古今伝授の太刀

こきんでんじゅのたち

概要

「太刀 銘豊後国行平作 附 革包太刀拵」

鎌倉時代の豊後国の刀工・行平作の太刀。銘は「豊後国行平作」。

もと細川幽斎所持。

1600年(慶長5)の関ケ原の戦いの一部である「田辺城の戦い」に関係する来歴。

当時、細川幽斎は古今伝授の唯一の継承者であり、細川幽斎が死ぬと古今伝授が断絶してしまうという事情から、「田辺城の戦い」に対し後陽成天皇が勅使を派遣して講和を命じたという。

細川幽斎は講和の礼として、勅使の一人である烏丸光広に古今伝授を行った際にこの太刀を贈ったと伝えられる。

以後、烏丸家伝来。

明治に中山孝麿侯爵が譲り受ける。

昭和4年の売立で中山家を離れた後、最終的に細川家に帰ることとなった。

1934年(昭和9)1月30日、国宝(旧国宝)指定。
1951年(昭和26)6月9日、国宝(新国宝)指定。

現在は細川家縁の品を収蔵・展示する「永青文庫」蔵。

1600年(慶長5)、細川藤孝(幽斎)の田辺城の戦いにおける逸話

1600年(慶長5年)、関ヶ原の戦いの際、東軍に与した細川幽斎が籠城する田辺城を、西軍が攻めた「田辺城の戦い」が起きた。

当代随一の歌人であった細川幽斎は古今伝授において唯一の継承者であり、幽斎が死ぬことは古今伝授が断絶することを意味する。
幽斎の門下、八条宮智仁親王は幽斎に田辺城を開城するように求めていたが、幽斎の決意は固くこれを断り続けていた。
見かねた後陽成天皇(八条宮智仁親王の実兄)は三条西実条、中院通勝、烏丸光広の3名を勅使として派遣し講和を命じた。
これにより関ヶ原の戦い本戦の2日前に講和が成立し、細川幽斎は講和の礼として、烏丸光広に古今伝授を行った際にこの太刀を贈ったと伝えられる。

『剣話録 上』
著者:剣話会 編(別役成義) 発行年:1912年(明治45) 出版者:昭文堂
目次:八 九州物(上)
ページ数:74 コマ数:47

『刀剣談』
著者:高瀬真卿 発行年:1910年(明治43) 出版者:日報社
目次:第六門 諸家の名刀 中山家の行平
ページ数:177 コマ数:113

以後、烏丸家伝来

『もくろく : 侯爵中山家大岡家所藏品入札』によると以後、烏丸家伝来。

明治に中山侯爵家へ

『もくろく : 侯爵中山家大岡家所藏品入札』(中山侯爵家の売立目録)によると、
太刀の写真と共に刀箱の写真も載せられており、そこに細川幽斎の田辺城の戦いの逸話、烏丸光広が古今伝授の際に譲り受けて以来烏丸家へ伝来したことと、その烏丸家から中山孝麿侯爵が故あって譲り受けた旨が書かれている。

『もくろく : 侯爵中山家大岡家所藏品入札』(データ送信)
発行年:1929年(昭和4) 出版者:東京美術倶樂部
目次:幽斎所持 光廣傳来 行平太刀 コマ数:11、12

昭和初期に中山家から細川家へ

昭和4年の売立で中山家を離れた後、最終的に細川家に帰ることとなった。
昭和10年の『名刀図譜』ではすでに侯爵細川護立氏蔵。

(この時期の刀剣の売買に関する裏話は『薫山刀話』が詳しいとよく聞くが、国立国会図書館ではまだ国立国会図書館内限定なので読めるようになったら改めてチェックしたい)

『名刀図譜』(データ送信)
著者:本間順治 発行年:1935年(昭和10) 出版者:大塚工芸社
目次:八七 太刀 銘 豊後國行平作 コマ数:97
目次:名刀図譜 解説 コマ数:148

1934年(昭和9)1月30日、国宝(旧国宝)指定

昭和9年(1934)1月30日、国宝(旧国宝)指定。
細川護立侯爵名義。

「太刀 銘豊後国行平作 附 革包太刀拵」

『日本刀分類目録』(データ送信)
著者:郷六貞治 編 発行年:1944年(昭和19) 出版者:春陽堂
目次:目録 太刀 銘備後国行平作 附 革包太刀拵
ページ数:117 コマ数:75

『官報 1934年01月30日』
著者:大蔵省印刷局 [編] 発行年:1934年(昭和9) 出版者:日本マイクロ写真
目次:文部省告示第二十三号 昭和九年一月三十日
ページ数:715 コマ数:5

