五虎退

ごこたい

概要

「短刀 銘吉光 附 腰刀拵(柄ナシ)」

鎌倉時代の刀工・粟田口吉光作の短刀。

銘は「吉光」と二字銘。
『日本刀大百科事典』によると、“五虎逃げ”ともいうらしい。

『能阿弥本』によると、遣明船で中国に渡った足利将軍義満のある同朋が、荒野で五匹の虎に追いかけられた。
短刀を抜いて振り回したところ、虎は逃げて行った。

帰国して将軍義満に報告すると、その短刀に“五虎退”という異名をつけてくれた。
その後、義満から朝廷へ献上したという。

永禄2年(1559)、正親町天皇より上杉謙信に下賜された。

以来、上杉家伝来。上杉景勝御手選三十五腰の一つ。

1937年(昭和12)12月24日、重要美術品認定。

その後一時期行方不明になっていた期間があるようだが、現在では無事に発見されたようである。

個人蔵だが時折「米沢市上杉博物館」で展示されることがある。

足利将軍義満の同胞が、五匹の虎を退かせた逸話

遣明船で中国に渡った足利将軍義満のある同朋が、荒野で五匹の虎に追いかけられた。
短刀を抜いて振り回したところ、虎は逃げて行った。
帰国して将軍義満に報告すると、その短刀に“五虎退”という異名をつけてくれた。
その後、義満から朝廷へ献上した。

この逸話は『能阿弥本』(『能阿弥本銘盡』)と呼ばれる古剣書が出典であり、この本を素人が読むのは難しいのだが、以下の本に五虎退のエピソードが引用されているので内容だけは確認できる。

『国宝刀剣図譜』の項目自体は実は白山吉光の項目なのだが、豊臣時代以後の粟田口吉光の名声の一例として紹介されている。

『国宝刀剣図譜 古刀の部 山城』(データ送信)
著者:本間順治 編 発行年:1938年(昭和13) 出版者:岩波書店
目次:〔古刀の部〕 山城 コマ数:53、55

天龍寺御造立のために、唐渡り御船被遣の時、御所様近辺にめしつかはるる同胞在けるが、唐渡りあつて、ある広野を通りける処に、虎五匹おつかけるるに、吉光がさくの刀をぬき、打ふりけるを見て、とらにげさりけり、帰朝して此よし公方様へ申上けり、其時御所さま彼刀を五虎退と御名付在ける

『日本刀剣の研究 第2輯』(データ送信)
著者:雄山閣編輯局 編 発行年:1935年(昭和10) 出版者:雄山閣
目次:隱れたる愛刀家の刀劍文學 源定正
ページ数:343 コマ数:180

永禄2年(1559)、正親町天皇より上杉謙信に下賜された

上杉謙信が永禄2年(1559)5月1日、再度上洛したとき、正親町天皇より下賜された。

『日本刀大百科事典』によると出典は『上杉古文書』。
『上杉古文書』とは具体的にどういう文献を指すのかよくわからなかったが(上杉家文書?)、この内容自体はとても有名らしく国立国会図書館デジタルコレクションの上杉謙信関連本で読むことができる。

『上杉謙信伝』
著者:布施秀治 発行年:1917年(大正6) 出版者:謙信文庫[ほか]
目次:第二章 文武の修養 第二節 武技と兵法 ページ数:44 コマ数:75
目次:第四章 尊王の誠忠 第二節 再度の上洛 ページ数:118、119 コマ数:115

五鈷吉光を下賜された説

『北越軍談』では天皇から藤林国綱、将軍義輝からは五鈷吉光を下賜された、とする説があるが、『日本刀大百科事典』によると、五鈷吉光は五虎吉光、五虎退吉光の誤りらしい。

『戦国史料叢書 第2期 第8』(データ送信)
発行年:1966年(昭和41) 出版者:人物往来社
目次:北越軍談 巻第二十二
ページ数:373 コマ数:190

粟田口吉光が冶たりし五鈷の宝剣

上杉家御手選三十五腰の一つ

以後は上杉家伝来。

『名刀と名将』などによれば、上杉家御手選三十五腰(上杉景勝御手選三十六腰)の一つ。

『名刀と名将(名将シリーズ)』(データ送信)
著者:福永酔剣 発行年:1966年(昭和41) 出版者:雄山閣
目次:上杉謙信の愛刀
ページ数:127、128 コマ数:70、71

