に加わったが、姻戚関係にあった土佐藩山内家の助力によって明治政府から厳罰を受けずに済んだ。

上杉家はその礼として後家兼光を山内家へと贈った。

『刀剣講和』などによると、その後、土佐の岩崎男爵家の什宝となる。

現在は岩崎弥之助男爵が明治期に収集した刀剣約130振りを収蔵している「静嘉堂文庫美術館」蔵。

もとは豊臣秀吉の所有

「静嘉堂文庫美術館」のサイトや『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』によると、

もとは豊臣秀吉所持。

『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』(紙本)
発行年:2015年(平成27) 出版者:宝島社
目次:後家兼光
ページ数:84

上杉景勝の重臣・直江兼続が太閤遺物として拝領

「静嘉堂文庫美術館」のサイトや『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』によると、

豊臣秀吉の遺品として、上杉景勝の重臣・直江兼続が拝領。
陪臣でありながら秀吉に特に気に入られていたためにこの刀を賜った。

秀吉の遺物で直江兼続が拝領した刀の記録については、『太閤記』に載っている遺物のリストにある「直江山城守」の「兼光」が該当すると思われる。

『太閤記 : 22巻 [11]』
著者:小瀬甫菴道喜 輯録 発行年:1646年(正保3) 出版者:林甚右衛門
目次:秀吉公御遺物於加賀大納言利家卿館被下覚如帳面寫之
コマ数:68

『刀剣談』
著者:高瀬真卿 発行年:1910年(明治43) 出版者:日報社
目次:第四門 武将の愛刀 太閤遺物の名刀
ページ数:55 コマ数:52
(一番最後の行)

“兼光 直江山城守”

直江兼続の没後、正室のお船の方により主家である上杉家へ献上

「静嘉堂文庫美術館」のサイトや『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』によると、

直江兼続の没後、正室のお船の方より主家である上杉家へ献上されたという。
夫の死後の未亡人、つまり後家から献上されたので「後家兼光」と呼ばれるようになった。

明治期に米沢藩上杉家から土佐藩山内家へ

「静嘉堂文庫美術館」のサイトや『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』によると、

明治期になると、上杉伯爵家から山内侯爵家へ贈られた。

米沢藩が幕末、佐幕派の奥羽越列藩同盟に加わった際、姻戚関係にあった土佐藩の助力により厳罰を受けずに済んだことから、その礼として「後家兼光」が土佐藩主・山内家へ贈られたと伝えられるらしい。

岩崎男爵家が入手

三菱財閥の創業者・岩崎弥太郎氏とその弟で三菱財閥の二代目総帥・岩崎弥之助氏の岩崎男爵家が入手。

刀剣本で「後家兼光」の記述を確認できる始まりは『刀剣講話』『剣話録』等の今村長賀氏の発言で、その時点で岩崎男爵家の什宝扱いである。

刀剣雑誌類によると、そもそも岩崎弥之助氏に名刀の購入を斡旋していたのが今村長賀氏で、どちらも土佐の人なので土佐藩主が所持していた名刀を岩崎弥之助氏が所持していることや、その事実を今村長賀氏が知っていること自体は不思議ではない。

兄の岩崎弥太郎氏と弟の岩崎弥之助氏のどちらが入手したのかはっきりとはわからないが、この兄弟は共に愛刀家で、兄の弥太郎氏が病没したため、名刀を集めるという遺志は弟の弥之助氏に受け継がれたらしい。
現在の静嘉堂文庫のコレクションは主に創設者の弥之助氏が集めたものである。

これらの推測は下記の雑誌などを基にしている。

「刀剣と歴史 (602)」(雑誌・データ送信)
発行年:1994年1月(平成6) 出版者:日本刀剣保存会
目次:坂本龍馬と刀剣(15) / 小美濃清明 <土佐人と刀剣>
ページ数:33、34 コマ数:21、22

「刀剣史料 (42)」(雑誌・データ送信)
発行年:1962年6月(昭和37) 出版者:南人社
目次:大臥山人に訊く(2) / ◎△□×
ページ数:20 コマ数:12

下記の本では「後家兼光」とは書いていないが「兼光作蘆雁蒔繪拵付刀」が岩崎弥之助氏の所持になっている。
明治22年頃にはすでに、岩崎弥之助氏所持であると考えていいと思われる。

『美術展覧会出品目録 明治22年1、2号,明治23年3−5号』
著者:松井忠兵衛, 志村政則 編 発行年:1888~1901年(明治21~34) 出版者:志村政則
目次:〇岩崎彌之助
ページ数:21 コマ数:14

現在は「静嘉堂文庫美術館」蔵

現在は「静嘉堂文庫美術館」蔵。

「静嘉堂文庫美術館」は、創設者の岩崎弥之助男爵が明治期に収集した刀剣約130振りを収蔵している。

「刀剣と歴史 (604)」(雑誌・データ送信)
発行年:1995年3月(平成7) 出版者:日本刀剣保存会
目次:本部だより支部だより / 桃李
ページ数:58 コマ数:34

刃長など

「静嘉堂文庫美術館」のサイトや『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』によると、

刃長80.0センチ。
反り2.1センチ。

本来三尺余りの大太刀だったものを短く切り詰めた大磨り上げの刀。
無銘。

外装 「芦雁蒔絵鞘打刀拵」

「静嘉堂文庫美術館」のサイトによると明治時代に作られた「芦雁蒔絵鞘打刀拵」が付属している。

「静嘉堂文庫美術館」のサイトが載せてくれている拵の写真がめちゃくちゃ綺麗なのでぜひ直接見に行ってほしい。

調査所感

・思ったより情報がない

推しが増えた! と思ってCV見てからさっそく調査を開始したんですが、刀剣書の中だと思ったより情報が少ないな。

『日本刀大百科事典』では後家兼光の項目自体がまずないですね。
後家に「ごけ」以外の読み方があると思えないし……。

ただし「兼光」の項目で有名な作品として「直江山城守の後家兼光」の名が出ているので、酔剣先生が知らないわけでも後家兼光が有名ではないわけでもなく、単にこの刀で一項目作らなかっただけのようです。

