物足りなさの理由

物足りなさの理由

※すでに書いた極考察を土台としております。
※当然ネタバレ満載です。

もう全部山姥切国広のせい

長義くん極、すごく面白い一方でなんかどうしても物足りなさがある理由はやはり国広の存在にある気がしてきた。

気を抜くとあいつが存在しなければなぁという完全にブラック審神者の台詞だぞそれは!! みたいなことを言ってしまいそうなんですが。

今回の極修行からすると、長義くんは思ったよりメタファー「主」との相関性があるので、主命が欲しい長谷部や主から縛られたい叱られたい亀甲くんの系譜というか中間みたいなキャラだと思う。

その時に引っかかるのが、じゃあ……写しである山姥切国広の存在は? ってところかと。

亀甲くんは道誉叔父が来るまで回想なかったし、長谷部は最初から主至上主義で、織田・黒田と縁刀は多いけどそのうちの誰か一人と最も親しいみたいなことはなかった。

この二振りは、他の縁刀に特別な一振りが存在しないからこそ、別に主寄りでもそういうキャラの男士なんだなで済んだ。

一方で長義くんは、元の刀としての特性的にも本丸における振る舞いにおいてもメディアミックス描写においても、明らかに山姥切国広と特別な縁を持つ存在として描かれていた。

今回の極描写は、そこに全く触れない違和感。

三通目の冒頭が自分が長義の傑作であることとそれによって写しが打たれたことなので、何か思惑はあるんだろうけど、結果だけ見るとそれに対する執着は見せない。

う~~~ん、そうだな。今回の手紙だと長義くんの性格はむしろ亀甲くん寄りだと思ったけど、状況を考えると長谷部くんの方が属性としては近しいのかな。

主命というか主いのちな長谷部くんの唯一の関心は織田信長か。長谷部くんに関してはツンデレというか信長に対して素直じゃないけど誰とどういう関係性があるのか割とフルオープンなんだよな。

長谷部くんを例に長義くんと国広の関係を考えると、国広が信長みたいな位置なんでしょうね。

長谷部は修行先で自分が信長にとってどうでもいい存在ではなく、価値を認められていたからこそここぞという時の贈り物にされたことを納得したけれど、それによって信長への執着を捨てるべきだと感じたから、それを捨てて主の刀になります的な方向だった。

……。

この方向で考えて、かつこれまでもかなり参考にしてきた舞台の方の長義くんの国広に対する描写と総合すると……あれ?

国広が、長義を食い殺して(愛して)くれないから――だから主である審神者に、それを求めただけなのでは?

 

…………ああ、そうか。

「歴史を守るのは、刀の本能」

そして「山姥切」の正史とは、事実誤認の判明によって「山姥切国広が山姥切長義を食い殺す」ことだろう、国広が極修行で見てきた通りに。

だけど国広は、その正史を拒絶してしまった。

本歌を食い殺して唯一無二の山姥切となる歴史を、否定してしまった。

だから。

歴史を守る本能、山姥切長義の本能は、永遠に満たされない。
刀剣男士として、最も重要な役割を、彼は刀剣男士であるが故に果たせない。存在がすでに矛盾している。

長義くんに歴史を守らせるのは、彼を食い殺してくれるのは正史通りの「山姥切国広」しかいないのに――当の写しがそれを拒否してしまったから。

だからその代役を審神者に求める。

これまでの極修行でも、これからは主のためにと宣言してくる刀の本心は、愛する対象、愛してほしい対象にこれ以上執着できないからこその代替行為だったじゃないか。

大和守安定の沖田総司しかり、へし切長谷部の織田信長しかり。

だったら山姥切長義の極修行は……

主へ
ひとつ頼みがある。
もしも、俺がなまくらになり下がることがあれば、すぐにでも折ってくれ。
君に総てを与える刀は、俺でなくてはならないからね。

最後のここの部分全部……本当は、国広に対して望んでいたことだったのでは?

与えたい(殺されたい)。

だって、それが「山姥切長義」の正史なのだから。

送り出されてしまったのだから、致し方ない。
この際、山姥でも斬りに行こうか。
君はどう思う?

「山姥切」であることは、「山姥切長義」が望んだ歴史ではない。

我々がすでに観測している範囲で言うならば、それを望んだのは「山姥切国広」だ。あの子は本歌を食い殺したくなくて、「両方に逸話がある」という修行結果を引っ提げてきた。