1881年(明治14)の天覧

明治天皇が明治14年、米沢へ巡幸されたとき、天覧に供した。

『山形県図書館協会報 (9月號)(6)』(雑誌・データ送信)
発行年:1936年(昭和11)9月 出版者:
目次:明治天皇米澤御駐輦中の事に就て / 黑井悌次郞
目次:宮内省御用掛たりし宮島誠一郞氏より上杉家々職原三左衞門氏に寄せたる書狀
ページ数:2~4 コマ数:2、3

『山形県行幸記』
著者:山形県教育会 編 発行年:1916年(大正5) 出版者:山形県教育会
目次:第二章 臨幸
ページ数:105 コマ数:131

天皇陛下の十虎退

『名刀と名将』などによると、
明治14年の天覧の際、明治天皇は愛刀家だった先帝遺愛の粟田口吉光の短刀を携行していた。
本阿弥家を呼び出して五虎退と比較させると、本阿弥は先帝の吉光の方がすぐれていると答えた。
明治天皇は微笑して「五虎退よりすぐれているゆえ、これは十虎退だ」と言われた。

福永酔剣氏の著書だと大体こういう言い方だが『山形県図書館協会報 (9月號)(6)』ではまた別の言い回しになっている。
ここにも五虎退の吉光があるから、五虎退と五虎退合わせて十虎退だ、などと細部が異なる。

「刀剣と歴史 (444)」(雑誌・データ送信)
発行年:1968年7月 出版者:日本刀剣保存会
目次:明治天皇と刀剣(上) / 千鳥庵主人
ページ数:10、11 コマ数:10
(※千鳥庵主人は福永酔剣氏の名義の一つ)

1937年(昭和12)12月24日、重要美術品認定

昭和12年(1937年)12月24日、重要美術品認定。
上杉憲章伯爵名義。

「短刀 銘吉光 附 腰刀拵(柄ナシ)」

号はないが、もともとこの日に上杉憲章伯爵名義で上杉家伝来の名刀とみられる刀(姫鶴一文字や火車切広光など)が号なしでまとめて認定されている。

『日本刀分類目録』(データ送信)
著者:郷六貞治 編 発行年:1944年 出版者:春陽堂
目次:目録 短刀 銘備前長船住景光 元亨三年三月日 附腰刀拵
ページ数:8 コマ数:21

『官報 1937年12月24日』
著者:大蔵省印刷局 [編] 発行年:1937年(昭和12) 出版者:日本マイクロ写真
目次:文部省告示第四百三十四号 昭和十二年十二月二十四日
ページ数:793 コマ数:5

1976年(昭和51)頃、行方不明になっていた

下記の本によると、昭和51年4月4日、「上杉藩藩祖が天皇から拝領したといわれる吉光作の五虎退の剣が行方不明で上杉神社信仰会有志が捜している」となっている。

『山形県年鑑 昭和52年版』(データ送信)
著者:山形新聞社 編 発行年:1976年(昭和51) 出版者:山形新聞社
目次:51年4月4日
ページ数:91 コマ数:47

現在は個人蔵

「米沢市上杉博物館」のサイトやTwitterなどによると、行方不明から発見までの経緯は不明だが、現在は「米沢市上杉博物館」が時折展示しているようである。
所蔵は「米沢市上杉博物館」ではなく個人蔵。

刀剣乱舞ともコラボしていた。

作風

刃長八寸二分(約24.8センチ)。
表裏に護摩箸を彫る。
地肌はあまり良くない。
刃文は直刃に食い違いまじり。
古剣書には目釘孔二つの押形もあるが、現存刀は一個。
銘は「吉光」と二字。

