平野藤四郎

ひらのとうしろう

概要

「短刀 銘 吉光(名物平野藤四郎)」

ひらのとうしろう【平野藤四郎】

『享保名物帳』所載、鎌倉時代の粟田口吉光作の短刀。

『享保名物帳』によると、もと大坂の商人・平野道雪所持。

平野道雪から、上州淀城主・木村常陸介重茲が、金30枚で買い取り、豊臣秀吉に献上した。

豊臣秀吉はこの刀を前田利長に与えた。

『徳川実紀』によると、前田利長は慶長10年に隠居の挨拶として、江戸幕府の2代将軍・徳川秀忠に献上している。

それをさらに1617年(元和3)5月13日、徳川秀忠から前田利常へ与えられることによって、平野藤四郎は前田家に戻った。

以後は前田家に伝来。

『詳註刀剣名物帳』など当時の刀剣書によると、明治15年、前田家より明治天皇へ献上。

現在も御物である。

もと大坂の商人・平野道雪所持

『享保名物帳』によると、
もと大坂の商人・平野道雪所持。

『刀剣名物牒』(データ送信)
著者:中央刀剣会 編 発行年:1926年(大正15) 出版者:中央刀剣会
目次:第二 細說 (上) 名物牒
ページ数:9 コマ数:7

『詳註刀剣名物帳 : 附・名物刀剣押形 増補』
著者:羽皐隠史 発行年:1919年(大正8) 出版者:嵩山堂
目次:粟田口藤四郎の部
ページ数:3、4 コマ数:16、17

平野藤四郎 在銘長九寸九分 代不知

表裏に刀樋並影樋残り有之摂津国平野町の人道雪と申所持木村常陸介金三十枚に求む其の節は長さ壹尺あり詰め候て如何とて壹分磨上る秀吉公へ上る利長卿拝領又た秀吉公へ上る元和三年利家卿館へ渡御の刻利光卿拝領なり其節加州より新身藤四郎を上る。

『日本刀大百科事典』では『姓氏家系大辞典』を出典として平野家に関する説明を加えている。

平野家は坂上田村麿の子孫で、田村麿の子・広野の領地だったので、もと広野庄といったが、のち平野庄に改称された。
その子孫は“平野殿”と呼ばれ連綿江戸期まで栄えた。
慶長(1596)頃は、伏見銀座の頭役にもなっていた。

平野とは摂津国住吉郡平野庄または郷で、現在の大阪市平野区にあたる。

『姓氏家系大辞典 第5巻』
著者:太田亮 発行年:1942~1944(昭和17~19) 出版者:国民社
目次:ヒ 平野 5 坂上氏族
ページ数:5088 コマ数:273

平野道雪から、上州淀城主・木村常陸介重茲が、金30枚で買い取る

『享保名物帳』によると、
平野道雪から、上州淀城主・木村常陸介重茲が、金30枚で買い取った。

当時、刃長は一尺(約30.3センチ)だったが、区送りして九寸九分(約30.0センチ)の短刀にした。

木村重茲から豊臣秀吉へ献上

『享保名物帳』によると、
木村常陸介重茲は豊臣秀吉に献上した。

豊臣秀吉から加賀の前田利長へ与えられる

『享保名物帳』によると、
豊臣秀吉は加賀の前田利長に与えた。

『寛政重脩諸家譜』にも秀吉から利長へ橋立の茶壷、平野藤四郎などが与えられたことが書かれている。

『寛政重脩諸家譜 第6輯』
発行年:1923年(大正12) 出版者:国民図書
目次:巻第千百三十一 菅原氏 前田 利長
ページ数:893 コマ数:455

1605年(慶長10)6月28日、前田利長から2代将軍・徳川秀忠へ献上

『徳川実紀』によると、
前田利長は慶長10年(1605)6月28日、隠居の挨拶として、将軍秀忠に献上した。

『享保名物帳』によると豊臣秀吉が前田利長に与えたあとまた利長から秀吉へ献上したと読めるが、前田利長からは江戸幕府が開かれてから2代将軍・徳川秀忠へ献上したとするのが正しい。