1951年(昭和26)6月9日、国宝(新国宝)指定

官報の年月日と指定の年月日がずれていますが、この年月日であっています。
昭和26年6月9日に重要文化財から国宝指定された工芸品は昭和27年1月12日に告示が出されたという話です。

官報の告示が第何号でどういう法律によるかは5コマ目に説明が載っています。

財団法人永青文庫名義。

「太刀 銘豊後国行平作 附 革包太刀拵」

『官報 1952年01月12日』
著者:大蔵省印刷局 [編] 発行年:1952年(昭和27) 出版者:日本マイクロ写真
目次:文化財保護委員会告示第二号 昭和二十七年一月十二日
ページ数:140 コマ数:7

現在は「永青文庫」蔵

「国指定文化財等データベース」によると、
現在も旧熊本藩主細川家伝来の美術品・歴史資料などを収蔵・展示する「永青文庫」の所蔵。

作風

刃長は二尺六寸四分。

鎬造、庵棟、小鋒、腰反高く踏張ある太刀姿。
地鉄はねっとりとして潤があり、鍛よく約り、地沸厚く、
刃文は小乱匂口小沸深く烟り砂流かかり大きく焼落し、
鋩子は焼詰めごころで掃かけかかり、
表裏に棒樋を掻流し、樋内に表に梵字と倶利伽羅、裏に梵字と異風の仏像を刻している。
茎は生ぶ、筋違の鑢目付き
裏に「豊後国行平作」と鮮明な銘がある。

『国宝図録 第1集 解説』(データ送信)
著者:文化財協会 編 発行年:1952年(昭和27) 出版者:文化財協会
目次:工芸の部
ページ数:61、62 コマ数:38、39

外装「鬼丸拵え」

室町時代に鬼丸国綱の拵えを模して造られた「鬼丸拵」が付属している。

『もくろく : 侯爵中山家大岡家所藏品入札』(データ送信)
発行年:1929年(昭和4) 出版者:東京美術倶樂部
目次:幽斎所持 光廣傳来 行平太刀
コマ数:11、12

『刀剣目録』(データ送信)
著者:本間順治編 発行年:1938年(昭和13) 出版者:細川護立家政所
目次:二 太刀 銘 豊後國行平作 附 革裹太刀拵 (國寶)
コマ数:6、7

『国宝 第4 (鎌倉時代 上) 解説』(データ送信)
著者:毎日新聞社国宝委員会 編 発行年:1966年(昭和41) 出版者:毎日新聞社
目次:工芸品
ページ数:107、108 コマ数:123、124

調査所感

・「古今伝授の太刀」だったり「古今伝授行平」だったり

古今伝授の太刀も実はいつからこの名称で呼ばれているか不明のこれ号? 枠。

明石や謙信くんがその辺不明でも呼び名自体は一種類で安定しているのに比べると、ここ十数年以内に出ているような現役の刀剣書でも「古今伝授の太刀」と呼ばれたり「古今伝授行平」と呼ばれたりと幅があります。

『剣話録』に載っているので明治30年代には名刀として知られていることが明らかで、『刀剣談』では「中山家の行平」と呼ばれているのがわかります。

そしてその時期からすでに細川幽斎の田辺城の戦いと古今伝授の際に烏丸光広に贈ったことも知られている。
刀自体が斬ったのどうの系の逸話ではないとはいえ、逸話自体はよく知られているのにその名では呼ばれていない、というタイプの刀です。

まぁ正式名称として本に採用されてなくても普通にみんな普段から古今伝授の太刀って呼んでた可能性はめっちゃあると思いますが。

下記の雑誌によると1979年時点ではすでに「古今伝授の太刀」と呼ばれているようです。

「大分県地方史 (93)」(雑誌・データ送信)
発行年:1979年3月(昭和54) 出版者:大分県地方史研究会
目次:論説 豊前・豊後の古名刀工–神息・長円・定秀・行平 / 山内美徳
ページ数:50 コマ数:27