正史の否定、本歌を食い殺すことの拒否。

けれどそのせいで、山姥切長義は存在したその瞬間から自分の正史を守ることができない。

刀としての本能が、永遠に満たされることはない。

どこに行っても正当な評価を得ることができる気がしない。
……いや、一人、心当たりがあるか。

長義が打った唯一無二の傑作、それが俺だ。
まず傑作の刀があり、それに心を寄せた人間がいて、その傑作を写した。
それだけのこと。

「できる気がしない」というのはまた辛い言い回しだな。
国広の「どう、受け止めていいかわからない」も苦しかったけど。

傑作があり、心を寄せた人間がいて、その傑作を写した。それは本来特別なことだ。特別なこととして語られるはずだった。

けれどその縁故に本歌を食い殺さねばならない国広は、己の物語において、写しとしての歴史をまっとうする役割を放棄。

写しが本歌を食い殺すという、山姥切の本歌と写し関係は、特別な物語になり損ねたのだろう。

だから「それだけのこと」。

その代わりに主にその役目を求める。

なるほど……。そうだね。審神者は大体、元主とかその辺に類する大切な存在の代替物なんだよな。

と、いうことは。

山姥切国広の極修行の本質は、ある意味、「あんたのための刀」になることによって、逆に正史を守らなくても、歴史を守る刀剣男士としての役割を果たさなくても存在させてくれという話だったのかもしれない。
だから国広は、自分の写しである部分、正史を否定する。

それは歴史の改変を願う、時間遡行軍的な願い。

そして逆に、山姥切長義は、「俺の主の刀」となることで、歴史を守る刀剣男士としての役割の、決して埋まらない部分を気にしなくて済むぐらい、役割で埋めて、使命で縛って、と頼み込む。

その使命で縛ってほしいという願いの裏側には、それが果たせなかったら殺してほしいという本当の願いが結びついている。

存在させたのなら、理由を与えて。この決して埋められない、「歴史を守る」と言う刀の本能を満たすものを与えてほしい。

史実でない憶測、本来存在してはならぬものに、それでも、折れるまでの一時でも、ここに呼び出された必要はあったのだと。

 

う~~~ん。

今回の極修行手紙単体だけで見ると、メディアミックスで補完されている初の山姥切長義像との接合点らしき外的要因が見受けられないので、読んだ人をどこまで納得させられるかはわからないんですが……。

今までのメディアミックスにおける描写は原作ゲームの山姥切長義像とも乖離せず、むしろ原作で描かれない部分を見事に補完している、もともと原作からある設定だと思っていました。

それらの考察を破棄せずに、むしろ理屈は明かされずともずっと一貫して同じように描かれてきていた部分が、実はこの修行手紙における行動の下敷きとなっているのだとすると、上のような解釈になります。

長義くんの修行手紙は最後の二行から導き出される理屈が多分一番重要なんだよな。

もしも、俺がなまくらになり下がることがあれば、すぐにでも折ってくれ。
君に総てを与える刀は、俺でなくてはならないからね。

 

……「折られる」ことが、「与える」ことになるのなら。

慈伝での長義くんの行動全般と、最後の一対一で長義くんが食い下がったことと、その長義くんに南泉が「心まで化け物にするんじゃねえ」と言った意味がようやく通じる。

長義くんは常に与えることを願っている、けれどそれは、相手に折られたい、殺されたいと同義。

山姥切に斬られることを望む存在。それはもはや山姥そのものである。

だから南泉は言う。心まで化け物に――山姥になってしまうなと。

けれど、山姥切長義はそれが正史なんだ。
事実誤認が否定されて、「山姥切長義」は消え、「山姥切国広」が蘇る。

山姥切国広が山姥切長義を食い殺すのが正史だと言うのならば、彼は存在自体が、刀剣男士として矛盾している。

……我々審神者は。

正史を守りたくない国広を、けれど刀剣男士として存在させる。その代わりに国広に「人の為の物」……「偽物」になってもらう。

そして正史を守りたい長義を、刀剣男士として存在させるために「山姥切」を名乗らせる。

けれど相手はもともと正史を守るために無理矢理刀剣男士として存在しているのだから、我々自身が歴史を守る役割を果たせなかった場合、その契約は崩れて我々自身も「山姥」に食い殺される。

ただひたすら正史を守るために自ら縛られることを望む存在。
検非違使は審神者に知性を奪われているのかとかいう話だったけど……。

“罪は許されるべきだと検非違使たちが叫んでいる。意味が分からない。誰が罪で、誰が悪のつもりなのか。まあいい。敵は殺すまで。”

……なんとなく、構図が埋まってきて。あー、なるほどなー、という感じにはなりました。

一見国広のことにまったく言及していないように見えて、実は一通目も二通目も国広側の話と表裏になっているのかもしれない。
そう考えた方がメディアミックスで受ける長義くんの印象が一貫していて充実している様子と一致する。

沖田くんに執着していた安定が、沖田君と向き合って納得した上で沖田君を忘れて主の刀になることを選んだように。
織田信長に執着していたへし切長谷部が、自分が臣下に渡された理由を納得した上で、今後は主の事だけを考えると言ったように。

本当は一通目、二通目で自分の歴史、元の主、己の物語を形成する相手と向き合わねばならない。

だが長義に関しては、肝心の山姥切国広側がそれを拒否した。
その欠落を埋められるのは、長義を存在させるために刀剣男士の山姥切長義で在ってくれと願う国広とは別の理由で、長義を刀剣男士として存在させることができるもの。