『徳川実紀 第1編』
著者:経済雑誌社 校 発行年:1904~1907年(明治37~40) 出版者:経済雑誌社
目次:巻一 (慶長十年四月−六月)
ページ数:379 コマ数:195

1617年(元和3)5月13日、2代将軍・徳川秀忠から前田利常へ与えられる

『寛政重脩諸家譜』『徳川実紀』によると、
徳川秀忠は元和3年(1617)5月13日、前田邸に臨んだとき、前田利常へ与えた。
「守家の太刀」「一文字の刀」と共に「平野藤四郎」が与えられた。

利常も「守家の太刀」「貞宗の刀」「新身藤四郎」などを献上した。

『享保名物帳』だとこの部分が3代藩主の「利光」になっているが、正しくは2代藩主の「利常」である。

『寛政重脩諸家譜 第6輯』
発行年:1923年(大正12) 出版者:国民図書
目次:巻第千百三十一 菅原氏 前田 利常
ページ数:895 コマ数:456

『徳川実紀 第1編』
著者:経済雑誌社 校 発行年:1904~1907年(明治37~40) 出版者:経済雑誌社
目次:巻四十六 (元和三年五月−八月)
ページ数:858 コマ数:437

以後は前田家伝来

『日本刀大百科事典』によると、
以後、前田家では、折紙はついていないが、千貫以上の脇差の筆頭にこれをあげ、金沢城内の宝蔵に保管していた。

文化9年(1812)3月、本阿弥長根がお手入れに出張し、「新刀の如し」と驚嘆している。

『前田家名物並御指料御刀脇指』(東京国立博物館デジタルライブラリー)
時代:江戸末 写本
コマ数:11

『金沢古蹟志 第2編』(データ送信)
著者:森田平次 著, 日置謙 校 発行年:1933年(昭和8) 出版者:金沢文化協会
目次:薪丸宝蔵
ページ数:4、13、14 コマ数:42、46、47

1882年(明治15)、前田家より明治天皇へ献上

『詳註刀剣名物帳』などによると、
明治15年、前田家より明治天皇へ献上。

同じく前田家の「篭手切正宗」と共に献上したとされる。

現在も御物

現在も御物。

『国宝日本刀特別展目録:刀剣博物館開館記念』
発行年:1968年(昭和43) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:御物 短刀 銘 吉光(名物平野藤四郎) 宮内庁蔵
コマ数:26、27

作風

刃長九寸九分(約30.0センチ)、平造り、真の棟。

表裏に刀樋があるが、差し表のハバキ下に、添え樋の跡が残っている。
地鉄は小板目肌つまり地沸え美しくつく。
刃文は、もと五の目乱れ、先は広直刃に足入りとなり、差し裏には葉が多い。
鋩子は小丸。

茎は一分(約0.3センチ)区送りのうぶ。
瓢箪形の目釘孔の下に、「吉光」と二字銘。

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:ひらのとうしろう【平野藤四郎】
ページ数:4巻P262、263

『銘刀押形 : 御物東博』(データ送信)
著者:佐藤貫一, 沼田鎌次 編  発行年1958年(昭和33) 出版者:日本美術刀剣保存協会
ページ数:16、17 コマ数:26、27

調査所感

・名物帳の筆頭

『享保名物帳』はこの平野藤四郎から始まるパターンの本と厚藤四郎から始まるパターンの2種類があるということもあって、平野藤四郎はとにかく有名。

・随筆にも登場

前田家関連の刀剣はそのおかげで資料を見つけやすい部類ですが、平野藤四郎は『可観小説』という名の加賀藩士で儒学者の青地礼幹(1675~1744)の随筆にも登場します。