・刀剣書の表現と、とうらぶ独自表現

古今伝授の太刀について調べて面白いなと思ったのは、とうらぶの説明でも使われていた「ねっとり」という表現が普通に刀剣書でも使われていたところですね。

一方で「蛇」に関する記述は今のところ見かけていないので、これは刀そのものの説明なのかガラシャ関連でとうらぶがそういう表現を入れたかったのかは不明。

追記:とうらぶそのものの考察が進んだところ、「蛇」に関しては刀そのものの特徴ではなくとうらぶのシナリオ上の都合と判断することにいたしました。

桜の花云々に関しては、豊後国行平が桜の紋を切ることのある刀工だからですね。

今回来歴を一応チェックする関係で烏丸光広を軽くググったらこの人もこの人で割とインパクトのある人物だよな……と思いました。

参考サイト

「国指定文化財等データベース」

参考文献

『刀剣談』
著者:高瀬真卿 発行年:1910年(明治43) 出版者:日報社
目次:第六門 諸家の名刀 中山家の行平
ページ数:177 コマ数:113

『剣話録 上』
著者:剣話会 編(別役成義) 発行年:1912年(明治45) 出版者:昭文堂
目次:八 九州物(上)
ページ数:74 コマ数:47

『刀剣談 再版』(データ送信)
著者:羽皐隠史 著, 高瀬魁介 訂 発行年:1927年(昭和2) 出版者:嵩山房
目次:第五、諸家の名刀 中山家の行平
ページ数:184、185 コマ数:104

『もくろく : 侯爵中山家大岡家所藏品入札』(データ送信)
発行年:1929年(昭和4) 出版者:東京美術倶樂部
目次:幽斎所持 光廣傳来 行平太刀
コマ数:11、12

「刀剣と歴史 (221)」(雑誌・データ送信)
発行年:1929年5月(昭和4) 出版者:日本刀剣保存会
目次:名寶展覽會の優品 / 梅園
ページ数:10 コマ数:6

『新刀古刀大鑑 上卷』(データ送信)
著者:川口陟 発行年:1930年(昭和5) 出版者:日本刀剣学会
目次:古刀之部 ページ数:266 コマ数:156
目次:第八編 西海道 第四章 豊後国 ページ数:708、709 コマ数:521

『名刀図譜』
著者:本間順治 発行年:1935年(昭和10) 出版者:大塚工芸社
目次:八七 太刀 銘 豊後國行平作 ページ数:図版第73 コマ数:97
目次:名刀図譜 解説 ページ数:24 コマ数:148

『日本刀講座 第8巻 (歴史及説話・実用及鑑賞)』(データ送信)
著者:雄山閣 編 発行年:1934年(昭和9) 出版者:雄山閣
目次:(實用及鑑賞四)國寶刀劍解題(上)
ページ数:113、114 コマ数:541、542

『日本刀講座 第9巻』(データ送信)
著者:雄山閣 編 発行年:1935年(昭和10) 出版者:雄山閣
目次:名士と刀劍
ページ数:201 コマ数:260

『刀剣目録』(データ送信)
著者:本間順治編 発行年:1938年(昭和13) 出版者:細川護立家政所
目次:二 太刀 銘 豊後國行平作 附 革裹太刀拵 (國寶)
コマ数:6、7

『日本刀各時代の様相 (美術懇話会叢書 ; 第3) 』(データ送信)
著者:三矢宮松 発行年:1943年(昭和18) 出版者:清閑舎
目次:目次 コマ数:8
目次:第三 鎌倉時代 二 中期 ページ数:30、31 コマ数:27

『日本刀の話』(データ送信)
著者:本間順治 発行年:1943年(昭和18) 出版者:春陽堂文庫
目次:日本刀圖録解説
ページ数:130 コマ数:87

『日本武器概説』(データ送信)
著者:末永雅雄 発行年:1943年(昭和18) 出版者:桑名文星堂
目次:結び 図版
コマ数:86

『名刀集美』(データ送信)
著者:本間順治 発行年:1948年(昭和23) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:古刀の部 百二六 太刀 銘豊後国行平作
コマ数:142、213

『国宝図録 第1集 解説』(データ送信)
著者:文化財協会 編 発行年:1952年(昭和27) 出版者:文化財協会
目次:工芸の部
ページ数:61、62 コマ数:38、39

『指定文化財総合目録 〔昭和33年版 第2〕』(データ送信)
発行年:1958年(昭和33) 出版者:文化財保護委員会
目次:東京都
ページ数:20 コマ数:17

『日本刀全集 第1巻』(データ送信)
発行年:1966年(昭和41) 出版者:徳間書店
目次:武将と刀剣 沼田鎌次
ページ数:192 コマ数:100

『国宝 第4 (鎌倉時代 上) 解説』(データ送信)
著者:毎日新聞社国宝委員会 編 発行年:1966年(昭和41) 出版者:毎日新聞社
目次:工芸品
ページ数:107、108 コマ数:123、124