彼の望みに応じ、正しい歴史のためには彼を折ることのできる、「今の主」しか、いないのだろう。

国広が長義を食い殺すことを、長義に与えられることを拒んだ以上、

山姥切長義に与えられる――長義くんを折る権利を持つのは主だけだ。

その代わり我々自身も、歴史を守らなかったら斬られるリスクを負ったのだろう。

主は国広の代わりに長義くんの愛を独り占めにする権利を得た代わりに、刀剣男士と同じく歴史を守るという使命を果たし続けることを定められてしまったと。俺の推し厳しいなマジで……。

理由も意味も与えられず、ただ存在して欲しいと願われるのも苦しいのだろうね。

安定を例に出して比較するなら、この場合安定の対である加州が重要かもしれない。
加州も池田屋事件の刀と自分が同一であるとあまり考えていなかったようだから。

今ちょっとぱっとは思い浮かばないけど、今度は沖田組とふたつの山姥切の組み合わせ同士のパターンで見てみるか?(御前どうしよ)

安定と加州の件で言えば、それこそ6面の敵が「加州清光折大隊」ですね。

メタファー「折」だな……。

メタファー関連だとやはりまだまだ考えられることはあるようです。
ただ修行手紙の文章量の少なさから、今の時点で正確に判断するのは不可能に近い……。これ以上憶測の上に憶測を重ねるのはもう限界っす。

原作とメディアミックスの描写を接合する追加情報、小竜くんや亀甲くんに対する道誉叔父みたいなキャラが追加されないと無理でしょうね。

ようやく腑に落ちた(食ってないのに)

以下はくるっぷ用に一度まとめた文章です。

そうだよな、刀剣男士が審神者に何かを求めてる時って結局誰かの代替物なんだよな。審神者そのものに何かの意味や価値があると考えるとわけわかんなくなる。

長義くんは原作ゲームでもメディアミックスでも一貫して、「行動は完全に国広のためなのに、国広のためだということを絶対言わない」キャラ。
だから今回も極修行手紙で名は出していないけれど、本当の執着対象は本来国広だったけれど、それが得られないから代替を主に求めていると考えた方がしっくり来る。

山姥切長義にとっての正史とは、最終的に山姥切国広に食い殺されることなのだから。

そして多分国広の方も同じなんだよね。
極で主の刀、あんたのための刀という言い分になってきたのは、自分が本歌を食い殺すことが正史だと知って、長義からの愛情は永遠に得られないと思っているからこそ主にそれを求める。

メディアミックスの慈伝での両者の動きが一番わかりやすいんじゃないか?

舞台の国広は本当は本歌に褒めて欲しかったんだろう。それが得られなかったから「だがあいつは俺を偽物と言った!」と一度キレて、最終的に落ち着いたとはいえ自分は長義くんに何かを求められる立場じゃないんだなって受け止め方をしたと思う。その結果が俺は俺だ、からの偽物とでもなんとでも呼べという反応。

傑作だから、写しであることは放り投げたから(本歌に愛されようとは思わないから)。
だから主、褒めて必要として、ここにいさせて。自分を愛して、そして愛させて。
絶対にその愛を与えられる(食い殺す)訳にはいかない、本歌の代わりに……。

一方で長義くんは、本来判断力に優れているはずなのに慈伝では絶対勝てないところで国広との一対一に拘り南泉に諭されたあの部分ですね。
食ってほしかったんだろう。与えたかったんだろう。

それが彼の正史で、本能なのだから。

でもそれが永遠に叶わない以上、彼は主にその役割を求める。

自分を刀で、正史を守る存在で在らせてほしいと。

傑作だから、そして山姥切を名乗るから(国広に殺されることはできないから)、
だから主、自分を歴史を守る存在でいさせて、敵を斬らせて刃を振るわせて、どこまでもなんだって要求しても構わない、もっともっと必要として、そしてそれができなくなったら、
俺を折って(総てを与えてあげる)、
正史通りに自分を食い殺して(愛して)くれなかった、写しの代わりに。

……こうか。よくわかった。

主の立場がちょっと虚しいってことが……(山姥切は両方とも面倒くせえ)。

自分的にはようやく納得が行きましたが、メディアミックスを補完じゃなく主軸とした考察で、それを原作ゲームに統合させる接合ポイント自体は今回の長義くんの修行手紙だけではまだ見いだせないと思います。

だから似たような思考の人ならともかく、初見の人を説得できる気はしない。正しい意味での考察自体はここで終わりです。今後続けるのは妄想ですね。

妄想が考察に昇格できるタイミングがあれば戻ってきたいですが、あるかなぁ……?

上の考察(未満)だとようやく国広が明らかに長義に執着しているのに極めて主の刀主の刀言い出す理由が埋まったので一番しっくりはしますが。

長義くんは本当に国広のくの字も出さない徹底した秘匿っぷりなので厳しいですね。長義くんらしいけど。

異なり去る世界と書いて異去か。
ここはもう、私たちの知らない歴史の中。

――伝説を作りに行きましょうか、山姥切長義、あなたの望み通り。