『加越能叢書 後編 可観小説. 前,後編』(データ送信)
発行年:1936年(昭和11) 出版者:金沢文化協会
目次:卷卅六 一、前田家蔵名器の由来
ページ数:68、683 コマ数:143、144

・藤四郎シリーズあるある

検索結果に実在の平野藤四郎さんが結構引っかかりますのでご注意をば。

・献上組のお約束

検索結果に『明治天皇紀 第5 (明治十三年一月-明治十五年十二月)』の373コマが引っかかってきたけどまだ国立国会図書館限定でデジコレじゃ読めないよー。

そのうち図書館に確認に行きたい。

参考文献

『前田家名物並御指料御刀脇指』(東京国立博物館デジタルライブラリー)
時代:江戸末 写本
コマ数:11

『徳川実紀 第1編』
著者:経済雑誌社 校 発行年:1904~1907年(明治37~40) 出版者:経済雑誌社
目次:巻一 (慶長十年四月−六月) ページ数:379 コマ数:195
目次:巻四十六 (元和三年五月−八月) ページ数:858 コマ数:437

『刀剣談』
著者:高瀬真卿 発行年:1910年(明治43) 出版者:日報社
目次:第九門 焼けた名刀(目録略す) ページ数:231 コマ数:140
目次:第十二門 名物牒(目録略す) ページ数:292 コマ数:171

『剣話録 上』
著者:剣話会 編(別役成義) 発行年:1912年(明治45) 出版者:昭文堂
目次:一 京物(上) ページ数:5 コマ数:12
目次:十六 同国物にして作の違ふ所を弁す(一) ページ数:139 コマ数:79
目次:三十七 刀剣は作者の流派により各得失あり(一) ページ数:297 コマ数:158

『詳註刀剣名物帳 : 附・名物刀剣押形 増補』
著者:羽皐隠史 発行年:1919年(大正8) 出版者:嵩山堂
目次:粟田口藤四郎の部
ページ数:3、4 コマ数:16、17

『寛政重脩諸家譜 第6輯』
発行年:1923年(大正12) 出版者:国民図書
目次:巻第千百三十一 菅原氏 前田 利長 ページ数:893 コマ数:455
目次:巻第千百三十一 菅原氏 前田 利常 ページ数:895 コマ数:456

『日本趣味十種 国学院大學叢書第壹篇』(データ送信)
著者:芳賀矢一 編 発行年:1924年(大正13年) 出版者:文教書院
目次:八 刀剣の話 杉原祥造
ページ数:337 コマ数:189
(1コマずれる可能性あり)

『刀剣名物牒』(データ送信)
著者:中央刀剣会 編 発行年:1926年(大正15) 出版者:中央刀剣会
目次:第二 細說 (上) 名物牒
ページ数:9 コマ数:7

『刀剣談 再版』(データ送信)
著者:羽皐隠史 著, 高瀬魁介 訂 発行年:1927年(昭和2) 出版者:嵩山房
目次:第七 燒けた刀劍 ページ数:226 コマ数:125
目次:第八 名物牒 ページ数:232 コマ数:128

『加賀藩史料 第2編』
発行年:1929~1942(昭和4~17) 出版者:石黒文吉
目次:天寛日記 五月十三日
ページ数:409 コマ数:208

『加賀藩史料 第3編』
発行年:1929~1942(昭和4~17) 出版者:石黒文吉
目次:可観小説
ページ数:753 コマ数:380

『金沢古蹟志 第2編』
著者:森田平次 著, 日置謙 校 発行年:1933年(昭和8) 出版者:金沢文化協会
目次:薪丸宝蔵
ページ数:4、13、14 コマ数:42、46、47

『加越能叢書 後編 可観小説. 前,後編』(データ送信)
発行年:1936年(昭和11) 出版者:金沢文化協会
目次:卷卅六 一、前田家蔵名器の由来
ページ数:68、683 コマ数:143、144