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:ごこたい【五虎退】
ページ数:2巻P246

外装

腰刀拵が付いているが、柄はない。

『武将と名刀』(データ送信)
著者:佐藤寒山 発行年:1964年(昭和39) 出版者:人物往来社
目次:上杉景勝御手選三十五腰
ページ数:162 コマ数:89

調査所感

・正親町天皇から拝領、上杉家の資料にはっきりと名前が出てくる刀

上杉家の資料に正親町天皇から上杉謙信が拝領した旨が遺されているためか、この内容を記した本が多い。

実際に虎を追い払ったかどうかはともかく、五虎退という名前は有名で、上杉家関連の歴史を調べている人には五虎退という刀自体が有名かもしれない。

そもそも上杉家の刀剣は資料が残っているのでかなり有名らしい。
「刀剣と歴史 (487)」で酔剣先生がそういう話をしている。

毎度おなじみ寒山先生の『武将と名刀』、そして酔剣先生の『名刀と名将』を比べると、寒山先生はあまり五虎退に関して詳しくはなく、酔剣先生の方はこの本一冊ではなく様々な本・雑誌記事で五虎退を話題に挙げていてかなり興味があるように見える。

そしてこれらの本が出た頃は五虎退は刀剣界的には行方不明だったようだ。

・越後毛利氏の安田顕元と五虎退

しかし調べていて個人的に気になったのは、越後毛利氏、毛利安田氏などと呼ばれている「安田顕元」という人物がこの五虎退の受け取りを辞退したというエピソードである。

『越後毛利氏の研究』(データ送信)
著者:関久 発行年:1965年(昭和40) 出版者:上越郷土研究会
目次:三、八代北条毛利丹後守
ページ数:227 コマ数:126

この「安田顕元」なる人物をWikipediaでざっくり調べると、御館の乱の際に当初上杉景虎側についていた国人衆を調略して上杉景勝側に引き入れ勝利に大きく貢献したものの、戦後の恩賞のほとんどが景勝子飼いの上田衆に与えられることになったため国人衆が反発したとある。

安田顕元は仲裁に乗り出したがうまくいかずに責任を感じて自害。

結構大きな出来事だと思われるが結局五虎退はこの人のもとへ行かなかったせいかあまりこの話がされていない。

概説書や刀剣関係のサイトにも記述がまったく出てこないけれど毛利氏の研究には確かに五虎退の名が出てくるので気になっている。

まぁ、とうらぶのごこちゃんが関係あるのかどうかはさっぱりわかりませんけれども。
製作側がこの話を把握しているか、重要視しているのかはまた別問題なので。

参考文献

『上杉謙信公略履歴』
著者:上杉茂憲 編 発行年:1891年(明治24) 出版者:上杉茂憲
ページ数:上11 コマ数:13

『刀剣鑑定秘訣 古刀編 巻5』
著者:本阿弥弥三郎 発行年:1905年(明治38) 出版者:青木嵩山堂
目次:第二十二編 鍜冶雑纂 名剣冶工
ページ数:28、29 コマ数:81

『米沢古誌類纂』
発行年:1908年(明治41) 出版者:羽陽活版所
ページ数:40 コマ数:76

『山形県行幸記』
著者:山形県教育会 編 発行年:1916年(大正5) 出版者:山形県教育会
目次:第二章 臨幸
ページ数:105 コマ数:131

『上杉謙信伝』
著者:布施秀治 発行年:1917年(大正6) 出版者:謙信文庫[ほか]
目次:第二章 文武の修養 第二節 武技と兵法 ページ数:44 コマ数:75
目次:第四章 尊王の誠忠 第二節 再度の上洛 ページ数:118、119 コマ数:115

『越佐史料 巻4』
著者:高橋義彦 編 発行年:1930年(昭和5) 出版者:高橋義彦
目次:二年己未 紀元二千二百十九年 参考
ページ数:183 コマ数:130

『越佐史料 巻5』
著者:高橋義彦 編 発行年:1930年(昭和5) 出版者:高橋義彦
目次:八年庚辰 紀元二千二百四十年 8月 9月
ページ数:799 コマ数:461

『上杉謙信偉業録』
著者:清水彦介 編 発行年:1934年(昭和9) 出版者:清水得一
ページ数:40 コマ数:29

『日本刀剣の研究 第2輯』(データ送信)
著者:雄山閣編輯局 編 発行年:1935年(昭和10) 出版者:雄山閣
目次:隱れたる愛刀家の刀劍文學 源定正
ページ数:343 コマ数:180