『日本刀講座 第3巻 新版』(データ送信)
発行年:1967年(昭和42) 出版者:雄山閣出版
目次:新版日本刀講座<古刀鑑定編(中)> 目次
ページ数:78、79 コマ数:52

『指定文化財総合目録 [昭和43年版] (美術工芸品篇)』(データ送信)
発行年:1968年(昭和43) 出版者:文化財保護委員会
目次:東京都
ページ数:17 コマ数:18

『国宝日本刀特別展目録:刀剣博物館開館記念』
発行年:1968年(昭和43) 出版者:日本美術刀剣保存協会
目次:太刀 銘 豊後国行平作 財団法人 永青文庫蔵
コマ数:22、23

「日本美術工芸 (372)」(雑誌・データ送信)
発行年:1969年9月(昭和44) 出版者:日本美術工芸社
目次:初公開 戦国以来の大大名 細川家名宝展
ページ数:96 コマ数:49

『原色日本の美術 21』(データ送信)
著者:尾崎元春、佐藤寒山 発行年:1970年(昭和45) 出版者:小学館
目次:刀剣 ページ数:88 コマ数:94
目次:図版解説Ⅲ ページ数:105 コマ数:111
目次:一、日本刀概説 ページ数:226 コマ数:232

『日本刀講座 第1巻 新版』(データ送信)
著者:監修 本間薫山、佐藤寒山 発行年:1966年(昭和41) 出版者:雄山閣
目次:図版目次 太刀 豊後国行平作
ページ数:32、33 コマ数:36

『新・日本名刀100選』(紙本)
著者:佐藤寒山 発行年:1990年(平成2) 出版社:秋田書店
(中身はほぼ『日本名刀100選』 著者:佐藤寒山 発行年:1971年(昭和46) 出版社:秋田書店)
目次:19 古今伝授の太刀行平
ページ数:140

「大分県地方史 (87)」(雑誌・データ送信)
発行年:1978年1月(昭和53) 出版者:大分県地方史研究会
目次:論説 刀匠豊後国行平の研究 / 山田正任
ページ数:36 コマ数:20

「大分県地方史 (93)」(雑誌・データ送信)
発行年:1979年3月(昭和54) 出版者:大分県地方史研究会
目次:論説 豊前・豊後の古名刀工–神息・長円・定秀・行平 / 山内美徳
ページ数:50 コマ数:27

「文化庁月報 (5)(248)」(雑誌・データ送信)
著者:文化庁 編 発行年:1989年5月(平成1) 出版者:ぎょうせい
目次:大名美術展を終わって / 廣井雄一
ページ数:13 コマ数:7

『日本刀物語』(紙本)
著者:杉浦良幸 発行年:2009年(平成21) 出版者:里文出版
目次:Ⅱ 名刀の生きた歴史 1 武将と日本刀 細川藤孝・忠興親子と刀剣
ページ数:56~58

『歌仙兼定登場』(紙本)
著者:永青文庫/編集・執筆 発行年:2016年(平成28) 出版者:永青文庫
ページ数:59~63

概説書

『図解 武将・剣豪と日本刀 新装版』(紙本)
著者:日本武具研究界 発行年:2011年(平成23年) 出版者:笠倉出版社
目次:第3章 武将・剣豪たちと名刀 細川幽斎と古今伝授行平
ページ数:124、125

『日本刀図鑑: 世界に誇る日本の名刀270振り』(紙本)
発行年:2015年(平成27) 出版者:宝島社
目次:古今伝授行平 ページ数:10

『図解日本刀 英姿颯爽日本刀の来歴』(紙本)
著者:東由士 編 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:大名家が所有した名刀たち 豊後国行平 
ページ数:35

『刀剣目録』(紙本)
著者:小和田康経 発行年:2015年(平成27) 出版者:新紀元社
目次:≪第二章 鎌倉時代≫ 豊後国高田 行平 古今伝授行平
ページ数:54、55

『物語で読む日本の刀剣150』(紙本)
著者:かゆみ歴史編集部(イースト新書) 発行年:2015年(平成27) 出版者:イースト・プレス
目次:第3章 太刀 古今伝授の太刀 
ページ数:79

『刀剣物語』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2015年(平成27) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
目次:大名・将軍が所持した刀 豊後国行平 
ページ数:164、165

『刀剣説話』(紙本)
著者:編集人・東由士 発行年:2020年(令和2) 出版者:英和出版社(英和MOOK)
(『刀剣物語』発行年:2015年を加筆修正して新たに発行しなおしたもの)
目次:戦国大名が所有した刀 豊後国行平 
ページ数:170、171