『大日本刀剣史 中卷』(データ送信)
著者:原田道寛 発行年:1940年(昭和15) 出版者:春秋社
目次:平野藤四郞と淸水藤四郞
ページ数:430~433 コマ数:225~226
(『大日本刀剣史』はデジコレに2冊あるのでご注意)

『刀剣刀装鑑定辞典』(データ送信)
著者:清水孝教 発行年:1936年(昭和11) 出版者:太陽堂
目次:ヒラノトウシラウ【平野藤四郎】
ページ数:410 コマ数:216

『銘刀押形 : 御物東博』(データ送信)
著者:佐藤貫一, 沼田鎌次 編  発行年1958年(昭和33) 出版者:日本美術刀剣保存協会
ページ数:16、17 コマ数:26、27

『金沢城物語 (郷土シリーズ ; 第3期 第3) 』(データ送信)
著者:森栄松 発行年:1959年(昭和34) 出版者:石川県図書館協会
目次:一二、薪の丸の宝蔵
ページ数:119 コマ数:68

『日本古刀史 改訂増補版』(データ送信)
著者:本間順治 著 発行年:1963年(昭和38) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:図版 ページ数:図23 コマ数:22
目次:三、 鎌倉時代 ページ数:42 コマ数:57

「刀剣と歴史 (429)」(雑誌・データ送信)
発行年:1966年1月(昭和41) 出版者:日本刀剣保存会
目次:口絵 平野藤四郎の短刀
ページ数:4 コマ数:5

『国宝日本刀特別展目録:刀剣博物館開館記念』
発行年:1968年(昭和43) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:御物 短刀 銘 吉光(名物平野藤四郎) 宮内庁蔵
コマ数:26、27

『短刀図鑑 増補改訂版』(紙本)
著者:鈴木嘉定/光芸出版編集部 発行年:2017年(平成29) 出版者:光芸出版
(『短刀』1969年(昭和44)の増補改訂版)
目次:短刀図鑑/押形集 鎌倉期押形
ページ数:260

『越登賀三州志 重訂 日置謙校』(データ送信)
著者:富田景周 発行年:1973年(昭和48) 出版者:石川県図書館協会
目次:鞬櫜餘考卷之十七 此篇起元和三年丁巳至萬治元年戊戍凡四十有一年間之事
ページ数:308 コマ数:174

『日本刀大百科事典』(紙本)
著者:福永酔剣 発行年:1993年(平成5年) 出版者:雄山閣
目次:ひらのとうしろう【平野藤四郎】
ページ数:4巻P262、263

概説書

『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』(紙本)
発行年:2015年(平成27) 出版者:宝島社
目次:平野藤四郎
ページ数:11

『図解日本刀 英姿颯爽日本刀の来歴』(紙本)
著者:東由士 編 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:大名家が所有した名刀たち 平野藤四郎
ページ数:34

『刀剣目録』
著者:小和田康経 発行年:2015年(平成27) 出版者:新紀元社
目次:≪第二章 鎌倉時代≫ 山城国粟田口 吉光 平野藤四郎
ページ数:91

『物語で読む日本の刀剣150』
著者:かゆみ歴史編集部(イースト新書) 発行年:2015年(平成27) 出版者:イースト・プレス
目次:第7章 短刀 平野藤四郎
ページ数:158、159

『刀剣物語』
著者:編集人・東由士 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:粟田口吉光作の刀 平野藤四郎
ページ数:90、91

『刀剣説話』
著者:編集人・東由士 発行年:2020年(令和2) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
(『刀剣物語』発行年:2015年を加筆修正して新たに発行しなおしたもの)
目次:天皇家に伝わる御物 平野藤四郎
ページ数:84、85

『刀剣聖地めぐり』(紙本)
発行年:2016年(平成28) 出版者:一迅社
目次:平野藤四郎
ページ数:83