『山形県図書館協会報 (8月號)(5)』(雑誌・データ送信)
発行年:1936年(昭和11)8月 出版者:山形県図書館協会
目次:刀劒の鑑賞に就て / 本間順治
ページ数:2~4 コマ数:2、3

『山形県図書館協会報 (9月號)(6)』(雑誌・データ送信)
発行年:1936年(昭和11)9月 出版者:山形県図書館協会
目次:明治天皇米澤御駐輦中の事に就て / 黑井悌次郞
目次:宮内省御用掛たりし宮島誠一郞氏より上杉家々職原三左衞門氏に寄せたる書狀
ページ数:2~4 コマ数:2、3

『国宝刀剣図譜 古刀の部 山城』(データ送信)
著者:本間順治 編 発行年:1938年(昭和13) 出版者:岩波書店
目次:〔古刀の部〕 山城
コマ数:53、55

『日本刀と無敵魂』
著者:武富邦茂 発行年:1943年(昭和18) 出版者:彰文館
目次:上杉謙信と守家
ページ数:219 コマ数:124

『武将と名刀』(データ送信)
著者:佐藤寒山 発行年:1964年(昭和39) 出版者:人物往来社
目次:上杉景勝御手選三十五腰
ページ数:162 コマ数:89

『越後毛利氏の研究』(データ送信)
著者:関久 発行年:1965年(昭和40) 出版者:上越郷土研究会
目次:三、八代北条毛利丹後守
ページ数:227 コマ数:126

『戦国史料叢書 第2期 第8』(データ送信)
発行年:1966年(昭和41) 出版者:人物往来社
目次:北越軍談 巻第二十二
ページ数:373 コマ数:190

『名刀と名将(名将シリーズ)』(データ送信)
著者:福永酔剣 発行年:1966年(昭和41) 出版者:雄山閣
目次:上杉謙信の愛刀
ページ数:127、128 コマ数:70、71

「刀剣と歴史 (444)」(雑誌・データ送信)
発行年:1968年7月(昭和43) 出版者:日本刀剣保存会
目次:明治天皇と刀剣(上) / 千鳥庵主人
ページ数:10、11 コマ数:10

『日本刀物語 続』(データ送信)
著者:福永酔剣 発行年:1969年(昭和44) 出版者:雄山閣
目次:上杉謙信の愛刀
ページ数:127、128 コマ数:75、76

『米沢市史』(データ送信)
著者:登坂又蔵 編 発行年:1973年(昭和48) 出版者:名著出版
目次:第五章 上杉時代 第一節 上杉謙信
ページ数:90 コマ数:61

「刀剣と歴史 (487)」(雑誌・データ送信)
発行年:1975年9月(昭和50) 出版者:日本刀剣保存会
目次:古剣書の話(五) / 福永酔剣
ページ数:43 コマ数:26

『米沢郷土誌』(データ送信)
著者:石田勘四郎 発行年:1977年(昭和52) 出版者:文献出版
目次:第十七編 鄕土の人物 第一章 上杉時代
ページ数:レ5 コマ数:197

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:ごこたい【五虎退】
ページ数:2巻P246

概説書

『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』(紙本)
発行年:2015年(平成27) 出版者:宝島社
目次:五虎退
ページ数:10

『刀剣目録』
著者:小和田康経 発行年:2015年(平成27) 出版者:新紀元社
目次:≪第二章 鎌倉時代≫ 山城国粟田口 吉光 五虎退
ページ数:94

『物語で読む日本の刀剣150』
著者:かゆみ歴史編集部(イースト新書) 発行年:2015年(平成27) 出版者:イースト・プレス
目次:第7章 短刀 五虎退
ページ数:160、161

『刀剣物語』
著者:編集人・東由士 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:粟田口吉光作の刀 五虎退
ページ数:108、109

『刀剣説話』
著者:編集人・東由士 発行年:2020年(令和2) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
(『刀剣物語』発行年:2015年を加筆修正して新たに発行しなおしたもの)
目次:鬼・妖を切った刀 五虎退
ページ数:40、41

『刀剣聖地めぐり』(紙本)
発行年:2016年(平成28) 出版者:一迅社
目次:五虎退
ページ数:76