研究者が史料を分析するのはある程度古い文献に名前が載っている(そして色々な情報が入り混じっている)刀なので、そういった情報がない後家兼光では一項目作らなかっただけみたいですね。

国立国会図書館デジタルコレクションでも後家兼光だとほとんど資料がヒットしませんでした。

ただ、無銘だったり古剣書に名前がなかったりで研究本に取り上げられやすい条件に入らないだけで刀そのものは有名というパターンは結構あって、『刀剣講話』『剣話録』の頃から知られ、岩崎弥之助男爵のコレクションである静嘉堂文庫美術館にも所蔵されている後家兼光そのものは明治の発見時からとても有名だと思われます。

この場合の来歴としては素直に静嘉堂文庫美術館のサイトを参考にすればいいと思います。
私の手持ちの本だと研究書系は全滅で普段は概説書として使っている『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』にだけ載っていました。この本の文章も内容的には静嘉堂文庫美術館のサイトの説明と大差ないです。

・拵がとても綺麗

静嘉堂文庫美術館のサイトで見られる、明治時代に作られた拵の写真がとても綺麗です。
普通に見ても綺麗ですが、刀剣男士の後家兼光の立ち絵がもうそのままで感動できるのでぜひ。

・直江兼続と言えば愛の兜

持ち主の直江兼続と言えば「愛」という漢字をそのまま掲げた兜で有名だったようなと思ったらやはりそうでした。
ゲームのとうらぶにおいて愛は重要なテーマなので刀剣本体の情報というか刀剣書の記述が少ない分持ち主情報はチェックしといたほうが良さそうですね。

・刃長かなり長いけど打刀

山鳥毛が79.2センチ。
姫鶴が71.8センチ。

後家兼光が80.0センチ。

いや待って80.0センチ??? 長くない!?

ちょっと長船派も見てみようか。

燭台切が67センチ。
大般若が73.6センチ。
小竜が73.9センチ。
山姥切長義が71.2センチ。

……上杉家・長船派の身内太刀・打刀の中で一番長い!
資料によって若干数値が変動しますが、後家兼光デカっ! ってところは変わらないと思います。

・長船派の四代目、刀工・長義と同じ相伝備前鍛冶

光忠→長光→景光→兼光

までは光忠の直系です。長義は光忠の長光とは別の息子の曾孫辺り。
兼光は二代説があるのでちょっとどちらの兼光かを判断するのは難しいようですね。私が参考にしている本だとそんな感じ。

血統としては兼光は長光系の直系ですが、刀剣書だと作風から正宗の相州伝の影響を受けた「相伝備前」鍛冶として項目的には相伝備前鍛冶の兼光系、長義系として並んで出てくることの方が多いと思います。

刀工系情報の参考は大体この本を使ってます。

『日本刀の歴史 古刀編』(紙本)
著者:常石英明 発行年:2016年(平成28) 出版者:金園社

参考サイト

「静嘉堂文庫美術館」

参考文献

『美術展覧会出品目録 明治22年1、2号,明治23年3−5号』
著者:松井忠兵衛, 志村政則 編 発行年:1888~1901年(明治21~34) 出版者:志村政則
目次:〇岩崎彌之助
ページ数:21 コマ数:14

『刀剣講話 4』
著者:別役成義, 今村長賀 述 発行年:1898-1903年(明治31-36)
目次:第六 備前物
ページ数:127 コマ数:131

『刀剣談』
著者:高瀬真卿 発行年:1910年(明治43) 出版者:日報社
目次:第四門 武将の愛刀 太閤遺物の名刀 ページ数:55 コマ数:52
目次:第四門 武将の愛刀 武将の佩刀 ページ数:93 コマ数:71

『剣話録 下』
著者:剣話会 編(今村長賀) 発行年:1912年(明治45) 出版者:昭文堂
目次:十二 相州伝備前物及び吉井一流
ページ数:88 コマ数:52

『英雄と佩刀』
著者:羽皐隠史 発行年:1912年(大正1) 出版者:崇山房
目次:最上大業物兼光
ページ数:138 コマ数:81

『九段刀剣談叢 第1輯』
著者:中央刀剣会本部 編 発行年:1926年(大正15) 出版者:中央刀剣会本部
目次:四 山陽道の刀工
ページ数:81 コマ数:45

『刀剣談 再版』(データ送信)
著者:羽皐隠史 著[他] 発行年:1927年(昭和2) 出版者:嵩山房
目次:第四 武將の愛刀
ページ数:141 コマ数:82

「刀剣と歴史 (475)」(雑誌・データ送信)
発行年:1973年9月(昭和48) 出版者:日本刀剣保存会
目次:本部研究会報告
ページ数:57、58 コマ数:33、34

「刀剣と歴史 (604)」(雑誌・データ送信)
発行年:1995年3月(平成7) 出版者:日本刀剣保存会
目次:本部だより支部だより / 桃李
ページ数:58 コマ数:34

概説書

『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』(紙本)
発行年:2015年(平成27) 出版者:宝島社
目次:後家兼光
ページ数:84